「生きる希望というよりも、生きる使命ですよね」、松下洸平インタビュー(下)

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

2018年10月5日(金)に開幕する舞台『母と暮せば』に、母を残して志半ばにして原爆で命を落とした息子、浩二役で出演する松下洸平さんのインタビュー後半です。稽古場の様子や、共演する富田靖子さんについて、『木の上の軍隊』で伊江島を訪ねて今回は長崎を訪れての思いなどについて伺いました。

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

――映画では、お母さんの伸子が息子のことを諦める決心をしたのがきっかけになって浩二が現れますね。

お母さんはね、全然諦めてないです(笑)。いつまでも息子のことを思って、いつまでも悲しみの中にいる人ですね。

――それを見かねて、浩二は母親の前に?

そうですね。浩二という青年は、明るい子ではあると思うんですが、実は根っからのひょうきんな男の子ではないんです。けれどもやっぱり、そんな母の姿を見ているからこそ、3年ぶりに幽霊となって出てきたときに、お母さんにたくさん笑ってもらいたいし、たくさん元気になって欲しいから。もうきっとそれだけですよね、彼が自分に課した使命は。そして、母親の「助産婦を続ける」って言葉を聞きたくって3年ぶりに姿を現したんだと思うから。『父と暮せば』でも同じような、「わしゃ、恋の応援団長だ」って。

――ひとり生き残った娘を、お父さんの幽霊が応援しますね。

もちろん『父と暮せば』とは、全く別のものとして僕たちは創っていますけど、でもやっぱり共通して感じられるのは、“もういちど、いきてほしい”っていう思いですよね。そう、これがね、なんかこう、すごく難しいんですけど、「希望」ではないんですよ。

――生きる希望、ではない?

生きる希望ではない気がするんですよね。生きる希望っていうよりも、「いきていかなきゃいけないんだ、わたしは」っていう思い。明るい未来が待ってるから生きて欲しい、とか、なんか、そんな簡単なことではないような気がしていて。

――生にしがみついてでも、死ぬわけにはいかない、というような?

そう、長崎で死んだ数え切れない人たちの分まで、やっぱり生きて欲しいっていう思い。だからそれを、「希望」といってしまうと、なんか「よし、前向きに生きていくぞ!」っていう、自分だけで解決してしまう問題のような気がして。そうではなくて、多くの人たちの思いを背負って「いきていかなきゃいけないんだ、わたしは」っていうところで、もう一度立ち上がっていく母の姿を見せるのが、多分僕の役割なんじゃないかなと思っていて。まぁ、結果的にそれを「希望」ととらえる方も、もちろんいらっしゃると思うし、いろんな捉え方があっていいと思うんですけど、なんか「希望」というよりも、「使命」ですよね。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、稽古場の様子や、共演する富田靖子さんについて、『木の上の軍隊』で伊江島を訪ねて今回は長崎を訪れての思いなどについて伺ったインタビュー後半の全文と写真を掲載しています。

<有料会員限定部分の小見出し>

■家族をみんな失った母親が、希望を持って生きていくのは、容易いことではない

■今思い出した! 「栗兄」って言い出したの、柿澤(柿澤勇人さん)ですからね!

■このお母さんから生まれた浩二を大事に。富田さんの一言一言を聞き逃さないように

■作品をお客様にバトンとして渡したい。そのバトンをまた誰かに渡してもらって…

<こまつ座第124回公演・紀伊國屋書店提携『母と暮せば』>
【東京公演】2018年10月5日(金)~10月21日(日) 紀伊國屋ホール
【茨城公演】2018年10月27日(土) 水戸芸術館 ACM劇場
【岩手公演】2018年11月3日(土・祝) 花巻市文化会館
【滋賀公演】2018年11月17日(土) 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 中ホール
【千葉公演】2018年11月23日(金・祝) 市川市文化会館 小ホール
【愛知公演】2018年12月1日(土) 春日井市東部市民センター
【埼玉公演】2018年12月8日(土) 草加市文化会館
【兵庫公演】2018年12月11日(火) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

<関連サイト>
『母と暮せば』こまつ座
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松下洸平さん=撮影・伊藤華織

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

※ここから有料会員限定部分です。

■家族をみんな失った母親が、希望を持って生きていくのは、容易いことではない

――生き残った者としての…。

そうです「使命」。だって、大好きな息子を失った母親、大好きな家族をみんな失った母親が、希望を持って生きていくことって、そんな容易いことではないと思うから。

――自分の持っているものの中だけで、それを導き出せというのは、かなり酷かもしれません。

だからせめて残りの人生、後何年あるかわからない残りの人生を、生きたかった人たちの分まで生きなきゃいけないっていう使命を持って、もう一度立ち上がるっていうところ、それは『父と暮せば』を観ていてもすごく思ったんですよね。最後に恋人のもとにかけていく娘の姿を見ていると、「よかったね!」ではなくて、「頑張れよ!」って思うんですよね。

――確かにそうです。

だから、後々彼女は希望をどこかで見出して、そして生きていくのかもしれないけれども、その“第一歩を見せる”作品ではなくて、“使命を持って生きていかなきゃいけないっていう思いで、立ち上がった瞬間”を見せて、暗転。そこを『母と暮せば』でも見せられたらいいなと思うんですよね。

――絶望で地面に突っ伏した状態から顔を上げて、今まさに次のアクションを、立ち上がろうとしている瞬間を切り取る。

その瞬間がこの作品のラストですし、だからこそ…。これもね、栗山さんがよくおっしゃるんですけど、「終わらせちゃいけないんだよ、演劇は」って。「何か問いを残していくのが、僕たちの仕事だからね」って。

――劇場から帰る道すがらにあれこれ黙考を促すような?

そうですね。それをまさにこの『母と暮せば』でも体現出来るといいなと思います。「使命を持ってもう一度立ち上がる瞬間でこの作品が終わる」っていうことは、「じゃあ、彼女はこの後どうしたんだろう。あの後長崎では、みんなどうやって今の長崎があるんだろう」とか、「戦争ってどういうことだろう」とか、「じゃあ今、原爆から始まった原子力の問題ってこうだから、こうだよね」とかって帰り道にね、いろんな事を思ってもらえるような作品にしなきゃいけないなと思って。希望で終わることはないですけど、だけれども一人の女性が使命を持って、もう一度立ち上がる瞬間を見せられたらいいなと思います。

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

■今思い出した! 「栗兄」って言い出したの、柿澤(柿澤勇人さん)ですからね!

――栗山さんのお稽古時間は短いと伺っています。かなり集中してのお稽古になりますね。

短いので本当に集中してます。今、お稽古時間3時間くらいですかね。1時から大体4時とか、5時まで稽古場にいたらちょっとレア。5時過ぎの栗山さんはレアですよ(笑)。

――レアなんですね!(笑)。

栗山さんの現場ではお稽古が早いので、こちらから提示していかないと。どんどんこっちでプレゼンしていかないといけない方なんですよね。

――指示待ちではなくて、自分からどんどん。

はい。で、もちろんプランが違っていれば正して貰うし、良ければそれを採用して貰うし、っていうことが多いので。100人演出家の方がいれば100通りあると思うんですけど、割と栗山さんはそういったタイプの方だなという印象があるので、ある程度はなんとなくこう、キャラクター像みたいなものは創っていくようにはしています。

――ところで、栗山さんを「栗兄(くりにい)」ってお呼びになっていらっしゃるとか?(笑)。

あはははは!(笑)。これは本当にね、酔っ払ったときだけですよ(笑)。

――お稽古場ではないんですね(笑)。

恐れ多いですよ!(笑)。酔っ払った時言っちゃっただけです。そうだ、今思い出した! 「栗兄」って最初に言い出したの、柿澤(柿澤勇人さん)ですからね!

――そうなんですか?!(笑)。

柿澤が飲みの席で言ったのが最初で、それが広がって、僕が栗山さんに一回、飲みの席で「栗兄、また呼んでくださいよ~」とかって言ったのがなぜか広まっちゃって、僕が現場で「栗兄」って呼んでるって(笑)。いろんな人に言われるんですけど、発端は柿澤勇人ですから!(笑)。

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

■このお母さんから生まれた浩二を大事に。富田さんの一言一言を聞き逃さないように

――お母さん役の富田靖子さんとは、どんな感じでお稽古されていますか。

とても明るい方です。でも今回は相当な台詞量もあるし、こういった役ではあるので、まだまだパーソナルな部分に触れるような時間はないですけど。ただ、本読みしながらすごく思ったのは、やっぱりこのお母さんから生まれた浩二くん、っていうところを大事にしていきたいなって思えるような母親像だったんですよ。「あぁ、このお母ちゃんだから浩二くんなんだな」っていうところを、立ち稽古始まったら見つけていきたいなと思うので。そういった意味では、本当に二人芝居ってとてもバランスが大切だと思うので、とにかく富田さんの一言一言を聞き逃さないように芝居したいし、僕の芝居もすごく受けてくださるんですよね。そういうところは、本当に一緒に演らせてもらっていて勉強になります。爆発したときの富田さんって、もうすごいんですよ!

――爆発?

伸子は、なかなかこう感情的になるようなお役ではないんですけど、ときどき、後半で少し声を荒げる瞬間があって、ああいう、もう一つ一つの爆発力がすごくて、「これ、立ち稽古入ったらどうなるんだろう?!」って、実は僕、ビビってるんですよ(笑)。

――まだ本読みの段階なのに!?(笑) すごいですね!。

多分、どんどん変わっていくと思うし、まだ本読みの段階なので、いろいろ探り探りな部分ももちろんあると思います。僕もそうですから。でも、なんか多分これ、初日すごいことになるんだろうなっていう予感は、もうプンプンしてます。

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

■作品をお客様にバトンとして渡したい。そのバトンをまた誰かに渡してもらって…

――『木の上の軍隊』のときに、伊江島に行かれて、伊江島を好きになったことが新兵役を演じる上でプラスになったそうですね。今回も長崎を訪ねられて、その経験、記憶や感情が糧になりそうな気配はありますか?

いろんな貴重なお話をうかがいました。沖縄に行ったときも思ったんですけど、やっぱり、その土地の空気を吸うということだけでも充分な収穫で、なかなか東京に居たら聞けないような、被爆された方だったり、いろいろな生の声はたくさん聞いたんですけど、そこだけではなくて、その人の話している眼を見たりとか、その人から出ている空気を読んだりとか、なんか、そういうところも大事かなと思って。もちろん資料を見れば分かることもあるんだけれども、現地に行って、その人たちの眼を見て話していると、ここに居る人からしか貰えないエネルギーがあって、そういうのをすごい貰った気がするんですよね。

――直接お話することによって、その方の人となり、ひいてはその方が歩んでこられた道が感じられる、ということですね。

はい、そこを感じたかった。あとは、実際その土地を自分の足で歩いたりとか、原爆で壊れた建物や、神社や、そういったものを、こう、手で触れた感触ですよね。そういったものが意外と役に立つのかなと思います。

――お話ありがとうございました。『母と暮せば』をご覧になるお客さまへメッセージをお願いします。

戦争を題材にしているというだけで、ちょっとこう、重くズシッと捉えてしまう方も多いと思うんですけど、もちろんそれだけではないですから、気負わずに暖かく息子と母の会話劇を見守っていただきたいなと思います。若い人たちにも見て欲しいし、僕たちはなんとしてでも、いろんな人の思いが詰まった作品を、お客様にバトンとして渡したいので、そのバトンを持って帰って貰って、もし良かったら、そのバトンをまた誰かに渡してもらって。そうやって語り継がれるべくしてある作品だと思うので、本当に一人でも多くの人に観て貰いたいです。若い人だけじゃなくて、演劇に触れたことのない人もそうですし、もう、本当にすべての人にこの作品を観て貰いたいです。気負わずにほっこりするシーンもたくさんあるし(笑)。たくさん笑って、たくさん泣いていただいて、なんかちょっとでも持って帰って貰えると嬉しいです。

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

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“「生きる希望というよりも、生きる使命ですよね」、松下洸平インタビュー(下)” への 1 件のフィードバック

  1. numa より:

    木の上の軍隊を観てから松下さんのファンになりました。母と暮せばは、母の田舎が長崎で親戚も原爆で亡くなってますし、被曝した大叔母からも、当時の悲惨な状況等話を色々と聞いていたので、特別な思いがあります。心して観たいと思います。

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