レバノン内戦と亡命を経験したワジディ・ムワワドさんが、戦火に引き裂かれた家族の姿と人間の尊厳を描いた舞台『炎 アンサンディ』が、東京(2017年3月4日~3月19日)と兵庫(3月24日~3月25日)で再演されます。2014年の初演時に数々の演劇賞を受賞したこの作品。今回の再演は、スタッフとキャストの全員が初演と同じで、さらに、初演には無かった演出が加わり、内戦の混乱の中で貫き通された母子の壮絶な絆を描きます。
■数々の演劇賞を受賞した初演と同じスタッフ、キャストで再演
この作品は、藤井慎太郎さん翻訳、上村聡史さん演出、麻実れいさん、栗田桃子さん、小柳友さん、中村彰男さん、那須佐代子さん、中嶋しゅうさん、岡本健一さんの出演、企画制作・世田谷パブリックシアターで2014年に上演され、第69回文化庁芸術祭賞演劇部門関東参加公演の部大賞を受賞。演出の上村聡史さんは、この作品の演出などで、第22回読売演劇大賞最優秀演出家賞、第56回毎日芸術賞第17回千田是也賞を受賞し、翻訳の藤井慎太郎さんは、第7回小田島雄志・翻訳戯曲賞を受賞しています。
■観る側もギリギリまで追い詰められるラストシーン
初演では、日本人にあまり馴染みのない、文化的・社会的状況の中で、その生存すら脅かされる女性を取り巻く環境の厳しさ、さらにもはやその原因すら分からない憎しみの連鎖で泥沼化する戦争下の生活の、苛烈な描写に呆然とした記憶があります。
生前のナワルは我が子たちに心を閉ざしていたのですが、公証人に預けた2通の手紙によって、彼女の死後、子供たちがその理由にたどり着く道標を残します。人生の最後の最後で彼女に長い沈黙を破る決意をさせた思いは何だったのか?観る側も引き絞られるようにギリギリまで追い詰められるラストシーンで、その思いに触れることが出来ると思います。
■麻実れいさんの青白く燃えるようなオーラが舞台全体を支配
この物語で、10代から60代までのナワルを演じる麻実れいさんの、激しい思いを胸に秘め、青白く燃えるようなオーラが舞台全体を支配する様は、本当に必見です。
<ストーリー(公式ページより)>
中東系カナダ人女性ナワルは、ずっと世間に背を向けるようにして生きてきた。その態度は実の子供である双子の姉弟ジャンヌとシモンに対しても同様で、かたくなに心を閉ざしたまま何も語ろうとしなかった。そのナワルがある日突然この世を去った。彼女は公証人に、姉弟宛の二通の謎めいた手紙を遺していた。公証人は「姉にはあなたの父を、弟にはあなたがたが存在すら知らされていなかった兄を探し出して、その手紙を渡して欲しい、それがお母さんの願いだった」と告げる。その言葉に導かれ、初めて母の祖国の地を踏んだ姉弟は、封印されていた母の数奇な人生と家族の宿命に対峙することになる。その果てに姉弟が出会った父と兄の姿とは!
<炎 アンサンディ>
【東京公演】2017年3月4日(土)~2017年3月19日(日) シアタートラム
⇒https://setagaya-pt.jp/performances/201703incendies.html
【兵庫公演】2017年3月24日(金)~3月25日(土) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
⇒https://www1.gcenter-hyogo.jp/contents_parts/ConcertDetail.aspx?kid=4282412365&sid=0000000001
<2014年度上演時 受賞歴>
第69回文化庁芸術祭賞 演劇部門 関東参加公演の部 大賞
受賞理由:スケール大きく現実の国際問題に斬り込んだ作品で秀逸である。過去と現在が行き来し、場所も中東とカナダが交錯する。中東出身でカナダに逃げた母(麻実れい)の遺言で、双子の姉弟は中東に渡り、母の軌跡を追う。内戦の過酷さがしっかり台詞劇として伝わり、作ワジディ・ムワワド、演出の上村聡史と役者陣を大いに評価する。
第22回読売演劇大賞 最優秀演出家賞 上村聡史
(『炎 アンサンディ』『ボビー・フィッシャーはパサデナに住んでいる』の演出)
第56回毎日芸術賞 第17回千田是也賞 上村聡史
(『炎 アンサンディ』『アルトナの幽閉者』『信じる機械』の演出)
第7回小田島雄志・翻訳戯曲賞 藤井慎太郎
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