「独特な和声が油絵のように」、『ラブ・ネバー・ダイ』田代万里生インタビュー(上)

田代万里生さん=撮影・岩村美佳

2019年1月15日(火)から日生劇場で上演されるミュージカル『ラブ・ネバー・ダイ』で、ラウル・シャニュイ子爵役を演じる田代万里生さんにインタビューしました(小野田龍之介さんとダブルキャスト)。2018年11月下旬に行われた製作発表の日にお伺いしたお話です。田代さんは5年前の日本初演に続いて再びラウル役で出演されます。作品について、共演者の印象などについて伺いました。

田代万里生さん=撮影・岩村美佳

田代万里生さん=撮影・岩村美佳

――製作発表を終えられて、作品に取り組むにあたり、率直なお気持ちはいかがですか?

5年ぶりの再演ですが、新しいキャストも加わって新鮮さもありつつ、クリスティーヌは前回と同じおふたりなので、安心感や安定感があります。この5年の間に、ほかの作品でお会いしたり、お互いの舞台を観たりする中で、役者としての繋がりがずっとありましたし、その絆ももちろん5年経って深まっているので、夫婦感や家族感がさらに深まると思います。前回は「奥さん役、旦那さん役なんだな」と意識するところから始まりましたが、今回はすっと地に足がついた感じで始まるのはいいなと。新しくラウル役に加わる小野田くんが新しい風を吹かせてくれて、きっとそこから気づくこともあると思うので、すごく楽しみです。

――再びこの作品に取り組むというのは、ご気分的にどうなんでしょう?

セットや衣装、音楽が素晴らしいのはもちろんですが、初演のときに(アンドリュー・)ロイド=ウェバーさんが日生劇場にいらっしゃったことが何よりの思い出です。成田からヘリコプターで日比谷にいらしたんですが、これは本当に衝撃でした。あのロイド=ウェバーさんが日本にまで来て、場当たりやゲネプロをチェックし、一夜で突然オーケストラスコアを書き換え日本初演を開幕させた現場に、僕もラウルとして携わることができた!というのは、きっと孫の代まで自慢するでしょう(笑)。歴史的にみても、昔だったらモーツァルトさんに会えた!というくらいの方だと思うんです。そういう本当のレジェンドが『生きた音楽』としてこの作品を解している最中なんだと感動したのが5年前。今回は念願の再挑戦となります。

――日本にロイド=ウェバーさんがいらっしゃるって凄いことですよね。

本当に実在したんだ!という感動でした(笑)。

――田代さんは知識が豊富でいらっしゃるので、また知識を分けて頂こうという気持ちで取材に伺うんですが(笑)。

いやいや(笑)。

――ロイド=ウェバーさんの音楽について、田代さんの思いをぜひお聞かせください。

僕は、『ウーマン・イン・ホワイト』『サンセット大通り』『ラブ・ネバー・ダイ』の3作品に出演させて頂きました。コンサートでは他の作品も歌わせて頂いていますが、やはりこの3作品はとても貴重な体験でした。もちろん美しいメロディが沢山ありますが、オーケストレーションが明らかにほかの作曲家と違うんです。「この唯一無二なオーケストラアレンジがあってこその、このフレーズ」というスコアが随所に見受けられます。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、アンドリュー・ロイド=ウェバーさんの曲の特徴について、前回初めて父親役を担当してからの変化、共演するみなさんについて伺ったインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。1月8 日(火)掲載予定のインタビュー「下」では、2019年がミュージカルデビュー10周年となることや、『ジキル&ハイド』『きらめく星座』『マリー・アントワネット』など最近の出演作について語ってくださったインタビュー後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

ウェバーさんの曲は、不協和音的なものを不協和音として使わない

『エリザベート』などで経験した父親役。ラウル役も、よりリアルに

市村さんと石丸さんの「君の歌をもう一度」、それぞれの静かなる火花が

濱田さんと平原さんは、ステージに立つまで分からない。全くの別人になる

<ミュージカル『ラブ・ネバー・ダイ』>
【東京公演】2019年1月15日(火)~2月26日(火) 日生劇場
公式サイト
http://hpot.jp/stage/loveneverdies2019

<関連リンク>
田代万里生 オフィシャルWEBサイト
http://fc.horipro.jp/tashiromario/
田代万里生 オフィシャルブログ
https://ameblo.jp/mario-capriccio/

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田代万里生さん=撮影・岩村美佳

田代万里生さん=撮影・岩村美佳

※ここから有料会員限定部分です。

ウェバーさんの曲は、不協和音的なものを不協和音として使わない

たとえば、ワイルドホーンさんはポップスのアプローチからクラシカルな要素を使う。リーヴァイさんは比較的ビートのある中でクラシカルのアプローチを入れ、作品中に必ずロックも多用する。一方、ロイド=ウェバーさんも『ジーザス・クライスト・スーパースター』などの超ロックな作品もありますが、その中でも僕が携わった3作品は断トツにクラシカルな作品なので、メロディだけではなく、壮大なフレーズ感と独特な和声の中での音楽がたまりません。特にラブネバには、「美の真実」という、ファントムが10歳の男の子グスタフに、本当の美しさとは何か見せてやろう!と歌うナンバーがありますが、その美しいメロディは常に濁っているんですよね。他にも美しい旋律の曲がありますが、その裏の和声はドロドロしていることが多い。常に色んな色の泥水のような、油絵のようなイメージがあるんです。すごく単調な音を繰り返し跳躍させ、わざとそこにぶつかる音を強引に挿入したり。分かりやすくいえば、不協和音的なものを、不協和音としては使わない。音楽の可能性の全てを使っているんですよね。まさに美の真実。そこが明らかにほかの作曲家とは違うかなと思います。

――譜面を見ていると、おもしろいですか?

特にオーケストラスコアが興味深いです。コンサートによっては『サンセット大通り』や『ラブ・ネバー・ダイ』など、元のオーケストラスコアからそのコンサートの編成に合わせた新たなアレンジを僕も介入させて頂いて作ったこともありますが、やはりロイド=ウェバーさんのナンバーをやるときは、一番力が入りますね。

――その音楽をアレンジするって、きっと大変ですよね。

やはり現代ミュージカルなので、クラシカルな作品でも、エレキギターやベース、シンセサイザーなど、 電子音楽ありきで作曲されています。一方、80人〜120人の生の大編成オーケストラでコンサートをする場合は、その電子音楽部分も全て生の楽器で代用するため、オリジナルとは違うアプローチがアレンジ的に必要になります。元のオーケストラスコアをそのまま生楽器で演奏しても、本来必要なサウンドは全く再現出来ないんです。大編成オーケストラ用の新たなアレンジにより、楽曲が新たな魅力を生み出すこともあるので、この作業は本当に楽しいです。

――『ラブ・ネバー・ダイ』は、ロイド=ウェバーさんの作品の中でも重たく、少しどろっとした感じがしますよね。

シリアスなものなんですよね。シリアスになると、クラシカルになる傾向が多いので、そういう意味では僕のルーツが活かせる作品ですね。

田代万里生さん=撮影・岩村美佳

田代万里生さん=撮影・岩村美佳

『エリザベート』などで経験した父親役。ラウル役も、よりリアルに

――ラウル役にフォーカスしてお話を伺いたいんですが、初演のときに感じていたラウルと、再び取り組むラウルに違いはありますか?

前回は父親の役が初めてだったので、はじめは未知な世界でした。『エリザベート』などで父親役をやらせて頂いたり、僕の同世代には「2人目が生まれた」という人も沢山います。息子のグスタフ役が10歳なので、僕の息子だといっても全くおかしくない年齢。父親役として違和感なく、「本当にいたらこんな感じなんだろうな」という感覚は前回よりもリアルに感じています。あとは、今回のラウルは屈折してお酒とギャンブルにハマって落ちぶれていますが、5年前に比べて僕自身も、量はそれほど多くありませんが、お酒を飲むようになりました。 飲み歩くよりは、自宅が好きです。

――そうなんですか(笑)。

ラウルがバーで飲んでいるようなウイスキーもストレートで飲めるようになったので、飲み方や味わい方は、初演時より日常的に感じています。ラウルのように、自暴自棄になって飲んだくれたりは全く経験がないですが(笑)。

――それはちょっと想像できないです(笑)。

年齢を重ねると、色々な壁にぶち当たったり、嫌なことがあったりという人生経験が多くなってきますよね。そういう屈折した役や弱さを見せる役は、年齢を重ねると全然景色が違うんだなと、今回のラウルのバーのシーンでは感じています。

――ラウルはこの作品の中で何歳設定ですか?

台本に記載されているわけではありませんが、演出家のサイモンさんによれば、『オペラ座の怪人』ではクリスティーヌが16歳、ラウルは20代前半。今回はその10年後ですから、ラウルは30代の前半。もしかしたら今の僕よりラブネバ のラウルの方が若いのかも!? でも、時代も違いますし国も違うから、精神年齢的にはまだラウルが上なのかな(笑)。

田代万里生さん=撮影・岩村美佳

田代万里生さん=撮影・岩村美佳

市村さんと石丸さんの「君の歌をもう一度」、静かなる火花が

――共演者の皆様についてはいかがですか?

まず、市村(正親)さん、石丸(幹二)さん、お二人とご一緒するのが嬉しいです。

――再び対決する市村さんと、新たに対決する石丸さんについて、お二人と製作発表でご一緒されていかがでしたか?

「君の歌をもう一度」をお二人で歌われましたが、それぞれの静かなる火花を強く感じました。

――デュエットではないにしても、あんなに揃わないのは珍しいなと思いました。

もちろん正解はなく、一緒に歌っているからといって安易に揃えようとはせず、既に確固たるそれぞれのファントム魂を感じました。初代ファントムの市村さんはミステリアスな中でのジリジリした気迫が凄まじく、石丸さんはジェントルマンですごく冷静な中に、随所に力強く鬼気迫るものがあります。全く異なる新たなファントムが誕生しそうです。

――石丸さんは今回が初めてのファントム役になりますね。

僕は石丸さんのラウルも拝見しています。まだ僕は大学生だったんですが、知人に連れていって頂いて、終演後に握手して頂きました。まだラウルの燕尾服の衣装のままでお会いすることができて、はっきり覚えています。それを経てファントムになられている石丸さんと一緒に、僕がラウルをやるというのは、すごく感慨深いですね。

田代万里生さん=撮影・岩村美佳

田代万里生さん=撮影・岩村美佳

濱田さんと平原さんは、ステージに立つまで分からない。全くの別人になる

――クリスティーヌの濱田(めぐみ)さんと、平原(綾香)さんはいかがですか?

クリスティーヌもまた全然違う(笑)。

――前回お二人と組んでみて、いかがでしたか?

綾香ちゃんは初演がミュージカルデビューだったので、「えーと、何が分からないのかが分からないです!」と製作発表でお話しされていた頃に比べると、今回のどっしりとした佇まいに明らかに貫禄を感じます。もちろん、元々アーティストとしての貫禄はありますが、役者としての貫禄が5年物ではなくて、重厚な30年物くらいの感じ! 一方濱田さんは、年々ピュアになっていく感じがするんです。どんどん削ぎ落としてピュアになっていく。その交差がすごくおもしろいなと。

――じゃあ、もしかしたら前回と逆の印象を受ける可能性があるかもしれないですね。

ありえるかもしれないですね。でも、お二人ともステージに立つまで分からないんですよ。稽古場と全然違うんです。稽古場でも完成しているんですが、やはり衣装を着て、メイクをして、照明が当たって、オケが鳴って始まったら、全然別人になるくらい化けてしまうお二人なので。稽古場で馴染ませつつもステージで新鮮に、初めて聞く言葉、初めて一緒に共有する時間だと思って舞台に立てる感じですね。

――じゃあ、毎回が新鮮ですね。

そうですね。

田代万里生さん=撮影・岩村美佳

田代万里生さん=撮影・岩村美佳

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“「独特な和声が油絵のように」、『ラブ・ネバー・ダイ』田代万里生インタビュー(上)” への 12 件のフィードバック

  1. みー より:

    「美の真実」やスコアなど音楽についての詳しい話や、お酒、共演者についての話など踏み込んだ内容で興味深く読ませて頂きました。一番最初の横顔のお写真が特に好きです。お人柄が自然に現れている気がしました。

  2. 水車小屋 より:

    有料会員になり、読めなかった記事を拝見し、内容の濃さに感激です。
    万里生さんは本当に知識が豊富で、感性の鋭い方ですね、他の方もおっしゃていましたが、ラブネバの製作発表での市村さんと石丸さんのデュエットでの違和感は私も感じていましたが、万里生さんのお話で「なるほど!」と納得させられました。
    これからも、楽しみに読ませて頂きます。

  3. ユミ より:

    音楽的な知識はないのですが、ロイド=ウェバーの曲の壮大さは感覚でわかります。万里生くんのクラシックな特長が生かされる曲なのでとても楽しみです。

  4. ringring@ より:

    他のニュースと違った切り口のインタビューをいつも楽しみにしています。俳優さんたちの本音を引き出すのが上手なんでしょうね。「君の歌をもう一度」:お二人の歌唱がそろってなかったのが気になっていたので、田代さんのコメントを見てスッキリしました。今回初ラブネバ観劇しますので、ますます期待が高まります。

  5. まゆ より:

    いつも素敵な記事をありがとうございます。
    万里生さんのお話は、本当に興味深く勉強になることばかりです。
    爽やかで優しい万里生さんがどんなラウルを創られるのか楽しみです。
    また、次の作品でも万里生さんの取材を宜しくお願いします。

  6. のこ より:

    岩村さんの記事、いつも色々なお話を引き出してくださっていて、とても読み応えがあり、楽しく拝読いたしました。
    お写真も素敵です。

  7. しばぬこ より:

    田代さんならではの視点の記事、読み応えがありました。薀蓄王と呼ばれる程の演目研究や音楽の知識がきちんと結実する田代さんの役作りがとても好きです。ラブネバ楽しみにしています!

  8. けいたりん より:

    再演を楽しみに待っていました。運良くチケット取れたのでダブル違いで2度ほど通う予定です。
    田代さんのお話はいつも興味深く、作曲家の方に対しての深い洞察力に感心しました。素敵なお写真もありがとうございます。

  9. かすみ より:

    田代万里生さんに聞きたい所を詳しく聞いて下さってありがとうございます。見所聴きどころ満載のラブネバーダイ 、ますます楽しみになってきました。

  10. のえる より:

    5年前にも拝見しておりますが…開幕が益々楽しみになるような素敵な記事でした。このようなお話を知ったうえで観ると、また印象が違うかもしれませんね。写真もステキです!製作発表の日は、暗くてよく見えなかったので嬉しいです。また次回の記事も楽しみにしています。

  11. 永遠の乙女 より:

    アイデアニュース様&岩村美佳様
    毎回 興味深く 読ませて
    いただいて おります。
    待ちに待った
    「ラブネバーダイ 」の 再演が
    益々 楽しみに なる 素敵な
    インタビュー記事と 素敵な
    フォトを ありがとうございました‼︎

  12. やっちん より:

    マリーアントワネットで初めて田代万里生さんを拝見し、やはり歌声が素晴らしい!と言う感想でした。こちらの作品は残念ながら日程が合わず、観劇する事はできませんが、世界観や音楽観を知る事ができて嬉しいです。
    本当に観たかったので残念です。

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