「王冠に『しゅう』って書いてあったり…」、『ヘンリー五世』浦井健治(下)

浦井健治さん=撮影・岩村美佳

2018年5月17日から新国立劇場中劇場で上演される『ヘンリー五世』で、ヘンリー五世を演じる浦井健治さんのインタビュー、後半です。このシリーズに一緒に出演し、2017年7月に亡くなられた中嶋しゅうさんについて伺いました。有料部分では、作品の中核を担っていくことが増えたことについて、忙しい毎日のなかでのオンオフの切り替えなどについて伺っています。

浦井健治さん=撮影・岩村美佳

浦井健治さん=撮影・岩村美佳

――このシリーズを一緒に上演してきた、中嶋しゅうさんについても伺わせてください。

もちろんです。

――『ヘンリー四世』では、ハル王子の父であるヘンリー四世を演じていましたね。

今回のセットが、『ヘンリー四世』のやぐらと似ているんです。みんなで見上げて「しゅうさん、ここにいたよな」という話もしました。たとえば、王冠が置いてあって、見たら「しゅう」と書いてあったりするんです。「うわ~、そうか。もうこれは被れないな」って。

亡くなられてからしゅうさんの写真を集めたんですが、『ヘンリー四世』が一番多かったんですよ。しゅうさんが色々なことを教えてくださって、目の前でやってくれた。たとえば、王として、王笏をどうやって握るか。しゅうさんの癖を少しでも自分に投影できたらと思いましたし、「王として、しゅうさんだったら、こうやって反応するんじゃないかな」と考えたりします。そういうことを、たくさん感じることができるんです。“演劇は繋がっている”ではありませんが、まだ生きているというか、そういう状況が続いていくのは、演劇ならではだと思います。

『ヘンリー四世』では、しゅうさんが演じるヘンリー四世が亡くなるときに、僕が演じるハルのことを、どんな感情で長台詞を言っていたかというのも体感として覚えているので、そういうすべてが財産です。何十年後かに、いつかそういうお芝居ができるところまでいきたい……という目標もできました。多くの役者に影響を与えた方だと思います。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、『ヘンリー六世』から作品の中核を担う役を演じることが増え、今年は全作品でセンターに立っていることについて、忙しい毎日のなかでのオンオフの切り替えをどのようにして、台本を覚えるときにどういう時間を利用しているかなどについて伺ったインタビュー後半の全文と写真を掲載しています。

<有料会員限定部分の小見出し>

■王の中の王でありながら人間が立っているのは、しゅうさんが演じてくれているから

■普通のことをちゃんとするということで、オンとオフの切り替えを

■立ち稽古に入ると台詞が抜けてしまう。でも稽古を重ねると自然にでてくる

■鵜山組のシェイクスピアは分かりやすさを大切にしている。そこを楽しんで頂けたら

<『ヘンリー五世』>
【東京公演】2018年5月17日(木)~6月3日(日) 新国立劇場 中劇場

<関連リンク>
「ヘンリー五世」のページ
http://www.nntt.jac.go.jp/special/henry5/
浦井健治オフィシャルファンクラブ‟Kopi-Luwak”
https://www.fanclub.co.jp/k_urai/?id=8 
浦井健治&STAFF Twitter
https://twitter.com/kenji_staff 

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浦井健治さん=撮影・岩村美佳

浦井健治さん=撮影・岩村美佳

※ここから有料会員限定部分です。

■王の中の王でありながら人間が立っているのは、しゅうさんが演じてくれているから

――『ヘンリー四世』のハル王子を思い出すと父王がいる、ということは観客側としても、中嶋さんを思い浮かべる方は多いと思います。そこにいらっしゃるんだろうなというのは、観客も感じるかもしれません。

間違いないですよね。父との関係や比喩などで、台詞には何回かでてきますから。ヘンリー四世がヘンリー・ボリングブルックだったときに、リチャード二世を廃位させた、父が犯した罪、息子として語るシーンもあります。親子はすごく尊いものですし、絆が強いところをお見せできるかと思います。王族でありながら、王の中の王でありながら、人間が立っている。しゅうさんが演じてくれているから体感温度としては温かみがあるような感じがします。

――浦井さんはヘンリーシリーズを通して、父(ヘンリー五世)と子(ヘンリー六世)を演じ、『リチャード三世』でもヘンリーにゆかりのある役をずっと演じてきています。先ほどから「他にはない体験」とおっしゃっていますが、演じる上では同じ一族をずっと演じていくのは、独特だったりされるのかなと。

独特ですね。『リチャード三世』で演じたリッチモンド伯は、後のヘンリー七世だから、全部ヘンリーなんですよね。ヘンリー役者というか、ヘンリーを通して演じたというのが、とても光栄でした。連続で観てくださっているお客様に、声や芝居のどこかに面影があるように観て頂けるなら本望ですし、同じ役者が演じる上で、血筋を感じてもらえるのは大きいかなと思います。

浦井健治さん=撮影・岩村美佳

浦井健治さん=撮影・岩村美佳

■普通のことをちゃんとするということで、オンとオフの切り替えを

――どんどん作品の中核を担う役を演じることが増えていき、今年でいうと、全作品でセンターに立っている。作品の中での立ち位置なども、このシリーズとともに進んでいたりするのかなと思ったのですが、いかがでしょうか?

そう考えたことはありません。作品のどこをやろうと意識はなにも変わっていないので。真ん中のときにはカンパニーのことを大事に考えるというスタンスだけがプラスされたと思います。

――今年はそのポジションの作品が4つというのは、結構大変ではないですか?

責任を背負うので大変ですし、ちゃんとその覚悟をもって臨まないといけないのは事実だと思います。

――物理的にも、時間的な忙しさもあると思います。昨年から今年は、いまのお話でもおっしゃっていた責任を感じる毎日だと思いますが、切り替えはなにかしていますか?

マンガも含め本を読んだり、買い物、おいしいものを食べにいく、人と会う……というような、普通のことをちゃんとするということで、オンとオフの切り替えをしていると思います。

――しっかり切り替える方ですか?

そうですね。でも、切り替える時間がないくらい台詞に追われているときもありますけど、やり続けると、それはそれで脳みそが追いつかないので、1回切り替えないといけないというのはありますね。

――たとえば、私はオンとオフが密接すぎて、ほとんど意識的に切り替えることがないんですよ。意識的に切り替えるというのは、どうやって切り替えているのかなと(笑)。

それは人それぞれじゃないかなと思います。僕は疲れたら、脳の仕組みをかえる感じですね。

――自分が疲れたと感じてきたときに、脳のスイッチを切るみたいな?

台詞も脳を休ませないと入ってこないんです。体に染みこまないので。実は集中できる脳の限界は15分だとか。色々なやり方があると思いますが、時間でちゃんと切り替えるようにしている人はいるんじゃないかなと思います。

浦井健治さん=撮影・岩村美佳

浦井健治さん=撮影・岩村美佳

■立ち稽古に入ると台詞が抜けてしまう。でも稽古を重ねると自然にでてくる

――ちなみに浦井さんは、台本を覚えるときに、どういう時間を利用されるんですか?

ずっとやり続けます。

――合間、合間の時間を使って、ずっと?

はい。

――たとえば、この取材のあと、稽古まで少し時間があるなというような隙間の時間も、移動時間も、家に帰ってからも全部?

全部ですね。

――それを繰り返す中で疲れを感じたときは、これ以上入らないぞという感じで少しオフにする?

オフにして距離をおいて、柔軟性をもたせてから、もう一度取り組みます。そうしないと、脳が疲労しちゃうので、入りも悪くなるし、よいアイデアも生まれてこなくなるので、そういうことはやっています。

――なるほど。『ヘンリー五世』は、すでに台詞がしっかり入っている状態ですか?

単語は全部入りましたが、立ち稽古の現場に入ると、たとえば大声だったり、相手の反応だったり、台詞の後ろ側の動きが入ったりすると、どんどん抜けてしまう。でも稽古を重ねることによって、慣れと共に台詞が自然にでてくると思います。

浦井健治さん=撮影・岩村美佳

浦井健治さん=撮影・岩村美佳

■鵜山組のシェイクスピアは分かりやすさを大切にしている。そこを楽しんで頂けたら

――いまは、その最中ということですね。ありがとうございました。最後に、この作品は特に、色々な気持ちで楽しみにしていらっしゃる方がいると思いますので、メッセージを頂けたらと思います。

本当に新国立劇場さんのヘンリーシリーズを楽しみにして頂いているお客様は、たくさんいらっしゃると思いますし、初めてこの作品でシェイクスピアを観るという方もいらっしゃると思います。鵜山さんの演出、小田島(雄志)先生の訳という、この黄金のタッグでシェイクスピアを紡げるということは本当に恵まれていると思います。僕はお二人の大ファンですし、鵜山組のシェイクスピアはお客さんに対して一番親切というか、分かりやすさを大切にしています。

――そうですね。舞台を拝見していて、それはすごく思います。

そこを楽しんで頂けたら、「シェイクスピアって難しいものじゃないんだな」、「楽しいものなんだな」と感じてもらえると思います。人物をより深めたり、広がったりするのが、シェイクスピアのすごさだと思うので、登場人物がひとりひとり個性的で、ひとりとして同じ人はいないという、シェイクスピアが一番描きたかった“人間”というものが、きっと楽しめるんじゃないかと思います。一見自分たちとかけ離れている王族の話ですが、人間ってそうだよなと思って頂ける、そんな学びや発見のある現場になると思います。「シェイクスピアをこれで好きになって、ハマッちゃった」という人がどんどん増えてくれるように、そして、「ミュージカルもシェイクスピアも大好き」という人が増える現場になったら素敵だなと思うので、ぜひ一度といわず、二度、三度とリピートして観て頂ければと思います。

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“「王冠に『しゅう』って書いてあったり…」、『ヘンリー五世』浦井健治(下)” への 9 件のフィードバック

  1. ほりほり より:

    いつも素敵なインタビューありがとうございます。
    これからも楽しみにしています。

  2. しゅんもも より:

    初めてのシェイクスピア観劇で、今まで読んだこともなかったので予習にと本を読みだしたら面白くて止まらなくなり、ヘンリー四世からリチャード三世、ハムレット、マクベスなど読みあさっています。今までの舞台も是非観たかった…浦井さんのヘンリー、とても楽しみです。

  3. てんてん より:

    しゅうさんとの絆を感じながら観劇したいと思います。

  4. ゆず茶 より:

    浦井さんの様々な想いや考えを聞かせていただけたインタビューになっていて、読みながら胸が熱くなったり、うなずいたりしました。
    素敵なインタビューをありがとうございました。
    私は鵜山さんのシェイクスピアの演出が大好きで、シェイクスピアが好きになったので、ヘンリー五世も楽しみにしています。

  5. ひでまる より:

    ヘンリー五世を観劇前に、主演俳優 浦井健治さんの作品に向かう真摯な心、その奥に秘めらた思いが届けられたインタビューを、ありがとうございます。ヘンリーシリーズの中核を担う稀な存在、その俳優さんに出会ったことによりその渦に飲み込まれ、シェイクスピアの世界を親しむことができました。うまく表現できませんが‥この企画を実行するにあたり努力された全ての皆さんに一観客として、感謝します。もうすぐ始まるヘンリー五世の旅、ともに歩いて行きたいです。

  6. ポチ より:

    インタビュー下読みました。浦井君の中のしゅうさんが占める割合がかなり強いんだなーと改めて感じました。二度としゅうさんとの生での舞台でのやりとりが観られなくなってしまったのは本当に残念ですが、これから先の舞台で浦井君の仕草などにしゅうさんから引き継いだ多くの財産が投影されていく姿を見続けられる未来は嬉しくも思います。今改めてこのタイミングで浦井君の気持ちがわかって幸せです。
    間もなく始まるヘンリーの旅益々楽しみになりました。

  7. セシル より:

    前作のヘンリー四世を観劇して
    シェイクスピアの面白さを知りました。今回のヘンリー五世も、楽しみでたまりません。素敵なインタビュー&お写真ありがとうございます。

  8. ちょび より:

    しゅうさんの体温を感じながら舞台に立ってらっしゃる浦井さんやみなさん。
    観客としても感じたいと強く思いました。
    シェイクスピアは難しくも感じますが、
    どの作品でも登場人物は人間臭くてで今に通じるものをたくさん感じます。
    今も昔も人は変わらないんだなって。
    とくに愚かであったり滑稽な部分がとても面白いです。
    それによる悲劇が多いですが、
    今回の英雄ヘンリー五世がとっても楽しみです。ただ栄光の先がわかっているだけに
    切なさも感じたり。
    どんな感情をいだくのか
    開幕がとてもたのしみです。

  9. コージー姫☆ より:

    下)も興味深く拝見しました。しゅうさんへの想い、台本や稽古への取り組み、浦井くんの真摯なお人柄を感じました。
    明後日からの『ヘンリー五世』が本当に楽しみです。

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