「今の私たちの姿と重なる」、『キオスク』一路真輝インタビュー(上)

一路真輝さん

ナチスドイツが台頭するオーストリアで、激動の時代に翻弄される青年フランツと彼を取り巻く人々を描いた舞台『キオスク』が、2021年1月22日(金)に兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールで開幕します(東京・静岡・愛知・広島公演あり)。オーストリアの人気作家ローベルト・ゼーターラーによるベストセラー小説「キオスク」の舞台化で、2019年12月から2020年1月にリーディング版(朗読劇)が上演され、今回はゼーターラー自身が手掛けた戯曲での日本初上演となります。出演は、(敬称略)林翔太、橋本さとし、大空ゆうひ、上西星来(東京パフォーマンスドール)、吉田メタル、堀文明、一路真輝、山路和弘のみなさん。この作品に主人公・フランツ(林翔太さん)の母親役で出演する一路真輝さんにインタビューしました。『キオスク』のリーディング版と戯曲版の違いについて、演出の石丸さち子さんについて、先月まで出演されていた舞台『Op.110ベートーヴェン「不滅の恋人」への手紙』についても伺いました。

一路真輝さん
一路真輝さん

ーー『キオスク』の戯曲版は、日本初演ですね。リーディング版に続いてのご出演が決まった時のお気持ちはいかがでしたでしょうか?

「また参加できるんだ」ということへの喜びがありますね。どの役もそうですけれども、やはり一度いただいた役には思い入れがあるんです。ですから決まった時、すごく嬉しかったです。リーディング版でも、たくさん挑戦させていただきましたが、ストレートプレイとなると、もっといろいろなことをできるんじゃないかなって思っています。

ーーリーディング版に引き続き、一路さんが演じられるのは、主人公フランツ(林翔太さん)の母親役ですよね。

はい。息子フランツと母親は、オーストリアのザルツカンマーグートというところにあるアッター湖畔で、肩を寄せ合って生きているんです。とても風光明媚な場所で、このお母さんは、ある意味、女性という強みを活かしながら生活しているんです。生きていくためには仕方ないと割り切って男性とつきあっている。そんなある日、頼りにしていた男性が亡くなってしまうんです。

ーー物語はそこから動いていくわけですね。

そんな中、生きていくために最愛の息子のフランツを、ウィーンに働きに出すという決断をするんですよ。男性に頼りつつも、母と息子で力を合わせて生きてきて。フランツは素直にすくすくと育っているんですが、なんせ華奢なので田舎での仕事は難しいんじゃないかと、お母さんは考えるんです。結果として、大都会に一人で旅立たせようということになるんですよね。お母さんの古い友人であるオットー(橋本さとしさん)が経営するキオスク(タバコ店)に預けるとはいえ、17歳の息子を自分の手元から離すのは大きな決断だと思うんです。でも、このお母さんはそこであまりウェットにならないんですよ。明るくカラッと息子をウィーンへ送り出すんですね。なんかそこが素敵だなあと思っているんです。これから稽古なので、今、この役をどうやって作って行こうかなと悩んでいるところですね。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、パワーの塊のような石丸さち子さんの稽古場の様子や、リーディング版と戯曲版の違いなどについて語ってくださったインタビュー前半の全文を掲載しています。1月12日(火)掲載予定のインタビュー「下」では、手紙をめぐる演出シーンの稽古場エピソードのほか、『Op.110ベートーヴェン「不滅の恋人」への手紙』で共演した田代万里生さんについて、今、舞台に立つことへの思いなどについても伺ったインタビュー後半の全文を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■毎日、「パワーの塊」のような石丸さち子さんからアイデアが生まれてくる現場

■リーディング版よりも物語『キオスク』の世界が立体的に。切なさが倍増

■不自由な中で希望を見つけながら頑張る、今の私たちの姿と重なる

■高貴な人の役が多かったこともあり、つい「スッ」と立ってしまったり

<舞台『キオスク』>
【兵庫公演】2021年1月22日(金)~1月24 日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【東京公演】2021年2月11日(木・祝)~2月21 日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
【静岡公演】2021年2月23日(火・祝) 静岡市清水文化会館 マリナート 大ホール
【愛知公演】2021年2月25日(木) 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
【広島公演】2021年2月27日(土) JMSアステールプラザ 大ホール
公式サイト
https://www.kiosk-stage.com/
作:ローベルト・ゼーターラー
翻訳:酒寄進一
演出:石丸さち子
出演:林翔太、橋本さとし、大空ゆうひ、上西星来(東京パフォーマンスドール)、吉田メタル、堀文明、一路真輝、山路和弘
企画:兵庫県立芸術文化センター
共同制作:兵庫県立芸術文化センター、キューブ

<関連リンク>
キオスク 公式 Twitter
https://twitter.com/kiosk1937
一路真輝オフィシャルサイト
https://www.toho-ent.co.jp/actor/1043
一路真輝オフィシャルブログ
https://ameblo.jp/ichiro-maki/

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■毎日、「パワーの塊」のような石丸さち子さんからアイデアが生まれてくる現場

ーーカンパニーの皆様とは、これまで…。

今回、林翔太さんと堀文明さん以外は、共演させていただいたことがある方ばかりなんですよ。ですから、顔を見るだけでほっとするんです。スッと入っていけそうな環境なのは、とてもありがたいですね。ウィーンが舞台になっているシーンに主に出演されるみなさんのお稽古の雰囲気を眺めていると、役としての視線とも重なるような気持ちになりました。私は、ウィーンからはちょっと遠くの田舎から、息子のフランツと手紙をやりとりするというポジションなので。

ーーお稽古場はどのような雰囲気でしょうか?

石丸さんの演出を受けながら、とても躍動的な雰囲気だなあと感じました。毎日、「こっちの方がいいんじゃないか」「これをやってみたい」というように、石丸さんからアイデアが次々に生まれてくるんです。本当に、パワーの塊のような方なので、試行錯誤しながらカンパニー全員でそれに食らいついているような感じなんです。

■リーディング版よりも物語『キオスク』の世界が立体的に。切なさが倍増

ーー今、石丸さんの演出の話が出ましたが、印象はいかがでしょうか?

前回のリーディング版の時にも、朗読劇だとは思えないような活き活きした舞台になったんです。影絵を使ったり、フランツが全力疾走で走っていたりしていたんですよ。以前から石丸演出のファンだったので、舞台はいくつか拝見したことがあったんです。その時にも、舞台から活気や元気やパワーを感じていましたが、作品に実際に出演させていただくことになって、これは既にお稽古場の段階から溢れているパワーなのだなと実感しましたね。今回も、石丸さんの演出に全力でついて行きたいなと思っています。

ーー戯曲版となると、ますますパワフルな躍動感が生まれそうですね。

そうなんです。そして、戯曲版になると世界がより立体的になります。リーディング版の時に、文字を読みながら想像していたものが具現化されていくのを見ていると、とてもワクワクします! 例えば、主な舞台となるウィーンのキオスク(タバコ店)のセットには、小道具も含め、細かいところにまで当時の雰囲気がよく出ています。見ているととても楽しいですよ。想像していた通りのものが目の前にある!って!(笑)。あとは、役作りがリーディング版の時に比べると、より具体的になっているんですよね。例えば、戯曲版では、橋本さとしさんが演じられるキオスクの店主オットーは、実際に松葉杖を使って舞台の上で動くことになるんですよね。オットーという役の背景や、ナチスに翻弄される運命を思いながらその姿を見ると、切なさが倍増してしまいます。

■不自由な中で希望を見つけながら頑張る、今の私たちの姿と重なる

ーー『キオスク』は、第二次世界大戦に突入していくオーストリアを舞台にした作品ですよね。

そうですね。ヒトラーの時代は、何度も映画などにもなっていると思いますが、この作品の新鮮さは、田舎からウィーンに出てきた17歳の少年の視点で、ナチスドイツが台頭していくオーストリアを描いている点にあるのではと思っています。今回、コロナ禍の中の上演となってしまいますが、作品で描かれている時代や人々の思いに、不自由を強いられている中で何か希望を見つけながら頑張る、今の私たちの姿と重なるものを感じています。

ーー今だからこその思いですね。

時代に翻弄されたり、その時代が窮屈だということをテーマにしている舞台は多いと思うんですよね。かつてはそういうお芝居を観てくださった時に、例えば「こんな時代があるんだな」という視線だったかもしれないものが、リアルに届くのではないかと思っています。「この時期にやれてよかった」という言葉は絶対に使いたくないのですが、この時期だからこそ、何かこれまでとは別のメッセージが伝わるのではないかと思います。演じている私たちも、ちょっと大袈裟に聞こえるかもしれませんが命がけなんです。いつもの公演の何倍もの神経を使って生活をして、稽古をして、本番に向けて創っています。『Op.110』もそうでしたが、これから、コロナ禍の中で舞台を創っていくということには、今まで以上に相当な覚悟が必要なんですよね。今のこの空気感と、『キオスク』に描かれているウィーンの、ユダヤ人が次々に捕われていくという恐ろしい空気、そして、第二次世界大戦に突入して行く時代。何か、感覚が似通ってしまった時期の上演というところに、運命のようなものを感じています。

ーー演じられる側もリアルな思いを感じながらの役づくりとなりますね。

そうですね。『Op.110』では、ナポレオンで時代が変わってしまったウィーンに生きつつ、運命に翻弄される女性の役を演じていました。『キオスク』では、その150年後くらいのウィーンで、今度はヒトラーによって全ての人が翻弄される時代に生きるひとりの母親を演じます。今は、コロナウイルスという見えない敵に世界中が翻弄されている時代です。世代や世界が違っていても、翻弄される人の苦しみには通ずるものがあるでしょうし、人々がその苦しみから立ち上がって行く姿を『キオスク』を通してお見せできたらいいなと思っています。

■高貴な人の役が多かったこともあり、つい「スッ」と立ってしまったり

ーー『キオスク』と、『Op.110ベートーヴェン「不滅の恋人」への手紙』。舞台は同じオーストリアですが、キャラクターも時代もガラッと変わりますよね。

私はちょっと不器用なんです。ですので、あまり器用には切り替えられないんですよね。『キオスク』のリーディング版の時、実は何役も演じていたんですよ。今回と同じフランツのお母さん役を演じつつ、他の役も…って。でも、同じ作品の中での切り替えと、お稽古と本番と合わせて2ヶ月以上没頭していた役からの切り替えというのは、やはりちょっと違いますね。リーディング版の時も何役もしていたしなあ…と思っていましたが、一晩寝て今朝起きても、まだやっぱりこう、自分の中で前作のアントニーの役がフワフワと(笑)。もう大変!って思いながらですが、幸いまだ本番まで日にちがありますし、石丸さんのお力をお借りしながら、お母さん役を創っていきたいです。

ーー役作りにあたって、石丸さんとは前回どのようなお話をされたのですか?

前回のリーディング版の時は、短い稽古期間ではあったのですが、石丸さんといろいろお話しながら役について考えましたね。石丸さんは、なんでも言ってくださる方ですし、自分ではわからない客観的な視点から、もっとこうした方がいいというところを引き出してくださるんですよ。「このお母さんはこんな感じだよね、これまでの一路さんが演じてきた役柄じゃないよね…」というような感じで。

ーー違う感じといいますと?

私は宝塚歌劇団時代を含めて、貴族の女性というような高貴な人の役が多かったこともあり、立ち姿でもこう、つい「スッ」と立ってしまったりするんですよ。でも、『キオスク』でいただいた役は「もっと土着的な、地に足をつけて生きてきたお母さん」ですから、いろいろ考えながら前回もお稽古をしたんですね。稽古を経て、リーディングの本番の日にちを重ねていく中で、見えてきたお母さん像がひとつあったんです。今回は、一回ベースを作ったという安心感はありますが、なんせ、去年11月から違う世界に行っちゃていたので(笑)。今、すごく19年12月~昨年の1月を思い出しながら、感覚を戻していますね。

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