「命を捜す」捜索災害救助犬、阪神救助犬協会代表・相良順子さんに聞く(上)

全国救護活動研究会の第47回ベーシックコースでレスキューに関わる人たちと一緒に訓練中のミモザさんとヌータウ君=写真提供・相良順子さん

阪神救助犬協会の代表で、捜索災害救助犬ハンドラーの相良順子さんにお話を聞いてきました。その間、ずっと一緒にいたのは12歳のミモザさんと4歳のヌータウ君、「平成30年7月西日本豪雨」でも広島に出動したラブラドール・レトリーバーです。日本ではまだ認知度が低い救助犬について、2回にわたってお伝えします。

全国救護活動研究会の第47回ベーシックコースでレスキューに関わる人たちと一緒に訓練中のミモザさんとヌータウ君=写真提供・相良順子さん

全国救護活動研究会の第47回ベーシックコースでレスキューに関わる人たちと一緒に訓練中のミモザさんとヌータウ君=写真提供・相良順子さん

小さい頃から犬と一緒に生きてきたとおっしゃる相良順子さん、かたわらにはいつも犬がいたそうです。大好きな犬たちが、世の中の役に立てないだろうか。そう考えていた1995年、阪神淡路大震災が起きました。海外からやってきた捜索災害救助犬が瓦礫の中で活動する姿を見て、「日本でもこうした犬を育てよう、それが自分の使命だ」と決意したのだそうです。愛犬を、「命を捜すことができる犬」として訓練・育成し、一旦災害が起きた時には万難を排して駆けつける。そんな相良さんと犬たちの日々が始まりました。

下の動画は、2018年7月、相良さんが広島市安芸区矢野東に救援に入った時の様子です。(動画提供・相良順子さん)

「流された高校生を探して欲しい」と知り合いから連絡を受けた相良さん。被害が大きかった広島市安芸区矢野東に到着したのは7月10日だったそうです。

――連絡が入って、すぐ駆けつけられたんですね。

今回の現場には、私のサポートをして下さる人が必要で、岡山の訓練所の先生が来て下さることになったんです。プロの訓練士は、出向く際、行政とか公の機関からの要請と言うか、書類が必要ということでした。私とミモザ、ヌータウは、そういうものがなくても行くんですけれどね。「目の前で人が流されている時に書類が要るのか」という現場の気持ちも、プロとして地区でも自治会からでもいいから公式の要請を出して欲しいという事情もわかります。いずれにしても、捜索災害救助犬が出動する時の態勢に関して、日本はまだまだ遅れています。

――今回は何日くらい、現場にいらしたんですか?

車中泊を含めて2泊3日ですね。私たちは、地元の方たちが避難されている避難所で食事をいただくわけにはいかないですから、食料も水も全部持って、車の中で寝泊まりするんです。もう2~3泊して捜索したかったんですが、異常に暑かったこと、安芸区矢野東に水があふれてきそうで、再び避難しなければ危ないという状況になってしまったことなどがあって、帰宅しました。

――その高校生は見つかったのでしょうか?

はい。私たちが見つけることは出来なかったのですが。というのも、地域の方が、「きっとこの辺りにいるはずだから、ここから探して」と場所を先に指定されたんですね。でも、結局ご遺体が見つかったのはお家の近くでした。遠くまで流されたはずという思いこみがあったんですね。お家のあたりはひどい状況でしたけど、やっぱり犬の鼻を信じて、お家の近くから捜索を始めるべきだったと思います。犬は体液に反応しますから。

――高校生の持ち物のにおいを先に嗅いでおいて、探すわけですか?

いえ、それは警察犬ですね。この子たちは捜索災害救助犬なんで、持ち物は必要ないんです。空気中の浮遊臭で人を探すんです。

――あ、そうでした!にわか勉強ですが「浮遊臭」という言葉をメモしたんです。それは、特定の個人を探すのではなく、「ここに誰かがいるよ」とハンドラーに教えるために救助犬が追うにおいなんですね。

そうです、そうです。この犬たちは、「ここに人がいる」ということを教える訓練を受けているんですね。この前の広島でも、犬たちがウロウロして反応する場所がありました。消防や警察の方に聞くと、ご遺体があった場所だということでした。ただ、この子たちは、生きている人を探す訓練を受けた犬で、遺体捜索犬ではないんですね。そこがちょっと辛いところなんです。もう少し迅速に犬と私が現場に入れたら、生きている方を捜せる確率が上がると思うのです。ミモザもヌータウも人間が大好きで、捜しだすことが出来たら、その人がご褒美をくれる、遊んでくれると思っています。そんな訓練を受けて、成功体験を積んできた犬たちなんです。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、相良順子さんとミモザさん、ヌータウ君のくつろいだ様子、普段の訓練、日常の活動などを紹介しています。10月4日掲載予定の(下)では、捜索災害救助犬の活動は今後どうなっていくのがいいのか、日本ではまだ認知度の低い現状を打破しようと奮闘されている部分をお伝えします。

<有料会員限定部分の小見出し>

ミモザさんとヌータウ君、性格と特性を生かして

日々の暮らしの中で出来ること

<捜索災害救助犬応援バザーのお知らせ>
相良順子さんの活動資金となる大切な行事、秋のバザーが開かれます。阪急逆瀬川駅東口から徒歩2分の相良さん宅ガレージでのバザーです。ふるってご参加ください。
◎日時 2018年11月3日(土)朝10時~
◎場所 宝塚市野上1-2-7 (阪急逆瀬川駅東口から高架のトンネルをくぐってすぐ)
◎みなさんから寄付された雑貨、衣料品、食品など掘り出し物がたくさんあります。
捜索災害救助犬の活動が分かるパネルも展示されます。もちろん、ミモザさん、ヌータウくん、ミスジェロニモちゃんに会えます。ぜひ遊びにいらして下さい!

2016年の捜索災害救助犬応援バザーより=写真提供・相良順子さん

2016年の捜索災害救助犬応援バザーより=写真提供・相良順子さん

<関連サイト>
阪神救助犬協会
http://hanshin-rescuedog.org/
わんわんパトロール – チーム・ステファン
https://teamstefan.ironmannet.com/03.htm
阪神救助犬協会|捜索災害救助犬育成・わんわんパトロール『チームステファン』
Facebookページ

<※用語解説>

1.捜索災害救助犬 search and rescue dog
『捜索災害救助犬は、瓦礫に埋もれ苦しむ命を発見し私たちに伝えます。そして、次のステップとして、瓦礫から尊い命を救いだし、適切なアドバイスと加療を施すことによって一つの命を救うことができるのです』相良順子さんが書かれた言葉です。盲導犬や警察犬などのいわゆる職業犬の種類のひとつです。

2.ハンドラー   handler
イヌを調教する人、また、イヌの任務遂行を支援する人。そのような役割を担う専門家の通称として使われる。特別な資格制度はなく、調教師や訓練士が兼務していることが多い。~中略~アニマルセラピー(動物介在療法)では、コンパニオンアニマルに付き添って、病院や高齢者施設などを訪問する人をハンドラーとよんでおり、多くはセラピストや看護師が携わっている。ショーやコンテストに出場するショードッグのハンドラーについては、ジャパンケネルクラブが資格制度を設けている。日本大百科全書(ニッポニカ)より

3. オーナーハンドラー owner handler
上記のハンドラーとしての活動を、自分の犬を使っておこなっている人を指す言葉。ミモザさんやヌータウ君と一緒に暮す相良順子さんは「オーナーハンドラー」というわけです。

※ここから有料会員限定部分です。

ミモザさんとヌータウ君、性格と特性を生かして

2018年9月12日、家の中でくつろぐ捜索災害救助犬のミモザさんとヌータフ君(左)=撮影・松中みどり

2018年9月12日、家の中でくつろぐ捜索災害救助犬のミモザさんとヌータフ君(左)=撮影・松中みどり

――二匹ともおとなしいですね。

鳴いたり、騒いだりしないでしょう。じーっと私を見てます。(ヌータウ君に向かって)ボク、マザコンやもんね。

――そうなんですか(笑)。

男の子はみんなそうです。人間の男の子もそうですよね。女の子は優しい感じに見えて、したたかでしょう。人間も犬もみんなそうなんですよ。ミモザは慎重な性格ですが、要領もよくて、クールなところがありますね。

2018年9月12日、インタビュー中の相良さんの横でくつろぐミモザさん=撮影・松中みどり

2018年9月12日、インタビュー中の相良さんの横でくつろぐミモザさん=撮影・松中みどり

ヌータウは要領悪いんですね。ママが大好きで、昨年亡くなったお兄ちゃん犬のステファンが大好きでした。ここに、ステファンの鈴がかかってるんですが、この椅子に座って時々、チリンチリンと鳴らしてますよ。

2018年9月12日、先輩犬のステファンさんの絵と鈴の横でくつろぐヌータウ君=撮影・松中みどり

2018年9月12日、先輩犬のステファンさんの絵と鈴の横でくつろぐヌータウ君=撮影・松中みどり

――ラブラドール・リトリバーというのは、災害救助犬のような活動をするのに向いた犬種なんでしょうか。

そうですね。落ち込んだりせず、明るい性格の犬です。怒られてしゅんとするけど、割とすぐに「ま、いいか!」という感じになりますね。ミモザは女の子だから、私の顔色をよく見ます。そんな姿を見て、私もいつまでも怒ってたらいけないと思って、「もういいよ、また頑張ろうね」と声をかけたら、すぐ立ち直って「はい!」って(笑)。ラブラドールは、現場でも良く食べるし、落ち込まない。皮膚もお腹も丈夫な犬種なんです。シェパードなどは、皮膚が弱かったり神経質だったりすることがありますね。アメリカでもこの頃、ラブラドールを警察犬として採用していますね。人にも対しても仕事に対してもまろやかに、明るく向き合えるのが、良いところですね。

――相良さんと犬たちの関係でいうと、相良さんは「ハンドラー」であり、「お母さん」でしょうか?

そうですね、お仕事に行ったら、私はハンドラーですね。だけど、この子たちは私の犬ですから、両方の面がありますね。私は「オーナーハンドラー」なんです。犬でご飯を食べている方たちは、お客さんの犬を預かって、しつけをしたり、訓練されたりしますが、私は一緒に暮らしている自分の犬を訓練しているわけです。

ヌータウ君のこんなにリラックスした姿を見られるのも、一緒に暮らすからこそ=撮影・松中みどり

ヌータウ君のこんなにリラックスした姿を見られるのも、一緒に暮らすからこそ=撮影・松中みどり

日々の暮らしの中で出来ること

――運動量が多いと思うのですが、早朝から散歩に行かれるのですか?

朝4時半とか、冬でも5時くらいから散歩に行きますね。私は訓練場を持っているわけではないですから、河川敷や、山の中に車で犬たちを連れて行って、そこで1時間くらい。日に2回散歩します。捜索の本格的な訓練は、月に2~3回ですね。

――相良さんとミモザさん、ヌータウ君は、この前は広島に行かれてましたし、熊本にも行かれてたし、そういう災害の現場で活動するときと、普段から、犬たちと活動するときがあるわけですね。

はい、最近も「神戸ドイツ学院」というインターナショナルスクールに行ってきました。たまたま家の前をその学校の先生が通りかかって「ちょうど救助犬のことを授業でやっている」と、おっしゃったので、「じゃあ、行きましょうか?」と。少しでも捜索災害救助犬のことを知って欲しいから、すぐに決めて行ってきました。あとは、例えば茨木消防さんと提携しているので、5月は一緒にビルの中の捜索訓練をやりました。9月1日、2日には「全国救護活動研究会」のベーシックコースに参加して一緒に訓練してきました。もちろん、災害が起きた時は最優先で、そこに向かいます。いつ、どこで何が起こるか分かりませんから、いつでも出動できるようにしています。

全国救護活動研究会の第47回ベーシックコースでレスキューに関わる人たちと一緒に訓練中のミモザさんとヌータウ君=写真提供・相良順子さん

全国救護活動研究会の第47回ベーシックコースでレスキューに関わる人たちと一緒に訓練中のミモザさんとヌータウ君=写真提供・相良順子さん

*相良順子さんは、救助犬の専門指導員として、全国救護活動研究会の研究生に 救助犬のノウハウを指導している。

阪神救助犬協会のホームページには、相良さんからのメッセージとして、以下のようなことが書いてありました。

  1. 「日本において捜索災害救助犬の認知度は、欧米諸国に比べてまだまだ低いのが現状です。認知向上と普及のため、各種防災訓練やイベントへの参加も積極的に実施しています。その他、わんわんパトロール活動やセラピードッグ育成・派遣を通じて、地域の安全性の向上や交流支援活動を行っています」
2018年9月12日ご自宅にて:相良順子さん=撮影・松中みどり

2018年9月12日ご自宅にて:相良順子さん=撮影・松中みどり

相良さんとミモザさん、ヌータウくんは、訓練の合間に、捜索災害救助犬の広報活動にも努めています。その活動の全てが手弁当。「頼まれれば、どこでも気軽に出かけていますよ」と明るく話す相良さんですが、いったん災害が起きれば、自分の車に犬を乗せて、ガソリン代、高速代を使って出動します。惜しみなく力を尽くして、大変な活動を続けている相良さんとミモザさん、ヌータウ君に頭が下がりました。

相良さんのご近所にあるアトリエ「唯」さんが救助犬たちのために作られた軽くて負担のかからないボディーバンダナ=撮影・松中みどり

相良さんのご近所にあるアトリエ「唯」さんが救助犬たちのために作られた軽くて負担のかからないボディーバンダナ=撮影・松中みどり

相良さんへのインタビューの中で、私たちに出来ることは何かと考えました。これだけ自然環境や気候が変化し、台風はますます大型化している今、それでなくても地震大国の日本で、捜索災害救助犬が果たす役割は大きいと思います。人を探す訓練を受けている犬たちが、十分にその力を発揮できるためには、犬はどのように育成されるべきか、社会の受け入れ態勢はどうあるべきか、インタビューの「下」でお伝えしていきたいと思っています。

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