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「しろさびとまっちゃん」著者と、福島第一原発20km圏内へ(中)

筆者: 松中みどり 更新日: 2015年7月10日

「しろさびとまっちゃん~福島の保護猫と松村さんの、いいやんべぇな日々」著者で、フリーランスフォトグラファーの太田康介さんと、福島第一原発20キロ圏内の猫たちに会いに行ってきた報告、今日は2回目をお届けします。(前編・後編の2回で終わる予定でしたが、お伝えしたいことがたくさんあるので、3回に分けてお送りすることになりました。ご了承ください)

福島情報ポータルサイト「福島復興ステーション」より

福島情報ポータルサイト「福島復興ステーション」より

2015年6月25日、早朝から福島第一原発20キロ圏内の給餌ポイントを回る行程のうち、午前中は楢葉町から北上して8か所のエサ台をチェック。今も牛の骨が残る牛舎を見学した後、南相馬市の小高区のエサ場で、こんなに可愛らしい三毛猫に出会いました。ここは猫ボランティアの方が給餌しているポイントなのですが、太田さんのところに、「監視カメラを設置して、実際猫が来ているのかどうかを確認してほしい」という依頼があった場所なのだそうです。カメラの映像を見る前に、「ここにいますよ~~」と、猫が姿を見せてくれたのでした。

撮影・松中みどり

撮影・松中みどり

最初はちょっと警戒気味で、シャーっという声も交じりましたが、ゴロゴロぐるると喉を鳴らし、甘えた様子も見せる可愛い猫。高いところに設置したエサ台は空で、野生動物に食べられたようです。そちらにフードを補給し、この子にも洗面器にカリカリを入れました。すると・・・

撮影・松中みどり

撮影・松中みどり

食べました!人に慣れた愛らしい三毛猫。うすい色合いから、「パステル三毛ちゃん」と呼びます。お腹をすかしているということは、やっぱり餌箱のフードは猫以外が食べているということでしょう。あとで映像をチェックした太田さんによると、「カラス、子連れのアライグマ、キツネ、ハクビシン」が映っていたそうです。エサ台の補強や設置方法など、工夫が必要だろうということでした。ここで、野生動物との厳しい生存競争をしているこの三毛猫のためにも、早急に対処することが今後の課題です。

パステル三毛ちゃんを抱っこする太田さん 撮影・松中みどり

パステル三毛ちゃんを抱っこする太田さん 撮影・松中みどり

抱っこもさせてくれるくらい人懐っこい猫ですから、十分飼い猫としてやっていけるはずです。でも、「自分に出来ることは、餌をやること、エサ台のチェックと補強をすること。保護と里親探しをしておられるボランティアさんにつなぐこと」 だとすれば、「連れてきていいよ」と言ってくれる人が確保できない限り、可愛いから、可哀想だからと連れていくことは出来ない・・・電話をかけたり、猫の写真をネットにあげたりしてしばらく奮闘した太田さんでしたが、今回は見送りとなりました。「病気だったり、怪我をしていたりしたら話は別だけど、元気そうだから」 心を残しながら、南相馬市小高区の給餌ポイントを後にしました。アライグマやカラスに負けずに生き延びてほしいパステル三毛ちゃんです。

ところで、今回私が給餌ポイントで出会った猫は、このパステル三毛も含めて、耳の先が小さくカットされていました。これはTNR活動によって不妊手術が施された猫であることのしるしなのです。猫のための活動をしている人たちが、これ以上猫が増えないように手段を講じてくれたというサインです。

猫を捕獲機などで捕獲(Trap)し、不妊手術(Neuter)をほどこして、元のところに戻す(Return /Release)という活動を、その頭文字をとってTNRと言います。これは、原発事故から4年以上の歳月が流れ、福島の町に人が少しずつ戻ってきた現時点で、住民と猫の双方にとってどんな活動がベターなのかを模索するとき、重要な考え方だと思います。それを実践されている地元の人たちをご紹介します。

まず、浪江町で被災した動物病院を再開し、圏内で保護された猫の不妊・去勢手術やワクチン接種などを無償でおこなっている豊田動物病院の豊田正先生です。筆者が太田さんと行動を共にした6月25日は木曜日、「ちょうど豊田先生が手術をされている日ですよ」というわけで、お忙しいところを病院にお邪魔しました。

浪江町 豊田動物病院で不妊手術中の豊田正先生  撮影・松中みどり

浪江町 豊田動物病院で不妊手術中の豊田正先生  撮影・松中みどり

現在は二本松市で動物病院を開業されている豊田先生ですが、毎週木曜日には被災した浪江町の「豊田動物病院」に戻ってきて、TNRで言うところのN、不妊手術を無償で行っておられます。この日は4匹の猫が手術を受けました。避妊手術を受けた雌猫3匹、去勢手術を受けた雄猫1匹でした。

豊田先生は、「いいよ、大丈夫だよ」という言葉が口癖のような優しい方でした。穏やかなゆっくりとした話し方で、突然やってきた筆者にも丁寧に話をして下さいます。テキパキと手術を進めながらも、太田さんや、この日取材に来ていた福島中央テレビの人たちに缶コーヒーやお茶を勧めたり、手術を終えたボランティアの獣医師さんに「片づけは私がやるから、先生、もういいんだよ。そのままにしておいて」と声をかけたり、四方八方に目配りされていました。

撮影・松中みどり

撮影・松中みどり

上下水道の完全復旧は2017年を予定している浪江町。豊田動物病院でも、水はこのようなポリタンクを利用し、手術台の掃除などにはアルコール除菌やウエットタイプの除菌ティッシュが大活躍でした。ここは、20キロ圏内だということを思い出させる写真です。

2012年9月、浪江町の病院を再開し、活動を開始された豊田先生。不妊手術の時に採血して、猫エイズや猫白血病の有無を調べ、染色体異常の検査もされています。病気をもっていないことが確認されれば、のちに引き取り先が見つかりやすいという利点がありますし、原発事故後、影響を受けたはずの動物たちの記録がどこにもきちんとない中、豊田先生はコツコツとデータを記録しておられるのです。

まだ麻酔が効いている猫たち 体重測定中 撮影・松中みどり

まだ麻酔が効いている猫たち 体重測定中
撮影・松中みどり

震災直後、原発事故直後は、圏内に取り残された飼い猫・飼い犬の命をとにかく救うことが第一で、キャットフードも、猫がいそうなところに口を開けたエサの袋を置いてまわっていました。そうせざるを得ない状況もあったのです。豊田先生は、「そういうやり方はもうそろそろ違うよね」と話されます。浪江町だけを見ても、行政によって区域区分が見直され、除染をはじめとする復旧作業が進められて、帰町に向けた動きが活発になっています。「立ち入り制限が緩和されて、一時帰宅した住民の気持ちを想像してみて」、と豊田先生は穏やかに諭すように話されます。

撮影・松中みどり

撮影・松中みどり

「久しぶりに故郷の自分の家に帰ってきたときに、キャットフードが袋ごと散乱していたり、猫や野生動物のフンがいっぱいあったりしたらどう思う?想像してみて」

「確かに猫は、可哀そうだよね。急に人がいなくなった町で、必死に生きていて。でも可哀そうだからって、ただ野放図に餌をやればいいんだろうか。環境汚染っていうことを考えるとまずいと思うのね。餌をやるんであれば、きちんと工夫して野生動物に食べられないような形でやっていかないとね」

そこで大切なのがTNR活動であり、それにサポートのSをプラスした「TNRS」だと豊田先生はおっしゃいます。捕獲機などで保護し、何度も子どもを産んで体に負担をかけて生きなくても済むように、不妊手術を施す。その後、飼い猫として里親に引き取られていくことが現在のベストです。でも、その猫が警戒心が強くてどうしても人に慣れず、里親が見つけられないようなら、ワクチン接種などをしたのち保護した場所でリリースする。もう繁殖をしなくなった「地域の猫」として管理し、一代限りの「猫生」をまっとうさせる。「リリースするのは今のところ1割くらいじゃないかな」と豊田先生。

福島第一原発20キロ圏内で、豊田先生が話して下さったことは、実は福島に限らず、日本中いろいろな町で起こっている問題へのひとりの獣医師としての答えであり、静かな決意なんだなと思いました。

地元のテレビが取材に来ていました  撮影・松中みどり

地元のテレビが取材に来ていました  撮影・松中みどり

「原動力?やりたいことをやっている、好きなことをやっているってことが原動力じゃないかな。猫が好きな人たちが、一生懸命餌をやっている。それも素晴らしいことだし、地元に戻ってきた住民の人たちが、町をきれいにしたい、住みやすい環境にしたいと思うのも当たり前だよね。地元の人間が病院を再開して、役所や区長さんや、地元の人たちにも協力してもらって、猫のために良い方法を探そうとしているところ。まだ途中なんだよね。自分が出来ることをやっているんだよ。義援金をもらっているわけでもないし、外部からの資金もない。好きだから、自分がやれることをやってるの」

奇しくも太田さんと同じことをおっしゃった豊田先生。「自分の出来ること、やれること、やるべきことをやっているだけ」。その淡々とした言葉が、早朝からの活動で、緊張していた筆者の心にしみこんでいきました。豊田動物病院が再開しているおかげで、保護活動のための通行証が発行され、筆者も町に入ることが出来たわけです。本当にお世話になりました。ありがとうございました。

「阪神大震災でも動物たちのことでは、いろいろ大変だったでしょ。あんまり経験がみんなに共有されていないよね。これから起きる災害では、同行避難とか、もっと動物のことを考えた対応をしていかないとね」 筆者が関西から来たことを知って、こう話して下さった豊田先生。先生は、今の福島の猫たちのことと同じくらい、どこかで将来起きる被災地の住民と動物たちのことを思っておられるのでした。

動物の保護活動を震災直後から続ける赤間徹さん 撮影・松中みどり

動物の保護活動を震災直後から続ける赤間徹さん
撮影・松中みどり

豊田先生のところで手術を受けた猫が、その後適切なサポートを受けて穏やかな時間を過ごし、人間を信頼するようなれば、里親さんにもらわれるチャンスが生まれます。地元浪江町の住民で、現在は郡山市に避難されている赤間徹さんは、震災直後からお連れ合いと一緒に20キロ圏内の動物たちの保護活動をされてきました。浪江町の家と事務所を猫や犬のシェルターにして、毎日世話をされている赤間さん。豊田先生と一緒に活動をするようになった2013年9月からだけでも、344頭(猫331頭 犬13頭)のために里親さんを探した実績を持つ方です。次回の「しろさびとまっちゃん」著者と福島第一原発20km圏内へ(下)では、赤間さんの活動を紹介し、ドキュメンタリー映画「ナオトひとりっきり」の松村直登さんと、松村さんのところの動物たちを紹介する予定です。次回もぜひお読みください。

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<筆者プロフィール>松中みどり(まつなか・みどり) フィリピン支援ボランティア/英語講師/ライター 初めて行った外国がフィリピンで、以来かの国の人々の明るさ温かさに魅せられ、様々なNGOや支援活動に関わる。1994年からは山岳先住民アエタの教育支援主宰。コミュニケーションツールとしての英語を各地で教えている。動物好きの自称「ケモノバカ」。飼い猫は黒猫で親バカ度も加速中。 ⇒松中みどりさんの記事一覧はこちら

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