宝塚歌劇星組シアター・ドラマシティ公演、楽劇(ミュージカル)『鎌足 -夢のまほろば、大和(やまと)し美(うるわ)し-』が、2019年5月5日(日)に、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで開幕しました。5月19日(日)からは日本青年館ホールで上演されます。また、この舞台は、2019年5月25日(土)15:30から、全国の映画館と台湾・香港の映画館でライブ中継されます。開幕前日の5月4日に行われた舞台稽古を取材させていただきましたので、紹介します。
タイトルでもある「鎌足」(かまたり)は、「大化の改新」の中心人物として知られる中臣鎌足(なかとみのかまたり)。のちの藤原鎌足(ふじわらのかまたり)で、歴史の中で長く続いた「藤原氏」の始祖として知られる人物です。
「大化の改新」は、「改新」と言えば響きは良いですが、実際には、今から1400年近く前に、蘇我一族の支配をめぐって、血で血を争う抗争が繰り広げられた時代で、その時期を宝塚歌劇団の若き演出家、生田大和さんがどのように描くのか、興味津々で取材させていただきました。
ひとことで言って「うまい!」と、思いました。男女の愛をしっかりと描く宝塚歌劇の王道を守り、上流階級の娘・車持与志古郎女(くるまもちのよしこのいらつめ)と下級の家に生まれた男・中臣鎌足の愛、女性天皇・皇極帝(こうぎょくてい)と若き豪族・蘇我入鹿(そがのいるか)の愛、その2つの愛をベースに、蘇我入鹿と中臣鎌足の友情と対立、権力闘争の激しさと虚しさを、テンポ良く描いた手腕は、大劇場で歴史大作を次々と上演しているベテラン演出家を彷彿とさせるものでした。
中臣鎌足を演じる紅ゆずる(くれない・ゆずる)さんと、車持与志古郎女役の綺咲愛里(きさき・あいり)さんは、ちょっと軽い感じの青年を演じさせれば天下一品の紅さんと、そうした青年に恋してしまうオキャンなお嬢様を演じさせれば抜群の綺咲さんとのペアで、安心して「2人の世界」に入って行くことができます。
そして、蘇我入鹿を演じる華形ひかる(はながた・ひかる)さんと、皇極帝役の有沙瞳(ありさ・ひとみ)さんは、少なくとも第1幕はこの2人が主役ではないかというぐらい深く心理描写され、火花が散るような2人に「そうかー、そう来たかー」と、うならされました。
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■中大兄皇子役の瀬央ゆりあさんと巨勢徳太役の麻央侑希さん、権力を維持する非情さも
■重厚な演技の一樹千尋さんと、中性的キャラがいい感じの天寿光希さんが、狂言回し的に
■虐げられた民衆の怒りを表現するシーンでは、『エリザベート』の「ミルク」的な歌も
■通説と一致するかどうかではなく、歴史上の人物1人1人の気持ちが伝わってくることが重要
<楽劇(ミュージカル)『鎌足 −夢のまほろば、大和(やまと)し美(うるわ)し−』>
【大阪公演】2019年5月5日(日)~ 5月13日(月) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
【東京公演】2019年5月19日(日)~ 5月25日(土) 日本青年館ホール
【ライブ中継】2019年5月25日(土)15:30上映開始 全国の映画館と台湾・香港の映画館
<関連サイト>
公式サイト
https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2019/kamatari/index.html
全国の映画館でのライブ中継
https://kageki.hankyu.co.jp/news/20190422_003.html
台湾・香港の映画館でのライブ中継
https://liveviewing.jp/screenings/kamatari-eng/
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■中大兄皇子役の瀬央ゆりあさんと巨勢徳太役の麻央侑希さん、権力を維持する非情さも
中大兄皇子(なかのおおえのみこ)役の瀬央ゆりあ(せお・ゆりあ)さんと、蘇我入鹿の側近の巨勢徳太(こせのとこだ)役の麻央侑希(まお・ゆうき)さんは、大化の改新後の第2幕で、権力を維持する非情さを描く重要な役回りを担っていきます。男から見てもほれぼれするような、イケメン2人が並ぶシーンもありました。
■重厚な演技の一樹千尋さんと、中性的キャラがいい感じの天寿光希さんが、狂言回し的に
複雑な歴史的背景を、わかりやすく狂言回し的に説明していったのは、唐から帰国した僧旻(そうみん)役の一樹千尋(いつき・ちひろ)さんと、船史恵尺(ふねのふひとのえさか)役の天寿光希(てんじゅ・みつき)さん。一樹さんは堂々とした演技で重厚に歴史を表現し、天寿さんは中性的キャラクターがいい雰囲気で舞台を軽やかに見せる役割を果たしています。
■虐げられた民衆の怒りを表現するシーンでは、『エリザベート』の「ミルク」的な歌も
虐げられた民衆の怒りを表現するシーンでは、『エリザベート』の「ミルク」を思い浮かべるような歌もあり、大河ドラマのような長い話を、感情に乗せつつコンパクトに効果的に進行させていました。
■通説と一致するかどうかではなく、歴史上の人物1人1人の気持ちが伝わってくることが重要
この作品では、鎌足が采女(うねめ)の安見児(やすみこ)を得たことを喜んで歌ったとされる和歌、「われはもや 安見児得たり 皆人の 得難にすといふ 安見児得たり」という有名な歌を、見事にストーリーに生かしていましたが、「こうくるか!」と心底、驚かされました。
歴史ものの舞台では、その内容が歴史的な「通説」と一致しているかどうかが重要なのではなく、歴史に名を残した人物1人1人の気持ちをしっかりと描き、その心の動きが伝わってくることで、歴史上の人物がリアルな人間として劇場空間によみがえり、観客とともに生きることこそが重要だと思います。そうした意味で、今後も、こうしたしっかりとした歴史ものの舞台作品が次々と登場して欲しいものです。