「グニャグニャから始めると、立て直しやすい」 松尾貴史インタビュー(下)

松尾貴史さん=撮影・橋本正人

2016年7月から8月にかけて東京・愛知・大阪で上演されるミュージカル「マイ・フェア・レディ」に出演する松尾貴史さんインタビューの「下」です。(インタビュー「上」は⇒ここをクリック

松尾貴史さん=撮影・橋本正人

松尾貴史さん=撮影・橋本正人

■「マイ・フェア・レディ」が日本語をいかした美しいセリフになったのはG2の功績

――演劇ユニットAGAPE storeを一緒に作った仲でもある、G2さんの演出は、今作ではいかがですか。

G2はディレクションが達者だなと思いますね。暗転嫌いですから。見ているうちに、ある程度次の場面の準備ができている。パッと照明が変わると、続けて始まるシーンがオーバーラップしているのか、カットインなのか分かりませんが、きれいに進んでいくのが緻密だなと思いますね。

――G2さんは「マイ・フェア・レディ」で、翻訳・訳詞も手掛けられ、イライザが特訓する早口言葉をはじめ、言い回しなどかなり日本語を重要視したセリフに変えられました。

有名な曲の「スペインの雨」(劇中では「日向のひなげし」)は、「スペイン」や「レイン」と、韻を踏んでの発音が重要な歌なのに、それを昔は直訳していた。「スペイン」と「雨」は韻を踏んでいないじゃないですか。僕は昔からそこに違和感があったんです。それをG2が変えて、五韻相通という、韻や発音というキモを大事にした新たな歌詞に作り替えた。昔からの歌に馴染んでいる人は、それが気に入らないこともあると思う。でもG2の新しい歌詞なら、「意味分かるわ」という人も新たにいるでしょう。この作品がリボーン(再誕生)とうたっている意味合いの一つだと思います。例えば、「本日は晴天なり」というマイクチェックは実は日本語でやっても意味がないのと同じです。あれは英語でやるからすべての発音に母音が入っていて意味があるんです。それを日本に入ってきたときに直訳してしまった。「マイ・フェア・レディ」が楽曲の歌詞をはじめ、日本語をいかした整合性のある美しいセリフになったのはG2の功績ですね。

■僕はセッションから始まって、段々セリフを覚えていく(笑)

――先日、私がヒギンズ役の寺脇康文さんを取材したときに、寺脇さんが、役を演じるときは「セリフを覚えて、あとは相手とのセッションだ」とおっしゃっていました。松尾さんはいかがですか。

僕はセッションから始まって、段々セリフを覚えていく(笑)。ちょっと順番を間違っていますね(笑)。最初にやらしてもらったとき、ご迷惑をお掛けしたかもしれません(笑)。こういうやり方はダメですが、ゆるゆるグニャグニャのところから有機的に始めていくと、何かコトが起きたときに、立て直しをしやすいという利点はあります。

――「セッションから始まって、段々セリフを覚えていく」のは、ほかのお仕事でも同じですか。

いえいえ、そう決めているわけではないですよ。変な話ですけど、流れが自然な台本は覚えやすいんですよ。上手な方が書いた台本はそうなんです。「マイ・フェア・レディ」は大量にセリフがあるわけではないんですが、覚えやすかったですね。ほかには、連続テレビ小説の「ちりとてちん」に出演したとき、僕が2、3ページしゃべり続けるシーンがあったんですが、あっという間にセリフを覚えられた。なんでかというと、僕が飲んでいるときにしゃべっていたことを、そのまま脚本家の藤本有紀さんが書かれたんです(笑)。そういえば、こんなこと言ったなと(笑)。自分が言ったことだから、あのときはしゃべりやすかったですね。

――逆にセリフを覚えにくい台本は、流れが悪くて良くない台本なのでしょうか。

いや、そういうことはないです。意図があって、そうしている場合もありますからね。似たようなセリフが何回も出てきて、次のセリフがごっちゃになってしまうんです。そういう場合は覚えにくいですね。作品としてはすごく優れているのに、別役実さんの台本は覚えにくいです。ありふれた言葉が繰り返し出て来る。あくまでも僕にとっての話ですが。

――ちなみに、「マーダー・フォー・トゥー」は?

セリフが大量だった(笑)。大量だし、5つの単語を言う間に、5歩歩いて、二人で同時に振り返るとか。ものすごい細かかったですよ。

<ミュージカル「マイ・フェア・レディ」>
【東京公演】2016/7/10(日) ~ 2016/8/7(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
【愛知公演】2016/8/13(土) ~ 2016/8/14(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
【大阪公演】2016/8/20(土) ~ 2016/8/22(月) 梅田芸術劇場メインホール

<関連サイト>
東京芸術劇場プレイハウス『マイ・フェア・レディ』
http://www.tohostage.com/myfairlady/
梅田芸術劇場・公演詳細「ミュージカル『マイ・フェア・レディ』」
http://www.umegei.com/schedule/540/
松尾貴史 Twitter
https://twitter.com/Kitsch_Matsuo
松尾貴史さんがオーナーを務めるインドカレーカフェ「cafe 般゜若」
http://www.pannya.jp/main/
松尾貴史さんの作品などが掲載されたページ「折り顔」
http://www.origao.jp/

<関連記事>
「マイ・フェア・レディ」で酔っ払いの父親役、松尾貴史インタビュー(上)
https://ideanews.jp/backup/archives/23974
「グニャグニャから始めると、立て直しやすい」 松尾貴史インタビュー(下)
https://ideanews.jp/backup/archives/24010

<プレゼント>
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■霧矢さんと真飛さんのイライザ、やっていることは同じはずなのに全然違う

■マルチに色んなストレスを抱えたほうがいい。一つだけを抱えるとバランスが崩れる

■本は目次を2回ぐらい繰り返して黙読してから、何章かだけを読むんです

■テレビで見た藤山寛美さんの酔っ払いの演技指導、「踵に重心がいくねん」と

■今後もオファーがあればミュージカルに出演したいと思います

■霧矢さんと真飛さんのイライザ、やっていることは同じはずなのに全然違う

――すごく緻密なのですね。あの劇は二人で13役を演じる上で、松尾さんが何かしら落語的な一面があるとおっしゃっていました。「マイ・フェア・レディ」ではそれはないですか。

ないですね。「空間」と「人物」を分けて想像しながら見る「マーダー…」とは違う。そこはお客さんはスイッチをオフにしていただいていい。登場人物の心情や、過去にどんなところで暮らしていたんやろ…という想像のほうに、集中していただけるのではないかと思います。

――霧矢大夢さん、真飛聖さんがWキャストでイライザを演じられます。

面白いですね。やっていることは同じはずなのに全然違う。両方魅力的ですね。霧矢さんのほうは親しみが持てる娘という感じが強くて、真飛さんは「鳶が鷹を生んだ」と父親が内心思っている、生き抜く美しい力がある。美しいのは二人ともお美しいので、そういう意味ではないですよ。両方のバージョンを見て楽しんでいただければと思います。

■マルチに色んなストレスを抱えたほうがいい。一つだけを抱えるとバランスが崩れる

――松尾さんは、役者をはじめ、落語にも挑戦され、カレー店の経営、折り紙作家など相変わらず多彩な才能を発揮されています。そういう多彩な仕事がうまく相互作用を生み、演技に返ってくるというのはありますか。

いい演技には返ってこないでしょうけど、ストレスが溜まらない。色んなストレスを抱えたほうがいいみたいなんで。一つのストレスを抱えるとバランスを崩して破綻してしまうんです。今日はこれやったけど、明日は何やったっけ?というのが好きなんです。「切り替え大変でしょう」とよく言われますが、全然大変ではないです。5秒あったら切り替えられますから。精神的な意味合いでは全く大変なことはないですね。

■本は目次を2回ぐらい繰り返して黙読してから、何章かだけを読むんです

――あれをやったから、その他のことにいきたということはありますか。

それはあると思います。例えば、僕は昔から本を読むときに、目次を2回ぐらい繰り返して黙読するんですよ。そのうち、何章かだけを読むんです。雑誌をパラパラとめくるぐらいの気持ちで。小説や入門書、専門書とかは別にして、たいがいの本は言いたいことはちょっとしかないんですよ(笑)。それがどこかなと見抜いた気持ちになって、その章だけを読むんです。一冊通して読んだ本は小説以外、あんまりないですね。勘がはずれて、いいところが見つらからなくてもいいんです。そこで得たものは、ほかのことと線上で結んだときに、分かった気になるというのが大事なんです。色んなことをやっていると、共通点や原則が見つけられる。僕は「MMBT」と呼んでいます。「マインド、マテリアル、バランス、タイミング」なんです。「マインド」はそれに取り組む思想、心。「マテリアル」は素材で、その素材が良かったら料理を作るにもいい。芝居なら台本や役者ですね。「バランス」は塩加減の問題です。「タイミング」は順番で、間もそう。 何の仕事をするにもこの4つをチェックしておいたら、大きな間違いは犯さない。自己満足の楽しみ方かもしれませんが、様々なことが有益なんです。

松尾貴史さん=撮影・橋本正人

松尾貴史さん=撮影・橋本正人

■テレビで見た藤山寛美さんの酔っ払いの演技指導、「踵に重心がいくねん」と

――なるほど、面白い考え方ですね。ドゥーリトルに関しては何かと点で繋がり、つかんだということはありますか。

酔っ払いの芝居が一番最初の記憶として残っているのは、藤山寛美さんが酔っ払いの演技を指導している光景をテレビで見たことです。役者さんが前に傾いて千鳥足なのを寛美さんが「違う、違う」とダメ出しされていた。「爪先に重心をかけるのは腹が減っている人や。酔っ払いは踵に重心がいくねん」とおっしゃっていて。原点はそんなところからですね。自分で試してみても、前のめりになろうとしながらも、重心がどうしても後ろに行ってしまう感じのほうが面白い。こんなところで酔っ払いのコツがいきるなんてと思いましたね。

■今後もオファーがあればミュージカルに出演したいと思います

――今後もオファーがあれば、ミュージカルはドンドンと出演されますか。

そうですね、したいと思います。共演者に嫌いな人がいなければ(笑)。

――あくまでもそこがポイントですね(笑)。

ま、そんなにいないんですけど(笑)。

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