「イレーヌは家族をホロコーストで亡くし…」、西村由紀江インタビュー(下)

西村由紀江さん=撮影・米満ゆうこ

5月26日(土)と27日(日)、奈良の「DMG MORI やまと郡山城ホール 大ホール」で開かれるコンサート、『ならピ♪』のDAY1に出演する西村由紀江さんのインタビュー後半です。ルノワールの絵画「可愛いイレーヌ」のモデルとなったイレーヌの激動の人生や、西村さんがプロデュースを手掛けたアルバム「至上の印象派~BEST SELECTION」、震災を経て生き残ったピアノなどについて語ってくれました。

西村由紀江さん=撮影・米満ゆうこ

西村由紀江さん=撮影・米満ゆうこ

■ユダヤ人だったイレーヌは、妹と娘さんをホロコーストで亡くし…

――絵のモデルで実在人物でもあるイレーヌは、波乱万丈の人生を歩んだそうですね。

彼女はお金持ちの貴族の家に生まれたんですが、ユダヤ人だったために、妹と娘さんをホロコーストで亡くしているんです。作品自体もナチスに奪われて行方不明になり、彼女が74歳のときにやっと手元に戻ってきたそうです。そのストーリーを知ったときに、哀愁のある少女の瞳と重なって、曲が浮かんできました。美しくて清らかなメロディを作りたいと思っていたんですが、波乱万丈の物語を知って、ドラマチックな曲の構成に変わりました。イレーヌの激動の人生を、自分なりに想像しながら作りました。

――子どものころ見ていて好きだった絵が、こうやって作品に繋がるなんてすてきなことですね。

まさか、憧れていて、夢の世界だった絵のために曲を書かせてもらって、それがCDになるなんて。ご褒美ですね。『ならピ♪』でも、絵と一緒に音楽を楽しんでいただきたいと思っていますので、スクリーンに「可愛いイレーヌ」の絵を映しながら、オーケストラと演奏する予定です。

――曲を作っているときは、本物の絵はまだご覧になられていなかったのですか。

見ていなかったですね。でも、図録をピアノの譜面台に立てかけてずっと眺めていると、次のメロディ、その次のメロディとドンドン曲が浮かんできたんです。はじめのきれいな旋律から、ちょっとマイナーになって、激動に巻き込まれていく。そして最後に、自分のところへ戻ってきて穏やかに終わる。

■癒やしで終わるのではなく、語りかけられるような存在感のある曲を作りたい

――その後、本物の絵と対面されました。いかがでしたか。

ありきたりですが、何て透明感があって美しいんだろうと。レプリカの絵を美しいと思って見ていた時間が40年ぐらいあるわけですから(笑)。実物は、肌の透明感や血色の良さがすごくて、髪の毛なんて、振るとワサワサと音がしそうなんです(笑)。そして、迫力がある。きれいで静かだけではなくて、本物は迫力があるんです。絵が語りかけてくるのをすごく感じました。私の曲は、癒やしと言ってくださる方が多いんですけれど、癒やしで終わるのではなく、聴く人に語りかけられるような存在感のある曲を作りたいと思いました。本物というのは、そういうことなんだと。自分とも重ね合わすことができましたね。美術館の中で、イレーヌのいる部屋に入ると、遠くからでもすごいオーラを感じるんです。決して大きい絵ではないんですが、大きな美術館の中で見ても、それはすごい迫力でした。

――美しさの中に悲しみをたたえた曲「少女がみたもの」とまさにピッタリなのでしょうね。

絵に対峙したときは、「ありがとう」の一言でした。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、震災を経て生き残ったピアノのことなど、インタビュー後半の全文と写真を掲載しています。

<有料会員限定部分の小見出し>

■チューブ式の絵具ができて印象派の絵は野外で描かれ、音楽も新しくなった

■子どものころから妄想して曲を作っていた。それが、今、生かされていますね(笑)

■被災地にピアノを届ける活動。ピアノは家族と同じぐらい大事だったと再確認できる

■怒られながら習い、審査されて弾いてきたピアノ。今はピアノを弾くのが楽しい

<第6回『ならピ♪』Nara Piano Friends>
【奈良公演】Day1 2018年5月26日(土)午後4時開演 DMG MORI やまと郡山城ホール 大ホール
出演:西村由紀江、伍芳(ウー・ファン)、小林愛実、大塚愛
【奈良公演】Day2 2018年5月27日(日)午後2時開演 DMG MORI やまと郡山城ホール 大ホール
出演:アリス=紗良・オット

<公式サイト>
mbs公演ページ
http://www.mbs.jp/event/narapi/
mbs公演詳細ページ
http://www.mbs.jp/event/narapi/#day01_bgbg

<関連リンク>
キョードー大阪第6回『ならピ♪』Nara Piano Friends Day 1 のページ
http://www.kyodo-osaka.co.jp/schedule/E020045-1.html

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西村由紀江さん=撮影・米満ゆうこ

西村由紀江さん=撮影・米満ゆうこ

※ここから有料会員限定部分です。

■チューブ式の絵具ができて印象派の絵は野外で描かれ、音楽も新しくなった

――プロデュースされたアルバム「至上の印象派~BEST SELECTION」は、西村さんをはじめ、葉加瀬太郎さん、古澤巌さん、高嶋ちさ子さんらが参加されています。

皆さん、百戦錬磨で色んな曲を演奏されている方たちばかりで、印象派の曲をほかのCDでも録音されているんです。それを全部聞かせてもらって、今回の美術展に合う曲を選んだり、曲順を考えたりしました。

――私は葉加瀬さんと古澤さんが奏でる「ヌーヴェル・ヴァーグ・デュ・スィング」が面白かったです。プッチーニのオペラ「トゥーランドット」の「誰も寝てはならぬ」をジャズでアレンジし、思い切りスイングされています。

あの曲は葉加瀬さんと古澤さんの遊び心がいっぱいなので、あえてアルバムに入れたかったんです。今回、プロデュースする上で心がけたのは、印象派の楽曲をアレンジされたものばかりにすると、それはちょっと違うとなってしまう。王道で楽しんでいただける部分もちゃんと作って、こんな楽しみ方もあるよという曲も入れたかったんです。あの曲は本当にお二人らしい。「ちょいワルオヤジの遊び心」みたいですよね(笑)。私は二人と親しくさせてもらっているので、ウインクしながら弾いているような表情が浮かんできますね(笑)。

――展覧会に行くと、アルバムの曲が聴けるのでしょうか。

私の「少女がみたもの」は、イレーヌの生涯をVTRでまとめてお見せする部屋があるんです。そこで流れています。

――印象派の曲は、印象派の絵と本当によく合いますね。

バロック時代の絵具はその場で混ぜて、持ち歩きができなかったそうです。長い間置いていると絵具が変質するから、皆、室内で絵を描いていた。印象派になると、チューブ式の絵具が初めてできて、その絵具を持って、皆こぞって野外で描くようになったんです。だから印象派の絵は「光と影」で、光をよく取り入れていると言われるんですね。音楽も共通点があって、バロック時代の形式的な音楽から、型を破った新しい音楽を模索したいと思った人たちが、印象派のドビュッシーやラベルなんです。新しいものをやろうという気概に満ちている。それが絵と音楽の相性の良さに繋がるんだと思います。

西村由紀江さん=撮影・米満ゆうこ

西村由紀江さん=撮影・米満ゆうこ

■子どものころから妄想して曲を作っていた。それが、今、生かされていますね(笑)

――西村さんは以前、「すてきな絵を見ると、メロディが自然に降りてくる。それを日記のようにつけている」とおっしゃっていました。昔から絵画と相通じるところがあるのでしょうね。

私、妄想癖があるんです(笑)。子どものころ、あまり友達がいなかったこともあって、本を読んだら本のイメージで曲を作る。見た絵から作るなど、子どものころから妄想して曲を作っていたんです。それが、今、生かされていますね(笑)。

――アーティストの皆さんは、妄想癖がある人が多いですよね。

妄想がいかに豊かに膨らむかでメロディが書けると思っています。直さなくてもいいのかなと(笑)。夢を見ていても、とんでもないことがいっぱい起こるんですよ(笑)。あまりにもすごい夢は書き留めていますし、それで映画が一本できそうなぐらいです。

――先ほど「聴く人に語りかけられるような存在感のある曲を作りたい」とおっしゃったように、妄想癖も「何かを語りたい」という思いが強いからなのでしょうね。

そうかもしれないですね。外に出すことで、自分を確認しているところがあるのかもしれませんね、アーティストは。

西村由紀江さん=撮影・米満ゆうこ

西村由紀江さん=撮影・米満ゆうこ

■被災地にピアノを届ける活動。ピアノは家族と同じぐらい大事だったと再確認できる

――ここで、西村さんが活動されている「スマイルピアノ500」についてうかがいます。東日本大震災で500台ものピアノが失われたため、全国の使われていないピアノを譲ってもらい、調律し、被災地に届けるというプロジェクトです。現地で演奏もされます。今年3月には岩手県大槌町に行かれ、51台目のピアノが被災者に届けられました。

来月、また大槌町に行く予定です。大槌町文化交流センター(愛称:おしゃっち)が6月10日にオープンするんですが、私や、佐渡裕さん&スーパーキッズ・オーケストラなどが出演してコンサートを開きます。とても楽しみですね。

――過去には、阪神淡路大震災を経て、東日本大震災の被災地に届けられたピアノがあったそうですね。二つの震災を経て、生き残ったピアノです。

そういうピアノは音色が強いんです。音楽教室の先生にお届けする機会が多いんですが、ピアノの物語を知った上で弾くから、どの生徒も真面目に練習するそうです(笑)。生命力の強さは子どもたちに受け継がれていくと思いますね。

――ピアノに対して悪いことが出来ないですね。

皆、ありがとうと思って弾くんですよね。被災地にはまだご家庭にピアノがない家が多いんです。ピアノ教室にピアノを届けると、お父さんがピアノのレッスンのために、車で一時間ぐらいの距離を毎日送り迎えする。子どもたちもピアノを失ったことで、「ピアノは家族と同じぐらい大事だったことに気が付いた」と言ってくれる。それを聞くと、『ならピ♪』もそうですが、「ピアノはこんなにも愛すべきものだったんだ」と私たちも再確認できます。

――『ならピ♪』は、そんな思いを観客も感じられるコンサートになりそうです。

ピアノを愛する人たちによる、温かくて、熱い、豊かなコンサートです。ピアノを習っている人、習おうと思っている人、昔習っていたけれどブランクがあって再開するきっかけを待っている人など、色んな方に楽しんでいただきたいですね。

西村由紀江さん=撮影・米満ゆうこ

西村由紀江さん=撮影・米満ゆうこ

■怒られながら習い、審査されて弾いてきたピアノ。今はピアノを弾くのが楽しい

――昨年は、「子供のころはピアノの先生に怒られながら『習うもの』、音大では『審査されるもの』で、いつも緊張感の中でピアノを弾いてきた。人生の中で今が一番、ピアノが好き。ピアノを弾くのがやっと楽しめるようになった」とおっしゃっていたのが印象的でした。今もそれが続いていますか。

昨年より強く思っています。今までピアノを続けてきて本当に良かったです。両親に改めて感謝したり、子どものころに習っていた豊中のピアノの先生に会いに行ったりしていますね。

――それをうかがうと、年を取ることは悪くないですね(笑)。

悪くないですよ、本当に。

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