2人のキャストで10人あまりの登場人物を演じるミュージカルコメディ『ダブル・トラブル』~2022 夏 Season C~に、ボビー・マーティンなどの役で出演する、原田優一さんのインタビュー後編です。「下」では、俳優としてだけでなく、演出家としても「ギリギリ」を狙いがちということ、客席が引かないギリギリを狙えるようになったという話、初演時のご自身による『ダブル・トラブル』公演の動画を観ながら反省しているということや、『ダブル・トラブル』という作品の魅力や表現する上での難しさ、この作品の手作り感ならではの良さなどについて話してくださった内容を紹介します。
ーー演じる上で、俳優として「ギリギリを狙っている」というお話もありましたが、演出家としても「ギリギリ」を狙っていますか?
役者さんができる「この人のギリギリ」みたいなところは狙いがちです。「これ、やってみたらどう?」と選択肢を出したりもしますが、一方で、お客さまに受け入れられる「ギリギリ」の方向性という観点もあるんです。結構、日本のお客さまはそこがはっきりしていると思います。
ーーはっきりとしているのですか?
ウケるギリギリと、引くギリギリがあり、そこが難しいところではあります。演出や構成を始めた頃は、「引く」方のギリギリをやり続けたものですから、「これは、完璧に引くんだ」というラインを20代のうちに学びました。「客席が、随分と向こう側に引いたな…」と。
ーー反応で、わかるものなのですね。
お客さまが「なんでやねん!」と、ツッコめない方のギリギリをやってしまうと、引かれるんです。本当に、わかりやすいですよ。『ダブル・トラブル』でも、具体的にどこだったかは忘れてしまいましたが、「あ、これはウケないんだな」と、劇場でわかったものはやらなくなったかと思います。稽古場で、演出家さんにウケていたものとは、また違うんですよ。以前、経験がありまして。
ーーどのようなご経験ですか?
福井晶一さんと、二人ミュージカル『グーテンバーグ!』の時、演出の板垣さんに、稽古場でめちゃくちゃウケているギャグがあったんです。でもこれが、結構ブラックなギャグだったので、お客さまとしては「引く」方だったんですよ。これがわかったのが、劇場初日という…。
ーー実際に、舞台上で…。
「やっちゃった! 」というところがあって、福井さんと自分、心折れましたよ。初日の舞台上で。これだけではなく、劇場ではダメだったということもいっぱいあり、『ダブル・トラブル』でもそれは経験済みなので、再演ではそれがないようにしたいです。
ーー笑いっぱなしだったので、どこなのかわからなかったです。
前回の動画を、再演のために観ていたんですよ。「これはしくじっているな、自分! 」というところが結構ありました。いっぱい反省しながら観ていました。「めちゃくちゃ芝居を置きにいってんじゃねーかよ!丁寧にやりすぎだよ、原田!」って自分でツッコみながら。「そこはもう、サクサクいっちゃっていいんだよ!何、気取ってんだよ! 」みたいなところが。その時は思っていなかったのですが、1年後に観ると思うものなのだなと。
ーー例えば、レベッカはいかがでしたか?
レベッカについても、自分では思うところが結構ありました。「僕のレベッカって、面白いでしょ? 」みたいな芝居をしているんですよ。自信満々でやっているから、動画を観ながらすごく腹が立ってきました。「もっと飛ばしちゃって、勢いでいっちゃっていいんだよ! 」と、思ったりしていました。でも、『ダブル・トラブル』では、なぜそれが難しいかというと、裏と表の判別がつかなくなるんです。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、俳優としてだけでなく、演出家としても「ギリギリ」を狙いがちということ、客席が引かないギリギリを狙えるようになったという話、初演時のご自身による『ダブル・トラブル』公演の動画を観ながら反省しているということや、『ダブル・トラブル』という作品の魅力や表現する上での難しさ、この作品の手作り感ならではの良さなどについて話してくださった内容など、インタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)
■「なりふり構わない」舞台裏と、「しっかりと表現をしなければいけない」舞台上
■「表も裏もドタバタでした!」というのも、何だかダサい気が。いい塩梅が難しい
■「終わったときに、とてもジーンとくる」というか、なぜかわからないけど涙が
■矛盾点にも、手作り感やアナログ感など、人の「思いつき」の形跡を感じる作品
<ミュージカル『ダブル・トラブル』2022夏 SeasonC>
【東京公演】2022年9月5日(月)〜9月13日(火) 自由劇場
公式サイト
https://www.musical-wtrouble.jp
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■「なりふり構わない」舞台裏と、「しっかりと表現をしなければいけない」舞台上
ーー詳しく教えてください。
裏に引っ込んだときは、ゼロコンマ何秒という、秒単位で早替えをしなくちゃいけないんです。だからつまり、裏に入ったら、「なりふり構わない」みたいな世界が待っているんですよ。でも、表にいくともちろん、「表現をしなきゃ」とか、「セリフを伝えなければいけない」とか、舞台上の世界に戻ってくるわけですよね。裏で、「ブワー!」となっているからこそ、表では余計に「ここでは、しっかりと表現をしなければいけない」となるんです。そうなると、さっき言ったように、「すごく置きにかかっている」感じになるんですよ。丁寧になりすぎるんです。
ーー表現しなければと意識するからこそ、芝居が丁寧になるということですか。
はい。丁寧にやりすぎるから、「こっちが、次に何をやらんとしているか」を、お客さまの中で想像ができてしまうだろうなと。スピード感としては、お客さまの方が、先に行っちゃっているよ!となってしまうんです。
■「全部、表も裏もドタバタでした!」というのも、何だかダサい気が。いい塩梅が難しい
ーー芝居する前に、先に笑いが起こってしまったり…
そうなんです!この、裏と表のスピード感がわからなくなる感じが怖いなと、動画を観て思いました。表現しようとして、裏の「ブワー!」というスピードを抑えて改まってからの、「私、レベッカよ」というテンポでやると、お客さまは「もっとテンポアップして欲しい」と思うでしょうし。でも、裏のスピードのままやるというのも…。本当のリアルなドタバタが裏では待っている。けれども、表では「ドタバタを演じる」んです。これが、『ダブル・トラブル』の難しいところだと思います。
ーードタバタのさじ加減が難しいですね。
もっくん(太田さん)も言っていたのですが、裏のリアルドタバタを、お客さまが想像できてもOKな作品ではあるんですよ。でも、表では、ある程度「しれっと」いう雰囲気でやらないといけないので、その塩梅がすごく難しいんです。「全部、表も裏もドタバタでした!」というのも、何だかダサいですし。しれっとやっているように見えるけど、実は息が上がっているのがわかる、くらいが面白いのかもしれないですね。
■「終わったときに、とてもジーンとくる」というか、なぜかわからないけど涙が
ーー初演の経験を踏まえての『ダブル・トラブル』。お話の総括として、改めて今回、どのような作品にしていきたいですか?
この作品に登場するのは、突飛なキャラクターも多いですが、それぞれに愛おしいんです。どこかしら共感できるように作れたらいいなと思っているんですよ。この作品の見どころはどこですかと質問をいただくことが多いのですが、「終わったときに、とてもジーンとくる」というか、「なぜかわからないけど涙が出てくる」という感覚でしょうか。
その涙は、太田と原田が頑張っていた姿や、お客さまがキャラクターに共感できたからかもしれないし、ジミーとボビーが夢を叶えようと奮闘したからかもしれませんし。「このジミーとボビー、よかったな」と、最後のハイライトシーンで、いつのまにか共感していただいて、丸ごと受け取っていただけるのが、この作品なのではと思うので、その辺りを感じていただけたら嬉しいです。
■矛盾点にも、手作り感やアナログ感など、人の「思いつき」の形跡を感じる作品
ーー確かに、ラストは、じわっと来ますね。
『ダブル・トラブル』の魔法のような感じですよね。
ーー抱腹絶倒のドタバタからの、最後の「じわり」です。
ジミー・ウォルトンさんと、ボビー・ウォルトンさんの兄弟が、実際に稽古しながら全力を込めて作った作品なんだと思うんです。本人たちではない我々がやると、「これ、無理あるよー!」と思うところもあるのですが、そこは多分、二人で実際に稽古しながら「あ、ここ、なんとかできちゃったね」という箇所だろうなと。
実際に本人たちがやってみて、面白いと感じたことが詰められている作品だと思うので、矛盾点があるところもあるんです。でもそこに、手作り感と言いますか、マンパワーのアナログ感…人間の「思いつき」の形跡があって、そこも含めて可愛げがある作品だなと思っています。
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ダブル・トラブル2022 が終演して、早10日。それでもまだマーティン兄弟の熱量が冷めずに私の心を満たしています!
そしてマーティン兄弟の、「裏の必死さ」と「表のシレっと感」に励まされて、私も頑張っています!
しばらくして、私のこのエネルギーが切れる頃には、再びマーティン兄弟に会えて、元気をいただけたらとても嬉しいです!
いろんなキャストで、このミュージカルを続けていっていただきたいですが、その中にレジェンドチーム(原田優一さんと太田基裕さん)は必ずいていただきたいです!
またお会いしましょう!
「ダブル・トラブル」は初演を8公演観ました。そしてアイデアニュースさんのこちらの記事を拝読後、今回は11公演観劇しました!完全に中毒者です笑
30年のキャリアがあり演出家としてもご活躍なさっている超実力派ベテラン俳優さんなのにも関わらず、記事にあった通り上限を決めることなくいつも果敢に“ギリギリ”を攻めて会場に爆笑の渦を巻き起こし、その演目の中毒者を続出させてしまう原田さん。そうなった経緯やお考えを知ることができ、目から鱗が落ちるインタビューでした。お陰さまでより「ダブル・トラブル」の見どころや楽しみ方が増え、夏の終わりに幸せな観劇時間を味わうことができました。素敵なインタビューをありがとうございました。
興味深いお話満載でした。
ウケるギリギリと引くギリギリの丁度いい塩梅のギリギリを攻めるダブルトラブル再演が物凄く楽しみです。
ドタバタの裏と表の話も深いなぁ。
原田優一さんは常に自分を客観視出来て、客席の反応も自分の味方に変えられる強みがあるから素晴らしいパフォーマンスを私達に見せてくれるのですね。
初演とは一味も二味も違ったキャラクターで攻めてくる予感にワクワクが止まりません。
アイデアニュースご担当者様へ
原田さんのお名前間違いの指摘のリプをした者です。
とても気持ちの良いご対応をして頂き、感謝です。