昨年11月の終わりに新たに出会った猫がいる。キジトラ白の子猫だった。はじめて子猫を見たとき、「トラちゃんに似てる!」と縁を感じた。小学生たちが助けた小さな命をつなぐ猫物語だ。
昨年11月30日の夕方、自宅でのんびりと過ごしているときだった。買い物に出かけたはずの母から電話が鳴った。
「今、(マンションの)ロビーにいるんだけど、猫がいて……。小学生たちが拾ったらしいんだけど、みんなお母さんたちに飼えないと言われたみたいで。管理人さんにも『拾ったところに戻しておいで』と言われてるの。どうしようか……。」
「友達に聞いてみようか? 飼いたいって言ってた人いるよ。とりあえず、そっちにいくね。」
電話を切り、そくざにカメラを手に、ロビーへ向った。新しい猫に出会える喜びに胸が踊り、「そうだ! 記事にも書こう」と考えながら走っていた。
ロビーに着くと、小学校高学年ぐらいの3〜4人の女の子がいて、その向こうに子猫を抱いた母がいた。よく見ると、母が泣いている!
「どうしたの!?」
「高校生の時のことを思い出して……」
母は、高校生の頃、グレーの子猫を拾ったことがあるそうだ。家に連れてかえると、母親(祖母)に「元いたところに戻してきなさい」と言われ、泣く泣く戻したという。そのことがトラウマになっていて忘れられないと、以前にも何度か聞いたことがあった。我が家にグレーの猫がやってこないのは、あの時見捨てた子猫がグレーだったからじゃないかと話したこともある。小学生たちが、『拾ったところに戻しておいで』と 管理人さんに言われているのを見て、見過ごせなくなり、こみ上げてくるものがあったそうだ。
母の胸に抱えられた子猫に目をうつすと、キジトラ色だった。顔をみて「トラちゃんに似てる!」と驚いた。ハチワレで、大きな囲み目、ひげぶくろに茶色の模様がある。背中の縞模様がはっきりしていて、トラちゃんに良く似た可愛い子猫だった。(トラちゃんについては「私と猫たち」(6)をご覧くださいhttps://ideanews.jp/backup/archives/11897)
小学生の中のひとりの女の子がいろいろと話してくれた。学校の近くで何度か見かけていて、道路に出そうになったところを危ないと思って抱き上げたこと。お母さんたちにダメと言われて誰も飼えないこと。助けた子供たちのなかで、犬を飼っている子がいて、かかりつけの獣医さんが近くにあり、みんなで連れていったこと。飼ってくれる人を探す手伝いはしてあげるから、貼り出せるような紙を作っておいでと獣医さんに言われたこと。ちょっと風邪をひきかけているから、あったかくしてあげてねと言われたこと。あったかくしてあげるために、ダンボールのおうちを作ってあげたこと。
小さな子供たちが、小さな命のために、一生懸命考えて行動したことを知り、胸が熱くなった。助けてくれてありがとうねと本当に嬉しかった。「友達が飼ってくれるかもしれないから大丈夫だよ」というと、目を輝かせて喜んでいた。子供たちは塾に行かなければいけないそうで、母と私に後をたくし、帰っていった。そのとき、別の子が自転車を押しながら呟いた。
「また、子猫を見捨てちゃった……」
私は、「そんなことないよ! 助けてくれたじゃん!」と声をあげ、その子を呼び止めた。聞くと、以前にも猫を拾ったことがあり、お母さんに飼えないと言われたことがあるそうだ。「大丈夫だよ。みんなが助けてくれたんだから。見捨ててないんだからね」。とても素敵なことをしたんだと覚えていてほしくて、トラウマにならないようにと、一生懸命に話した。
その後、子猫を獣医さんに診察してもらおうと、母とともにすぐに向った。子供たちが連れていった獣医さんは、うちの猫たちのかかりつけでもあった。
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■トラちゃんは助けてあげられなかったけど、今度は助けてあげられたと
■なぜ我が家にむかえず、飼ってくれる人を探そうと思ったのか
■名前は「夢之介」くんに
■トラちゃんは助けてあげられなかったけど、今度は助けてあげられたと
獣医さんに連れていくと、「岩村さんちの子に!?」とお出迎え。「さすがにまた増やすのはちょっと(苦笑)。飼ってくれる人を見つけようと思いますが……」と説明しながら、子供たちが連れてきたときにたっぷりご飯を食べさせてもらったことなどを聞いた。とにかく人懐っこいので、捨て猫ではないだろうかと話していると、「拾われる子は性格が大事なんだよね」と先生。診察台の上でも「にゃーん♪ にゃーん♪」とアピールしてくる子猫を、運の強い子だねと語りあった。ちょうど歯が生え変わるタイミングで、生後5カ月ぐらいとのこと。長年猫たちを飼ってきたが、生え変わりのタイミングで上下の犬歯が2本ずつ並んでいるのをはじめて見た。
前回のゆず吉&びわ吉のときのように、先住猫たちに風邪が回らないように、一週間は別部屋に完全隔離。ゆず吉&びわ吉がいたおかげで子猫用ご飯もあり、パウチのキャットフードを食べ続けた。お腹はパンパンに膨れ上がり、母は30分かけてトイレを教え、何とか一段落だ。
明るいところで良く見てみても、やっぱりトラちゃんに良く似ている。しっぽが短いボブテイルと、ひげぶくろの模様が濃いところが違うぐらい。とりあえず、「チビトラちゃん」と仮名をつけた。トラちゃんは助けてあげられなかったけど、今度は助けてあげられたと、こみ上げるものがあった。トラちゃんを助けてあげれなかったことは、やはりいまだに尾を引いていて、記憶の深いところに刻まれている。
チビトラちゃんは、ゲージのなかで泣き続けた。寝てくれたかなと思っても、部屋の近くに人の気配を感じると、再び大きな声で泣き続ける。それがあまりに可哀想で、ゲージから出して一緒に寝てあげた。私のお腹の上で安心したのだろうか、べったりくっついて眠っていた。
■なぜ我が家にむかえず、飼ってくれる人を探そうと思ったのか
飼ってくれる人を探すつもりで小学生たちから引き受けたが、トラちゃんに似ていたことと、あまりに可愛い性格も加わって、うちの子にしたいと思いはじめた。でも、ゆず吉&びわ吉を我が家にむかえたばかり。20年近く生きるかもしれないことを考えると、我が家の状況によっては、いずれ私がひとりで猫たちを養うことも考えられる。やはり、0歳猫が3匹というのは多すぎる……。トラちゃんもうちの子ではなかったんだから、チビトラちゃんもうちの子ではないんじゃないかと自分に言い聞かせ、飼ってくれる人を探すことに決めた。
何人か心当たりがあったので、誰に声をかけようかと考えた。見た目が可愛いし、まだ子猫だから、最初に声をかけた人で決まるかもしれないなと思った。考えたすえ、数年前に飼い猫を亡くした、一人暮らしのカメラマン仲間に声をかけることにした。というのは、また猫を飼いたいと保護猫の譲渡会を訪れても、一人暮らしだと譲ってもらえないことを聞いていたからだ。そうなると、ペットショップやブリーダーさんから買うしか方法がなくなるが、出来ればそうしたくはないよねと話したことがあった。もちろん一人暮らしでは不安を感じるという譲る側の思いはわかるのだが、日々殺処分されてしまう猫たちがいまだに多い現状を考えると、何かいい方法はないだろうかと考える。
■名前は「夢之介」くんに
子猫のことを話して写真を送ると、前向きな返事があり、すぐに会いにきてくれた。対面すると、「ぜひ飼いたいです」とのこと。保護してからわずか4日後には飼い主が決まった。やはり運の強い猫だ。こうして小学生たちが助けた小さな命が、新たな飼い主の元へつながれることになった。
私が送った写真をみたときに「雪(ゆき)」と「夢(ゆめ)」というイメージが湧いたそう。彼女のお父さんの名前に「幸(ゆき)」が入っているので、「同じになってしまうから(笑)」と、「夢(ゆめ)」を使うことに。そして「夢之介」と決まった。飼い主探しを私に任せていた母も「夢之介くんって感じする!」と喜んでいた。
彼女の仕事の都合で、しばらく我が家で暮らすことになった夢之介くん。次回は、我が家の猫たちとの元気いっぱいな共同生活の様子をお届けする。
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※岩村美佳さんのエッセイ「私と猫たち」は、2016年からは、月1回ペースの連載として掲載してゆきます。