平田オリザの人気舞台5作品を一挙上演、兵庫など1作1000円~2000円で

初めて書いた小説『幕が上がる』が、アイドルグループ「ももいろクローバーZ(ももクロ)」主演で映画になり、また舞台となって大ヒットした平田オリザさん。現代演劇の世界で最も注目されている劇作家であり演出家のひとりです。大学在学中に劇団「青年団」を旗揚げした平田さんは、現代演劇の最前線で、様々な取り組みをしてこられました。その長い、持続的な活動の軌跡を、関西で見ることが出来るチャンスが、2015年10月9日から10月12日に訪れます。

「平田オリザ・演劇展vol.5」として、平田オリザと劇団「青年団」の作品の中から好評だった5作品を選び、伊丹・善通寺・松山・東京で上演するもの。兵庫では、伊丹のAI・HALL(伊丹市立演劇ホール)で、5本をまとめて鑑賞できます。1990年代に書かれた『走りながら眠れ』『この生は受け入れがたし』と、2000年以降の作品『ヤルタ会談』『忠臣蔵・OL編』『忠臣蔵・武士編』。気軽に好みの1本を見てもいいですし、中短編の演目5本を通して、作家の変遷を楽しむことも出来ます。1000円から2000円で楽しめる生の舞台、5本とも見るセット券は7500円と、とてもリーズナブルです。

「この生は受け入れがたし」より 撮影:青木司

「この生は受け入れがたし」より 撮影:青木司

『この生は受け入れがたし』

「考えたんですよ。寄生してんのは、どっちかなって。」東北のとある大学の研究室。東京から転勤してきた夫婦を出迎えたのは、寄生虫をこよなく愛する研究者たち。寄生虫の小さな小さな視点から、東京と地方、大学と研究室、夫と妻― あなたの周りの「寄生と共生」の関係が浮かび上がる、ちょっぴり切なくて不思議な喜劇。(青年団ホームページより)

「東京と東北、どちらがどちらに寄生しているんだ?」という問題を扱った劇。初演は90年代ですが、東日本大震災を経た今、非常にリアルに感じられるテーマだと言えます。“寄生虫学を専門に扱った世界で唯一の研究博物館”「目黒寄生虫館」のオリジナルグッズをAI・HALLでも販売されるそうです。作中にも登場するフタゴムシやサナダムシのマグネットなど、関西ではなかなか手に入らないグッズをロビーで販売するので、そちらにもご注目下さい。

「走りながら眠れ」より

「走りながら眠れ」より

『走りながら眠れ』

「ただいま」「おかえりなさい」社会主義運動の中で虐殺された、大正時代のアナキスト・大杉栄と妻の伊藤野枝。恋愛スキャンダル、幾度にもわたる投獄―壮絶な人生を辿りながら、どこまでも己を貫いた彼らの最期の2ヶ月を繊細に綴る、大人の会話劇。何気ない日常の中から、2人の生き様が浮かび上がる。(青年団ホームページより)

1992年に初演、2011年に19年ぶりに再演されたこの作品は、大杉栄と伊藤野枝が殺される直前、関東大震災の前日までを描きます。アナーキストふたりの最後の40日間、淡々とした日常の物語。

「忠臣蔵・武士編」より 撮影:青木司

「忠臣蔵・武士編」より 撮影:青木司

「忠臣蔵・OL編」より

「忠臣蔵・OL編」より

『忠臣蔵・武士編』『忠臣蔵・OL編』

「だからさ、こう討ち入り目指してく過程で、だんだん武士道的になっていけばいいんじゃないの、みんなが。」平和ボケした赤穂浪士たちのもとに、突如届いたお家取り潰しの知らせ。その時、彼らは何を思い、どのように決断したのか?私たちに最も馴染み深い忠義話の討ち入り決断を、日本人の意思決定の過程から描いた、アウトローな『忠臣蔵』2バージョン。(青年団ホームページより)

この作品は、誰もが知っている忠臣蔵のシチュエーションを、少しずつ変えて出来上がったもので、『OL編』の他に『修学旅行編』や『自衛隊編』などがあるそうです。大きな決断をせまられて、ああでもない、こうでもないと話し合いが続くということですから、ぜひ『自衛隊編』も上演してもらいたいですね。

「ヤルタ会談」より

「ヤルタ会談」より

『ヤルタ会談』

「あれ、またチャーチルさん、遅刻?」第2次世界大戦終戦間際、米・英・ソ首脳によって行われた世界史上最大の秘密会談。しかし集まった3人は、この国が欲しいだの、人気者になりたいだの、自分の事ばかり―。平田オリザが柳家花緑氏に書き下ろした落語台本を、舞台版に改訂し、歴史の裏側をブラックユーモアたっぷりに描く痛快コメディ。(青年団ホームページより)

登場人物は3人。チャーチルとスターリンとルーズベルトです。体もビッグな登場人物にちなんで、『ヤルタ会談』オリジナルTシャツ(イラスト:スターリン役 松田弘子)は、Sサイズから6L サイズまであるそうです。会場でお買い求め下さい。色は、クリムゾンレッドとブラック。

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会場  AI・HALL(伊丹市立演劇ホール) 兵庫県伊丹市伊丹2-4-1

日時 2015年10月9日(金)-10月12日(月・祝)

10月9日 (金 )
19:30 開演 『 この生は受け入れがたし』★

10月10日 (土)
13:00 開演 『忠臣蔵・武士編』
15:30 開演 『走りながら眠れ』
18:00 開演 『忠臣蔵・OL編』★

10月11日 (日)
11:00 開演 『忠臣蔵・OL編』
13:30 開演 『この生は受け入れがたし』
16:00 開演 『 走りながら眠れ』

10月12日 (月 )
13:00 開演 『忠臣蔵・武士編』
15:30 開演 『ヤルタ会談』
17:30 開演 『この生は受け入れがたし』

  • ※受付開始:40分前/開場:20分前
    ※各回入れ替え制
    ★=終演後、平田オリザによるポストパフォーマンストークを行います。
  • 料金
    [前売・予約・当日共]
    『この生は受け入れがたし』…2,000円
    『走りながら眠れ』…2,000円
    『忠臣蔵・OL編』…2,000円
    『忠臣蔵・武士編』…2,000円
    『ヤルタ会談』…1,000円
  • [前売・予約のみ] 5演目セット券…7,500円 *全席自由・整理番号付き *未就学児入場不可
  • チケット取り扱い 青年団 03-3469-9107 (12:00 – 20:00)

オンラインチケット予約はこちらから

→ https://komaba-agora.com/ticketsell/
AI・HALLでもチケットを取り扱っています TEL:072-782-2000
※セット券は、青年団のみの取扱いとなります。

全国の公演日程などは、こちらのページをご覧ください

→ http://www.seinendan.org/play/2015/03/4470#tour2

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平田オリザさんと言えば、高校生の時に自転車で世界1周旅行をなしとげ、その旅行記が、初めて出版された本『十六歳のオリザの未だかつてためしのない勇気が到達した最後の点と、到達しえた極限とを明らかにして、上々の首尾にいたった世界一周自転車旅行の冒険をしるす本』です。これを読んで、「いいなあ、男の子の青春冒険談」と思ったかすかな記憶が筆者にはあります。

それから長い月日が流れて、社会人聴講生として大阪大学コミュニケーションデザイン・センターで「平田オリザ教授」と出会うことになったのが昨年2014年。平田先生のワークショップの面白さと、障害のある人たちや、小さな子どもたちをも対象にした演劇教育の可能性に魅せられました。そして遅ればせながら、平田オリザさんの活動の本流である、舞台を鑑賞。初めて見た平田作品は、『もう風も吹かない』でした。通貨危機が起きた近未来の設定。日本はすべての海外支援を取りやめることになっていて、青年海外協力隊も派遣中止が決まり、最後の訓練生が派遣前の訓練を行っているという劇でした。

テーマも興味深く、内容にも感動しましたが、「どの役者さんも天才なんじゃないか」と思ったことを覚えています。わざとらしい所作や大げさなセリフ回しがひとつもない自然な言葉のやりとりが、群像舞台劇になっていることに衝撃を受けました。いわゆる「静かな演劇」は平田さんの「現代口語演劇理論」の裏付けによって緻密に計算された現代演劇なのでした。

今回のAI・HALLで行われる5作品、いずれも現代の日本の状況で見ると、初演時よりも一段と意義深いものです。面白さも定評がある作品ばかり、関西でこれだけまとまって見られる機会は貴重です。皆さんも、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

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筆者が大阪大学で受講した平田オリザさんの授業で、印象に残ったこと

「会話と対話の違い」

「コンテクストのすり合わせ」

現代口語演劇の「日本語のセリフ」

平田先生の授業で印象に残っている言葉に、「会話と対話の違い」「コンテクストのすり合わせ」があります。

「会話と対話の違い」

「会話」は、いわゆる仲間内、身内でのおしゃべりで、何を言っても通じるし、分かりあえるという安心感の上で成り立つ言葉です。それに対して「対話」は、異なる価値観をもつ他者との間で使う言葉。互いの価値観をすり合わせ、合意点を見つけようとする言葉です。ディベートのような、どちらかが勝つことを目指す「討論」ではなく、お互いが変化して、新しい第三の価値観を生み出すのが「対話」。

「コンテクストのすり合わせ」

「コンテクスト」とは、文脈と訳されますが、簡単に言えば、どういうつもりで言葉を使っているのかということ。恋人や新婚カップルなら、異なるコンテクストで育ってきたから、いろいろな摩擦やすれ違いが起きるでしょう。味噌汁と言えば赤味噌だと思っている夫と、合わせ味噌こそが「普通の味噌汁」だと思っている妻。「マック」というのが当たり前の彼と、「マクド」が普通の言い方だと思っている彼女。そうした小さな違いも、コンテクストをすり合わせていく必要があります。そんなことで喧嘩別れしたくないですからね。しかし、それだけではとどまりません。これから私たちは、かなり違うコンテクストの人々と共に生きていく必要があります。国際化とは、英語が話せることではなく、違うコンテクストを持つ異文化の人々と、折り合っていくための技術を身につけることなのです。それこそが他者との「対話」であり、演劇や演劇教育によって、そのことをもっと深く、楽しく学んでいきたいと思います。

現代口語演劇の「日本語のセリフ」

筆者は英語を教えているので、英語という言葉が、大事なことや一番伝えたいことを大きな声で発音する、強弱のリズムがある言葉だということをずっと教えてきました。でも、日本語は全く違う言葉で、重要なことや言いたいことは、先に言うのですね。つまり、I want to drink beer を、英語のセリフなら、drink かbeer を強く大きく発音するのが普通でしょう。いわゆる演劇的な日本語のセリフもまた、「ビール」や「飲みたい」を大きな声で言っているとしたら、それは不自然ですよね。日本語は語順が自由に変えられる言葉だから、「ビール、ビール、ビールが飲みたいよ」とか、「飲みたいなあ、ビール」と言うのが自然。平田オリザさんの現代口語演劇のセリフは、そうした自然なセリフで進められています。

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