エフィー役、モヤ・アンジェラのパワフルな歌声が圧巻 ミュージカル「ドリームガールズ」

「JIM BEAM presents ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』」日本公演より=©Kumiko Suzuki

6月8日、東急シアターオーブにて開幕した「JIM BEAM presents ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』」を観た。「コーラスライン」の振付・演出で知られるマイケル・ベネットの遺作でもあり、2006年には映画化もされている。私も素晴らしい作品との噂を聞き、一度観てみたいと思ったが、当然すぐには叶わないので、とりあえず映画を見てみた。映画も十分面白かったのだが、やはり生の舞台を観てみたいと思っていた。その願いが、幸運にも日本で叶うこととなった。

「JIM BEAM presents ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』」日本公演より=©Kumiko Suzuki

「JIM BEAM presents ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』」日本公演より=©Kumiko Suzuki

時は1962年。物語はニューヨークのハーレム、アポロシアターの舞台裏から始まる。歌手になることを夢見る三人娘がシカゴからやってきて、コンテストに参加しようとしていた。美人でしっかり者のディーナ、最年少で可愛いローレル、そして抜群の歌唱力を誇り自信満々なエフィーだ。

3人はそこでカーティスという男に出会う。彼はしがないカーディーラーだったが、実はプロデューサーとしての天才的センスと野心を秘めていた。マネージャーを買って出たカーティスの見事な手腕のおかげで、彼女たちはスターダムを登りつめていき、やがてエフィーはカーティスを愛するようになる。

だが、さらに上を目指すためにカーティスが考えついた策は「エフィーに代わって美人のディーナをセンターにする」という非情なものだった。荒れるエフィーは次第に手に負えなくなり、ついにはクビを言い渡されてしまう。

失意のままに故郷シカゴに戻るエフィー。いっぽう頂点に登り詰め、押しも押されぬスターの座を手に入れたディーナも自分を偽り続ける日々に疑問を感じ始める。10年後、それぞれの「本当の夢」を追い求める旅が再び始まる・・・。

◆ディーナの美貌、ローレルの愛嬌、そしてエフィーの歌声!

何といっても「ドリームガールズ」3人それぞれの魅力が楽しい。知的でエレガントなディーナ(ジャズミン・リチャードソン)。彼女が「選ばれし者」としての自覚に目覚め、みるみる洗練されていく様には文句なく目が釘付けになる。

「JIM BEAM presents ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』」日本公演より=©Kumiko Suzuki

「JIM BEAM presents ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』」日本公演より=©Kumiko Suzuki

ローレル(ブリトニー・ジョンソン)の天真爛漫な明るさは、この作品の中でいつも心を和ませてくれる。まるで一服の清涼剤のようだ。

だが、何といっても圧巻はエフィー(モヤ・アンジェラ)の歌声だ。映画のように細かい描写ができない分、歌でぐっと物語を進め、つべこべ言わずとも説得力を持たせる。そんな力がエフィーの歌にはある。

「JIM BEAM presents ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』」日本公演より=©Kumiko Suzuki

「JIM BEAM presents ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』」日本公演より=©Kumiko Suzuki

エフィー一番の聴かせどころは1幕ラストの「And I Am Telling You I’m Not Going」だ。夢の世界からただ一人放り出されたエフィーの悲痛な歌声が胸を打つ。エフィーの抜けた新生「ザ・ドリームズ」たちの華やかさとの残酷なコントラストは、舞台ならではの表現だと思った。

1幕では堅苦しさがなかなか取れなかった初日の客席が、1幕ラストから2幕にかけてみるみる温まっていくのが手にとるようにわかった。私が好きだったのは2幕の最後、ディーナとの再会の場面で歌われる「Listen」だ。歌詞の一言一言がとても心に響く。この曲を歌い終わった時は拍手と歓声が鳴り止まず、なかなか次のセリフに入れないぐらいだった。

<JIM BEAM presents ブロードウェイ・ミュージカル「ドリームガールズ」>
【東京公演】2016年6月8日(水)~6月26日(日)  東急シアターオーブ (渋谷ヒカリエ11F)
お問い合わせ Bunkamura 03-3477-3244 、ローソンチケット 0570-000-407
公式ホームページ ⇒http://www.dreamgirls2016.com

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◆じつは「男たち」のバトルにも興味津々

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◆じつは「男たち」のバトルにも興味津々

この物語、魅力的なのはガールズたちだけではない。周りの男たちの生き様も面白い。カーティスは悪役のように見られがちだが、少なくとも1幕で立ちはだかる壁を次々突破していくさまは、むしろ小気味良い。結果はどうあれ、彼は彼の夢を真剣に追っていたことは間違いないのだと思う。

歌手のジミーは女たらしでだらしないが、時折見せるエンターテイナーとしての気骨が味わい深い。エフィーの弟で作曲家を目指すC.Cは生真面目な職人肌、そして姉思いだ。ジミーのマネージャーであるマーティーは、頭は古いが誠実で実直な人柄がにじみ出る。何だか身の回りの男たちがうまく類型化されているようで、誰もがこの4人の誰かに近い気がする。

「JIM BEAM presents ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』」日本公演より=©Kumiko Suzuki

「JIM BEAM presents ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』」日本公演より=©Kumiko Suzuki

自分らしく歌いたいジミー、自分の作った歌に魂を込めたいC.C.、古き良き自分たちの世界を大事にしたいマーティー。3人はそれぞれ、上に行くためには手段を選ばないカーティスと対立する。タイトルは「ドリームガールズ」だが、この話、価値観の違う男たちがそれぞれの夢を追い求めて戦う話でもあると思う。

◆ラストシーンの3人の笑顔が清々しい!

歌声に酔いしれながらも、学ぶところ、考えさせられるところが多い話だ。「夢を叶える」とは、広い世界と向き合うこと。そのためには殻を破る勇気が必要だ。だが、払わなければならない犠牲もあるのかもしれない。

そうしてステージが変わったとき、人は改めて「本当に大切なものは何だったのか」を問いかけられる。この大切な問いかけは、成功するにせよ挫折するにせよ、一度「夢を追う」挑戦をした人だけに与えられる特権なのかもしれない。

これはどの世界にもよくある話で、ショービジネスに限った話ではないし、人種差別だけが問題なわけでもない。だからこそ、この作品は多くの人の共感を呼ぶのだろう。

エフィー、ディーナ、ローレル、最後にそれぞれの道を見つけた3人の笑顔が清々しい。もちろん男性陣もだ。願わくばカーティスも再起して欲しいなと思う。さて、私も3人のように自分の道をまっすぐ進めているかな? 幕が降りたとき、ふと自分自身に問いかけたくなる、そんな作品だ。

「JIM BEAM presents ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』」日本公演より=©Kumiko Suzuki

「JIM BEAM presents ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』」日本公演より=©Kumiko Suzuki

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