「これからもミュージカルをやっていきます」『ピピン』、森崎ウィン(下)

森崎ウィンさん=撮影・岩村美佳

2022年8月30日(火)から9月19日(月・祝)まで東急シアターオーブで、9月23日(金・祝)から9月27日(火)まで大阪・オリックス劇場で上演される、ミュージカル『ピピン』で、主演のピピン役を務める森崎ウィンさんのインタビュー後編です。「下」の無料部分では、『ピピン』の楽曲のこと、ミュージカル出演を経験して歌手活動の中で変わったこと、リーディングプレイヤーという存在について思うことや、お客さまへのメッセージについて伺った合同インタビューの内容を紹介します。有料部分では、『ジェイミー』を経て更にミュージカルが好きになったというお話や、ミュージカルならではの「計算通りに行かない」面白さのことなどについて伺った独自インタビューの内容を紹介します。

森崎ウィンさん=撮影・岩村美佳
森崎ウィンさん=撮影・岩村美佳

――『ピピン』の楽曲を聴いていかがですか?

最高です。初演が72年ということは、製作されたのはきっと、60年代後半ですよね。僕は60年代の楽曲がすごく好きなんです。現代の歌をやっている森崎ウィンとしては自由に解釈できますが、ピピンという役を背負った時に、その解釈の幅がどうなっていくのかと。

現時点では日本語で歌うこともあり、いい意味で「ここはもうちょっと崩したい」とか、「ウィンが歌うならこうなるよね」というのはありますが、古いと感じさせない楽曲の素晴らしさがあると思います。この時代の曲だと、結構クラシカルなイメージがあると思うんです。初めて出演したミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』はさらにもう少し前なので、そこからは20年後くらいに作られた作品ですが、結構ポップス寄りだなという印象で、歌うのが純粋に楽しみです。

――昨年の舞台「SHOWTIME」では、城田さんと一緒に『ピピン』の楽曲「コーナー・オブ・ザ・スカイ」を歌う場面がありました。実際に歌ってみて、いかがでしたか?

気持ちよかったです。難しいですが、すごく美しい曲なんです。オケのアレンジも素晴らしく、本当にいい曲だなと思いました。ただ、前後に芝居をつけた時に、どこまでクオリティをキープして表現できるかは、自分との勝負ですので、頑張るしかないです。

――映像や音楽など、さまざまな分野で活動されていますが、ミュージカル作品に臨むにあたって、特に準備されていることはありますか?

「ミュージカルだから」「映像だから」と、僕の中では分けていることはないので、ひとつの作品に入るということは変わりません。もちろんミュージカルとなると、歌わなければいけないので、喉のケアをちょっとするなどは出てきますが、それくらいかもしれません。やはり今回も、その作品に必要なものをちゃんと準備していくだけです。

映像でもミュージカルでも、もちろん前回やったものでも、できたこと、できなかったことがたくさんあります。正直なところ、作品に出会うたびに自分の無力さだったり、自分の足りないところが見えるので、たまに自分が嫌になることもあります。

――『ピピン』は、自分のこととして、青年の生き様を考えさせる全体的な構成が、ちょっと特殊なのかなと思いますが、この作品の構成について感じていることはありますか?

「見たことがないような展開」という気がしています。もちろん世の中にはいろんな作品があり、すごく分かりやすいものもあれば、芸術寄りで、その台詞の裏側をずっと考えさせられるような作品もあったりします。

『ピピン』の場合は、なぜそこにライトが当たっているんだろうとすごく考えさせられたり、急にお客さんに話しかけたり、はたまたサーカス団みたいなものが登場するし、マジックが始まった……と思いきや急に戦争に行ってお父さんを殺しちゃうし、「ええーっ!?」みたいな展開になります。

ひとつひとつに対して「背景には、こういうメッセージがあるのかな」と考えているうちにもう次に行っていたりもします。この展開の早さと運びには、すごくいろんな計算が盛り込まれているような脚本だと感じます。

――演じる側も、大変そうですね。

相当大変だと思います。でも、だからこそやりがいがあるなとも感じます。

――歌手活動もされていますが、これまでに出演されたミュージカルや舞台を振り返って、その経験が活きたと感じられたことがあれば教えてください。

舞台での立ち方など、たくさんあります。舞台は総合芸術で、セットや照明や、生の音楽でみんなが同時に進行していきます。その日にしか見られない「間」だったりが出てくるので、ひとりで進んでいくのではなく、みんなが全体で感じながら行かなければいけなくて、すごく高度な技を皆さんがされているんです。ベテランの方を見ると、やっぱり「見せ方が上手いなぁ~!」と感じます。

ミュージカルを経て、ステージでの立ち方や照明との絡み方などは、自分のライブの時にも若干変わってきています。ちょっとずつですが勉強になっていると思います。

――お客さん目線にもなって、ライブパフォーマンスにも活きてきているんですね。

そうですね。「カチっ」とはまる瞬間といいますか、ライトが点くタイミングが、ひとつずれたりすると、そのテンポ感が影響してきます。そういう感覚が、ミュージカルを経て身に付いてきたんじゃないかなと思っています。

――いずれ、ご自身がそういうものをまとめる側に回ってみたいという思いはありますか?

舞台の演出はあまり考えていませんが、映像を作ってみたいとは思っています。

――作品についての話になりますが、ピピンは、リーディングプレイヤーをどんな存在だと思っているのでしょうか?

ピピンとして実際に立って、後ろを振り向いて感じてみないと分からないですが、リーディングプレイヤーは未来から来たピピンなのかなとか思う瞬間もあります。もしも昔の自分に会ったとしたら、「こうしたらこうなるよ」とは敢えて言わずに泳がしてみたいなと思うんです。あるいは、自分の影のような存在だったり、はたまた自分の優しい先輩だったり、親だったり。実際に稽古場に立ってみると、どう感じるんでしょうね。早く経験したいと思います。

――クリスタル・ケイさんとの共演は、はじめてですか?

バラエティ番組では1回ありますが、それ以外では今回が初めてです。初演を観に行った時、彼女の歌がヤバすぎて「うぉい~! ライブかい!」というくらいに贅沢だなと感じました。しかも、本当に役にぴったりなんですよね。それを今回、自分がピピンとして受け入れられると思うと、すごく楽しみです。

――初演をご覧になっている方もご覧になっていない方も、いらっしゃると思います。両方のお客様に向けてメッセージをお願い致します。

まず『ピピン』を知らない方に。僕は、観た時にこのエンタメが、ここ日本でやっていることに衝撃を受けました。本当にすごい作品です。僕が出るからではなくて、作品が好きないちファンとして感動をもらいました。観終わって劇場を出た時、興奮がやまなくて、知り合いに電話して「『ピピン』という作品を観て!」と誰かに話したくなるような作品だと思いますので、『ピピン』を知らない方、そしてミュージカルを観たことがない方、苦手だなと思う方も、ぜひ『ピピン』でデビュー戦を迎えていただけたらなと思います。

そして前回の『ピピン』を知っている方に。もう1回あの感動が味わえるので、これは来なきゃ損だということも含めて、2代目ピピンとして一生懸命演じさせていただきます。もちろんいろんな感想があると思いますが、どうぞ気兼ねなく言ってください。全然大丈夫です。僕がやると決まったからには、一生懸命やります。それだけです。何だか、挑戦状みたいであんまりよくないかな……。

――今作に臨むにあたって、森崎ウィンとしてどういう舞台にしたいか、ご自身の経歴の中でどういう舞台にしていきたいかなどの、抱負をお願いします。

すごく高い目標かもしれませんが、「この人は本当にミュージカルがちゃんとできるんだ!」という位置に行けたらいいなと思います。あとは、僕が純粋に『ピピン』という作品が好きなので、この作品を皆さんに届けられるその一員として加われている喜びを噛みしめながら、最後まで頑張っていきたいです。

僕にはできないことも多いですが、本当に素敵なキャストの皆さんと一緒に作るものなので、うまく言えませんが、先輩方から勉強になるところは勉強し、自分のベストを尽くします。『ピピン』は初のシングル主演で、自分の中でも大きく左右される作品になるのではないかなと思っていますので賭けています。いろんなことを考えれば考えるほどプレッシャーがかかっていますが、純粋に楽しんでやりたいなと思っています。


<クレジット>
ヘアメイク KEIKO
スタイリスト 森田晃嘉

※アイデアニュース有料会員限定部分には、『ジェイミー』を経て更にミュージカルが好きになったというお話や、ミュージカルならではの「計算通りになどインタビューの後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)

■『ジェイミー』でミュージカルが更に好きに。みんなで作っていくことが楽しい

■ミュージカルでは、芝居が付くと、自分の中で計算していたキーが変わることがある

■ライブだと、自分の楽曲が届きやすくなるように仕込んだことが計算通りにできる

■「出ちゃった」というのは逆にその日にしか聞けなかった音、という面白味でもある

<ミュージカル『ピピン』>
【東京公演】2022年8月30日(火)〜 9月19日(月・祝) 東急シアターオーブ
【大阪公演】2022年9月23日(金・祝)〜 9月27日(火) オリックス劇場
公式サイト
https://www.pippin2022.jp

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森崎ウィンさん=撮影・岩村美佳
森崎ウィンさん=撮影・岩村美佳

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■『ジェイミー』でミュージカルが更に好きに。みんなで作っていくことが楽しい

――前回のインタビューで、ミュージカルがすごく好きだということと、この後もミュージカルをするから楽しみにしてほしいとおっしゃっていました。その答えのひとつが『ピピン』だったのかなと。『ジェイミー』を経て、ミュージカルに対しての想いに変化がありましたか?

ミュージカルは変わらず好きです。映像も大好きですが、生ものというか、ライブが好きな人間なので。自分がそこに立てることに対して、主演だからとか関係なく、作品が決まるごとに大事にして取り組んでいます。大きなミュージカルは3作目ですが、こんなに連続で主演をやれることはほぼないと思いますので、本当にラッキーですし、一個一個を大事にしています。年齢的にも役的にも、今はたぶん、タイミングがいい時なんだと思います。これだけご縁をいただけるのは、素敵なことだと思っています。そういうこともありますが、純粋に僕自身が楽しんでいるんですよね。

例えば『ジェイミー』だったら、もちろんハイヒールをいきなり履いてやってと言われてもできないですし、痛いし大変だということもありましたが、稽古期間はもちろん、作品の本番が始まってからも何公演もあって、その中で、自分で役をどんどん作っていけて、新たな気付きもたくさんありました。「ここはこうしていきたいんだ」ということができていくこと自体が、そして、みんなで作っていくことが、楽しくてしょうがないんです。

終わった時は、意外と切り替えが早いほうなので、「あ~、終わった! は~、よし帰ろ!」みたいな感じですが(笑)。今は打ち上げもなかなかできませんしね。でも、作品を経て得たものも本当に大きかったですし、ミュージカルを更に好きになり、好きにさせてくれた作品でもあったので、『ジェイミー』は僕にとってもすごく大事な作品ですね。

森崎ウィンさん=撮影・岩村美佳
森崎ウィンさん=撮影・岩村美佳

■ミュージカルでは、芝居が付くと、自分の中で計算していたキーが変わることがある

――もちろん音楽がお好きだと思いますが、アーティスト・森崎ウィンとして表現することと、ミュージカルで役として表現することで、面白さの違いを感じたり、ご自身が意識していることはありますか?

ミュージカルをやる時は役を背負っていますし、前後の芝居がありますので、例えば「ここのキーはこういう風に出したい」と普段は自分の中で計算しているものが、いざ芝居が付くと急に変わってしまったりするんです。それがすごく面白くて。

ライブなどでは、音楽だけが続いて、MCがあってと、演じるというよりはその作品を表現する。音の表現プラス、目で見て五感でもっと感じて欲しいために、いろんなことを仕込みますが、そこに演じるということはあまりありません。

例えば「こう歌いたい」ということは純粋に落ち着いて歌っていくんですが、前後の芝居の影響で、出したことがないところから声が出てきてしまう瞬間があるんですよね。ベテランの皆さんはコントロールしながらやっている方も多いと思いますが、僕はまだ、そこがちゃんとできていないんです。もちろん、歌として届けることがベースにありますが、「こんな声出ちゃった」とか、こういう感情のままいってるから、でも感情を優先しすぎると歌えないしと、すごく難しいバランスでもあるんです。それが、ミュージカルをやっているときの面白さです。

森崎ウィンさん=撮影・岩村美佳
森崎ウィンさん=撮影・岩村美佳

■ライブだと、自分の楽曲が届きやすくなるように仕込んだことが計算通りにできる

ライブのように、自分の歌だけやっている時は全部計算できるからこそ、自分でここに到達させたいから、こういうことを仕込む、ここでこういう感動を与えたいから、ここでいきなり暗転してくださいとか、分かりやすく言うとそういうことを仕込んだりします。いきなり音が消えて「アカペラにしましょう」とか。より自分の楽曲が届きやすくなるように、いろんな演出をするという面白さがあります。なので、ミュージカルもライブもどちらも、違わないけど違うといいますか。

森崎ウィンさん=撮影・岩村美佳
森崎ウィンさん=撮影・岩村美佳

■「出ちゃった」というのは逆にその日にしか聞けなかった音、という面白味でもある

――「こんな音が出ちゃった」と、お芝居の延長で出た声は、新たな自分の声として、さらに転用していったりもされますか?

 もう1回やろうとすると、大体失敗するんですよ(笑)。同じことをやろうとするというよりは、その日はその日というように決めていかなきゃいけないと、今の僕は思います。そこをコントロールできていない時点で、ものにはできていないんですが、「出ちゃった」というのは逆にその日にしか聞けなかった音、という面白味でもあるんです。それを常に出していけるようにするのがプロでもあるので、今の自分の足りないところだなと。ちゃんとコントロールできるようになりたいなと思います。

――『ピピン』でも新しいものに出会えるかもしれないですね。

そうですね。そして、これからもミュージカルをやっていきますので、楽しみにしていてください!

森崎ウィンさん=撮影・岩村美佳
森崎ウィンさん=撮影・岩村美佳

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“「これからもミュージカルをやっていきます」『ピピン』、森崎ウィン(下)” への 4 件のフィードバック

  1. キィ より:

    ピピンを演じるご本人から見る”リーディングプレイヤーの存在”の考察、面白いです。お稽古を終えた今、そして公演を終える頃にはそれがどう変化しているか。また、観客として見た私自身はどう考えるか、楽しみです。
    作品のファンだというウィンさんの熱いメッセージを見て、私も知人を観劇へ誘いたくなりました。
    お芝居と歌が合わさって生まれるその日だけのものを、同じ”LIVE”を愛する者として存分に楽しみたいと思います。

  2. りこ より:

    森崎ウィンさんの、俳優としての素直さ真摯さ柔軟な姿勢、作品に対する誠実さ、朗らかな印象ながら深慮のある表現者であることがうかがえる素敵なインタビューでした。『ピピン』、心から楽しみにしています。

  3. YURI より:

    上下記事とも読みました!ウィンくんの素直な気持ちが表現されていてウィンくんらしいなぁと思いました。 優くんのあとを継ぐことは相当なプレッシャーであるけれど ウィンくんらしいピピン王子を期待しています!ジェイミーの話も聞くことができてとても嬉しかったです!

  4. るん より:

    上下の記事とも拝読させて頂きました。ピピンを演じることや、カンパニーの皆さんへの思いなどウィンさんの気持ちがダイレクトに伝わってくる記事で、こちらも気合を入れて観に行きたいと思いました!
    また、昨年わくわくしながら記事を読ませて頂いたジェイミー、わたしにとっても特別な作品なので演じられた後の思いもお聞きできてとても嬉しかったです。
    ピピンを演じて、また何を感じられるのかお聞きできたら嬉しいです。

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