「演じることで切れそうな糸をつなぎとめる」、『恋とボルバキア』小野さやか監督インタビュー(上)

小野さやかさん=撮影・伊藤華織

新作ドキュメンタリー映画『恋とボルバキア』が全国で順次公開されているなか、監督の小野さやかさんのインタビューを2回に分けてお届けします。(上)では、作品全体の構想や、「演じ合うことは愛すること」というキーワード、さらに撮影方法について聞きました。

小野さやかさん=撮影・伊藤華織

小野さやかさん=撮影・伊藤華織

——この作品を見た一番の感想は、LGBTQという要素を社会問題として強調するのではなく、撮影対象の方々の恋愛や家族にまつわる苦悩や喜びという普遍的な視点を打ち出していることの新鮮さでした。この方向性は、どのようにして定まったのでしょうか?

出演者たちに対してLGBTQというカテゴライズをしないことは、映画にする最初の段階で、ある程度決めていました。(映画の元になった)テレビ番組の時には、「女装」をテーマにした企画書を書く必要があったので、出演者の方々もタイプ別に割り振っていました。でも、テレビ番組を作った後も撮影を続けていくなかで、みんな「女装」という枠に収まらなくなっていったんです。当初は社会的にも「女装」がブームでしたが、徐々に空気が変わっていって、代わりにLGBTQという言葉が広まるようになっていきました。でも、その言葉を出演者たちに当てはめようとするとしっくりこなかったんです。

——小野監督が出演者の方々と親しくなったことで、そうしたカテゴリで判断することに違和感を持つようになったということですか?

映画って、イメージや感情を言葉で整理して計算的に作っていくものだと思っていますが、今回の出演者たちのことはうまく言語化できなかったんです。とくに、LGBTQという要素を図鑑のようにして並べるつもりはありませんでした。

みんな撮影対象として、こだわって選んでいる方々なのですが、実際のところ、安易には言語化できない要素もありました。たとえば、出演者の王子は東京での劇場公開が終わった後、自身がクラインフェルター症候群であることを公表しましたが、映画の中ではそれに触れていません。王子自身が公にする覚悟を持つまでは、その言葉だけが一人歩きすることを避けたかったからです。

——出演者の方々はこだわって選んだということですが、その決め手になったのはどういう点だったのですか?

多くの女装者たちは自分の美しさを見て欲しいというアピールをするのですが、出演してもらった人たちは「女装」をツールにして、自分のためだけではない居場所を作っている側でした。ドキュメンタリーを撮るには「場」が大事なので、彼ら/彼女らの「場」を借りることで、自由な表現ができるのではないかと考えました。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、撮影開始から3年くらい経ったころに、いろいろな問題が起きて出演NGになった方があり、一時は映画にならないんじゃないかとも思ったという今回の映画製作の状況などについて話してくださったインタビュー前半の詳細と写真を掲載しています。6日掲載予定のインタビュー「下」では、出演者との具体的な関係性や、制作を支えた動機とその価値観の変化、さらに今後の計画などについて伺ったインタビューの後半の詳細を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■もう映画にならないんじゃないかとも思いました

■「演じ合うことは愛すること」という言葉の意味は……

■出演者たちとディスカッションを重ねる撮影方法

こちらは公式ページに掲載されている予告編動画です。

<映画『恋とボルバキア』>2018年4月5日以降の上映劇場
【京都】3月17日(土)~終映未定 出町座
【新潟】3月31日(土)~4月6日(金) シネ・ウインド
【北海道】4月6日(金) シアターキノ
【兵庫】5月26日(土)~6月8日(金) 元町映画館
【福岡】6月12日(火) KBCシネマ1・2
劇場情報はこちらでご確認下さい
http://koi-wol.com/theater/

<関連リンク>
映画『恋とボルバキア』公式サイト
http://koi-wol.com/
映画『恋とボルバキア』公式ツイッター
https://twitter.com/koi_wol
小野さやかブログ「Blue Berry Bird」
http://sayaka-ono.jugem.jp/
小野さやかツイッター
https://twitter.com/ducklingahiru

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映画『恋とボルバキア』より=(C)2017「恋とボルバキア」製作委員会

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■もう映画にならないんじゃないかとも思いました

——ただ、そんな中でも出演NGになった方もいて、撮影終盤で作品全体の構想を練り直したそうですね?

魅夜さんの恋人で性同一性障害の方がいて、タイで性転換手術をするシーンを撮影していました。それも含めて仮編集の段階まで進んでいたところで、魅夜さんとの間で経営方針に対する行き違いが起き、お店も閉店することになり、関係性のもつれで出演自体が難しくなってしまったんです。

撮影開始から3年くらい経っていて、作品としての骨格が失われてしまった感じで、もう映画にならないんじゃないかとも思いました。でも、そこから1年かけて、はずみと樹里杏のパートを撮り足して完成させました。実は、はずみもベトナムへ移住する計画があって撮影していたのですが、取りやめになってしまって、1年後に樹里杏を紹介されたんです。

——樹里杏さんは終盤になって撮り足されたとのことですが、そうとは思えないほど、作品の中で比重が大きいのはなぜでしょうか?

それは、樹里杏とはずみの関係が特別なものだったからだと思います。樹里杏はレズビアンであることを完全には家族に受け入れてもらえていませんし、はずみは自分のセクシュアリティを家族にカミングアウトしていません。そういう辛い状況の中で、お互いがかけがえのない存在になっていました。今回の撮影を通して、二人の覚悟を見せてくれたのだと思います。

映画『恋とボルバキア』より=(C)2017「恋とボルバキア」製作委員会

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■「演じ合うことは愛すること」という言葉の意味は……

——小野監督はこの作品について「演じ合うことは愛すること」というキーワードを掲げていますが、一般的にドキュメンタリーといえば「ありのまま」を撮ることが重視されるように思います。あえて「演じる」ことにフォーカスしたのは、どのような経緯だったのですか?

今回の出演者たちは、セクシュアリティというとても傷つきやすい部分を見せてくれているので、こちらが何かを無理強いして撮影したり、勝手な視点で切り取ったりするのは違うのではないかと考えました。だから、「演じ合うことは愛すること」という言葉の意味は、表現したい性、相手が求めてくる性、自分がなりたい性、持って生まれた性……いろいろなものが複雑に絡み合って何かの答えが出るのなら、何でもいいのではないかということなんです。

劇場公開をしながら考えていたのは、自分の父親や兄弟や近しい存在がカツラをかぶって女性の恰好をして現れた時に、それを普通に受け止められる人っているのかな、ということです。まず「なんで?」と聞いてしまうし、違和感を持ってしまうと思います。でも、相手がそうしたいと言った場合に、相手に合わせて自分の方が演じられるかということがとても重要になってきます。「演じる」という行為は後ろ向きにとられやすいのですが、そうではなくて、他者との関係の切れそうな糸をつなぎとめるための役割を指しています。

映画『恋とボルバキア』より=(C)2017「恋とボルバキア」製作委員会

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■出演者たちとディスカッションを重ねる撮影方法

——この作品の出演者の方々は、意識的な自己演出に長けているタイプだと思いますが、あゆさんのアイドル計画や、はずみさんと樹里杏さんの指輪交換など、撮影のために小野監督から提案したシーンも多かったそうですね。そういう提案はスムーズに受け入れてもらえたのでしょうか?

たしかに撮影自体は私から提案しましたが、その核心となる思いは出演者たちの中に元々あるものでした。たとえば、あゆちゃんは人前で歌ってみたいという思いを持っていたし、はずみと樹里杏はクリスマスに指輪を交換する予定だったんです。この作品は全体的にそういう撮影方法なのですが、理由はいろいろあります。まず、予算の関係でカメラを自分一人で回さなければいけなかったので、撮るものを事前に共有しておかないと撮れないという事情がありました。そして出演者たちの性格も、やりたいこととやりたくないことがはっきりしていたので、じゃあどういう方向なら良いの?というディスカッションを重ねていくことになったんです。

誰だって撮影されることはストレスになりますが、普通の女性以上に美しくありたいと思っている人たちなので、見せたい自分を作るためにお金も時間もかけています。撮影する私の方も、それに見合うだけのパワーで返さないといけないという思いは持っていました。

小野さやかさん=撮影・伊藤華織

小野さやかさん=撮影・伊藤華織

(下に続く)

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