280年前の「山中一揆」を描いた映画「新しき民」、大阪で上映へ

映画「新しき民 SANCHU UPRISING: VOICES AT DAWN」より=(C)2014 IKKINO PROJECT

280年前に実際にあった一揆を背景に、そこに生きた人々の思いを描いた映画「新しき民 Sanchu Uprising: Voices at Dawn」が、2015年12月26日(土)から大阪のシネ・ヌーヴォで上映されます。岡山県真庭市で農業を営みながら「地産地消映画」を制作し続けている山崎樹一郎監督のこの作品は、地元・岡山県での度重なる上映を経て、全国のスクリーンに登場し、米国やオランダでも上映され、「地消」の枠を超えて観られ続けています。大阪での上映開始を前に、その「熱」を紹介します。

映画「新しき民 SANCHU UPRISING: VOICES AT DAWN」より=(C)2014 IKKINO PROJECT

映画「新しき民 SANCHU UPRISING: VOICES AT DAWN」より=(C)2014 IKKINO PROJECT

映像はモノクローム(白黒)。吹雪の山々を背景に、貧しい農民たちの姿が描かれます。まあとにかく、寒そう。あんなに薄いペラペラの着物一枚で、よく雪の中で演技ができるものだと思ったのが、最初の印象でした。

映画「新しき民 SANCHU UPRISING: VOICES AT DAWN」より=(C)2014 IKKINO PROJECT

映画「新しき民 SANCHU UPRISING: VOICES AT DAWN」より=(C)2014 IKKINO PROJECT

ウェブサイト「シネルフレ」に掲載された山崎監督のインタビュー記事によると、「役者さんらは草鞋のままで、待ち時間が長かったので、本当に一揆が起こりそうなテンションになるんですよ。草鞋で足が切れて、雪の中に血がついたりすると、『僕は何をやらせているんだろう』と思いました。現場では『サディストすぎる』と言われていましたから(笑)」という状況だったそうです(http://cineref.com/report/2015/12/atarashikitami.html)。そんな極寒の山里を舞台に、ストーリーは進みます。

映画「新しき民 SANCHU UPRISING: VOICES AT DAWN」より=(C)2014 IKKINO PROJECT

映画「新しき民 SANCHU UPRISING: VOICES AT DAWN」より=(C)2014 IKKINO PROJECT

物語の舞台は、江戸時代の津山藩内の山中(さんちゅう=現在の岡山県真庭市)で、主人公は若い農民の治兵衛(じへい=中垣直久)。出産を控えた妻・たみ(梶原香乃)とともに、山中の村でつつましくも幸せに暮らしていましたが、村を悪天候が襲い、年貢の取り立てを進める藩と、生きるための食糧確保が必要な農民らとの対立が強まってゆきます。一揆の動きに対して治兵衛は「百姓が侍に勝つなんて聞いたことがなかろうが」と反対しますが、「生きるために」起きた一揆は藩の武力の前につぶされて、多くの者が処刑されることになります。殺されそうになった時に、治兵衛が選んだ道は何だったのか。そして、治兵衛や妻、村人、侍たちはどうなってゆき、何を考えたのかが、描かれてゆきます。

詳しいストーリーはネタバレになるので割愛しますが、侍(川瀬陽太)の帯刀を治兵衛が抜くシーンには、ハッとさせられました。

映画「新しき民 SANCHU UPRISING: VOICES AT DAWN」より=(C)2014 IKKINO PROJECT

映画「新しき民 SANCHU UPRISING: VOICES AT DAWN」より=(C)2014 IKKINO PROJECT

映画「新しき民 SANCHU UPRISING: VOICES AT DAWN」より=(C)2014 IKKINO PROJECT

映画「新しき民 SANCHU UPRISING: VOICES AT DAWN」より=(C)2014 IKKINO PROJECT

映画「新しき民 SANCHU UPRISING: VOICES AT DAWN」より=(C)2014 IKKINO PROJECT

映画「新しき民 SANCHU UPRISING: VOICES AT DAWN」より=(C)2014 IKKINO PROJECT

ニューヨークで開催された日本映画祭「Japan Cuts」で上映された際、ニューヨークタイムズは「黒澤明監督の名作『七人の侍』を思い起こさせながらも、本作はこれまでの時代劇とは異なる方向へと進む。鳴きわめくポップジャズのスコア、ヌード描写、アニメーションといった様々な要素を盛り込みながら、山崎樹一郎監督は、この伝統的なジャンルが持つ慣例と遊んでいるかのようだ」と評しています。(http://www.nytimes.com/2015/07/05/movies/japan-cuts-film-festival-at-japan-society-emphasizes-the-eccentric.html

「新しき民」について書かれたニューヨークタイムズの記事=ニューヨークタイムズのホームページより

「新しき民」について書かれたニューヨークタイムズの記事=ニューヨークタイムズのホームページより

映画「新しき民 SANCHU UPRISING: VOICES AT DAWN」より=(C)2014 IKKINO PROJECT

映画「新しき民 SANCHU UPRISING: VOICES AT DAWN」より=(C)2014 IKKINO PROJECT

映画「新しき民 SANCHU UPRISING: VOICES AT DAWN」より=(C)2014 IKKINO PROJECT

映画「新しき民 SANCHU UPRISING: VOICES AT DAWN」より=(C)2014 IKKINO PROJECT

2015年12月26日(土)からは、大阪の「シネ・ヌーヴォ」での上映が始まります。シネ・ヌーヴォのページによると、初日の12月26日には、山﨑樹一郎監督による舞台挨拶があり、休館日の12月31日と1月1日をのぞいて2月12日(金)まで上映される予定になっていました。(シネ・ヌーヴォの上映スケジュールは、こちら → http://www.cinenouveau.com/schedule/schedule1.html

<公式サイト>
映画『新しき民』ウェブサイト
→ http://atarashikitami.jimdo.com/

<上映情報>
【大阪】シネ・ヌーヴォ 2015年12月26日(土)から
→ http://www.cinenouveau.com/schedule/schedule1.html
【山口】山口情報芸術センター 2015年12月25日(金)、2016年1月22日(金)、2016年1月31日(日)
→ http://www.ycam.jp/cinema/2015/cine-club-vol9/

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この記事の筆者(橋本正人)がこの映画を見て感じた思いを書きたいと思います。

白黒フィルムで農民や侍が出てくるという点で、ニューヨークタイムズが書いているように黒澤明監督の作品を彷彿とさせる点はありましたが、むしろ私の脳裏に浮かんだのは、1979年のイタリア・フランス映画、「木靴の樹」でした。

何げない庶民の生活の中にある幸せと悲しみ。それは時に、権力によって無残な状況に追い込まれることもある。しかし、それでも、そうした庶民の暮らしの中にこそ、ささやかながらも、ほんとうの美しさ、楽しさ、豊かさがあり、それは時代を超えて繰り返されてゆく。そうした世界を描いている点で、この作品は、1978年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した「木靴の樹」に通じるものがあると思いました。

そして、映画についてあちこち調べるうちに、すごいなぁと思ったのは、「一揆のごはん」(https://www.facebook.com/ikkinogohan/)というfacebookのページでした。エキストラの人たちを含めて、膨大な数のスタッフを支え続けた「一揆のごはん」の記録は、本当に美しいものでした。

地方で制作・撮影された映画が、「地産地消」されつつ全国や世界に広がってゆく。そうした「新しい映像の時代」は、確実に到来しつつあると思います。

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