普遍的なものが一個人の人生に全部詰まった舞台、宝塚月組『THE LAST PARTY』

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald's last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald’s last day~』フィッツジェラルド最後の一日」の大阪公演が、2018年6月30日に梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで開幕しました。「華麗なるギャツビー」などで知られるスコット・フィッツジェラルドの小説のように、まさに「普遍的なものが一個人の人生の中に全部詰まった、ふとした時に、もう一度、観たくなる舞台」です。

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald's last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald’s last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

この作品は、2004年に宙組・大和悠河(やまと・ゆうが)さん、月組・大空祐飛(おおぞら・ゆうひ)さん主演で2組連続で上演され、2006年には東京で再演された作品。12年の時を経て、月城かなと(つきしろ・かなと)さんの主演で甦りました。

主人公は1920年代にアメリカ文壇に華々しく登場した小説家、スコット・フィッツジェラルド(月城かなと)。第一次世界大戦後の好景気から世界恐慌までの“浮かれ騒いだ”「ジャズエイジ」の申し子として波乱の人生を送りながらも、夢と挫折の中で光を追い続け、「華麗なるギャツビー」などを筆頭にアメリカ文学に偉大な足跡を残しました。1940年12月21日、心臓発作のため死を迎えた彼。栄光に包まれた1920年代は過去の夢となり、経済的にも社会的にも不遇なまま突然訪れた最期でした。物語は、月城かなとさんが演じる2018年に生きる役者の「TSUKISHIRO」が、死を迎えるまでの2時間の中、これまでスコットを取り巻いてきた人々を蘇らせ、心情を追体験していく構成で上演されます。

月城かなとさんは、端正な顔立ちとブロンドの短髪でスコットを熱演。実在のスコットも端正な顔立ちで、現代にスコットが蘇ったのでは、と錯覚してしまうほど。伸びやかに響きわたる歌唱力、高音でありながらも渋めの声で発する滑舌の良い台詞が心地良く、一言一句はっきりと客席に響き渡っていました。タキシードやスーツが似合う気品が魅力的で、細かな仕草一つひとつも色気を帯びていました。貧しい少年時代のコンプレックスを糧に、偉大な作家になる夢と野心を抱き続けた強い意志、美しい妻ゼルダへの愛、友人でありライバルでもあるヘミングウェイとの確執の中で生まれた華やかさと苦悩、光と影を見事に演じており、月並みですが「カッコイイ!」と見とれてしまいます。

「MITSUKI」として、スコットの妻のゼルダ・フィッツジェラルドを演じた海乃美月(うみの・みつき)さんは、スコットの純粋な愛を一身に受けてきた「象徴」で、純白のドレスに身を包み、うっとりするほどの美しさを放っていました。高々と伸びる歌唱力、大きな瞳をくるくるさせながら全身で表現する表情は豊かで、当時のフラッパーガールとしての存在感を見事に演じていました。新婚時代のスコットとゼルダのラブシーンは息を飲むほど美しく、華麗なダンスがはじまった途端、思わず筆が止まりました。豪華絢爛なイメージとは裏腹に、夫を愛しすぎるがゆえのさみしさから浮気をしてしまい、やがて精神に異常をきたしてしまう切ない女心に、胸が締め付けられるような思いになりました。

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald's last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald’s last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

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■戦場をくぐり抜けてきたヘミングウェイの逞しさと鋭さを見事に再現、暁千星さん

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald's last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald’s last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

■ベレー帽に学生服、天真爛漫さと聡明さを表現したスコッティ役、菜々野ありさん

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald's last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald’s last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

■風間柚乃さんが演じた文学を志す大学生は、フィッツジェラルド作品の読者の象徴

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald's last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald’s last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

■原稿と妻との写真に薔薇をそっと……「ふとした時に、もう一度、観たくなる作品」

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald's last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald’s last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

<Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald’s last day~』フィッツジェラルド最後の一日>
【東京公演】2018年6月14日(木)~ 6月20日(水) 日本青年館ホール(この公演は終了しています)
【大阪公演】2018年6月30日(土)~ 7月8日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

<関連ページ>
宝塚歌劇団の公式ページ
http://kageki.hankyu.co.jp/revue/2018/thelastparty/
梅田芸術劇場のページ
http://www.umegei.com/schedule/714/

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■戦場をくぐり抜けてきたヘミングウェイの逞しさと鋭さを見事に再現、暁千星さん

「AKATSUKI」として、スコットの友人で、ノーベル文学賞を受賞した20世紀を代表する小説家、アーネスト・ヘミングウェイを演じた暁千星(あかつき・ちせい)さんは、ミステリアスな雰囲気を放つワイルドなイケメン。茶色系のジャケットに同系色のストールといった粋な装いで、戦場をくぐり抜けてきた逞しさと鋭さを見事に再現していました。タキシードの似合う紳士的なスコットとは対照的なキャラクターで、感情表現もストレートなのが魅力的なキャラクターでした。低めでありながらも重みのある声の響きは、緊迫感すら抱かせ、戦士たちと繰り広げる歌と息の合ったダンスシーンは、「戦う男」の迫力がありました。

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald's last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald’s last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

■白のベレー帽に学生服、天真爛漫さと聡明さを表現したスコッティ役、菜々野ありさん

脇をかためる役者陣も見逃せません。「YUMA」として、スコットの才能をいち早く見い出し、世に送り出した編集長、マックスウェル・パーキンズ(マックス)を演じた専科の悠真倫(ゆうま・りん)さん、「MIYAKO」として、お茶目なスコットの秘書、ローラ・ガスリーを演じた夏月都(かげつ・みやこ)さん、「YURINO」として、スコットを支えた晩年の愛人、シーラ・グレアムを演じた憧花ゆりの(とうか・ゆりの)さん、「HANABUSA」としてゼルダの浮気相手の仏海軍航空士、エドゥアール・ジョザンヌを演じた英かおと(はなぶさ・かおと)さんなど、一人ひとりのキャラクターが物語の重要な役割を果たしていました。

中でもひときわ輝いていたのは、「ARI」として、スコットとゼルダの娘、フランシス・スコット(スコッティ)を演じた菜々野あり(ななの・あり)さん。白のベレー帽に学生服を着用し、荒廃した時代背景に咲いた一輪の花のようでした。母親ゆずりの天真爛漫さと可憐さ、父親ゆずりの才能と聡明さが受け継がれた模範的な娘で、両親へのまっすぐな愛を素直に表現していくさまは、たまらなく愛おしい気持ちになりました。スコットの誕生日に会いにきたスコッティが、父親と踊るダンスシーンはたどたどしさがありながらも新鮮で微笑ましく、観ているだけで明るい気持ちになりました。物語の終盤では、スコットの健康を心配したスコッティがシーラに父親を託すシーンもあり、まさに物語のキーパーソンともいえる存在感がありました。

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald's last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald’s last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

■風間柚乃さんが演じた文学を志す大学生は、フィッツジェラルド作品の読者の象徴

「KAZAMA」として、文学を志す大学生を演じた風間柚乃(かざま・ゆの)さんも印象的でした。晩年の作品が世間から時代遅れだと批判され、絶望の境地にあったスコット。そんなある日、初秋の公園で遭遇した大学生が、「フィッツジェラルドの小説って、ふとした時に、もう一度読みたくなる。普遍的なものっていうのは、一個人の人生の中に全部詰まっているから、フィッツジェラルドの小説は彼の人生そのもの。どんな人にも語りかけてくる」と言いながら、スコットの作品を手にします。その出会いがスコットに再び生きる力と希望を与えました。まさに彼は、フィッツジェラルド作品の読者の象徴ともいえる存在のように感じました。彼がスコットにフットボールをパスする場面は、読者と心が通いあう瞬間を表現しているのかもしれません。

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald's last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald’s last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

■原稿と妻との写真に一輪の薔薇をそっと……「ふとした時に、もう一度、観たくなる作品」

スコットの最後の日におけるラストが印象的でした。死を迎える1分前、スコットはデスクに置かれた原稿と妻ゼルダとのツーショット写真の前に、ジャケットのポケットに挿していた一輪の薔薇をそっと置きます。会場内のすべての音が消え、舞台奥に去っていくスコットの背中が、悔いなき人生を送った生きざまを物語っているようで、震えるほどの感動を覚えました。

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald's last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

宝塚歌劇月組公演「Musical『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald’s last day~』フィッツジェラルド最後の一日」より=撮影・橋本正人

観賞後は、宝物に出会えたような爽やかで暖かい気持ちで劇場を出ました。まさに、「普遍的なものが一個人の人生の中に全部詰まった、ふとした時に、もう一度、観たくなる舞台」です。

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