舞台『謎の変奏曲』に出演される井上芳雄さんの合同インタビューに参加し、一部は個別インタビューをさせていただきました。(上)(下)に分けてお届けします。個別インタビューでお伺いした『グレート・ギャツビー』が開幕してからの思いについては、(下)の有料会員限定部分に掲載しています。ぜひご覧ください。
『謎の変奏曲』は、『エニグマ変奏曲』として1996年にフランス演劇界注目の作家エリック=エマニュエル・シュミット作、アラン・ドロン主演で初演され大好評を博し、以来世界各国で上演されている作品です。2人の男達による会話劇で、1人の女性を中心とした真理ゲームが展開され、衝撃的なクライマックスを迎えます。
――台本を読んでいかがですか?
ポスター撮影前や今日の取材前など、もう何回も読みましたが、読む度にとても面白くて、何回読んでも最後に驚いてしまうくらい新鮮です。
――過去に上演された時も、その都度「絶対ラストだけはどこにも書かないで」と言われる作品で、実際に観た人しか最後が分からないという。
取材泣かせの作品ですよね(笑)。だから、自分の役についても言いにくいです。『謎の変奏曲』というタイトルですから、謎があるのはもちろんですが、ラストを書かないことを守ってもらうに値するよく出来た戯曲だと思いました。
――どんな経緯でこの作品をやることになったんですか?
最初に「こういう面白い戯曲がある」と紹介されて読ませて頂きました。上演についてはわからない状況で、戯曲を読んだらものすごく面白かったんです。こんなに面白いのに僕は知らなかったですし、日本でも何回か上演されていますが、誰もが知っているような作品ではないのが不思議でした。ただ、2人芝居で会話劇というのはハードルが高いというのはあると思います。自分が出来るか出来ないかを別にしても、絶対にやりたいと思った戯曲でした。
――どこにそれ程の面白さを感じますか?
もちろんストーリーの面白さもあると思いますし、何回もどんでん返しがあり、作劇の上手さは絶対にあると思いますが、それは要素の1つだと思います。「愛」「人生」「男」「女」……全てについての話であり、2人の会話の内容がとても魅力的だと思いました。2人芝居で会話劇なので、会話をするしかないんですが、そうなると何を語っているかですよね。ある程度年をとった人と若い人が2人で会話する作品は他にも色々とあると思いますが、いかにそこで何を話しているのかが重要だと思います。この作品の2人はかなり特異な状況にあるので、そこも面白かったですし、全てが面白い本だと思いますね。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、ネタバレにならないように配慮しながら『謎の変奏曲』について語ってくださった内容と、ミュージカルとストレートプレイについてうかがったお話など、インタビュー前半の全文と写真を掲載しています。11日掲載予定のインタビュー「下」では、『グレート・ギャツビー』公演が始まってからの思いなどについて伺ったインタビューの後半の全文を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■問題があるとしたら「井上の演技が……」ということにしかならないと思う
■あまり詳しくは言えないですが、イニシアチブは結構こちらが取るんです
■2人だけの会話劇は、お芝居の一番凝縮した濃い部分で、大変だけど面白い
■お芝居だけやっている時は声が出ないので歌うのは嫌だなと。それくらい違う
<舞台『謎の変奏曲』>
【東京公演】2017年9月14日(木)~9月24日(日) 世田谷パブリックシアター
【大阪公演】2017年9月30日(土)~10月1日(日) サンケイホールブリーゼ
【新潟公演】2017年10月3日(火) りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場
【福岡公演】2017年10月7日(土)~10月8日(日) 大野城まどかぴあ
http://www.nazono.jp/
<関連リンク>
井上芳雄オフィシャルサイト http://www.grand-arts.com/yi/
⇒すべて見る
※井上芳雄さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは7月24日(月)です。(このプレゼントの応募は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
※ここから有料会員限定部分です。
■問題があるとしたら「井上の演技が……」ということにしかならないと思う
――2人芝居の会話劇という点において、新たな井上さんが見られるのはどんな部分だと思いますか?
2人芝居の会話劇は初めてですからそれだけでも新しいですよね。今回ご一緒させて頂くのが、橋爪功さんだというのは大きいと思います。橋爪さんは素晴らしい俳優さんで、誰もが認める大先輩です。さらに、演出の森新太郎さんも初めてですが、何度かちらっとお会いした時に、ご本人はとても穏やかそうな、優しそうな感じを受けました。お2人は同じ劇団で、勝手知ったる仲だと思います。そこに僕が乗り込んで行く感じなので、生きて帰れるかというのはありますね(笑)。
(一同笑)
そこが大きなチャレンジです。僕としてはそれくらいの気持ちで、逃げ道を断って取り組んでいくつもりです。この作品が上手くいくかいかないかは、僕次第だと思います。問題があるとしたら、「井上の演技が……」ということにしかならないと思う(笑)。
(一同笑)
僕は崖っぷちの気持ちでやりたいと思います。そういうチャレンジをする機会を与えてもらえること自体が幸せなことなので、喜んでチャレンジに向かっていきたいです。それくらいの気持ちでやっているという所が見どころになればいいですね。
――森さんの稽古は長いそうですね。
皆さんおっしゃいますよね。僕は稽古はあまり好きではないので(笑)。しかも2人だけで、ずっと出ているから休めないですよね。ただ、橋爪さんも本当は早く終わりたい方だそうなので、みんな疲れるだろうから、あまり長くしないんじゃないかなと期待はしています(笑)。でも、僕自身に関しては、いくらでも稽古をして当然だと思います。
――森さんの演出というのもとても楽しみな要素の一つですが、何かご覧になったものはありますか?
『ビッグ・フェラー』を拝見しました。同じく翻訳劇でしたね。『ビッグ・フェラー』は作品自体が結構骨太なストレートプレイでしたが、それしか観たことがないので、森さんを語れる程ではないのですが、しっかりとお芝居を作ってくださるというのは確実にあると思います。僕が「長い稽古は好きじゃない」というのは、あまり繰り返しやることに慣れていない所があると思うんです。逆に、繰り返しやった時に何が生まれるのか、森さんの稽古方法はそうだと聞いているので、新しい発見があるかもしれないと期待しています。なぜそんなに繰り返すのか知りたいです。
――その答えはこの作品が終わった頃に語れますね。
そうですね! 新しい演出家とやる時は、なぜこんな言い方するのか、なぜこんなやり方するのか、何を大事にしているかはとても気になるので、そういう意味では興味津々ですね。
■あまり詳しくは言えないですが、イニシアチブは結構こちらが取るんです
――今回の共演について、橋爪さんとは何かお話されましたか?
お会いしたことはありましたが、お仕事はポスター撮影が初めてでした。とてもにこやかで、全く偉そうに振舞わない方で、とても素敵な方だなと思いました。もちろん、大ベテランで大俳優なんですが、それを普段全く匂わすことがないんです。でも、橋爪さんは短気なんだと思いますが、「写真が嫌い」と言って5枚くらいしか撮らさない。「あと3枚ね」と言って、カメラマン泣かせでした(笑)。
(一同笑)
でも、しわも含めて彫刻みたいな顔をされているんですね。確かに何枚も撮る必要がないくらいに、顔が物語っているので、その説得力はすごいと思いました。実は橋爪さんの舞台を拝見したことがないんです。だから、すごいとは聞いていますが、正直よく分かっていなくて、怖いもの知らずなところはあります。でも、一緒にやるなら知らない方が幸せかもしれませんし、一緒にやらせてもらう以上にその人のお芝居を知ることはないので楽しみです。たくさん刺激を頂いて、こちらからも橋爪さんに刺激を感じてもらえるものがあればいいですね。とにかく僕は、今回とてもすごい経験をさせてもらえるんだろうなと思っています。
――橋爪さんの別の舞台のインタビューで、「僕は共演者の演技を拾う役に徹する」とおっしゃってたので、今回は井上さんの方から仕掛けていかないといけないのかしらと思っていたんです。
あまり詳しくは言えないですが、どっちかというと役柄的にもそういう役だと思います。橋爪さんは大作家の役なので、大きな声を出したり偉そうにしたりする人物で、僕の方は若くて立場もない役ですが、イニシアチブは結構こちらが取るんです。イニシアチブの取り合いではありますが、橋爪さんの方だけにあるわけではなくて、こちらも理由があって取れます。片方が取るだけでは成立しないので、そこは僕が一生懸命に何かを出していかないといけないですね。何かを出せる自信は今のところ全くありませんが、稽古から新しく生まれてくるものが絶対にあるはずなので、自分に期待しています。
――先ほど「2人だから特異」とおっしゃったのは、今のイニシアチブを両方が取ったり、立場が変わったりというところですか?
ノルウェーが舞台の物語で、ノーベル賞を受賞しているような大作家と、そこに取材にきたしがないジャーナリストという立場から始まるんですが、終わったときにはその2人の関係が全然違うものになるんです。最初は「インタビューをお願いします」というところからはじまりますが、それが思ってもいないような間柄になるという驚きと感動があると思います。でも、僕の役は基本的に変わらなくて、有利な立場にあり、橋爪さんの役の方が変化していきます。もちろんその影響を受けて、自分の役も変えていくとは思いますが。だから、本当に最初の役の設定の印象からは全然違う話ですね。
――そういう心理的なやり取りは、今までにないお芝居になりそうですか?
2人芝居ではないのですが、『負傷者16人』というストレートプレイが、基本的にパン屋の主人とそこで働くテロリストの話でした。そこには血は繋がっていないけれど、親子のような関係が生まれて、とても居合いのシーンも多かったので、それを少し思い出しました。どれだけ台詞の裏にあるものを感じながら、それを出したり、出せなかったりしながらやるかというのはもちろん大変だと思いますが、台本を読んでいると自分の人生や考え方と一緒だと思う部分と、全然違うなと思う部分がたくさんあるんですよね。自分は全て同じ経験をしていないですが、それを活かしながら出来る役じゃないかと思います。年齢も同じぐらいですし、何となく役の設定も自分と似ていると思うので、自分の実技経験が活かせるんじゃないかと思っています。もちろん、橋爪さんも多くのご経験を大いにぶつけて来られると思いますが、舞台上で2人だけで会話をしたことがないので、どういう感じになるのかなと思っています。
■2人だけの会話劇は、お芝居の一番凝縮した濃い部分で、大変だけど面白い
――ストレートプレイにも多く出演されていますが、台詞や会話に対する向かい方はどんどん変わっていくものですか?
僕はお芝居のことがよく分かっていない状態で、ミュージカルから始めて今に至るので、「会話をする」ということがある意味一番難しいと思っています。どちらかというとミュージカルは会話と対極にあるものです。今やっている『グレート・ギャツビー』も、本当に華やかに魅せるところもたくさんありまし、その中でもちろん人間同士で話してはいるけれども、大きな劇場で出来るだけたくさんの人に分かるように表現するという意味では、やはり方法論が全然違います。同じ心の交流ではあるんですが。最初はミュージカルの方が好きでしたし、それが出来れば良かったのですが、そうではないものに挑戦した時に、全然出来なかった。今は全然違うものだと思っていますし、ミュージカルにはミュージカルの、ストレートプレイにはストレートプレイの良さがあります。
2人だけの会話劇は、お芝居の一番凝縮した濃い部分であり、動きや何かで魅せるわけではなく会話だけで魅せるもの。要素が少ないので、突き詰め方がすごい所までいけるんじゃないかと思います。もちろんそれは大変なことだと思いますが、同時に、それ以上にとても面白いことなんじゃないかと最近やっと思えるようになりました。きっと同じことをやっても、橋爪さんは毎回違う何かを投げてくださるだろうし、僕も感じるだろうし、どこにいけるのかは分かりません。もちろん物語は決まっていますが、どんな景色が見えるのか分からないというのは、一番面白いなと思いますね。
――今年から来年にかけて、ほぼミュージカルとストレートプレイが1作おきですが、対極にあるものを交互に取り組んでいくというのはいかがですか? 意図的にそういう配置になっているんですか?
意図的にはなかなか出来ないですね。たまたまこういうラインナップになったのですが、普通はするもんじゃないですね(笑)。
(一同笑)
特にミュージカルは特殊技能が必要だと思います。ストレートプレイをやってからミュージカルにいくと、別世界というか専門職だなと思うんですよね。どちらもそれぞれに魅力的ですが、やっていることは全く違いますし、使う神経も違います。まずそこに慣れることが必要ですね。ミュージカルはずっとやって来ていますが、お芝居の時は演出家によってやり方も全然違いますし、どういう言葉で書かれているのかも色々です。毎回、まず一度途方に暮れるというか(笑)。
(一同笑)
だいたい本読みの後にとても落ち込んで、「絶対こんなものでいいはずがない」とガクッときます。そして、少しずつ立ち稽古をしながら演出家に言われることで、「こっちかな」「こうしたらいいかな」「この人はこれを言っているのかな」「ここを大事にしているのかな」ということを必死に分かっていくんです。ストレートプレイではそれを繰り返しているので、本当に大変ですね。でも、それはミュージカルもストレートプレイも両方をやっている人しか味わえないですから。僕か浦井(健治)君ですね(笑)。浦井健治にだけは負けたくない!「浦井がストレートやるなら、俺もやるよ」って、そういうことではないんですが(笑)。
(一同笑)
■お芝居だけやっている時は声が出ないので歌うのは嫌だなと。それくらい違う
でも、浦井君ともよく「大変だよね」と話すんですよ。僕もお芝居だけやっている時は声が出ないので歌うのは嫌だなと思います。それくらい違うことをやっているんだということですね。
――お互いが刺激になっていいですね。1人で頑張るのは大変でも、浦井さんも頑張っていると思えば(笑)。
「あいつ、またミュージカルをやっているのか」って(笑)。でも、そういう状況になっていることがすごいなと思います。元々ミュージカル俳優である自分たちが色々とやらせてもらえるのは、市村(正親)さんをはじめとする先輩方もいらっしゃるからこそだと思います。ただ毎回思うのは、「これでダメだったら、ここを去るしかない」という切羽詰った感覚はあります。『陥没』の時もやはりそう思いました。シアターコクーンのケラ(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)さんの新作で、一応真ん中に立たせて頂いて、自分が作品の足を引っ張ってしまったら、もうこんな機会は来ないでしょうし。毎回これ以上ない状況で、これがダメだったら諦めようというぐらいの気持ちでやっていますね。
――常にチャレンジを続けているんですね。
それはミュージカルでも同じですね。逆にチャレンジがないものは、気持ちが動かないというところもあります。ドM的な、刺激が欲しいのかも(笑)。再演にはまた違うテーマがあると思いますが、新作に関しては出来上がりが見えなくて、自分も伸るか反るか、そこで得るものが大きいという今までの経験上の教訓があるので、結果そういうラインナップになっているでしょうか。
――ドMだからこその2人芝居ですね。
そうですね。もっとドMだったら1人芝居をするでしょうけどね(笑)。
(一同笑)
――1人だけで背負う、そこを目指すという気持ちは、いずれはありますか?
そうですね……(考え込む)。
――市村さんも、『市村座』をされていらっしゃいます。
すごいですよね。経験として一度やってみたいとは思いますが、やはりお芝居は相手からもらえるものが多いので、その相手がいなくなった時にどうなるんだろうかと思います。僕は歌もやっているので、歌って1人芝居みたいなものなんですよね。そういう意味では同じようなものなのか、やってみたら全然違うのかは分かりません。昔、『ハロルドとモード』というほとんど1人芝居のような作品をやったことがありますが、いつかは1人芝居をやってみたいかもしれないですね。1人で何が生まれるのか経験してみたい。歌だって1人で歌っても感動しますから、きっとお芝居でもそうなんだろうなと思います。
※井上芳雄さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは7月24日(月)です。(このプレゼントの応募は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
井上芳雄さんのミュージカル、演劇に対するブレない芯をとらえ、魅力をぐいっと踏み込んだ質問で引き出していて、読んでいて心地よいです。写真もどれも魅力的かつ幻惑的。
ギャツビーで茶髪でいる井上芳雄さんの貴重な写真とインタヴューだとおもいます。
今後も井上芳雄君に、密着して(笑)ドS的に迫ってください。期待しています。
芳雄さんの二人芝居は初めてなのでどんな掛け合いになるのか、間の空気感や緊張感など今の彼だから体現できる舞台がとても楽しみです。
「謎の変奏曲」は、まだ見たことがないのですが、脚本が面白そうなことや、演出家も出演者も実力者揃いなこともあり、今から楽しみな作品です。
井上さんが挙げられていた「負傷者16人」は、衝撃的な内容にも関わらず、心の奥深くに突き刺さり、今でも時々放映された映像を見返す作品です。それを少し思い出したという表現にも期待が高まります。ラストはどこにも書かないで欲しいという結末がどんなものか、早く劇場で体感したいです。
記事を読みました。芳雄さんの謎の変奏曲に向けての思いとか考えとかを知ることができ、常に新しいことへ挑戦をし続けている姿に尊敬するばかりです。毎回芳雄さんの記事をはじめ楽しみに読ませていただいているのでこれからもよろしくお願いいたします。