「捜索災害救助犬の大切な資質は、人が好きなこと」、相良順子さんに聞く(下)

やんちゃ盛りのミスジェロニモが少し眠くなってきたところ=撮影・松中みどり

2018年9月23日、捜索災害救助犬ハンドラー、相良順子さんのお宅を再訪しました。ミモザさん、ヌータウ君の妹にあたる子犬がやってきたからです。相良さんが育てる最後の犬ミスジェロニモちゃん。やんちゃで、元気いっぱいの女の子、捜索災害救助犬として最も大切な資質を持つ犬でもありました。どんな犬なのか。インタビューの(上)と合わせてぜひお読み下さい。

相良さんのところにやってきた2ヵ月の子犬、ミスジェロニモちゃん。やんちゃ盛りで、少し眠くなってきたところ=撮影・松中みどり

相良さんのところにやってきた2ヵ月の子犬、ミスジェロニモちゃん。やんちゃ盛りで、少し眠くなってきたところ=撮影・松中みどり

――ミスジェロニモちゃんは、どんな犬ですか?

今までラブラドールをずっと飼ってきましたけど、こんな好奇心の塊のような子、見たことありません! 利発で、私の行動をじっと見ていて、「ここに何か入れたな」とか「これなんだろう」とか、毎日、毎日闘いです(笑)。

――元気いっぱいってことですね(笑)。

とにかく元気で明るいですね。ハイパーアクティブ。呼ばれたら「はい!」って来るし、誰にでも挨拶出来ます。ものすごくしっかりした顔をしてますでしょう。

――相良さんにとって何匹目の犬でしょうか。

犬としては数えきれないくらい一緒に暮らしてきましたが、ラブラドールとしては6匹目。捜索災害救助犬としては、2008年に認定を受けて活躍し、昨年亡くなったステファン、そしてミモザ、ヌータウ、それからこのミスジェロニモです。

訓練のためにミスジェロニモちゃんを持ち上げる相良順子さん=撮影・松中みどり

訓練のためにミスジェロニモちゃんを持ち上げる相良順子さん=撮影・松中みどり

――犬の訓練をされる人って、男性が多いんでしょうか?

この頃女性も増えてきましたね。ただ私は、10年間、どこにも属さずやってきました。もちろん情報交換や、協力はしているんですよ。でも、グループに入らずに個人でやっていると、風当たりもきつい。私はオーナーハンドラーとして、自分の犬を訓練して活動し、広報活動もしているので、プロの方からすると、異質な感じなんでしょうね。

――グループに属して犬を認定してもらうというと、「家本制度」みたいな感じを想像しました。

そうですね。日本では捜索災害救助犬に関して、はっきりとした基準がなくて、プロもアマチュアもいます。犬でご飯を食べているプロの人の立場も分かるんですけれどね。優秀な犬でも、試験に通るためには、長く訓練に通ってお金を払って、それから認定されていくわけです。

――順子さんのところに、「うちのラブラドール、災害救助犬になれないかな」と相談に来る人もいらっしゃいますか?

あります!私の場合は、「一緒に訓練やりませんか?」と言いますね。私が犬を訓練するときに、一緒にやりましょう、コツも教えますからと。そうすると、「自分でやるのは無理」「時間も気力もない」と言われます。

――すべてお任せしたいという方が多いんですね。

そうなんですね。私はそれは出来ません。一緒に暮らして、愛情をかけて育てている自分の犬だからこそ、やれるんだと思います。今、生後2ヵ月のジェロニモが来ましたから、もうほぼ、どこにも行かずにずっと一緒です。ジェロニモがご飯を食べて、用を足して、落ち着いて寝てから、ミモザとヌータウの散歩に行きます。散歩から帰ってきたらジェロニモが起きますから、今度はジェロニモだけでお散歩に行くんです。

――まだミモザさんやヌータウ君と一緒にお散歩は行けない?

その辺の散歩なら行けますけれど、今はまず社会性を身につけることが大事な時期なんですね。街に出て、老若男女いろんな人に撫でてもらって社会性を身につけていくんです。ジェロは全然怖がらないで、ちゃんとみんなに挨拶できますね。それと音の訓練。家の近くにある高架のところに連れていって、上をガーッと電車が通る音を聞かせます。その時の反応を見るんですね。怖がったり、キャンキャン鳴いたりしないか。ジェロニモは、まったく平気です。動じないですね。

――じゃあ、ミスジェロニモは捜索災害救助犬としての資質はあると。

はい、素晴らしい素質があると思います。怖がりじゃないし、人が好きです。良い救助犬になれるように、一生懸命育てていきたいですね。

――捜索災害救助犬になるのに、最も大切な資質はなんでしょうか。

やはり「人が好き」ということです。人の命を助ける犬ですから。犬たちは、「人を捜さなければ!」なんて思ってないんですよ。ただ人が好きで、その人を捜したら、その人が遊んでくれる、ご褒美をくれると思っているんです。ジェロニモを呼んですぐ来たら、「いい子だね、ちゃんと来たね」と褒めて可愛がる。もう少し大きくなったらおやつをあげる。そうやって、言うことをきいたら褒めてもらえる、おやつをもらえる、遊んでもらえるということを覚えていくんですね。

下の動画は、2018年7月、相良さんが広島市安芸区矢野東に救援に入った時の様子です。(動画提供・相良順子さん)

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、ミスジェロニモちゃんと、ミモザお姉ちゃん、ヌータウお兄ちゃんの写真とともに、捜索災害救助犬の活動が今後どんなふうに広がっていくか、相良順子さんのビジョンなどを掲載しています。

<有料会員限定部分の小見出し>

ミスジェロニモちゃんが来てからのミモザさんとヌータウ君

捜索災害救助犬の活動を広める~相良順子さんのビジョン~

ミスジェロニモという名前の由来

<捜索災害救助犬応援バザーのお知らせ>
相良順子さんの活動資金となる大切な行事、秋のバザーが開かれます。阪急逆瀬川駅東口から徒歩2分の相良さん宅ガレージでのバザーです。ふるってご参加ください。
◎日時 2018年11月3日(土)朝10時~
◎場所 宝塚市野上1-2-7 (阪急逆瀬川駅東口から高架のトンネルをくぐってすぐ)
◎みなさんから寄付された雑貨、衣料品、食品など掘り出し物がたくさんあります。
捜索災害救助犬の活動が分かるパネルも展示されます。もちろん、ミモザさん、ヌータウくん、ミスジェロニモちゃんに会えます。ぜひ遊びにいらして下さい!

<関連サイト>
阪神救助犬協会
http://hanshin-rescuedog.org/
わんわんパトロール – チーム・ステファン
https://teamstefan.ironmannet.com/03.htm
阪神救助犬協会|捜索災害救助犬育成・わんわんパトロール『チームステファン』
Facebookページ

※ここから有料会員限定部分です。

ミスジェロニモが来てからのミモザさんとヌータウ君

相良さんのところにやってきた2ヵ月の子犬、ミスジェロニモちゃん=撮影・松中みどり

相良さんのところにやってきた2ヵ月の子犬、ミスジェロニモちゃん=撮影・松中みどり

”保父さん”のヌータウ君と、やんちゃなミスジェロニモ(右)=撮影・松中みどり

”保父さん”のヌータウ君と、やんちゃなミスジェロニモ(右)=撮影・松中みどり

12歳のベテラン捜索災害救助犬であるミモザさんは、相良さんによると「クールで要領が良い」犬。ハイパーアクティブな妹のミスジェロニモがやってきてからも、相手はヌータウ君に任せてすっとその場を離れるミモザさん。年下で、もともと甘えん坊のヌータウ君は、妹に対して「僕、男の子。お兄ちゃん!」とちょっとカッコをつけました。育児担当の保父さんになってこの頃ちょっとお疲れ気味のヌータウ君。乳歯がかゆい時期のミスジェロニモに噛まれても鳴かず、辛抱強く相手をするところははさすが、順子さんにしつけられ、訓練を受けた犬です。

クールに弟、妹の様子を眺めるミモザさん=撮影・松中みどり

クールに弟、妹の様子を眺めるミモザさん=撮影・松中みどり

順子さんにお話を聞いている間も、まだ幼いミスジェロニモは、おしっこを何度もするし、ご飯を食べるとすぐ大きい方もする。本当に四六時中一緒にいないと、きちんと育てることは出来ないということが分かりました。人間の赤ちゃんと同じように、時間を共にし、愛情をかけて育てると「人が好き」な犬になるのだということも。

じっと座ってご飯を待つミスジェロニモちゃん=撮影・松中みどり

じっと座ってご飯を待つミスジェロニモちゃん=撮影・松中みどり

ゲージの中に入れている時間が長かったり、散歩に行く時間が取れなかったりした犬は、問題行動を起こします。順子さんのような育て方をされた犬は、例え捜索災害救助犬にならなくても、人のことが好きな素晴らしい家庭犬になるだろうと思いました。「甘やかすことと愛情をかけることは違うんです。叱ることと怒ることが違うようにね。捜索災害救助犬というのはセラピードッグでもあるので、若い人からお年寄りまで、噛んだり吠えたりせずに優しく穏やかに接することが出来る犬にしたいです」と順子さんは言います。

捜索災害救助犬の活動を広める~相良順子さんのビジョン~

――捜索災害救助犬の活動はどのように広がっていくでしょうか。

この前インターナショナルスクールに行かせてもらったように、犬を連れて、少年院・刑務所にも行きたいんです。罪を犯した人たちに、犬に触って、そのぬくもりや鼓動を感じて、小さな命の大切さを知って欲しいんです。それに、犬って差別をしないでしょ。どんな命でも、目の前の命から助けていくんです。そこを分かってもらいたいですね。その人が犯罪者なのかどうかとか、どうやって人を殺したかなんて、犬は知らないし、気にしません。誰にでも平等に接するんですよね。

――アメリカでは、刑務所の中で保護犬を訓練する活動をしていると、ニュースで見ました。

そうですね。素晴らしいことだと思うんですが、残念ながら日本ではまだかなり難しいです。いろいろ努力したんですが、閉鎖的ですね。

――犬といるとみんな、自然と笑顔になりますよね。

そうなんです。広島の現場でも、被災された方たちが犬を見ると笑顔になったり、話がしやすい雰囲気になったりしましたね。ミモザやヌータウのブラッシングをして下さる人もいて。捜索の仕事だけではなく、その場にいる人たちの心を癒す仕事もしたんです。

――消防隊員の方にミモザさんとヌータウ君がキスをしている写真を拝見しました。

あの写真が評判になって、「次は俺もキスしてもらおう」と言う人がいっぱいいました。レスキューをする相手だけでなく、一緒に活動している人まで笑顔にするのが、犬なんですね。

CSRM第47回ベーシックコースでレスキューに関わる人たちと一緒に訓練中のミモザさんとヌータウ君=相良順子さん提供

CSRM第47回ベーシックコースでレスキューに関わる人たちと一緒に訓練中のミモザさんとヌータウ君=相良順子さん提供

ミスジェロニモという名前の由来

――ミスジェロニモと名付けたのはなぜですか?

ジェロニモは、ネイティブアメリカン・アパッチ族の最後の戦士の名前ですから、私のとって最後の救助犬になる子犬ということで、この名前にしたんですね。女の子ですから、missをつけて「ミスジェロニモ」です。優しい名前じゃなくて、強い戦士の名前をつけたかったんです。年齢的に、私がこの子より先に逝くかもしれないでしょ。または何かあって、この子を誰かに託さないといけない時がくるかもしれない。その時に、「大変な犬を託された」というのじゃなくて「素晴らしい犬を託してもらった」と思ってもらえるように、私はこの子をしつけて、訓練しないといけないんです。

「これからもよろしくね」ミスジェロニモと相良順子さん=撮影・松中みどり

「これからもよろしくね」ミスジェロニモと相良順子さん=撮影・松中みどり

捜索災害救助犬と、その活動にかける相良順子さんの熱い思いは、「ミスジェロニモ」の名前にも刻まれていました。活発でお転婆なミスジェロニモちゃんは、お姉ちゃんのミモザさん、お兄ちゃんのヌータウ君からも色々教わることが出来ます。また、アクティブで魅力的な順子さんに惹かれて集まってくる「老若男女」、様々な人たちにも支えられ、可愛がられて、きっと素晴らしい捜索災害救助犬になることと思います。お話を聞いた9月23日には、神戸ドイツ学院の先生、そのお友だち、順子さんの活動を応援している方など多くの人がやってきました。ミモザさんとヌータウ君はもちろん、ミスジェロニモちゃんも、誰に対してもフレンドリーで、怖がることなく接しました。お仕事中ではないので、リラックスした表情を見せながらも、ドイツ語、英語、日本語で出される順子さんの指示にはしっかりと従います。まだ幼いミスジェロニモちゃんの食事回数は日に3回。成犬の二匹は日に2回。妹が目の前で食べていても、決して手を出さず、よだれを垂らしながらも我慢できるヌータウ君には脱帽でした。

ミスジェロニモが目の前でご飯を食べても、決して手を出さずじっと待つヌータウ君=撮影・松中みどり

ミスジェロニモが目の前でご飯を食べても、決して手を出さずじっと待つヌータウ君=撮影・松中みどり

3匹となった犬たちが、十分に力を発揮できる社会になるには、私たちの意識を変える必要があります。目が悪くなったら眼鏡をかけ、耳が聴こえなくなってきたら補聴器を使うように、盲導犬や聴導犬と暮す。災害時には訓練を受けた捜索災害救助犬が、消防隊員や自衛隊員と一緒に捜索に加わる。それが当たり前なのだというふうに、みんなが知っている世の中になるよう、広報活動と秋のバザーを全力で応援したいと思います。

2016年の捜索災害救助犬応援バザーより=写真提供・相良順子さん

2016年の捜索災害救助犬応援バザーより=写真提供・相良順子さん

お土産にいただいたお菓子を頭に乗せてじっとする訓練のヌータウ君と見守るミモザさん=撮影・松中みどり

お土産にいただいたお菓子を頭に乗せてじっとする訓練のヌータウ君と見守るミモザさん=撮影・松中みどり

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