俳優の榊原利彦さんが主宰する劇団「THE RED FACE」による公演「東京の王様」が、9月11日~13日、愛知芸術劇場小ホール(愛知県名古屋市)で、22日~23日には横浜開港記念会館(神奈川県横浜市)で行われました。この作品は、同劇団で2008年に上演されたもので、7年ぶりの再演となります。そこで筆者も大阪から名古屋へ遠征し、初日と2日目の公演を観劇してきました。その様子をご紹介します。
THE RED FACEは、2006年に結成され、10年目を迎えます。2007年からオリジナル作品を中心に活動を開始し、今回で54公演目の上演。「東京の王様」は2008年に同劇団で上演されたもので、脚本の榊原玉記さんによって新たに加筆され、再演を果たしました。物語は、1988年から10年間にわたる時代背景の中、主人公の嵐野航海(榊原利彦)と徳井映像(武田知大)の友情を軸にし、彼らを取り巻く人々の運命が描かれていきます。
人気芸能リポーターの嵐野は、幼い頃からの親友でカメラマンの徳井とともに日夜芸能ニュースを追いかけながら、いつか一緒に映画を撮ることを夢みて過ごしていました。 ある日、大手化粧品会社の新作発表会のパーティー会場で取材に来ていた二人。そこで嵐野は不幸な事故に遭い、ベジタブルステート(植物状態)になってしまいます。その日から10年間、嵐野は植物状態のまま過ごすことになってしまうわけですが、実はそのことがその現場に居合わせた人たちの人生に深く関わっていくことになります。嵐野は眠り続けながらも、親友・徳井と約束していた「いつか一緒に映画を」との夢を心に抱き続けていました。
その映画のタイトルは「東京の王様」。嵐野が幼き日に父親と砂浜で砂の城を作ったエピソードから生まれた作品で、自身が植物状態になってしまった今、なんとか徳井の手で映画にしてほしいと切に願っていたのです。その思いが徳井に届き、やがて「東京の王様」は映画化されることに。しかし、その背景をとりまく人々の欲望や嫉妬、喜びや悲しみといった様々な感情が交錯していき、嵐野はその様子を複雑な思いで見ていました。運命に翻弄されながら、成功と失敗を繰り返す人生を通し、人の弱さと強さ、醜さと美しさ、愚かさと賢さが、対比されるかのように浮き彫りになっていきます。
この作品のテーマともいえる「人はなんのために生まれて死んでいくのか」ということを、登場人物たちの生き様を通して、本当の人生の意味を、観る側も深く考えさせられます。主人公だけではなく、脇を固めるキャラクターたちが色濃く描かれているのも、この作品の面白さであり、見どころだと言えるでしょう。さらには、劇中に登場する映画「第三の男」の主題曲「ハリー・ライムのテーマ(The Third Man)」のギター生演奏や、ゲスト出演として参加されていた元劇団四季の五東由衣さんによる独唱も、会場内を華やかなムードに包んでくれました。
公演終了後、榊原さんは「実はもともと予定していたのは別作品だったんですが、出演予定していた役者が出られなくなったりしたこともあって、二転三転してやろうとなったのがこの『東京の王様』でした。劇団としてはめずらしいストレートプレイ。稽古期間も短かった上、出演者の体調不良で急遽降板などの事態もあり、一時は公演を中止にしないといけないかもしれないとまで悩んだこともありましたが、こうして本番を迎えることができて本当に嬉しい。劇団もこの10月で10周年、この作品は友情と運命がテーマとなっていますが、10年の節目を目前にこの作品をやることになったのも『運命』だったのかもしれない、という気がしてなりません」と話されていました。今回の上演が好評だったこともあり、「東京の王様」は来年、再演されることになっています。
ちなみに筆者は、初日公演を観劇した翌日、どうしてももう一度観たくなって観劇し、会場で販売していた脚本まで購入するほど、この作品の魅力に取り付かれました。連続で観劇することで役者陣のアドリブを入れた演技が工夫されていることにも気付き、生の舞台の面白さをたっぷり味わうことができました。
なお、THE RED FACEは、11月13日~15日に「爾汝の社(じじょのやしろ) 千客万来」の公演が、東京・江東区文化センターホールで予定されています。こちらは劇団の代表作とも言われているそうですので、演劇ファンの方は是非チェックしておきたい作品です。
劇団「THE RED FACE」のページ
→ http://www.sakaki-net.com/the-redface/index.html
榊原利彦オフィシャルサイト
→ http://www.sakaki-net.com/index.html
11月13日~15日の公演「爾汝の社(じじょのやしろ) 千客万来」
→ https://ticket.corich.jp/apply/68493/002/
<アイデアニュース有料会員向けコンテンツ>俳優・榊原利彦さんに聞いた、演技ワンポイントアドバイス!
榊原さんに、長い台詞を覚えるためにはどうすれはいいか?をたずねてみたところ、このようなアドバイスをいただきました。
榊原:「文字を追うのではなく、映像で覚えることです。例えば、自宅からこの劇場までの行き方を説明する場合、家を出て、信号のある交差点を右に曲がって……といった具合に、映像を頭に描きながら説明できますよね?台本も同じことなんです。よく新人の頃に初見で台本を読むときに棒読みで一言一句間違わないように台本を読むという話を聞きますが、そうではなく、本息で読む。これがポイントです」