2017年11月5日(日)に紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで開幕する、こまつ座第120回記念公演『きらめく星座』に出演する田代万里生さんにインタビューしました。(上)(下)に分けてお届けします。『きらめく星座』は「昭和庶民三部作」第一目で、太平洋戦争前夜の昭和16年12月7日までの約一年を描いた作品です。
軍靴の音が鳴る中、ジャズなどの音楽を響かせる東京・浅草のレコード店の一家を舞台にして、戦争の愚かしさが痛切に浮かび上がります。田代さんは、その一家の長男・正一を演じます。入隊していた陸軍から脱走し、逃げ回りながらも度々家に帰って来ます。
――今、どんな稽古をされていますか?
今日5日目ですが、明日で全幕の立ち稽古が終わりそうですね。
――早いですね!
そうですね。結構早いんですよ。最初の1週間のうちに全体像が1回見えて、そこから細かくやっていくという感じなんです。
――2014年の公演では開幕後に怪我で途中降板されてしまいましたが、もちろん作品内容もよくわかっているうえで、改めて稽古が始まっていかがですか?
3年前に初めてストレートプレイに挑戦しましたが、初めて日本人の役をやらせて頂いたんです。ミュージカル俳優がいない現場も初めてでした。栗山さんの作品は出演したことがありましたが、木場(勝巳)さん以外の皆さんとははじめてご一緒しました。本当に自分の知らない世界の中に飛び込んだ感覚でとても新鮮でした。それから3年経って、色々な作品を経験したうえで戻ってくると、前回とほとんどメンバーが一緒なので、本当にありがたいことに、正一としては役と自分がリンクして、「帰ってきた」という気がするんです。
――なるほど。正一役に改めて向き合ってみて、いかがでしょうか?
戦争を体験したことがない世代なので、分からないことも正直たくさんあります。また、実際に体験しないと、きっと理解出来ないこともあると思います。でも正一は特別な人ではなく、僕と変わりない普通の人だっただろうし、時代に翻弄されながら、必死に考え必死に生きなければならなかったことが、正一のセリフからも強く感じています。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、音楽劇とミュージカルとの音楽の違いや、正一の「歌は活力の源です」という台詞とご自身にとっての歌などについて語ってくださったインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。11月3日掲載予定のインタビュー「下」では、田代さんがゲスト出演された「『井上芳雄 by MYSELF』スペシャルライブ」などについて伺ったインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■音楽が心のより所という意味では、正一と同じような感覚をもっている
■田代万里生が昭和15年の浅草にいたら、どうなっていたのかと考えます
■(脱走兵になった理由は爆発音ですが…)嫌悪感がある音は僕にもあります
■前回は途中で降板してしまったので、身を引き締めて誠実に向き合いたい
<こまつ座 第120回記念公演『きらめく星座』>
【東京公演】2017年11月5日(日)~23日(木・祝) 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
作:井上ひさし、演出:栗山民也
出演:秋山菜津子、山西惇、久保酎吉、田代万里生、木村靖司、後藤浩明、深谷美歩、木場勝己、岩男海史、阿岐之将一
入場料:8,000円(全席指定・税込み) 学生割引5,000円
※上演時間:3時間予定(休憩込み)
公式サイト
http://www.komatsuza.co.jp/
<スペシャルトークショー>
11月 7日(火)13:00公演後 秋山菜津子・山西惇・田代万里生・木村靖司・深谷美歩
11月12日(日)13:00公演後 吉原毅(城南信用金庫 顧問)― 戦争の足音が聞こえる時代に ―
11月16日(木)13:00公演後【井上ひさし誕生日特別トークショー】辻萬長・木場勝己・久保酎吉・後藤浩明
11月21日(火)13:00公演後 いとうせいこう(作家・クリエーター)―「音楽」は「笑い」を連れてくる!―
※アフタートークショーは、開催日以外の『きらめく星座』のチケットをお持ちの方でも入場できます。
(満席になり次第、入場を締め切る場合があります。出演者は都合により変更の可能性あり)
<同時開催『こまつ座のキセキ』>
第120回公演を記念して、こまつ座の33年間の軌跡を秘蔵の資料と共に展示。他では見られない貴重な資料を公開。『きらめく星座』公演期間中、劇場ロビーにて開催。
<関連リンク>
田代万里生オフィシャルWEBサイト Mario’s Toi Toi Toi!
http://fc.horipro.jp/tashiromario/
田代万里生オフィシャルブログ MARIO CAPRICCIO
https://ameblo.jp/mario-capriccio
- 「ミュージカルデビュー10周年、新たな気持ちで」、田代万里生インタビュー(下) 2019年1月8日
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※田代万里生さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは11月16日(木)です。(このプレゼントの応募は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
※ここから有料会員限定部分です。
■音楽が心のより所という意味では、正一と同じような感覚をもっている
――田代さんは普通の人の物語に出演する方が珍しいですよね?
そうですね。どちらかというとミュージカルだと壮大な物語や伝説が多いので、こういう日常的な物語が珍しいですね。音楽的にもそうなんです。クラシックを歌っていると、あまり隣の人に向かって歌うような曲がないんですよね。やはり歌詞ももう少し壮大であったり、喋り言葉ではなかったり、音楽的にも広い空間を想定して書かれたりします。でも、今回の芝居は、今喋っているくらいの距離感のお芝居で、歌も身近ですね。隣の人と一緒に歌う感じだなと強く感じます。
――なるほど。
この作品は音楽劇に近いと思いますが、自分の心情を吐露するようなミュージカルとはやはり違いますね。今、生まれた気持ちを歌詞や音楽に乗せて歌うのではなくて、音楽単品というものが先にあって、それを自分1人で歌ったり、家族で歌ったりすること、この曲を一緒に歌うことで何が生まれるかが、今回の作品とミュージカルとで違うところだと思うので、楽しいですね(笑)。
――楽しいですか(笑)。ある意味「苦しみを歌う」ことはないですもんね。
確かにそうですね。
――どうしてもミュージカルってそういう曲が多いじゃないですか。
激的な感情が多いですよね。
――「今、辛い」みたいなことを歌ったりしますよね。
「悲しいから歌う」や「元気をもらいたいから歌う」。正一自身も音楽に背中を押されて人生を進んでいくんですが、僕もこの作品で音楽が全くないお芝居だったら、物語は素敵だけれど、今の僕にとってもっとハードルは高いんじゃないかと思います。音楽があることで、背中を押してもらえる部分もあります。心のより所という意味では、正一と同じような感覚をもっているんじゃないかと思います。
■田代万里生が昭和15年の浅草にいたら、どうなっていたのかと考えます
――正一は耳が良過ぎるくらい良くて、音楽を仕事にすることを目指していたんですよね。
大学で勉強して、音楽教師や作曲家、指揮者、声楽家やピアニストになっていたかもしれないのに、軍隊に入隊しなくてはいけなくなったという。
――正一について想像出来ることが多いですか?
実際、僕の学生時代の仲間でも、ずっと英才教育でクラシックをやっていたのに、全然違う仕事になる人もいます。
――むしろ戦争で、軍隊へという方がある意味分かりやすいというか。
そうですね。強制力もありますしね。
――そういう意味では色々な想像が膨らむ?
リアルに、田代万里生が昭和15年の浅草にいたら、どうなっていたのかなというのは考えますね。物語に出て来る地名も自分が歩いたことのある街なので、「総武線に乗って、銚子まで逃げて」という部分も、「総武線ってすぐそこじゃないか」とすごくリアルに感じる部分と、「ここでそんなことあったの?」という信じられない気持ちが混在している感じがします。
■(脱走兵になった理由は爆発音ですが…)嫌悪感がある音は僕にもあります
――台本を拝見して、正一の「歌は活力の源です」という台詞がとても印象的でしたが、いかがですか?
「何をのんきに歌ってるんだ」と言われての返答の台詞ですが、栗山さんに「何の疑いもなく、誠実に言って欲しい」と言われたのがすごく印象的でした。レコード屋さんのお話ですし、正一は音楽に対しての絶対的な信頼が強くあって、音楽があるから家族が一つになれることも知っていました。家から離れていても、音楽があってみんなを思い出すんです。何かに辿りつくまでの間に必ず音楽がある人だったと思うので、すごく大事な台詞だなと思います。
――共感度も高いですか?
そうですね。栗山さんの「演出家の仕事」という本を読んだときも、「演出をするときに最初に音から決める」と書かれていて、それがこういう(机を叩く)音なのか、音楽なのか、色々なものがあると思うんですが、そういう意味でも、音や音楽は他のものよりも強いものを伝える力があるのかなと思いますね。
――正一が脱走兵になった理由が爆発音ということですが、それも感覚は分かりますか?
やはり嫌悪感がある音というのが僕にもあります。正一が好きだった音楽というのはそんなに爆音の今のロックみたいな感じではなくて、レコードをかけたり、ピアノを弾いて耳を澄ませて聴くような温かい音楽だったと思います。それなのに砲兵として、自ら爆発音を出さなければいけない状況だと思うので、その辛さは相当なものだと思います。
――ご自身でも何かそういう嫌な音はありますか?
今となってはマイクとスピーカーがあるコンサート会場で歌ったりしていますが、大学2年か3年まではそういうところに行ったことがなかったんですよね。
――生声以外のところに行ったことがない?
映画館はありましたが、初めてミュージカルを観に行ったときや、初めて大きいポップス系のコンサート会場に行ったときに、あまりに音が大きくて頭が痛くなりました。今はもう平気ですが、耳を澄ませて聴くクラシックとは違い、大音量の音圧で強制的に押さえつけられる感じがしたんです。多分正一はそれの何十倍、何百倍の経験だったと思います。
――なるほど。
非日常的な音だったんでしょうね。
■前回は途中で降板してしまったので、身を引き締めて誠実に向き合いたい
――3年経ってこまつ座の作品の世界に帰ってきて、こまつ座の世界観はいかがですか?
あらゆる面で身が引き締まるという言葉に集約されます。3年経ってこの作品の魅力を、前よりももっと感じるところも多くなりましたし、前回は途中で降板してしまったので、今度こそ最後まで正一を全うしたいという気持ちもあります。とにかく身を引き締めて誠実に向き合いたいと思います。
――「前よりももっと感じるところ」というのは具体的に伺えますか?
やはり今回ご一緒している方々の凄さを3年前以上に痛感します。皆さんに比べるとまだまだですが、3年経ったから「自分もここは少しだけでも成長したんじゃないかな」と思うところと、視野が広くなって「まだ全然足元にも及ばないな」と思うところがむしろ前よりも沢山増えたので、もっともっと頑張らなければいけないと思いました。
――足りないと気づくようなところはどこですか?
やはりお芝居ですね。
――それは、逆に前は気づかなかった?
気づいてはいたんですが(笑)。もっともっと深くて、もっともっと先に皆さんが行かれている感じがするので、必死に追いかけていきたいなと思います。
――3年ぶりにご一緒になった皆さんと、そういうお話はされますか?
不思議と僕と皆さんだったり、皆さん同士の会話を聞いていると、先週まで公演をやっていたような雰囲気があって、「久しぶり!」という感じはあまりないんです。みんな「どう? 調子は?」程度には話しますが、あとは何の違和感もなく、すーっと稽古が始まって。みんな染み付いているもの、滲み出るものがあって、立ち稽古ではもう“ふじさん”は“ふじさん”にしか見えないし、“お父さん”は“お父さん”にしか見えないんですよ。不思議な一体感があり、小笠原家とそこに関わる皆さんという世界観は、やはり積み重ねたものが今でも残っているんだなと思いました。
※田代万里生さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは11月16日(木)です。(このプレゼントの応募は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
田代万里生さんの記事(上)(下)とも読み応えたっぷりでした。田代さんファンの私は、まず1枚目の見上げるような笑顔の写真にやられました(笑)岩村さんの記事は、難しい内容でなく、普通の演劇ファンが知りたいことを質問しておられて、また私事ですが年齢的に長文を読むのが少ししんどくなってきたこともあって、テンポよくまとめてくださり、大変読みやすかったです。そして『きらめく星座」だけでなく、つい先日の井上芳雄さんのコンサートのことまで触れて下さり、思い出しながら楽しく読むことができました。普通のビル(?)で撮影したお写真が、普段のお稽古中みたいな雰囲気が感じられて良かったです。そして万里生さんの魅力をたくさん伝えていただきありがとうございました!
きらめく星座の記事、拝見しました。万里生さんの舞台への真摯に取り組む姿に感動しました。3年前は残念ながら事情により、観劇できなかったのですが、お怪我で舞台降板になられ、どんなに悔しかったでしょう。明日から開幕、観劇するのが楽しみです。髪を刈られた万里生さん素敵で、男の色気を感じます。記事のお写真、どれも素敵なカットですね。今日なぜか地下鉄の中で坊主頭の高校生に目がいっていました(^^♪
アイデア ニュース
いつも 拝見させて いただいて
おります。
田代 万里生さんは 歌の とても上手なプリンスのイメージが ありましたが
今回は こまつ座さんの舞台で
体格も 鍛えられた?のでしょうか?
立派な男性に なられていて
魅力的ですね‼︎
こまつ座さんの「きらめく星座」
大好きな舞台ですので
田代さんの 再演で また 拝見出来る事を とても 嬉しく 楽しみに しています。
岩村 美佳さん
素敵な お写真と 田代さんの言葉を
丁寧に 伝えてくださり
ありがとうございました‼︎
田代さんのファンですが、丸坊主頭にはまだ慣れません(笑)でも真摯に向き合っていらっしゃる姿が、役の正一と重なりました。
再演できっと見事に復活されていらっしゃるであろう姿を早く拝見したいです。
この記事を読むと、音に対するお話が初めて伺うので、大変興味深かったです。 貴重なインタビューをありがとうございました。