「お客様の覚悟を思うと、胸が熱くなります」、一路真輝インタビュー(下)

一路真輝さん

2021年1月22日(金)に兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールで開幕し、東京・静岡・愛知・広島で上演される舞台『キオスク』に出演する一路真輝さんのインタビュー、後編です。本作と同じくオーストリアの女性を演じられた『Op.110ベートーヴェン「不滅の恋人」への手紙』について、共演者である田代万里生さんとのエピソードや、2020年を振り返りながら、今、感じられていることなどを伺いました。

一路真輝さん
一路真輝さん

ーー『Op.110ベートーヴェン「不滅の恋人」への手紙』のアントニーは、とてもノーブルな役でしたよね。

貴族の女性が、大富豪に嫁ぐという(笑)。でも、演出の栗山さんに、「今までの一路さんが演じてきたノーブルで気品があるという面だけではなく、時代に翻弄された女性の心の叫びのようなものをもっと出しなさい」と言われていたんです。実を言うと、すごく苦しんで役作りをしていたんですよ。

ーー一路さんのアントニーを拝見しながら、とても素敵な女性だなあと感じました。

アントニーも、元は貴族の女性ですし、今までの自分の引き出しを活かせそうだと考えていたのですが、そこを根こそぎ覆されるという経験をしました。もちろん、「貴族出身で名家のお嬢さん」という、今までの役作りで培ってきたものは、ベースラインとして自分の中にあったのでとても助けられました。でも、アントニーという役では、そこから更にもっともっと深いところで人間を描かなければならないという言葉を栗山さんにいただいていたんです。稽古期間の1ヶ月、すごく苦労していたので、本番の初日が開くのがもう、怖くて怖くて仕方がなかったんです。

ーーそこから『キオスク』へと。

『キオスク』では、田舎の湖畔で親子二人で生きてきたシングルマザーの役です。これまでもオーストリアという土地に縁のある役を演じさせていただくことが多かったので、場所としても自分の中に思いがあります。ただ、第二次世界大戦の真っ只中に突入していく時代のオーストリアを描いた作品に出るのは『キオスク』が初めてで、ひとつの国の歴史を様々な時代を通して俯瞰して見させていただいているという気持ちもあります。今回は特に、こういう時代に生きていた母と息子がいたのだなあという、すごくジーンとした思いがあるんです。朗読劇に続いて、今回また同じ役を演じられるので、より役を深めていきたいですね。

ーー『キオスク』はストレートプレイですが、ミュージカルとは役作りのアプローチは異なるものなのでしょうか?

根本は一緒だと思います。ただ、ミュージカルでは、最も感情が盛り上がるのは曲が流れて歌うということになりますから、お芝居をしながらも、曲が流れると身体が歌に向けて準備し始めたりすることもあるんですよね。一方で、ストレートプレイでは、お芝居でグッと気持ちを追い込み続けていくんです。例えば、苦しいという気持ちがあったら、どこまでも胸の中で、そこを追い込んでいくというような感じですね。でも、ミュージカルでも、もちろんそれをされている方はたくさんいらっしゃると思いますし、私がまだまだ未熟者だというだけなので、今回、お芝居の面をより掘り下げていきたいと思っています。自分が思っていることじゃない感情を持ったり、セリフを言ってみることができるのは、演劇をする上での楽しみですね。いろいろな演出家の方々とご一緒する中で、とても勉強させていただいています。今回も、何か一つ新しい自分を作りたいなと思っていますね。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、『キオスク』での手紙をめぐる演出シーンの稽古場エピソードや、『Op.110ベートーヴェン「不滅の恋人」への手紙』で共演した田代万里生さんについてのほか、今、舞台に立つことへの思いなどを伺った、インタビュー後半の全文を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■林翔太さんは、一人でとても大きなものを背負っているので、大変だと思います

■万里生くんが世界に一台しかないピアノで、「私だけに」を弾いてくれて…

■お客様は、どれほどの覚悟でいらしてくださっているんだろうと思うと、胸が熱く

<舞台『キオスク』>
【兵庫公演】2021年1月22日(金)~1月24 日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【東京公演】2021年2月11日(木・祝)~2月21 日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
【静岡公演】2021年2月23日(火・祝) 静岡市清水文化会館 マリナート 大ホール
【愛知公演】2021年2月25日(木) 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
【広島公演】2021年2月27日(土) JMSアステールプラザ 大ホール
公式サイト
https://www.kiosk-stage.com/
作:ローベルト・ゼーターラー
翻訳:酒寄進一
演出:石丸さち子
出演:林翔太、橋本さとし、大空ゆうひ、上西星来(東京パフォーマンスドール)、吉田メタル、堀文明、一路真輝、山路和弘
企画:兵庫県立芸術文化センター
共同制作:兵庫県立芸術文化センター、キューブ

<関連リンク>
キオスク 公式 Twitter
https://twitter.com/kiosk1937
一路真輝オフィシャルサイト
https://www.toho-ent.co.jp/actor/1043
一路真輝オフィシャルブログ
https://ameblo.jp/ichiro-maki/

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■林翔太さんは、一人でとても大きなものを背負っているので、大変だと思います

ーー『キオスク』は、フランツとお母さんの手紙のやり取りを通しながら物語が進んでいきますよね。手紙を持って朗読のように読まれる時と、セリフでおっしゃる場合とでは、気持ちの持っていき方も変わるものなのでしょうか?

演出の方々の作り方にもよるんですよね。その人本人として感情を入れて読んだり、訥々と読んだりと、さまざまです。今回は、石丸さんと相談しながら、この手紙はどんな感じにしようか、お母さんの手紙を自分で読むなら、手元に持っている手紙は見ずに、セリフとして言おうか…とか、そういうことを決めていっている段階ですね。いろいろなパターンが出てくると思います。フランツの手紙を読むシーンもあれば、フランツへの手紙を自分の言葉として語りかけるようなシーンもあるかもしれません。どうなるのか楽しみにしていただければと思います。

ーーフランツを遠くから見守るお母さんですが、どのような気持ちで演じられていますか?

母の元を離れてウィーンという都会に行った17歳のフランツ自身が、目の前でナチ党員の残虐な行為や、変わりゆく街を見るわけです。その中で息子が、母親の想像を超えて短期間で成長していくんですよね。お芝居の中で、フランツが母親を抜いていっているなと感じる瞬間があるんですよ。時代に翻弄されて悲しいところはありますが…。でも、手元から旅立たせて息子が大人になる道を与えたという母親としての決断は、やっぱり正しかったんだなと受け取って演じていますね。

ーー今回、フランツ役は、林翔太さんが演じます。息子への感情も、また思いが変わるシーンも出てきそうですか?

もちろん、リーディング版のフランツと印象は違いますよ。稽古場の様子を見ていると、彼がどういうフランツになるかによって、周りのお芝居が変わっていくのが面白いですね。その分、彼は一人でとても大きなものを背負っているので、大変だと思います。

■万里生くんが世界に一台しかないピアノで、「私だけに」を弾いてくれて…

ーーお稽古場はもちろん、本番が始まっての楽屋でのお話などからもいろいろ生まれるものもあるのだろうなと想像しています。『キオスク』は、これから本格的にという流れになりますが、『Op.110』では、いかがでしたか?

楽屋でも極力私語禁止だったんですよ。コロナ禍での舞台裏はとても静かです。楽屋で気楽にみんなで寄り添っての写真撮影とかも今はできないんですよね。舞台上で、少し広いところで距離を取れば、みんなで写真撮影もできるかなあと。

ーー一路さんのブログでも紹介されていた、田代万里生さんがピアノを弾かれたシーンですか?

そうです。あの作品は、ピアノが主役みたいなものだったんですよね。作品で新垣さんが弾かれていたのは、スタインウェイのルイ16世モデルという木のピアノで、実は、世界に一台しかないものなんです。あのピアノの前で、みんなで衣装をつけたまま写真を撮りたいね、っていう話をずっとしていたんですよ。で、よし、写真を撮ろうと舞台袖でスタンバイしていたら、先に支度ができた万里生くんが「私だけに」(『エリザベート』より)を弾いてくれて、私、ちょっと興奮しちゃって! 素敵な時間でした!

ーー素敵なエピソードですね!

ピアノを弾いている姿が、またすごく絵になるんですよね。クラシック界の御曹司という感じがして。私の「ニワカ貴族」なんて問題じゃない、みたいな(笑)。彼は根っからの貴族、貴公子っていう感じなんです(笑)。本当に、いつも笑顔で素敵な好青年ですね。お互い、遠くから相手を見ているというような役でしたので、今回の作品ではセリフを交わすのも最後の方のシーンくらいしかなかったのですが。

ーー一路さんも田代さんもどちらも素敵でした。歌われるシーンもありましたよね。

私は、クラシックの発声では歌ってはいなかったんです。お芝居の延長として、アントニーが歌っているという設定でしたね。万里生さんは、テノールの歌手としてのお声で歌っていらっしゃいました。だからもう、現場では「クラシックの貴公子」って呼んでいたんですよ。あ、本人に直接ではないですけど(笑)。

■お客様は、どれほどの覚悟でいらしてくださっているんだろうと思うと、胸が熱く

ーーカンパニーとして集まって、舞台を作られているからこそのエピソードですよね。この1年、そうした時間が叶わなかった時期もあったかと思うのですが、振り返られて今、いかがでしょうか。

「舞台というものは、リモートではどうしても表現できない」というもどかしさを感じていました。それがとても辛かったですね。配信で、仲間が出ている舞台を拝見したりもしていましたが、舞台の臨場感というものは、やはり画面からは絶対に伝わらないということを感じました。自分自身が、稽古をして舞台に立って、今より一層そう思います。それでも、配信という伝え方もしなくちゃいけないという現実もありますし。

ーー一路さんご自身が、舞台に立たれていて幸せを感じられる瞬間は、どのような時でしょうか?

今は、舞台に立っていることだけで本当にありがたいです。幸せという感覚ではなくて、ありがたいですね。お客様は、どれほどの覚悟でいらしてくださっているんだろうと思うと胸が熱くなりますし…。先日『Op.110』の千秋楽で感じた感覚が今、本当にリアルにあるんです。無事に幕を開けて、無事に幕を下ろすということは、当たり前じゃないのだと、強く感じました。これからもずっと、この気持ちを忘れずに過ごしていきたいと思っています。今回、コロナ禍で感覚が変わってしまったので、以前、当たり前のように舞台に立って感じていたことは忘れてしまいそうです。

ーー無事に幕を開けて、無事に幕を下ろすのは、本当に当たり前ではなくなりましたね。

リーディング版の兵庫公演は昨年の1月だったのですが、一昨年のことのような気もしてしまいます。『キオスク』のリーディング版が、コロナ禍の前の最後の舞台だったんです。そこから時間がずっと空いて、コンサートや別のリーディングの舞台もさせていただき、そして、久しぶりの本格的なお芝居の千秋楽を無事に迎えて。いろいろなことを考えましたし、ここに辿り着くまでの時間が、長かったのか短かったのか…。そして、『キオスク』のお稽古で年末を締めさせていただいた。リーディング版からのお稽古の延長のような気がすることもありますし(笑)、不思議なご縁を感じていますね。

ーーコロナ禍の前の最後の舞台が『キオスク』のリーディング版で、2021年は『キオスク』の戯曲版から始まる…。

『キオスク』で、1年のロングランをしているような気持ちにもなってきましたね(笑)。作品にこういう形で2回も関わらせていただけるのは、本当に嬉しいです。無事にとにかく幕を開けられるように、いろいろなことに気をつけながら頑張ります。なかなか、諸手を挙げて観にいらしてくださいというメッセージも言いづらくなってしまい、そこも辛いところではありますが、私たちはとにかく、感染予防対策を徹底的に重ね、上演に向けて頑張りたいと思います!

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