みなさま、突然ですが「講談」というものを、ご存知でしょうか。私は、たたんだ扇のような「ハリセン」(張り扇)をパンパン机に叩きつけて、猛烈な口調で話している映像を、テレビでチラッと見たことがある程度でした。このほど、戦国武将の真田幸村をテーマにした「映画 講談・難波戦記 -真田幸村 紅蓮の猛将-」(出演・旭堂南湖、監督・勝呂佳正、96分)が上映されると聞き、予告編を見るとなかなか面白い感じだったので、映画の全編を見てから講談師の旭堂南湖(きょくどう・なんこ)さんに話をうかがってきました。こちらが映画の予告編です。
講談は、和服を着て机の前に座って語る伝統芸能で、落語と似ていますが、笑いをとるのが中心の落語に対して、物語を語るのが中心なのが講談。でもって、講談というと、すごい勢いでドンドコドンドコ話すイメージが私にはありました。そのどんどん語る部分は「修羅場」というそうですが、早口なので何を言ってるかよくわからないところがあります。それが、この映画では音だけでなく「文字」で表現されているところもあったので、わかりやすかったです。
たとえば、真田氏の家紋としては、有名な「六文銭」以外にも、「結び雁金」(鳥のかりがねの両翼を結んだような形にデザイン化したもの)があります。講談の中で「雁金の紋」という言葉が出てきますが、あまりグダグダ解説していては勢いが出なくなってしまうので「雁金の紋」とだけ表現されますが、映画であれば映像でパッと見て理解することができます。
さらに映画の中には、切り絵のような形で動く映像もたくさん出てくるので、アニメを見ているような気分にもなります。
講談の本の上に馬の乗った武者が出てきたり、面白いですね。
映画の中ではアニメーションだけでなく、現地ロケの映像や、貴重な美術品の画像などもたくさん挿入されていました。
それはそうとして、真田幸村といえば、約400年前の「大坂冬の陣」「大坂夏の陣」で徳川家康軍と戦った猛将として有名で、忍術を使う猿飛佐助らが登場する「真田十勇士」の話も人気。小説・ゲーム・舞台・映画などでも取り上げられ、2016年にはNHKの大河ドラマでも「真田丸」として放映されます。そんな真田幸村をめぐるお話の原点とも言えるのが、この講談「難波戦記」(なんばせんき)なのでした。
映画を見てから直接お会いしてきた旭堂南湖さんですが、さすが講談師です。声が違う。普通にインタビューしていても、す~~~っと、まわりを取り囲むように響いてくる声。声楽好きの私からすると「バリトンのよく響く声」です。師匠の三代目・旭堂南陵さんからは「滝に向かって声を出す練習をしろ。声が滝にあたって跳ね返ってきたらあかん。滝を突き抜けていくような声を」と言われて、滝に向かって練習したそうです。
いろいろ話はうかがいましたが、その中でも「へえ~~~」と思ったのは、「修羅場」(修羅場読み)のこと。講談には、普通のテンポで話している部分と、戦いの場面などでたたみかけるように話す「修羅場」がありますが、あれは早口なので何を言ってるか正直、よくわからないこともあります。でもそんな時は「居眠りしてもいい」のだそうです。というか、お経のように、ふわ~~~と修羅場読みが続く部分は、気持ちよ~~く聞いてもらえばいいので、それをワーワーと大声を張り上げて語ると「うるさいなぁ、寝られへんやないか」と言われるそうです。若いころは力まかせに修羅場で大声を上げて、失敗したこともあったそうです。たしかに、聞く側としても「早口で語っている部分の意味を必死になって聞きとらなければ」と思うと緊張しますが、映像に出てくる文字などを見ながら「ふわ~~っと」流れるようにリズムを楽しむのもオツですね。
でもって、聞いてて眠くなったら、ハリセンがパンパン!と入って、目を覚まさせるから大丈夫だそうです(笑)。
南湖さんはミステリー小説が好きで、これまで「よみがえれ!探偵講談・名探偵ナンコ」「探偵講談、乱歩を読む」などの催しを開催したほか、山口県での脱原発運動を現地取材して作った講談「祝島 原発反対三十年」を口演するなど、数多くの新作講談も生み出しています。
筆者の橋本は、鎌倉幕府を倒した楠木正成(くすのき・まさしげ)が好きであれこれ調べたりしているのですが、その話を南湖さんにすると、「もともと講談は太平記読みから始まったんです」と教えてくださいました。太平記は鎌倉時代末期から室町時代初期にかけてを描いた軍記物語で、楠木正成も主要人物の1人として登場します。南湖さんは「太平記を将軍や武将の前で語って、昔のいくさや戦法について紹介するというのも講談の役目のひとつだったんです」とのこと。がぜん、太平記の講談が聞きたくなりました。
「アイデアニュースでは、源平時代の大鎧をコスプレ用に作っているLapisさんという女性も記事を書いてくださっているんですよ」と説明すると、「歴史に興味を持つ女性らも最近は多いのですが、その人たちと講談をどう結び付けていくか、それが難しいんです。講談に接する機会がなかなかないですからね。でも今回の映画は、そうした人たちにも『映画なら観にいこか』と思ってもらえるという点で、良かったと思います」と話していました。
「講談」というと、ちょっと難しそうな気もしますが、もし日程が合えば、映画館で気軽に観てみるのも良いかもしれません。
<「映画 講談・難波戦記 -真田幸村 紅蓮の猛将-」上映情報>
東京:新宿武蔵野館 11月21日(土)より12月4日(金)までモーニングショー
→ http://shinjuku.musashino-k.jp/
長野:シアターシネマポイント 11月21日(土)より12月4日(金)まで公開
→ http://movie.walkerplus.com/th598/schedule.html
大阪:テアトル梅田 12月5日(土)よりモーニングショー
→ http://www.ttcg.jp/theatre_umeda/
京都:京都みなみ会館 12月12日(土)より公開
→ http://kyoto-minamikaikan.jp/
兵庫:元町映画館 12月12日(土)より公開
→ http://www.motoei.com/
<関連サイト>
講談師・旭堂南湖公式サイト
→ http://www003.upp.so-net.ne.jp/nanko/index.html
「映画 講談・難波戦記 -真田幸村 紅蓮の猛将-」公式サイト
→ http://yukimura-movie.com/
<プレゼント>
「映画 講談・難波戦記 -真田幸村 紅蓮の猛将-」に出演している旭堂南湖さんのミニサイン色紙を、抽選で3名さまにプレゼントします。どなたでも応募できます。応募締め切りは12月8日(火)。当選者の発表は、発送をもってかえさせていただきます。(このプレゼントの募集は終了しました)ご応募くださったみなさま、ありがとうございました。
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大学院を卒業した南湖さんが、三代目・旭堂南陵さんに「弟子にしてください」とお願いした時の師匠の反応の話が面白かったので、南湖さん自身の言葉で紹介します。
--(橋本)大学院を卒業してから、講談の世界に飛び込もうと思われた時は、どんな感じだったんでしょうか。
弟子入りって、そう簡単にできるもんじゃないですよね。雨の中3日間立ち尽くしてお願いしたとか、3カ月通ったとか、そういう話を聞いてるんで、簡単にはとってもらえないだろうなと思いながらも、こういう会(公演)があった時に楽屋に行って、「師匠、弟子にしてください!」とお願いして……、そしたら師匠が、「うん」て。
--えっ、いきなり、「うん」ですか? 「あんた、だれ」みたいなのもなく?
そう、そんなんもなく。「弟子にしてください」「うん」。続いて「芸名はなぁ……」って(笑)。で、「芸名はなあ……、自分でつけたらええから」って。なんの期待もされてなかったんですね(笑)。けれども、自分でつけても仕方がないんで、弟子入り認めてもらってから1カ月後ぐらいですかね、「滋賀県出身なんで、日本一の湖、琵琶湖にちなんで、お前も日本一になれよ」と、南湖という名前をつけていただきました。
--そうなんですか。で、弟子入りっていうのは、どういう感じだったんですか?
師匠の家に住み込む内弟子という制度がよくあるんですが、うちの師匠は住まれるのが嫌だというので、師匠の家の近所にアパートを借りて住むことにして。
--それは大学院を卒業してから?
はい。
--じゃあ学校を出てその世界に就職したということですよね。でも、収入は?
ゼロですね。だから何かアルバイトしなきゃならんということで、商店街を歩いていたら、寿司屋さんがあって、「まかないつき」と書かれてた。「これや!」と。
--「まかないつき!」(笑)。それなら、食うには困らんと。
ほんで、朝の6時から昼の12時まで寿司屋で。
--朝6時から?
はい。仕込みがありますんで。そこは食べる寿司屋じゃなくて、持ち帰り専門の寿司屋で。朝働いて、昼から師匠のところ行って、夜はこういう会(公演)に手伝いに行ったり、そういう生活でしたね。
--大学院を出てすぐにですか?
4月にお願いしまして、4月に引っ越して、4月にアルバイト見つけて、でしたねぇ。卒業前にやっておけということですけどね。ただ、我々の世界は入門したらプロなんですね。アマチュアじゃない。講談を1本も覚えてなくてもプロ。ただ、初年度の講談での年収は2万円でしたけどね。
--2万円でも、もらってる以上はプロですよね。
でも有難いことに、この世界は先輩が食べさせてくれるということがあるんですよね。打ち上げがあったりして、ついて行ったら、食べさせてくれる。おもな稼ぎは寿司屋のアルバイトで、家賃なんかを払います。
--なるほど。
師匠からお金もらえるわけではないけれど、ネタを教えてもらえるんですね。それで7月から、もう高座に出てたと思います。
--最初に教わったネタは?
三方ヶ原の戦い(みかたがはらのたたかい=武田信玄軍と徳川家康・織田信長連合軍との戦い。家康が大敗したことで有名)です。難しい文言が、ずら~~っと出てきますよね。それが基本で、修羅場に始まり、修羅場に終わるとも言われてるんです。そこでリズムであったり、大きな声を出すことを覚えたりするんです。
--なるほど。
名人がやると、すごく心地いいんですね。
--修羅場を聞くと気持ち良くなるんですね。
聞いてるような聞いてないような。生きてるような死んでるような。夢うつつで聞けるんですよね。
※ここから本文中でも書いている「修羅場」についての説明が続きました。
猛将・真田幸村を描いた講談を映画に、「難波戦記」出演の旭堂南湖インタビュー おわり
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