小池修一郎「スペクタキュル」の集大成、「1789 -バスティーユの恋人たち-」

フレンチ・ロック・ミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」より=写真提供・東宝演劇部

フランス革命を舞台にしたフレンチ・ロック・ミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」が東京の帝国劇場で上演されています(東京公演は5月15日まで。大阪・梅田芸術劇場での公演は5月21日から)。分かりやすく、派手で、面白くて、ガツンとくる。演出家の小池修一郎さんが近年追求してきたフランス流「スペクタキュル」の集大成のような舞台です。(この記事は4月19日午後6時からの公演を観劇して書いたものです)

フレンチ・ロック・ミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」より=写真提供・東宝演劇部

フレンチ・ロック・ミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」より=写真提供・東宝演劇部

私が「スペクタキュル」という言葉を初めて聞いたのは、2010年6月8日に梅田芸術劇場で行われた宝塚歌劇星組梅田芸術劇場メインホール公演 ミュージカル「ロミオとジュリエット」製作発表の席上でした。小池さんが「フランスにおけるスペクタキュルというジャンルが、日本人によって上演されるのは初めてです」と説明したのに対して「スペクタクルじゃなくて、スペクタキュルなんですね? 不勉強で申し訳ございませんが、どういうジャンルなんですか?」と質問したことが、遠い昔のことのように思えます。

フランスで人気の派手なダンスやダイナミックな仕掛けのある舞台

小池さんはその時、こう答えました「フランスで最近人気のスペクタキュルは、派手なダンスやダイナミックな仕掛けのある舞台で、サーカスにも似たものもあります。演劇と言うよりは、もっとパフォーマンスに近い。音楽が多くて、コンサートに筋やダンスがついているといった概念です」(朝日新聞デジタル「スターファイル」2010年6月11日「ロミオとジュリエット」製作発表より)。

誤解を恐れずに言うならば、「スペクタキュル」とは、オペラやバレエのような「伝統的で高尚な」公演ではなく、歌をメインにしたコンサートにストーリーを組み込んだような「現代的で大衆的な」イメージの舞台だと、私は思っています。

フレンチ・ロック・ミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」より=写真提供・東宝演劇部

フレンチ・ロック・ミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」より=写真提供・東宝演劇部

美術の松井るみさんによる装置の動きに「おおお!」

「1789 -バスティーユの恋人たち-」は2015年に宝塚歌劇団 月組でも上演されていますが、キャストに男性が加わった分、ダイナミックなアクションが増え、装置や衣裳も一新されています。今回、まず何よりも驚いたのは、美術の松井るみさんによる装置。詳しくはネタバレになるので遠慮させていただきますが、巨大な壁が「おおおおお!」と思う動きをして、貴族と民衆の世界を作ると同時に、さまざまな役割に変化してゆきます。また衣裳もユニークで、秘密警察3人組がテントウムシなど原色の着ぐるみで舞台に駆け上がって踊り出したり、さらに空中浮揚の手品を思わせるようなシーンもあるなど、「スペクタキュル」モード全開でした。

フレンチ・ロック・ミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」より=写真提供・東宝演劇部

フレンチ・ロック・ミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」より=写真提供・東宝演劇部

苦悩するシトワイヤンの熱い思いを表現した加藤和樹さん

私が観たのは、Wキャストのうち、主役の農民ロナンを加藤和樹さんが、ロナンと惹かれあうオランプ(王太子の養育係)を夢咲ねねさんが、マリー・アントワネットを凰稀かなめさんが演じた回でした。加藤さんは今年1月の合同取材の際に「小池さんからラブストーリーについて受けたアドバイスは?」という取材陣からの質問に「僕は昼ドラに何作か出演させていただいたんですが、『昼ドラっぽい、いやらしさを無くしてくれ』って(笑)」と答えていました。ロナンを演じる加藤さんから「いやらしさ」は感じませんでしたが、自分自身でも消化しきれない複雑な心情を抱えながらオランプに惹かれ、自由と平等と、そしてオランプを守ろうとする、そんな1人のシトワイヤン(市民)の「熱い思い」が伝わってきました。

歴史の本には登場しないロナンのようなシトワイヤンの力と犠牲が、言論や出版の自由をも高らかに宣言した「フランス人権宣言」を生みだしたのだということを、あらためて思い起こさせてくれる舞台でした。

フレンチ・ロック・ミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」より=写真提供・東宝演劇部

フレンチ・ロック・ミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」より=写真提供・東宝演劇部

フレンチ・ロック・ミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」より=写真提供・東宝演劇部

フレンチ・ロック・ミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」より=写真提供・東宝演劇部

フレンチ・ロック・ミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」より=写真提供・東宝演劇部

フレンチ・ロック・ミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」より=写真提供・東宝演劇部

<公演案内>
「1789 -バスティーユの恋人たち-」
【東京公演】2016年4月9日(土)~2016年5月15日(日) 帝国劇場
http://www.tohostage.com/1789/
【大阪公演】2016年5月21日(土)~2016年6月5日(日) 梅田芸術劇場メインホール
http://www.umegei.com/1789/

<アイデアニュース関連記事>
メジャーデビュー10周年、加藤和樹さんインタビュー
https://ideanews.jp/backup/archives/15174
10周年の加藤和樹、「春」を呼ぶシングル「春恋」4月20日発売決定
https://ideanews.jp/backup/archives/17883

<ここからはアイデアニュース有料会員限定部分です>有料会員(月額300円)の方は、アイデアニュースのすべての記事の全文をお読みいただけます。(この記事の有料会員限定部分に写真はありません)⇒有料会員登録は、ここをクリック

「なるほど」と思わせる抑えた演技の吉野圭吾さん

ソニンさんの「世界を我が手に」、最高!

「戦争をしない国民」として歌い続けることが出来るか

「なるほど」と思わせる抑えた演技の吉野圭吾さん

オランプの夢咲さんは、期待どおりの安定感。ジュリエットからナポレオンの妻まで、どんな役でも自分のものにしてきた消化力で、難役をリアルに演じていました。マリー・アントワネット役の凰稀さんは、たたずまいと表情だけで全てを表現できる芝居心は、さすがでした。

国王の弟役の吉野圭吾さんは、持って行こうと思えば全部を持っていける役柄と実力がありながら、抑えた演技で突出しないようにしている感じで、なるほどな~~と思いました。悪役に徹している岡幸二郎さんにも同じことを感じました。そして、秘密警察役の坂元健児さんは、これはもう堂々と、思う存分に笑いをかっさらっていました。

ソニンさんの「世界を我が手に」、最高!

革命3人組とフェルゼン役の古川雄大さん、上原理生さん、渡辺大輔さん、広瀬友祐(廣瀬友祐)さんは、なんといっても眼福。美貌・歌・ダンス・演技、これからのミュージカル界を牽引してゆく若者が続々と成長していることを実感しました。

そして、今回の舞台で何よりも大きな声で絶賛したいのは、ロナンの妹役のソニンさんが第2幕で歌う「世界を我が手に」。ソニンさんをはじめとする女性陣が、下町のパン屋で力強く歌う抵抗の歌ですが、「やっぱり女の人は強いよな~~」と歌に聴き入り、力強いダンスに見入ってしまいました。このシーンがあるとないとでは、「1789 -バスティーユの恋人たち-」自体が違う意義づけになると思えるほどの、インパクトの強い場面でした。

「戦争をしない国民」として歌い続けることが出来るか

「1789 -バスティーユの恋人たち-」のフランス版オリジナル公演プロデューサーのドーヴ・アチアさんとアルベール・コーエンさんは、パンフレットの中で観客のみなさんにこう話しています。「かつてないほど今日的な意義のあるこの作品が掲げるのは“自由と愛”の重要性です。本作品の舞台であるフランス革命以後、フランスはそれ以前とは完全に別の国に生まれ変わりました。その後、他の国々は、この重大な出来事を手本とし、それぞれが抱える不正や不平等と闘ったのです。日本の皆さんが、東宝版のニューバージョンとなる『1789 -バスティーユの恋人たち-』と出会うことは光栄であり、とても嬉しく思っております」と、高らかに「自由と愛」の重要性を説いています。

小池さんは、パンフレットに「劇中最後に歌われる『悲しみの報い』を聴くと、この作品が軽やかさを纏(まと)いながら、実は深く重いメッセージを持っていることに気付かされる」と書いています。そして「日本人である我々は『戦争をしない国民』として、歌い続けることが出来るのだろうか? そんな思いを胸に、開幕に向かっている」と。舞台を観終えた後、私は「この国が『1789 -バスティーユの恋人たち-』のような舞台を上演できる国としてあり続けるために、何ができるのか?」と自問しながら、会場を後にしました。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA