2016年6月27日と28日に大阪と東京で、レナード・スラットキンさん指揮・フランス国立リヨン管弦楽団による演奏会「グレイテスト・ヒッツ: J.ウィリアムズの映画音楽」が開かれました。大阪・フェスティバルホールでの公演を取材して、なによりも驚いたのは客層の若いこと、若いこと。制服を着た高校生から、大学生らしい若者、さらにスーツ姿の若手サラリーマンやOLが客席にあふれ、帰路での彼らの顔は満足感に輝いていました。何が若者を惹きつけたのか、現場の様子をお伝えします。
この日のフェスティバルホールのチケット代金は、S席が12,000円、A席は10,000円、B席は8,000円でした。高校生や大学生、若い社会人に簡単に出せる金額ではありません。お小遣いやアルバイト代をためたり、ご両親らから応援されたりしたこともあるでしょうか、それでも「聴きに行きたい、観に行きたい」という思いを呼び起こすことができるイベントでなければ、今どきの若者を動かせるものではありません。
もちろん、1979年から1996年までセントルイス交響楽団の音楽監督をつとめて現在はフランス国立リヨン管弦楽団およびデトロイト交響楽団の音楽監督であるレナード・スラットキンさんの指揮で、由緒ある「フランス国立リヨン管弦楽団」の透明な色彩的サウンドが聴けるということが今回の演奏会の最大の魅力ですが、それだけではなく、この催しが『スター・ウォーズ』『ジョーズ』『ハリー・ポッターと賢者の石』などの作曲で有名な「J.ウィリアムズ」の映画音楽を演奏するものだったということが、若者が多く参加した大きな理由であることは間違いありません。
私は大阪にあるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)が好きで、数えきれないくらい行っていますが、USJの音響の良さには訪れるたびにゾクゾクします。どこにスピーカーがあるのか全くわからないような高度な音響設定で、ゲートをくぐる前から、壮大な映画音楽に包み込まれ、またたくまに別世界にいざなわれます。
この日の「グレイテスト・ヒッツ: J.ウィリアムズの映画音楽」では、ハリウッドの映画音楽の中で生まれ育ったレナード・スラットキンさんが指揮するフランス国立リヨン管弦楽団の迫力ある演奏が、リアルな「音の渦」としてホール全体を包み込むのですから、映画のスクリーンの中の世界が、そのままダイレクトに生で味わえる感じなのです。
こちらはフランス国立リヨン管弦楽団の2016年来日公演全体を紹介する動画ですが、クリックすると「スター・ウォーズ」の一部を聴いていただけます。(そのまま再生すると「スター・ウォーズ」になり、2度目に再生すると動画の冒頭からの再生となります。ブラウザでページを更新して再生すると「スター・ウォーズ」の部分になります)
客席で見かけた女子高校生のうち何人かは、吹奏楽コースのある学校の制服を着ていました。私は中学時代に吹奏楽部に少しだけ在籍して高校時代は合唱部でしたが、日本では中学・高校・大学と吹奏楽や管弦楽、声楽などに触れる機会のある若者が多いので、クラシックファンのすそ野はかなり広く、そこに若者にも親しみ深い「J.ウィリアムズの映画音楽」が加わったことで、多くの若者が参加したように思われます。
この日の舞台上では、演奏の合間に指揮者、レナード・スラットキンさんのトークが入り、スラットキンさんやご両親とハリウッドのかかわりなど興味深い話が続きました。なかでも私が「なるほど」と思ったのは、「映画音楽は現代のクラシック」というお話でした。丸めていえば「バレエやオペラなどの音楽がクラシック音楽と言われますが、映画音楽は多くがオーケストラで演奏されるものであり、現代におけるクラシック音楽と言ってもよいものなのです」というようなお話でした。たしかにあと100年もたてば、ベートーベンやモーツァルトと並んで、J.ウィリアムズが「クラシック音楽」の作曲家と言われるようになるのは、間違いないと思いました。
「スター・ウォーズ」の演奏の一部では、会場から子供1人がステージ上に招かれ、「ライトセイバー」を手に持ってオーケストラを指揮する場面もありました。こうした会場と舞台上を近づける楽しい演出も、リピーターを生んでいる原因の1つだと感じました。
<グレイテスト・ヒッツ: J.ウィリアムズの映画音楽>
The Magical World of John Williams With Personal Talk by Leonard Slatkin
指揮:レナード・スラットキン、オーケストラ:フランス国立リヨン管弦楽団
【大阪公演】2016年6月27日 (月) 19:00 開演 フェスティバルホール (この公演は終了しています)
【東京公演】2016年6月29日 (水) 19:00 開演 NHKホール (この公演は終了しています)
<演奏された曲目>
『フック』から ネヴァーランドへの旅立ち
『ジュラシック・パーク』から テーマ
『ジョーズ』組曲
『シンドラーのリスト』から テーマ
『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』から レイダース・マーチ
『E.T』」から 地上の冒険
オリンピック・ファンファーレとテーマ
『ハリー・ポッターと賢者の石』から ハリーの不思議な世界
『未知との遭遇』から
『スーパーマン』から スーパーマンのマーチ
『スター・ウォーズ』組曲
☆アンコール☆
「SAYURI」から SAYURIのテーマ
「スター・ウォーズ ジェダイの帰還」から イウォーク族のパレード
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クラシックの演奏会などが「社交の場」として定着している欧米の状況はうらやましいようにも思えますが、スラットキンさんが動画で話されている内容を聞くうちに「じつは、日本の方が良いかも」と思うようになりました。そのことについて有料会員向けに書かせていただきます。
来日公演全体を紹介する動画でスラットキンさんは、「日本での演奏をいつも楽しみにしています。感性豊かな聴衆が集中して、熱心に聴いてくださるからです。彼らにとって演奏会は社交の場ではなく、真に文化的かつ知的な催しであり、感動に満ちた時なのです」と話しています。
私は海外で活躍した有名バレエダンサーらにインタビューしたことがあるのですが、海外のバレエ公演が「社交の場」として大人の男性も多く来場する形で成り立っているのに対して、日本のバレエ公演の来場者には母親と幼い女の子が多いと聞いて、「どうして日本では、大人の社交の場としてクラシックの催しが定着しないのかなぁ」と思っていました。
しかし、日本のそうした状況をもっと肯定的にとらえて、スラットキンさんがおっしゃるように、日本の演奏会が「真に文化的かつ知的な催し」であることを日本人はもっと誇りに思って良いのかもしれないと考えさせられた次第です。
日本でも格差の拡大が問題になっていますが、それでも多くの人が公立学校などで音楽や絵画などの文化に触れる機会を持ち、それを多くの日本人が大切にしていることをもっと積極的にとらえていかなければいけないと思った次第です。
アイデアニュースは橋本が以前からミュージカルの取材をしていたこともあり、「文化」コーナーにはミュージカル関係の記事が多く出ていますが、クラシックをはじめ、さまざまな音楽シーンの紹介をしてゆきたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。