井上芳雄さんインタビュー後半です。有料部分では、上演中のミュージカル『グレート・ギャツビー』について、公演がはじまっての思いを伺いました。
――2人だけの空間で創造する面白さ、難しさはいかがでしょうか?
今年も上演しますが、『ダディ・ロング・レッグス ~足ながおじさんより~』は2人芝居です。あれは歌がたくさんあるので少し違いますが、潔いんじゃないかと思います。相手のことを感じるしかないですから。ミュージカルだと「お前、ちゃんと俺のことを見ているか?」「俺の台詞を聞いているか?」というような人がたまに出てきちゃったりするわけですよ(笑)。
(一同笑)
自分もかつてそうだったと思いますし、今だってそうかもしれませんが、20~30人もいたらそういう時もあります。2人芝居では相手の言葉を聞くしかないですからね。もし相手が聞いていなかったら、気が狂ってしまうと思う。だから、そうするしかないという意味で突き詰めるのは、潔い形態だと思いますし、そこまで突き詰めた時に生まれる何かがあると思います。
『ダディ・ロング・レックス~足ながおじさんより~』に関しては、ずっと別々の場所で演じているから、相手を見ないんですよ。本当に劇中で3回くらいしか目を合わせて芝居しない。坂本真綾さんの声だけをずっと聞いていますが、だから余計にすごく分かるんです。「今日は元気ないのかな」とか「今日はとても勢いがあるな」とか声だけ聞いても分かるので、相手のことはとても感じられるようになります。それを物語や演技に生かしていければいいなと思います。
まだストレートプレイの2人芝居は初体験なのでどうなるかは分かりませんが、もちろん1人だけでやらないようにしなければと思っています。ストレートプレイで感情が高まる役だと、人間だから日によって違います。気持ちの持っていき方もそうですし、とても高まった記憶があって、翌日に全然テンションが上がらないと、「どうしよう……」と焦ってしまうんですよね。ミュージカルは音楽があるので、ある程度無理やり持っていってくれますが、お芝居だと、結構焦りがちだと思います。橋爪さんに委ねてやれたらいいし、橋爪さんがどういう風に導いてくださるか分からないですが、ご一緒出来る限りは演出家の世界に浸りたいと思うので、演出家の要求に応えられる俳優でありたいと思います。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、『グレート・ギャツビー』の公演が始まってからの思いなどを伺ったインタビュー後半の全文と写真を掲載しています。
<有料会員限定部分の小見出し>
■『謎の変奏曲』は2人でやる演劇のマジック。大グランドミュージカルと変わらない
■ミュージカルとストレートプレイを両方やって、『グレート・ギャツビー』を何とか
■杜(けあき)さんが、「日本の男優がギャツビーをやれるようになったのね」と
■大変でも、面白いことをやりたい。「面白い! 橋爪さんすごい! やりたい!」と
<舞台『謎の変奏曲』>
【東京公演】2017年9月14日(木)~9月24日(日) 世田谷パブリックシアター
【大阪公演】2017年9月30日(土)~10月1日(日) サンケイホールブリーゼ
【新潟公演】2017年10月3日(火) りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場
【福岡公演】2017年10月7日(土)~10月8日(日) 大野城まどかぴあ
http://www.nazono.jp/
<関連リンク>
井上芳雄オフィシャルサイト http://www.grand-arts.com/yi/
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■『謎の変奏曲』は2人でやる演劇のマジック。大グランドミュージカルと変わらない
――楽しみにしているお客様へメッセージをお願いします。
非常に魅力を伝えるのが難しい作品ですが、とにかく最高の戯曲だと思っています。僕はミュージカル出演が多いので、ミュージカルファンのお客様がたくさんいらっしゃいますが、どうしてもミュージカルは見た目も華やかで分かりやすいですし、エンターテイメント感が強いので、楽しくて、分かりやすくて面白いことも多いと思います。ストレートプレイは少しジャンルも違いますし、「難しそうだな」「歌もないんでしょ」という気持ちは僕もよく分かります。
でも、実はこの作品の中に入っている色々な要素というのは、『レ・ミゼラブル』などのミュージカルに入っているものに負けないくらい面白いエンターテイメントだと思います。歌ったり、踊ったりはしませんが、心がどんどん動いたり、驚いたり、悲しくなったり、可哀想になったり、楽しくなったり……そういう意味では本当に大グランドミュージカルと変わらないくらいのものが本の中にあります。それを僕ら2人でやるという所にロマンみたいなもの、演劇の奇跡というかマジックがあると思うので、僕のこの言葉を信じて観に来てほしいです。それくらい自信をもって「すごい」と言えるものですし、女性はもちろん男性が観ても、「これからどう生きていくのか」のヒントがたくさんあると思うので、ぜひ観て頂きたいと思います。
■ミュージカルとストレートプレイを両方やって、『グレート・ギャツビー』を何とか
――『グレート・ギャツビー』が素晴らしくてとても感激しました。
ありがとうございます。
――公演が始まっていかがですか?
公演中も色々な仕事をしていますが、気持ち的には『グレート・ギャツビー』にどっぷり浸かっています。久しぶりに主役という主役を、しかもミュージカルでやらせて頂いています。ミュージカルとしても、宝塚以外でこんなに主役がずっと出ていて、皆が主役を盛り立ててくれる作品は珍しいですよね。久しぶりのような初めてのような、あまりないような作品をやらせて頂いていると思います。
――シングルキャストというのも大きいのではないでしょうか。
大変ですがとてもやりがいがあります。さらに、新作なので色々な反応がありますが、一つ一つが嬉しいです。好きな人がいれば、嫌いな人もいるでしょうし、賛否両論かもしれませんが、「よかった」「感動した」と伺うととても嬉しいです。
――個人的にはアイス・キャッスルを訪れてこれまでの自分に別れを告げる場面で涙が止まらなくなりました。
そういうお話を伺うと、「そうなんだ。何であそこで泣いたんだろう」と、ひとつひとつが新鮮で、とても嬉しいですね。
――ちなみになぜかというと、あそこで舞台には描かれていないギャツビーの過去が井上さんの目線の先に見えたんですよね。
あの場面は新シーンですね。宝塚バージョンにもないシチュエーションだと伺っています。
――最初に拝見したときは、宝塚版と比べて「こういう風になったんだ」という驚きが大きかったですが、2回目に観ると、そういうことを取っ払ってのめり込んで見れました。
特に開幕してすぐ見てくださった方は、宝塚のギャツビーに思い入れがある方が多かったので、どうしても違いが気になったと思いますが、本当におっしゃる通り、作品とギャツビーという人の人生を観てもらえるようになっているのも感じますし、そういう風に楽しんでもらえるのもとても良いと思いますね。
――例えばギャツビーが帰ってきてから苦労しているところが描かれるとか、普通の作品は人間の葛藤を描く作品が多いと思うんです。今回拝見して一番すごいと思ったのは、そういうところが一切出てこなくて、背中で語るとか、歌で1曲だけで表現するというのは、宝塚以外ではあまり観られないだろうと。とても包容力があって新鮮でした。
僕も製作発表で「集大成になればいい」とは言いましたが、深い気持ちがあって言った訳ではなかったんです。ミュージカルから始めて、『エリザベート』のような華やかなものをやりつつ、ストレートプレイもやってきて、どちらかだけでは出来なかったと思っています。小池(修一郎)さんの作る『グレート・ギャツビー』は、やはり元は宝塚ですし、そういう要素も強いです。僕たちは生身の男だから全然違いますが、見せ方として必要とされているのであればもちろん努力します。格好いい要素だけを見せてもダメですし、中身がなければいけない、でもリアルに描いているわけでもない。それを埋められているかは自分では分からないですが、それを加味しながら、少ない台詞の中で醸し出しつつ、歌やダンスナンバーではしっかりと魅せながら。これはミュージカルとストレートプレイを両方ともやってきたから、今何とかやれているのかなと思います。
■杜(けあき)さんが、「日本の男優がギャツビーをやれるようになったのね」と
――ミュージカルのなかに、新ジャンルが出来たんじゃないかと思いました。
杜(けあき)さんもおっしゃっていたんですよ。自分がやった時はまだそういう感じではなかったけれど、日本の男優がギャツビーをやれるようになったのねと。(田代)万里生くんや広瀬(友祐)くんだってスタイルが良くて綺麗ですし、そういう男優が増えてきたというのもあるんじゃないでしょうか。
――描かれている以外の隙間を演じられるようになったというのは、自分で手ごたえはありますか?
実際にどれだけ伝わっているのかは自分では分かりません。でも、割り切ってといったら言葉は悪いかもしれませんが、例えば『謎の変奏曲』だったら緻密に会話で1個1個積み上げていくものもあれば、そうじゃないものがあっていいと思います。作品の作りがどんな形であっても、役として流れているものは変わらないというか。それは難しいことですが、役の人生があることは変わらないので、色々な作品に自分が応えられればいいなと思います。そういう開き直りはあるかもしれないですね。
――ミュージカルとストレートプレイは対極の作品だとおっしゃいましたが、それ程違うものをやって、その経験が繋がっていくという実感はありますか?
確かに『グレート・ギャツビー』をやる中での手ごたえの一つとして、今までやってきたこともあります。作品があって、お客様がいて、一番いい形でお客様に伝えたいだけなんです。『グレート・ギャツビー』でも稽古場で作ったものを日生劇場にもっていった時に、「近くで観たら分かるけれど、日生劇場のサイズになるともっと大きくやった方がいい」と言われた時に自分も何となくそう感じていたんです。具体的に何をどう大きくしたかを説明するのは難しいですが、自分の中には「多分これくらいやった方がいいんじゃないか」「今の感情を3だとすると5くらいにした方がいいんじゃないか」というのは何となくあるんですよね。だから、作品ごとに毎回違いますが、そのメモリを変えたり、基準値を変えるということが作業として必要です。これまでの経験が繋がってきていると思います。
――引き出しがたくさん溜まってきているんですね。
その作品に適したメジャーさえ手に入れば、あとは演出家の言うことに応えていくという作業なので、そういう意味ではやってきたものは無駄じゃないなと思いますね。
――『謎の変奏曲』では、メジャーのミリ単位のところでしょうか。
ミクロ単位かもしれません。
――でも、振り幅が大きくて大変じゃないですか?
どうなんでしょうね(笑)。でも、『グレート・ギャツビー』をやっていて良かったなと思うことは、ミュージカルの良さがあってとても楽しいと思えていることなんですよね。やはり『陥没』やその前からの流れもそうなんですが、お芝居が楽しいと思っていたんです。「ストレートプレイに傾く俳優」ってありがちなんですけれどね(笑)。
――(笑)。
このところ、「お芝居が楽しくなった」という感覚がとてもあったので、ミュージカルに行った時にメジャーが違うからどうかなと思っていました。でも、とても楽しめている自分もいたんです。どちらかというとお芝居への興味が絶えず流れているので、今はミュージカルをやっている最中ですが、芝居が面白くなってきた感覚がずっとというのはあるんですよね。
■大変でも、面白いことをやりたい。「面白い! 橋爪さん、すごい! やりたい!」と
――その思いがなければ、ストレートプレイには取り組んでいないですよね。
「台詞覚えられるかな」とかそういう不安はあります(笑)。「こんなのどうやって覚えるんだ」って(笑)。
――大変そうですが、楽しみですね。
大変じゃないことをやりたいわけじゃなく、面白いことをやりたいです。その結果いつも大変ですが、それは過程が大変なんだからあまり考えないです。「2人芝居は大変そうだな」という考えは全くなく、「面白い! 橋爪さん、すごい! じゃあ、やりたい!」という感じですね。あとは、これは自分だけの話になりますが、「あんな大劇場でミュージカルもやっているのに、こんな緻密なストレートプレイも出来るのね」って言われたい(笑)。
――次回の取材では私もそう言えるように拝見します(笑)。
言わせてしまうという(笑)。もちろん、言われるためにやっていませんが、両方をやっているからこそ、両方とも中途半端になりたくないんです。「ミュージカルの俳優の芝居だね」と言われるのも嫌だし、「最近ストレートもやってるけど、歌がイマイチだね」と言われるのも嫌だから、どちらも全力でやります。
――楽しみにしています。ありがとうございました。
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明日、梅田芸術劇場に「グレートギャッツビー」観劇に行きます。余り予備知識を入れないようにインタビューも帰ってからもう一度じっくり拝見するつもりです。「エリザベート」での鮮烈なデビューが余りに印象深くてわたしの中からなかなか少年のイメージが取れなかったのですが「あしながおじさん」から少しずつ年齢が追いついて来た感じがしてます。「直虎」でも年下の高橋一生さんの弟役でしたね。芳雄さんには「ナイスガイ イン ニューヨーク」みたいな作品にもどんどん出てほしいです。