逃げ場なく物語にのまれる「ブラック メリーポピンズ」 | アイデアニュース

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逃げ場なく物語にのまれる「ブラック メリーポピンズ」

筆者: 達花和月 更新日: 2016年5月24日

世田谷パブリックシアターで2016年5月29日まで上演されている、韓国発の心理スリラーミュージカル「ブラック メリーポピンズ」を拝見しました(兵庫・福岡・愛知公演あり)。脚本・演出・音楽の全てをソ・ユンミ(서윤미)さんお一人が手がけ、韓国で人気を博したこの作品の日本初演は2014年7月。再演の今回は、初演に引き続き、演出を鈴木裕美さん、日本版オリジナルキャストの小西遼生さん、上山竜治さん、良知真次さん、一路真輝さんに、新キャストの中川翔子さんが加わり、独特な世界を紡ぎ出していました。(小西遼生さんのインタビューは⇒こちら

ミュージカル「ブラック メリーポピンズ」より=撮影・難波亮

ミュージカル「ブラック メリーポピンズ」より=撮影・難波亮

時代は1930年代のドイツ。4人兄弟久々の水入らずの再会、しかし穏やかとは言い難いピリピリとした雰囲気が漂う中、物語は始まります。

著名な心理学者だった養父グラチェン博士と、母代わりの家庭教師メリー(一路真輝)の庇護の元、ハンス(小西遼生)、ヘルマン(上山竜治)、アンナ(中川翔子)、ヨナス(良知真次)の4人は「兄弟」として仲良く育ちましたが、今から12年前に起こった屋敷の火災によって、育ての親である養父を亡くし、更には出火の際に命懸けで兄弟を救い出し、全身に火傷を負った家庭教師のメリーも、何故か事件の翌日に忽然と姿を消してしまいます。

■12年前のあの日にいったい何が起こったのか?

そして不思議な事には、兄弟四人全員の「火災前後の記憶」が、スッポリと抜け落ちていたのです。その後、それぞれの里親に引き取られ、次第に疎遠になっていった弟妹達を再び呼び集めたのは、今は成長して弁護士となっている長兄ハンス。その目的は、事件の再捜査を行う為。12年前のあの日にいったい何が起こったのか?自分達の埋もれた記憶を呼び覚まして真実を知る事でした。

ミュージカル「ブラック メリーポピンズ」より=撮影・難波亮

ミュージカル「ブラック メリーポピンズ」より=撮影・難波亮

姿を消したメリーは、火災の前夜にグラチェン博士とメリーが「ケンカしていた」という事件当時のハンスの証言もあって、警察から放火及び殺人をも疑われていました。事件後、ずっと真相を追っていたバルタ刑事(声:山路和弘)から、メリーの居場所と共に、疑惑の証拠として押さえていた小さな手帳を、ハンスは弁護士として、また事件の当事者として譲り受けていました。そこには兄弟達には知らされなかった、養父の衝撃的な記録が記してありました。その内容が呼び水となって、兄弟達の子供の頃の記憶が次々と蘇ってきます。…メリーは本当に犯人なのか? 何故失踪してしまったのか?

一見強引なようで、実は事件にまつわるある不安を抱えて成長し、真実を知る事でしか前へ進む事はできないと、懸命に「不安な自分」と対峙しようとするハンス。過去を明らかにする事に何故か怯え、封印したままにしたいヘルマンとアンナ。事件後、とある事がきっかけで神経不安症を患い、常に何かに苛まれている様子でパニックを起こすヨナス。冒頭でのそんな彼等の状態が、物語が進むにつれ、見え方や考え方が変化していく様に目を奪われました。

ミュージカル「ブラック メリーポピンズ」より=撮影・難波亮

ミュージカル「ブラック メリーポピンズ」より=撮影・難波亮

■物語の世界感を”隙無く”現す、無駄のない密な空間

舞台でまず最初に目を引いたのは、二村周作さんの手になる美術。物語が展開していくのは窓のない白地の部屋。奥には外界との繋がりを断つかのような、重々しい両開きのドア。ライティングの色調も相まって、最初はシンプルなホテルの客室かと思いましたが、徐々に無機質な青白い病室のようにも見え、舞台幅より八割方小さい部屋幅に、不釣り合いなくらい高く伸びる白い壁というその作りもあって、見る者にどこか圧迫感、閉塞感を与える部屋でした。

ミュージカル「ブラック メリーポピンズ」より=撮影・難波亮

ミュージカル「ブラック メリーポピンズ」より=撮影・難波亮

部屋の壁はカーテンのように見える、シフォン素材の布地で全面覆われており、場面によってはこの「壁」が風に煽られて、火災のシーンでは全てをなめ尽くす炎のように、他のシーンでは人物の不安定な心理状態を描写するかのように、全体が怪しく揺れて不定形に歪んで蠢いているような視覚効果を与えます。

ミュージカル「ブラック メリーポピンズ」より=撮影・難波亮

ミュージカル「ブラック メリーポピンズ」より=撮影・難波亮

そして「盆」と呼ばれる廻り舞台を多用した演出に加えて、小野寺修二さんによる、兄弟達の心理状態を表す、何とも不可思議な動きの振付。失われた記憶の迷宮を彼等がさまよう時、不安を煽る曲と共にこの盆が回り、まるでそこに立つ人物達が螺旋を描きながら深いどこかに堕ちていくように見えました。それと人物の心情を表す繊細な楽曲。

それらが融合し、物語の世界感を”隙無く”現していて、観客的には現実への逃げ場なく物語にのまれる様な、無駄のない密な空間がそこに在りました。

<ミュージカル「ブラック メリー ポピンズ」>
【東京公演】 世田谷パブリックシアター 2016/5/14(土)~29(日)
【兵庫公演】 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール 2016/6/3(金)~5(日)
【福岡公演】 福岡市民会館 2016/6/9(木)
【名古屋公演】 愛知県芸術劇場 大ホール 2016/6/17(金)

<関連サイト>
ミュージカル「ブラック メリー ポピンズ」オフィシャルサイト
小西遼生 公式ブログ(仮)
キューブ オフィシャルサイト 小西遼生

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■少年時代のハンスの小西さんが可愛い

■縦横無尽に観客を誘う上山さんのヘルマン

■ピーンと張ったまま緊張が緩まない良知さんのヨナス

■無意識下の心の闇を見事に体現した中川さんのアンナ

■舞台上にいない間の想いが伝わる一路さんのメリー

■彼等の行く先を信じたい、思わずそう思ったエンディング

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<筆者プロフィール>達花和月(たちばな・かずき) 遠方の友人を誘って観たお芝居との出会いをきっかけとして演劇沼の住人に。ミュージカルからストレートプレイ、狂言ほか、さまざまな作品を観劇するうち、不思議なご縁でライターに。自らの仕事を語る舞台関係者の“熱”に、ワクワクドキドキを感じる日々。 ⇒達花和月さんの記事一覧はこちら

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