ロンドンを舞台に、貧しくて教養のない娘イライザが、言語学のヒギンズ教授と出会い、美しい蝶へと成長していく姿を描いたミュージカル「マイ・フェア・レディ」が2016年7月から8月にかけて、再演される。この古き良き作品は、日本では1963年に日本人が日本語で上演した初のブロードウェイ・ミュージカルとして幕を開け、繰り返し上演されてきた。有名な映画版はもちろんのこと、舞台をご覧になった方も多いことだろう。2013年には演出家にG2を迎え、キャストとともに作品を刷新。そこでミュージカルデビューを果たしたのは、松尾貴史だ。主人公イライザの父親ドゥーリトル役を堂々とコミカルに演じ、タレント、コメンテイター、エッセイストなど多彩な顔を持つ松尾に新たな肩書が加わった。ミュージカルは嫌いだったという彼が、出演することで、どう変わったのか。現在、稽古中(取材当時)の松尾に話を聞いた。
■ドゥーリトルの人生哲学と僕のキャラクターと、どう合うか分析した丁寧なメールが
――まず、2013年の「マイ・フェア・レディ」で、何故、ミュージカルに挑戦しようと思われたのか聞かせて下さい。
ミュージカルは絶対にやらないと普段から言っていたんですけどね。しゃべってて、突然歌うなんてそんなん、絶対できへんわと(笑)。突然、歌い始める役者さんの勇気はすごいなと思っていました。絶対出ないと言ってましたが、昔、イライザのとっつぁんみたいな酔っ払いの役やったらいいと、雑誌のインタビューで答えたことがあるんですよ。そしたら、偶然、ドゥーリトル役のオファーをいただいて。演出を手掛けるG2とは昔から仲良しなものですから、東宝の方からお話をいただいたときに、G2が『彼はミュージカルはやらないから』と勝手に断っていたらしいんです(笑)。でも、僕の名前を挙げて下さった東宝の方から、「ドゥーリトルがどういう状況で育ち、どういう人生哲学があり、それが僕の持っているキャラクターとどう合うか」と分析した丁寧なメールをいただきました。あとは、僕のスケジュールの都合をつけるだけだったんです。
――松尾さん演じるドゥーリトルは、出演される一幕二幕を通してずっと酔っぱらっているという演技でした。
ずっとです。カーテンコールでも酔っぱらっていました(笑)。
■酔っぱらっているけれど、「滑舌だけはよくしておいてほしい」と
――「マイ・フェア・レディ」の映画では、ドゥーリトルはあそこまで酔っぱらっていなかったと記憶しているのですが、その辺りは、松尾さんが意図されたのでしょうか。
そうですね。酔っぱらっていないと、僕が歌い出せないという照れがあるのかも知れません(笑)。酔っぱらっているけれど、「滑舌だけはよくしておいてほしい」と、前回も、今回も厳しくG2から言われています。
■父親がこの作品の映画が好きで、「日曜洋画劇場」で一緒に見て
――演じていて、松尾さんのキャラクターとマッチする部分は多いのですか。
屁理屈をいうところや、酒好きなところは似ていますね(笑)。僕の父が酔っ払いで屁理屈ばかり言っていたので。屁理屈なのか詭弁なのかよく分からないんですけど、その辺りは通じるところがちょっとはあるかなぁ。昔、父親がこの作品の映画が好きで、「日曜洋画劇場」で一緒に見ていたことがあって、感慨深いというのはありますね。ドゥーリトルの日本語の吹き替えは小松方正さんだったんです。だから、小松さんの刷り込みはいまだに僕の中に残っていますね。
――ドゥーリトルは、憎めないキャラクターですよね。何という人だとも思うんですけれど…。
最低ですもんね(笑)。
――お金を娘のイライザにたかります。
「鞭で折檻」とか言うてますよね(笑)。大問題じゃないですか。
――お金をたかりながらも、ヒギンズ教授の元から去ったイライザに、「自分のことは自分でどうにかしろ」と言い放ちます(笑)。
無責任なところは僕と似ていますね(笑)。
――ドゥーリトルが前回の公演と違うところはありますか。
髭がはえているところ(笑)。前回、髭はないんです。酔っぱらっていて、自堕落なところ、ちゃんと管理していない雰囲気を出すには髭があったほうがいいんじゃないかと思って。「年老いた父親に」というセリフがあるので、質感もいるなと思ってます。
<ミュージカル「マイ・フェア・レディ」>
【東京公演】2016/7/10(日) ~ 2016/8/7(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
【愛知公演】2016/8/13(土) ~ 2016/8/14(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
【大阪公演】2016/8/20(土) ~ 2016/8/22(月) 梅田芸術劇場メインホール
<関連サイト>
東京芸術劇場プレイハウス『マイ・フェア・レディ』
http://www.tohostage.com/myfairlady/
梅田芸術劇場・公演詳細「ミュージカル『マイ・フェア・レディ』」
http://www.umegei.com/schedule/540/
松尾貴史 Twitter
https://twitter.com/Kitsch_Matsuo
松尾貴史さんがオーナーを務めるインドカレーカフェ「cafe 般゜若」
http://www.pannya.jp/main/
松尾貴史さんの作品などが掲載されたページ「折り顔」
http://www.origao.jp/
<関連記事>
「マイ・フェア・レディ」で酔っ払いの父親役、松尾貴史インタビュー(上)
https://ideanews.jp/backup/archives/23974
「グニャグニャから始めると、立て直しやすい」 松尾貴史インタビュー(下)(7月8日掲載予定)
https://ideanews.jp/backup/archives/24010
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■前回よりもさらに、立て板に水のごとくしゃべるドゥーリトルであってほしいと
■「ミュージカルはやらない」と言っていたのは、「やれない」と思っていただけ
■宝塚を見たり海外の来日公演を見て、全然違う値打ちや感動があると知りました
■「マーダー・フォー・トゥー」、自分が自然と歌い出していたのが不思議
■前回よりもさらに、立て板に水のごとくしゃべるドゥーリトルであってほしいと
――G2さんからのリクエストは?
前回よりもさらに、立て板に水のごとくしゃべるドゥーリトルであってほしいと。あとは振付が少し、楽になりました。前回は決めごとがいくつかあったんですが、今回は「自由に酔っぱらっていなさい」と言われています。自由すぎると逆に寂しくなって、ほかの人と同じ動きをするのではないかと予想しているんですけど(笑)。前回では、初日と千秋楽で自分がいかに変わっていくのかがよく分かりましたからね。ドンドンと調子に乗っていくんですよ。オーケストラに囲まれて、アンサンブルの皆さんが僕を介護するようにもり立てて下さるので、勘違いして気持ちよくなるんです(笑)。
――「運がよけりゃ」「時間通りに教会へ」(劇中では「教会へは遅れずに」)と2曲の有名なビッグナンバーがあります。とくに、「時間通りに教会へ」はダンスのシーンも盛りだくさんです。
本当に自分が楽しんで、皆さんも楽しんで、乗っていただければ。前回は手拍子がくるときもありましたからね。猿もおだてりゃ木に登るのと同じです(笑)。この間、「マーダー・フォー・トゥー」という二人もののミュージカルに出演したんですが、その作者の方が来日されていて、「次、どんな仕事をするの?」と聞かれたんです。僕が「『マイ・フェア・レディ』のドゥーリトル」だと答えたら、彼が歌い始めたんです。パッとすぐ出て来るような有名な役をやらしてもらえるんや、ちゃんとせなあかんなと思いましたね。
■「ミュージカルはやらない」と言っていたのは、「やれない」と思っていただけ
――2013年「マイ・フェア・レディ」でミュージカルに初挑戦されたからこそ、「マーダー・フォー・トゥー」のお仕事に繋がったということでしょうか。
おそらくそうでしょうね。「マイ・フェア・レディ」と、昨年、音楽劇「麦ふみクーツェ」にも出演したので、音楽劇も出るんだと、皆さん、思って下さったみたいで。そこから「マーダー…」の話もきたんです。最近、「僕で務まるんですかね」と、マゾヒスティックな感覚で仕事をお受けするのが、楽しくなってきましてね(笑)。僕が昔、「ミュージカルはやらない」と言っていたのは、「やれない」と思っていただけで、今までジャンルが理由で仕事をお断りしたことはないんです。共演者が嫌いで断ることはなんぼでもあるんですけど(笑)。
■宝塚を見たり海外の来日公演を見て、全然違う値打ちや感動があると知りました
――あぁ、それはあるのですか(笑)。
ありますね(笑)。あとはもちろん、物理的なことも関係しています。前は、「誘ったほうが悪いんや」という気持ちで無責任にやっていたのですが、最近、意識が変わってきたなぁと思います。昔は、ミュージカルに憧れる気持ちもなかった。ミュージカルというものは、普通30秒で終わるシーンを4分ぐらいかけてするから内容が薄いと勝手に思っていたんです。でも宝塚歌劇団を見に行ったり、海外の来日公演を見る機会があったりして、全然違う値打ちや感動がいっぱいあると知りました。今までミュージカルの素晴らしさに触れる機会がなかっただけだという不運を感じましたね。こんなに楽しいことはないです。ダンスや歌など、様々なスペシャリストが技を研ぎ澄まして、舞台でしのぎを削っている。奥が深くてレベルも高いんです。まだ数は少ないんですが、かかわるたびに、すごい世界だなと思います。
■「マーダー・フォー・トゥー」、自分が自然と歌い出していたのが不思議
――以前は、「ミュージカルは急に歌い出すのが変」だと思われていたそうですが、今はその手法には馴染んできたのでしょうか。
そうですね。「マーダー・フォー・トゥー」で何曲もそのようなシーンがありましたが、自分が自然と歌い出していたのが不思議でした。あれ!?僕はこんな人間だったかなと(笑)。人間の神経の優先順位みたいなものが変わる瞬間があるんだと思いました。
――「マーダー・フォー・トゥー」はV6の坂本昌行さんと二人で合計13役に扮する大役でした。
本当に大変でしたね。よくこんなこと考えたなと、発案した人に表彰状ですね。僕は気持ち良かったです。
――ピアノの弾き語りもありましたね。
電子ピアノが自宅に送られてきました。坂本君が言ってましたが「振付のように覚えるしかない」んだなと。
――坂本さんとの連弾のシーンも驚きました。
連弾もあんな、無茶なね(笑)。あのシーン自体がショーなんでしょうね。一人で弾くだけでは簡単すぎるから、連弾にしようとああいうシーンを作ったらしいんです(笑)。今回はそういう演出はないので、安心しています。それに、ほとんど出ずっぱりの「マーダー…」と比べて、出番がなかったら休む暇もあり(笑)、しかも酔っ払えるので、気持ち的には楽ですね。