「3年間浮遊し、母を見続けてきた目で」、『母と暮せば』松下洸平インタビュー(上)

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

山田洋次監督の映画『母と暮せば』をもとに、母と息子の二人芝居として舞台化される『母と暮せば』が、2018年10月5日(金)〜21日(日)まで東京・紀伊國屋ホール、ほか、茨城、岩手、滋賀、千葉、愛知、埼玉、兵庫の各地で上演されます。こまつ座「戦後“命”の三部作」のひとつとして、井上ひさしさんの原案を引き継いだ畑澤聖悟さん(劇団 渡辺源四郎商店)の脚本、栗山民也さん演出の本作へ、息子の浩二役として出演する松下洸平さんにインタビューし、作品と井上ひさしさんへの思いなどを伺いました。

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

――『母と暮せば』のお話がきたのは、『木の上の軍隊』の公演中だったそうですね。そのときのお気持ちはいかがでしたか?

いやもう、率直に言えば、僕でいいのかな?っていうところがまずありました(笑)。これだけ多くの方の思いが詰まった作品ですから。

――当時、映画版はご覧になっていましたか?

はい、もちろん映画は観ていました。井上麻矢さんからも『母と暮せば』を、いつか舞台化したいというお話はうかがったことはありましたし、でも、まさか僕のところにそうやってお話をいただくというのは、本当にちょっと衝撃でしたね、びっくりしました。『木の上の軍隊』の公演中に、井上ひさしさんの命日があって、終演後にお客さんを入れて、麻矢さんおひとりで『母と暮せば』の朗読劇を演られたことがあったんです。僕は、楽屋でずっとモニター越しに拝聴してたんですけど、それがとても素晴らしくて、終わって麻矢さんが楽屋に来られたときに、「麻矢さん、素晴らしかったです!」なんて言いながら、「ちょっと僕、浩二演りたいんですけど!」とか言ってたんですよ(笑)。

――「演りたい」と直接おっしゃった!

もちろん冗談で(笑)。後々こんなことになるとは思いもせずに、「麻矢さん、僕、浩二演りたいですよ!」みたいな話を、ちょっと冗談混じりで話したのはすごく覚えていて。で、麻矢さんが「え?!じゃあ、母役どうしよう?」っておっしゃるんで、「麻矢さんで良いじゃないですか!」って(笑)。そんな「もう、二人で演りましょうよ!」みたいに冗談で話をしていた頃には、実は栗山さんや麻矢さんの方では、『母と暮せば』の浩二を僕でいきたいっていう風にお話ししてくださってたみたいなので、今思えば麻矢さんが、「コイツは何か知っているのか?!」みたいな顔で僕を見られていたなって(笑)。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、松下洸平さんの井上ひさしさんへの思いや、今回の台本を受け取った時の印象、演出の栗山民也さんと話している内容などについて伺ったインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。9月26日(水)掲載予定の「下」では、稽古場の様子や共演する富田靖子さんについて、『木の上の軍隊』で伊江島を訪ねて今回は長崎を訪れての思いなどについて語ってくださったインタビュー後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■必ず、稽古前、本番前、全部の公演が終わった後に、鎌倉の井上さんのお墓に

■台本を開くのに時間がかかって…。読むならちゃんと読まないといけないなと

■栗山さんが、よくおっしゃるんです。「怒りを持って演ってくれ」と

■浩二が出てきた一番の理由は、母に“もういちど、いきてほしい”っていう思い

<こまつ座第124回公演・紀伊國屋書店提携『母と暮せば』>
【東京公演】2018年10月5日(金)~10月21日(日) 紀伊國屋ホール
【茨城公演】2018年10月27日(土) 水戸芸術館 ACM劇場
【岩手公演】2018年11月3日(土・祝) 花巻市文化会館
【滋賀公演】2018年11月17日(土) 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 中ホール
【千葉公演】2018年11月23日(金・祝) 市川市文化会館 小ホール
【愛知公演】2018年12月1日(土) 春日井市東部市民センター
【埼玉公演】2018年12月8日(土) 草加市文化会館
【兵庫公演】2018年12月11日(火) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

<関連サイト>
『母と暮せば』こまつ座
http://www.komatsuza.co.jp/program/
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松下洸平さん=撮影・伊藤華織

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

※ここから有料会員限定部分です。

■必ず、稽古前、本番前、全部の公演が終わった後に、鎌倉の井上さんのお墓に

――それは井上麻矢さんも、さぞギョッとされたでしょうね(笑)。

ギョッとされたみたいですね、当時。でも僕は後々こういう風になるとはつゆ知らず、もう無責任なことを言ってしまったなと思って。

――当時、母親の伸子役も候補が決まっていたんですか?

そのときは、お母さんはまだ決まっていなかったと思います。

――『木の上の軍隊』という、ご縁のある舞台の公演中にお話があって。なんというか、運命を感じますね。

そうですね。結局僕は一度もお会い出来ないまま、井上さんは逝ってしまわれたので。『木の上の軍隊』からそうしているんですけど、必ず、稽古前、本番前、全部の公演が終わった後に、鎌倉の井上さんのお墓に台本持ってご挨拶に行くようにしてるんです。今回も『母と暮せば』の台本が上がったときにお墓参りに行って、お墓の前で台本を広げて中を見てもらって、「頑張ってきます」ってことを井上さんにちょっとお伝えするぐらいしか出来ないんですけど。こまつ座さんの「戦後”命”の三部作」という、井上さんが大事にされていた3つの企画のうち、僕は2つに呼んでいただいたので、なにかこう「井上さんがどっかで見てるんじゃないか?」っていう思いがあって。そういうところだけでも、やっぱり井上ひさしさんと繋がっていたいという思いがあるので、そうやってお墓参りに行かせていただくんですけど、本当に栗山さん始め、井上麻矢さん、いろんな人に感謝しないといけないなって。なんかすごく大きな責任を今、背負ってる感じがしますね。

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

■台本を開くのに時間がかかって…。読むならちゃんと読まないといけないなと

――台本をお持ちになって、井上さんの墓前にお参りされたんですね。製作発表のときは、「まっすぐな戯曲」とおっしゃっていましたが、今、最終稿の台本をご覧になっていかがでしょう?

初めて最終稿の台本を開いて、「よっしゃ、読もう」って思って、最初から最後までパーッと読んだときに、もう本当にストレートな妥協のない本だったので、読む側としても受けとめきれないぐらいの感動と、あとやっぱり畑澤聖悟さんご自身の挑戦を感じて、すごく胸がいっぱいになったのを覚えてます。

しっかりと製本された台本が自分のところに届いたときに、やっぱり待ちに待った戯曲、というか、待ちに待った台本なので、いち早く読みたい気持ちはあったんですけど、その日はまとまった時間が取れなくて、ちょっとこう、しばらく台本を開くのに時間がかかってしまって。読むならちゃんと読まないといけないなと思ったので。

――ちゃんとそのための時間を用意して、きちんと向き合ってじっくりお読みになりたかったんですね。

そうですね。そこまでこう、心して読んだ台本に出会えたのも初めてですし、やっぱり、一番最初に読んだときの印象、それが多分千穐楽まで繋がっていく大きなファースト・インプレッションというか、最初の感動を最後まで持って行きたいと思って、大事に読ませていただきたいという思いがあって。それで1日くらい置いて、やっと本を開けたんです。開いてみると、本当に逃げずに書いてくださったんだなっていう思いで、胸がいっぱいになりました。

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

■栗山さんが、よくおっしゃるんです。「怒りを持って演ってくれ」と

――製作発表でも触れられていた、栗山さんが「妥協を許さない」とおっしゃっていた、まさにその通りの台本が出来上がったということですね。“あの日から、人々がどういうものに縛られて今日まで生きているかを、もう少し突っ込んで”、ということが語られていると。

まさにそこですね。あの日以降、もちろん驚異的な早さで復興した街だとは思うし、やっぱり日本人の底力ってすごいんだな、っていうのは、改めてやっぱり感じました。ただ、やっぱり爆心地とそうでない場所での差みたいなのも確かに絶対にあの当時あったと思うし、爆心地じゃない部分では、今回戯曲の中にも書いてありますけど、3日後には映画館の上映が始まっていた、なんて事実もあったりして。やっぱり実際被爆された方々が、あれ以降、…作品ではあれから3年後ですが、この3年間の間に何があったのか、僕らも知らなかったようなことがたくさん書かれていて。やっぱり井上ひさしさんの原案であるということと、そこを大切にした山田洋次監督の『母と暮せば』があって、“ある種あたたかい母と息子の物語になっていくであろう話”、とすることも可能なんだけど、演劇の持っている力を信じている畑澤さんや栗山さんだったら、「ここまで攻めても、きっと大丈夫なんだろう」っていうところでの決意を感じて。その決意あればこそ、あそこまで、被爆された方々がどういう風に生きてきたかっていうことを結構攻めて書いてくださっていて。ここまで真正面から書いてくださった戯曲ですから、それを僕たち、富田さんもかなり苦しいとは思うんですけど、僕たちもそこから逃げてはいけないなと思うし。栗山さんが、よくおっしゃるんですよ「怒りを持って演ってくれ」って。特にこういう、「僕たちは被害者だ」っていう意識。これは、地震とか津波とかとは違って、その…。

――人、ですね。自然によってもたらされたものではなく。

人が人を、っていうことですね。そこに対する「怒り」を持って演ってくれっていう。そこもいろんな人たちのいろんな怒りを一手に引き受けていかなきゃいけない僕たちは、やっぱり並大抵の想像力とか気持ちでは太刀打ち出来ないんだなぁっていうのは、今、本読み3回やって改めて感じましたね。

――いろんな人たちの思いを一手に引き受けて、というお言葉がありましたが、映画版に対して、舞台版は二人芝居という要素もありますね。

そうなんですよ、僕もだからびっくりしました。『母と暮せば』を舞台で演るってなったときに「え、…二人?!」っていうのはありました。

――映画版とは登場人物の数がそもそも違いますが、基本的には映画版と同じ筋立てで?

そうですね、もちろん伝えたいメッセージとか、この作品が今、この現代で演らなきゃならない意味っていうものは変わらないとは思います。

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

■浩二が出てきた一番の理由は、母に“もういちど、いきてほしい”っていう思い

――映画では描写されていた浩二の婚約者町子への想いは、二人芝居である舞台版ではどうなるのでしょう?

もちろん町子の存在というのは、この作品を演るにあたって、とっても重要な役割を果たしていて。…ただ、もちろん今、僕もすごく模索中で、なかなか答えを出せないでいるところではあるんですけど、なぜ浩二が出てきたのかというところを思うと、もちろん町子の存在っていうのは大きいとは思うんですが、それ以上にやっぱり…。栗山さんがこの間、ものすごく難しいことをおっしゃっていたんですけど。

――はい。

「3年間ここで浮遊し続けて、母親を見続けてきた目で、母を見て欲しい」っていう、ね。

――うわ…! せつなさに泣きます、それ(笑)。

(笑)。なんて難しいことを言うんだ、この人は! と、思ったんですけど。

――この3年間を、母の傍らにとどまりながら見続けてきた。そうですよね…。

やっぱり、この戯曲でとても興味深いなと思うのは、母が助産婦であるっていうことですよね。新しい命を取りあげる仕事を誇りに思っていた母親、そしてそれに憧れていた息子がいて。原爆で自分が息子を失ったことをきっかけに、そして、アメリカの調査団体が原爆被害者に対してあまりにも惨いことをしていることに対する怒りもあって、仕事をやめてしまった。母親の命がすごくこう、“細く”なっていっているのを3年間見続けてきた浩二が居て。浩二が出てきた一番の理由としては、その母に“もういちど、いきてほしい”っていう思いですよね。町子のこととかいろいろあるけれど、一番大切なのは僕のためにも生きて欲しい、“もういちど、いきてほしい”っていう想いですよね。だから、それが一番強かったんじゃないかなって、今は思います。

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

松下洸平さん=撮影・伊藤華織

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“「3年間浮遊し、母を見続けてきた目で」、『母と暮せば』松下洸平インタビュー(上)” への 2 件のフィードバック

  1. いおり より:

    色々な方々の想いの詰まった作品で、それわ真摯に向き合う松下さんの想い。意気込みも感じました。
    ますます舞台版「母と暮せば」を観に行くのが楽しみになりました。
    後半のインタビューも楽しみにしております。

  2. あーさ より:

    ワクワクしながら読ませていただきました。とても深く突っ込んだインタビューがまた楽しみを増やしてくれます。
    母と暮せば、観に行く予定です。
    さらにインタビューを読んでさらに期待が高まりました。

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