「演劇男子は、つかこうへいという文字に憧れる」、『飛龍伝2022』一色洋平(上)

一色洋平さん=撮影・NORI

2022年5月20日(金)から24日(火)に、東京・紀伊國屋ホールで『飛龍伝2022〜愛と青春の国会前〜』が上演されます。アイデアニュースでは、主演の一色洋平さん(山崎一平役)にインタビューしました。インタビューは、上、下に分けてお届けします。「上」では、学生時代の観劇日記に綴った『飛龍伝』への感想、『新・熱海殺人事件 ラストスプリング』(2022年3月~4月)に続き、「つかこうへい作品」に出演するにあたっての想い、学生時代からの「つかこうへい作品」への憧れと、憧れがあるからこそ稽古場で感じていること、羽原大介さんの脚本・錦織一清さんの演出のことなどについて伺った内容を紹介します。

「下」では、演出の錦織さんからの「山崎一平」役へのオーダーのこと、役に向き合いながら感じていること、立ち稽古初日にいつも感じること、共演する井上怜愛さん(神林美智子役)と小山蓮司さん(桂木純一郎役)のことなどについて伺った内容と、お客さまへのメッセージを紹介します。

一色洋平さん=撮影・NORI
一色洋平さん=撮影・NORI

――『飛龍伝2022〜愛と青春の国会前〜』へのご出演が決まったきっかけを教えて下さい。

この公演のプロデューサーでもあって、「北区AKT STAGE」の代表でもある時津真人さんと、「椿組」の夏の定番である花園神社野外劇「『天守物語』 -夜叉ヶ池編- 2018」という作品で、役者としてご一緒させていただいたんです。その時も結構近しい役で、殺陣でガッツリとお世話になり、仲良くさせて頂いて。そのご縁で「山崎一平という役はどう?」 というような連絡を頂いて、「これはやりたい」と思いました。ちょうどその時は『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』の稽古場に居て、周りが「アタタタ!」「ホォゥァタ!」と言ってる中で、僕は一平のことを思いながら(笑)、「是非やらせてください」と即答しました。

――ご出演が決まったときはいかがでしたか?

実は、僕がつかこうへいさんの作品を初めて見たのが『飛龍伝』 だったんです。高校3年生のときに、自分でチケットを取って舞台を見始めて、三谷幸喜さんや、河原雅彦さんの演出作品を観たり、シアターコクーンに観に行ったりと、いろいろ観ていた時期に、つかさん演出の『飛龍伝2010 ラストプリンセス』(2010年)を観に行ったんですね。新橋演舞場の2階か3階の、すごく遠目の席で観たんですが「舞台上で祭りが起こっている…祭りだなこれは」と思ったんです。今まで自分が観てきた演劇では確実に味わえないもので「何を浴びせられてるんだろう」みたいな感じだったので、視覚的にも聴覚的にもすごく記憶に残っていて。あとやっぱり空気感ですかね。新橋演舞場のふわぁっとしたオレンジ色の空間とあいまって、よく覚えているんです。

それが12年前のことなのですが、当時僕は日記にひとつひとつ観劇の記録をつけていたんです。高校生でお金がないから「いくら払った」とかチケット代をちゃんと書いてて可愛いんですけど(笑)。今回、改めて『飛龍伝』のページを見ると、「無駄なものが一切なかった」と書かれていました。それまでに僕が観ていた作品のセットは、具象であったり、結構作り込んで仕掛けがバンバン動くようなものが多かったんです。ところがつかさんの作品は、本当に素舞台に近いんですよね。

『飛龍伝2010 ラストプリンセス』は、ちょっと大型の装置が出てきたりもしましたが、基本的に素舞台で「人」で魅せるんです。そのドラマの力や台詞を信じる。相手が語ること、相手と語り合うことで生まれるものを信じているんだな、ということまでは、多分高校生の僕はまだよくわかっていなかったので、「無駄なものが一切なかった」という一言になったのだと思います。『飛龍伝2022〜愛と青春の国会前〜』への出演が決まって、実家に帰ってこの日記を読み返したときに、「偉そうに書いてるな」と思う一方で、「ちょっと鋭いことを書いてるかもしれない」って思いました。『飛龍伝』のオファーをいただいて、自分がそこに出られるということには、結構いろんな思い入れがあるんです。

――つかこうへいさんの作品と出会われたのは、高校生のときだったのですね。

『飛龍伝2010 ラストプリンセス』は、つかさんが亡くなる直前の最後の作品になったので、嬉しい偶然と言うとちょっと不謹慎ではありますが、最後に滑り込みで観られたのかなというところはあります。あの時飛び込んで観た自分は偉いなと思っています(笑)。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、「つかこうへい作品」に出演するにあたっての想い、学生時代からの「つかこうへい作品」への憧れと、憧れがあるからこそ稽古場で感じていること、羽原大介さんの脚本・錦織一清さんの演出のことなどについて伺った内容などインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。17日掲載予定のインタビュー「下」では、演出の錦織一清さんからの「山崎一平」役へのオーダーのこと、役に向き合いながら感じていること、立ち稽古初日にいつも感じること、共演する井上怜愛さん(神林美智子役)と小山蓮司さん(桂木純一郎役)のことなどについて伺った内容と、お客さまへのメッセージなど、インタビューの後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)

■「つかさんのお芝居」を知って憧れ直したいから、今までの憧れを一旦捨てる

■つかさんの稽古場にいた方が羨ましいけど、僕ができるのは戯曲に手を伸ばすこと

■演者を泳がせてくれる錦織さんの演出。「これ足してみて」がすごくしっくりくる

■「ちょっと難しいな」と思った瞬間に、「それ要らないね」と瞬時にカットされた

<『飛龍伝2022〜愛と青春の国会前〜』>
【東京公演】2022年5月20日(金)〜24日(火)紀伊國屋ホール
公式サイト
http://aktstage.com/topics/2051/

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一色洋平さん=撮影・NORI
一色洋平さん=撮影・NORI

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■「つかさんのお芝居」を知って憧れ直したいから、今までの憧れを一旦捨てる

――高校卒業後は、本格的に俳優の道に進まれますが、つかこうへい作品に出たいという思いは、ずっとお持ちだったのでしょうか?

もう憧れも憧れです。「演劇男子」って一括りにしちゃ失礼ですけど、やっぱりどこか「演劇男子」は、この「つかこうへい」という文字に憧れますよね。これ、話すと長いんですけど(笑)、特に僕が最初に飛び込んだ早稲田の演劇研究会でも、まさにあの、ツラ(舞台の最前部、客席との境界)を向いて芝居をするのが画期的だと思っていたんです。7・80年代から出てきた、前を向いて芝居をすることを、我々は「面(ツラ)向き芝居」と呼んだりもしますが、前を向いているのに、なぜ会話をしているように聞こえるんだろうということや、あの威力、そして前を向くってかっこいいなどの、視覚的な要素が入ります。そうすると学生からお芝居を始めるとやっぱり「僕も前を向きたい」というところから入るんです。

ところが、これがまたちょっと怖いところで「つかさんのお芝居、イコール前を向く」みたいなビジュアル的な部分から入ってしまうと「なぜ前を向くのか?」という大事なことがすごく欠落するんです。あれ、これ話がズレていくな。ちょっといろいろ喋ってもいいですか?

――はい、お願いします。

僕が最近、つかさんの芝居をやらせていただきながら勝手に思っていることがあります。つかさんの芝居イコール「早い」、「声を大きく出す」、「前を向く」、そういうビジュアルな縛りになってしまっていないか? というのが実はすごく怖いんです。確かにそれは見ていてもすごくかっこいいし、憧れる演出手法で、どこか真似したくもなる。真似したくなるというのは、ひとつ何かを確立しているという証拠で、すごく大事なことだと思うんです。実際、僕も劇研(早稲田大学演劇研究会)に入って、そういうことを真似したくて、深夜に仲間で集まって『熱海殺人事件』をやりました。自分たちの劇場に完全な防音設備があったので、大音量で「白鳥の湖」をかけて、「うわー!こんなのやりてェな俺らも!」みたいに悶えていた大学生時代でした。だからつまり「前を向きたい」、「大きい声を出したい」というビジュアルから入っているんです。

でもやっぱり、つかさんの言葉を実際に受けた人たちや、実際につかさんの稽古場にいらっしゃった人たちのお話を聞くと、「なぜ前を向くのか?」にちゃんと意味があったりするんです。「大きい声を出す」についても「そんなにデカい声出さんでもいいぞ」という言葉をもらうたびに、ただ前を向けばいいと思っていた自分、前を向くことがかっこいいと思っていた自分がすごく恥ずかしくて。『飛龍伝’90殺戮の秋』(1990年)の映像や、『熱海殺人事件~ザ・ロンゲスト・スプリング~』(1992年)で、池田成志さんが木村伝兵衛をされているのを見ると、普通のささやき声が多用されていて、実はつかさんの作品は、そんなに大きい声を出していなかったりするんです。

ところが俳優がバーンと前を向いていたり、デカい声のシーンというのがすごく印象的だから、どうしてもそっちが優先されて記憶に残ってしまっていて。やはり「憧れの力」って、良くも悪くも強すぎるなとすごく思うので、『新・熱海殺人事件 ラストスプリング』(2022年3月~4月)出演のときから自分で心に留めていることですけど、「つかさんに憧れていた自分」を一旦捨てて、「また憧れ直そう」みたいなところがあるんです。ずっと憧れてきた「つかさんのお芝居」というものを、ちゃんと知って憧れ直すために、今までかっこいいと思ってきたものを捨てたい、というのが目標としてあります。

一色洋平さん=撮影・NORI
一色洋平さん=撮影・NORI

■つかさんの稽古場にいた方が羨ましいけど、僕ができるのは戯曲に手を伸ばすこと

――つかこうへいさんの作品に憧れていた頃と、実際に作品を演じる当事者としての意識の違いでしょうか。

やはり、憧れているその当時は、つかさんとご一緒した方々の言葉を直接聞けているわけではないので、自分なりに「つか作品」に手を伸ばすことしかできなかったんです。ところが実際にやらせていただくにあたって、今現場には、たくさんのつかさんの言葉を実際に受けられた方、眼差しを実際に見られた方、言葉を耳にできた方が大勢いて、その人たちの言葉に触れたときに「あ、違ったな」と(笑)。

僕の勝手な憧れとは違うものが、たくさんあったんです。それでもくじけるとかではなくて。つかさんにお会いできなかったことが、一周回ってコンプレックスになりつつもあるのですが、「つか作品」って僕なりにとても大好きですし、これからの長い役者人生で何度も触れていきたい人だし、何度も触れていきたい戯曲たちだと思ったので、ここで自分なりの「つか作品」への憧れみたいなものには、一旦ストップをかけようと。今回を、捨てて憧れ直すリスタートみたいなものにできたらいいなと思っています。

――経験を積んだ上で演じられている今、作品の内側に入って受け取る情報量が膨大であることを考えると、高校生の一色さんが、作品の外側から観て受け取ったものも、ある意味正しいものだったのでは、とお話を伺って思いました。

そうですね。それがなければ今にも至らないわけで…職場体験と入社した後では全然違うみたいなことですね。

――改めて憧れ直した先には、今までとはまた違う「つかさん」に憧れる一色さんになるのですね。

そんなところに行けたらいいですよね。僕は、つかさんの稽古場に実際にいらっしゃった方々が羨ましいんです。取り組み方もやっぱり違うと感じていますし、つかさんの話をされるときの眼差しは、僕が手を伸ばしても届かないものだったりもしますし。生まれた時代が違うので、もうそれはどうしようもないんですが、じゃあ、僕が今できることはというと、やっぱり戯曲に手を伸ばすしかないんです。

『熱海殺人事件』の現場で、ある方が言ってくださった言葉があって。つかさんの現場では、いわゆる「口立て」で、実際に役者を目の前にしてリアルタイムで作っていった部分が多々あるから「台本を読み込むということも大事なんだけれど、この文章を読み込むということよりも、今共演しているその相手に集中した方が、“今のつか作品”を作る上では、ヒントになるかもしれんよ」って。

確かにおっしゃる通りだと思いました。同時に、僕がつかさんの言葉を知る手立てというかヒントは、この戯曲しかないという思いもすごくあります。だから僕には、この台本が「口立て」で作った、ある種の参考書でしかないと思い切る勇気はないんです。「これはただのガイドだから、これを基に一番は共演者の方と思いっきり作っていけばいいんだ」とはなりきれず、戯曲の一言一言を大事にしたいし、その上で、この19名のキャストで、目の前でリアルタイムで作っていく。どちらかの方に比重を置くとかではなくて、どっちも100%でやれたらと思っている状況です。

一色洋平さん=撮影・NORI
一色洋平さん=撮影・NORI

■演者を泳がせてくれる錦織さんの演出。「これ足してみて」がすごくしっくりくる

――つかこうへいさんの脚本からの変化などはあるのでしょうか?

羽原大介さんが脚本協力で入ってくださっていて、脚本を書かれるに際して、錦織一清さんともいろいろディスカッションをされたみたいで、ちょっと変わってはいます。

――つかこうへいさんの演出法の「口立て」のように、稽古場で演者の様子を見ながら変わるところもありますか?

そのあたりが面白くて。錦織さんの演出が素敵だなと思うのは、ご自身も演者でいらっしゃるから、とても良い意味で演者を泳がせてくださるんです。「どんなことがこの人から出てくるんだろう」と見ていてくださる時間があって、その上で「足し算」をしてくださる。割と稽古場でリアルタイムで、「どんなタイプの演技体を持っているのか」、「人とどういう向き合い方をするのか」などをいろいろご覧になられた上で、「これ足してみて」とおっしゃるんです。

足されたものに対して「それは俺の中にないな」というような気持ち悪さはひとつも感じないんです。「これはあなたの肌に合いそうだよね」って足してくださったものがすごくしっくりくるので、とてもよく見てくださっているんだと思います。しかもこちらが演じているお芝居の動きを真似したり、台詞を一緒に言ったりされるので、100%引いて見ていらっしゃるときと、思いっきり当事者になって見ていらっしゃるときのパターンがあって、何かを足してくださるときは、完全に当事者側に寄っているときなんです。

一色洋平さん=撮影・NORI
一色洋平さん=撮影・NORI

■「ちょっと難しいな」と思った瞬間に、「それ要らないね」と瞬時にカットされた

――演じる役者にまずチャレンジをさせてくださって、出てきたものを錦織さんご自身が演じて、落とし込まれた上で足されるのですね。

だからある種、錦織さん版の「口立て」みたいなところもあって、そのプロセスの中で足された台詞も結構たくさんあります。面白かったのは、羽原さんが稽古初日に「足される前提で脚本を書きました」とおっしゃって(笑)。あのお2人の信頼関係があっての今回の脚本なんですね。だから「そうなんだ、足されるんだ」という認識でいたら、本当にどんどん足されているので、「本当だ!」と思っています(笑)。

――稽古が進むにつれて、さらに台詞が増えていきそうですね。

コメディとして面白く足されたりしているので、多少増えています。でも逆に「ここ要らないですね」というカットも鋭いんです。演じていて「ちょっと難しいな」と思った瞬間に「それ要らないんだねきっと」って瞬時にカットされたことがありました。僕(山崎一平)が神林美智子に「なに?」って聞き返す台詞があって「これ難しいな」と思ったんですが、何かしら自分で整合性をつけて取り組もうとした矢先に「違う。この “なに?” は要らないんだ」と判断されてカットになったことがありました。「他の言い方でやってみよう」というのではなく「違うこれ、要らなかったんだ」という判断が面白いなあと思って。でもそこがカットになって、ちょっとホッとした自分もいたので、やっぱり錦織さんはとことん演者さんでいらっしゃると、演出を受けながら常々思っています。

一色洋平さん=撮影・NORI
一色洋平さん=撮影・NORI

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“「演劇男子は、つかこうへいという文字に憧れる」、『飛龍伝2022』一色洋平(上)” への 1 件のフィードバック

  1. ようこ より:

    文量と熱量のあるインタビューにおどろきつつ、下もあることに嬉しくも思っています!笑
    一色さんのつか作品への付き合い方、また、お芝居への向かい方を知ることが出来てより観劇を楽しめそうです。
    それと一色さんは言葉がとても美しいので、(記事にするにあたり多少の変更は加えられているかも知れませんが)一色さんの紡がれる言葉がじっくり読めるインタビューで大満足でした。
    お写真もどれも素敵でした!
    観劇前にも読み返したいと思います。素敵なインタビュー記事をありがとうございます!

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