2018年4月22日、劇団石(トル)のきむきがんさんと、東京演劇アンサンブルの洪美玉さんによる2人芝居『キャラメル』の初舞台を観ました。脚本・共同演出・主演のきむきがんさんインタビュー後半をお読み下さい。
――観る前からずっと、なんで『キャラメル』っていうタイトルなんだろうと思ってたんですけど、お芝居後半、あのセリフが泣けました。スッキハルモニがオクスンハルモニにキャラメルを渡しながら、「あの時のキャラメル、ごめんな。泥棒って言ってごめんな」っていうところ。
あれは、史実なんですよ。「友だちをもうひとり誘ってきたら、キャラメル、もうひとつあげる」って言われたらしいです。みんなものすごく貧しかったから、日本人がキャラメルひとつでだまして少女たちを慰安婦にしたという話があるんですね。道に落ちていたキャラメル一粒を、オクスンが拾って弟と分けて食べようとしたところをスッキが見つけて、「泥棒!」と言ってケンカして……というのは私が作った物語なんですけど。
――若い少女をだますのに、キャラメルが本当に使われていたということなんですね。
ええ、そうなんです。
――拾ったキャラメル一粒を弟とわけようとして、「それはあたしのキャラメルや、泥棒!」と言われた少女も、そう怒鳴った少女も、それをずっと忘れられなくて、90歳のお葬式の時に「あの時のキャラメル、ごめんな」って声をかける。思い出しても泣けてきます。そこはきがんさんのフィクションだったということですが、本当にみんな貧しくて、キャラメルひとつでも欲しくてたまらなかったというのが切なく伝わってきました。
ありがとうございます。そんな風にだまされて、少女だったハルモニたちは戦場に行かされたんです。
――舞台ではずっとハングルの字幕が出ていましたが、あれにはどういう意味が?
韓国からのお客さんがいらしてたんですよ。それと、いずれ韓国で公演をしたいから、最初から字幕を作ってたんですね。
――なるほど。なにか感想はおっしゃってましたか?
こういう問題に関係のある、普段から活動されている方たちが来て下さって、「今までにない、斬新なスタイルだ」とおっしゃってました。そして、「在日韓国朝鮮人に特化した作品でとても良かった」という感想をいただきました。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、きむきがんさんインタビュー後半の続きを掲載しています。舞台の写真もたくさんありますので、ぜひご覧ください。
<有料会員限定部分の小見出し>
■初めての2人芝居
■日本軍「慰安婦」被害ハルモニのことを知らない人たちに観てもらいたい
■同じキャスト、同じスタッフで各地に行きたい
■生演奏のピアノが寄り添った舞台
<二人芝居「キャラメル」>
【東京公演】2018年4月22日、4月23日 ブレヒトの芝居小屋 (この公演は終了しています)
- 出演:きむきがん 洪美玉 松下重人 李相大(ピアノ)
脚本:きむきがん
演出:(共同演出)松下重人 きむきがん
公演時間:90分 - ★カンパのお願い 2人芝居『キャラメル』を日本各地で、また韓国で、上演するために皆さんにご協力をお願いしています。ご賛同いただけましたら、カンパは下記までよろしくお願いいたします。
- 劇団石(トル)のゆうちょ銀行口座
郵便局からの場合
記号 14600
番号 15308261 - 他行からの場合
- 店番468
口座1530826 - 口座名ゲキダン トル
<役者プロフィール>
きむきがん:在日コリアン3世 ・劇団石(トル)主宰。役者・シンガーソングライター。日本、滋賀県を拠点に、一人芝居・演劇ワークショップ・音楽ライブなど、全国各地で活動中。パワフルな笑いの中に、常に社会的弱者に目を向けた作品を上演している。 代表作にすべての生き物の尊厳を描いた『カンアジトン(こいぬのうんち)』、在日同胞の100年の歴史を描いた『在日バイタルチェック』、部落差別の歴史と現状を描いた『人の値打ち~たまちゃんとはるちゃん~』などがある。
洪美玉(ほん・みお):1974年、神奈川生まれ。アメリカ留学を機に演劇を本格的に目指す。日本大学芸術学部演劇学科卒業。現在、東京演劇アンサンブル劇団員。イベント開催場所であるブレヒトの芝居小屋を拠点に、全国の児童青少年にも演劇を届ける。本アクション共催の東京演劇アンサンブル切羽委員会委員長。これまで朝鮮、原発、沖縄問題などに向き合う憲法集会、学習会を企画、運営してきた。現在、音楽劇『消えた海賊』で全国の高校を巡演中。
<関連ページ>
きむきがん ライブ☆公演スケジュール
http://blog.livedoor.jp/kigang-kigang/
きむきがんfacebook ページ
https://www.facebook.com/soonji.omma
いま、日本軍性奴隷問題と向き合う~被害者の声×アート~「DA RE I KI だれもがいきいきと生きられる社会のために」ホームページ
http://dareiki.org/2018/02/19/wk20180423action/
ブレヒトの芝居小屋
http://www.tee.co.jp/?p=56
- タイトルの意味に泣いた2人芝居、『キャラメル』ルポ(下) 2018年5月9日
- 慰安婦にされた女性を描く、2人芝居『キャラメル』ルポ(上) 2018年5月8日
- ロックバンド「おかん」を知っていますか? YOUさん、めちゃめちゃ素敵な人でした 2016年7月21日
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■初めての2人芝居
――今まで、こんなにガッツリ2人で芝居をすることってありましたか?
演劇を始めた頃は、「客演」って言うんですけど、他の劇団に呼ばれてやったことはあるんですよ。でも、自分がきっちり書いた作品を、他の俳優と2人でやるというのは初めてです。
――在日の俳優さん同士ですよね。
そうです。私の「在日バイタルチェック」を東京でやったときに観に来てくれて、それから友だちになったんですね。一緒に何かやりたいねということになって。私はもともと関西で、彼女は東京で、芝居をやってきた在日同士です。
――洪美玉さんが演じるのは東京弁の女性で、きがんさんが演じるのは大阪にずっと長くいるという感じの女性でしたね。
はい。芝居の中でも、密航してきたときに川崎にたどり着いた人と、密航してきて大阪にたどり着いた人という設定にしてあって、その違いは大きいんですね。登場人物の背景としていろいろ考えて設定しました。芝居の中では全部出てこないし、ちょっと変わった部分もありますけど、基本的には、こういう背景をもっている登場人物なんだということをきっちりと詰めて舞台にしていきました。
■日本軍「慰安婦」被害ハルモニのことを知らない人たちに観てもらいたい
――2日間の舞台を終えたばかりですけど、これからも『キャラメル』は、いろんな場所で上演されるんだと思います。もっと多くの人に観て欲しいと私も願っています。そのことについてひとこと。
中学生にも分かるようにという想いで脚本を書いたんですね。それと、「慰安婦」被害ハルモニたちのことを全く知らない人たちに観てもらいたいという想いがあって、そこをとても大切に作ったんですね。本当は、言いたいことはもっともっとあるし、悲惨な状況があったということをもっと入れたいけど、凝縮した形で舞台にしてるんです。中学生以上くらいの若い人たちに観てもらいたいです。
――いずれ学校公演とかも?
そうですね。出来たらそんなふうにしたいと思ってるんです。だから表現をめっちゃ工夫したんですね。心痛いテーマをどう見せるのか。
――最初から言いたいことや伝えたいことを前面に押し出して、悲惨な状況をたくさん入れるというのとは違った、明るさや笑いや希望のある舞台でしたね。
ありがとうございます。ホント、工夫したんですよ。慰安婦問題を取り上げた作品ってたくさんあるし、こういうことを知らない人に観てもらうための工夫ですね。
■同じキャスト、同じスタッフで各地に行きたい
――今後、各地で上演するにあたって、女優さんふたりは変わらないと思うんですが、スタッフの方たちも同じで?
出来るだけそうしたいなあって言ってるんですよ。やっぱり、同じ志をもって作りあげた仲間とまた一緒にやりたいねって。
――それはすごく素敵ですね。じゃあ、関西や沖縄にもみんなで一緒に。
はい、沖縄もみんなで行こう!って話しているところです。頑張ってお金を集めて、全員は無理ですけど、せめて役者3人と、うちのスタッフと、ピアニストと、こだわって作ってくれた照明さんとは一緒に行きたいんですね。まだ具体的に次はここでというお知らせが出来ないのですが、計画は立ち上がりつつあります。いろんな場所で、いろんな人に観てもらいたいです。
■生演奏のピアノが寄り添った舞台
――ピアノも生演奏で、素晴らしかったですね。あれはオリジナルの曲ですか?
オリジナルもあります。自転車を練習するシーンと、死に装束を着せていくシーンはオリジナルで作ってもらったんです。他に、もともと朝鮮にある曲も使ったんですけど。
――ピアノが舞台に寄り添って、美しい音色で、素敵でしたね。
もともと、オリジナルで作ってもらった曲を、録音で流すつもりだったんです。でも練習してるうちに、やっぱり来てもらいたいねということになって。舞台に参加し弾いてもらうのは、録音とは全然違いますから。生演奏のピアノが聴けるというところも、お客さんに楽しんでもらえるなあと思ったんですね。
※2人芝居『キャラメル』のために作られたオリジナル曲、「故郷への想い」をお聴きください。作曲・演奏は李相大さんです。
きむきがんさんと洪美玉さん。共同演出で、舞台にも「何でも屋」として舞台にも出た松下重人さん。ピアノの生演奏で舞台に寄り添った李相大さん。出演者としてクレジットされるのは4名ですが、お葬式の場面を通して、名乗り出ることも出来ず、抗議の声も上げず、必死で生き抜いてひっそりと亡くなっていったハルモニたちが時の向こう側に連なっていました。
そして、花を飾った自転車で彼岸へ向かうオクスンハルモニの姿や、彼女に自転車の乗り方を教えた女子高校生の場面を通して、今を生きている私たちは叱咤激励されました。壮絶なハルモニたちの痛みを、簡単に「わかった」と言う資格は私にはありません。何度もこの舞台を観て、きちんと受け止めて考え続けたいと思いました。たくさんの人に、特に若い女性に観てもらいたい舞台『キャラメル』、この記事がひとりでも観客を増やすことにつながれば幸いです。
みどりさんの記事を読んでいるだけで、そしてピアノの音を聴いただけで、何だか涙が出てきました。必死に生き抜いて名乗り出ることなく亡くなっていった方の魂が安らかでありますように。
いつか「キャラメル」を観られますように!