2015年、フランス料理のオリンピック「ボキューズドール」に日本代表として出場し、世界第5位となったシェフ・高山英紀さんのレストラン「メゾン・ド・タカ芦屋」で食べることが出来る「嚥下食」コースのレポートです。
芦屋川のほとりにある瀟洒な邸宅風のレストランでいただく高山シェフのお料理は、味も見た目も超一流です。美食の頂点を追求している高山シェフですが、彼にはもうひとつ、探求しているものがありました。飲み込む力が弱くなった年配の方や、嚥下障害のある方においしく食べてもらう料理です。トロミ剤などを用いず、食材の特性を活かして、食べた人がみんな笑顔になるユニバーサルな「嚥下食」なのです。
嚥下食に関しては、以前レポートしたこちらの記事を参照下さい⇒ 口から食べる楽しみを守りたい・愛情あふれるケーキが嚥下食レシピ大賞受賞!
今回、高山シェフのレストラン「メゾン・ド・タカ芦屋」で、嚥下障害のある方もそうでない方も一緒に食事を楽しむことが出来るという情報をくれたのも、上の記事で紹介したEさんご一家です。管理栄養士の指導を受けて、安心して食べられる家庭料理を楽しんでいるEさんですが、たまには家族で外食も楽しみたいのが当たり前。高山シェフのお料理を、嚥下障害のあるEさんも、お連れ合いや娘さんが食べる通常コースとほぼ同じ内容で楽しめるというわけで、その嬉しいランチに筆者も同行してきた次第です。
ウエディングも出来るという美しい中庭を眺めながらテーブルにつくと、高山シェフが挨拶に来られました。
高山シェフ:アミューズを召し上がっていただいて、食べられるかどうかの確認をしながら、次の料理を調整していきます。パイ生地のもの(写真下真ん中)は省略しましたが、チーズのババロア(写真上左)は、上に乗せた生ハムのパウダーを省いていますので十分召し上がっていただけると思います。トマトは、出汁に浸して炊いてから、ゼラチンで覆ってあります。上の飾りは取ってありますが、口の中でパンッとはねるような食感を楽しんでいただくものですから、お父様が召し上がれるかどうか、確認してください。
この後のお料理すべてにおいて、シェフの目配りがきいていて、Eさんも最後まで笑顔で完食。食べられるかどうかの確認のため、新しいお料理が出るごとにテーブルまで来られた高山シェフでした。
高山シェフ:ユニバーサルな嚥下食メニューは専門知識が必要になるので最終調整は私が行いたいと考えています。当店のフルコースは5800円からになるので、お値段は今の所、ムース食であれば5000円程度に押さえて一人でも多くの方に召し上がって頂きたいと思っております。
高山シェフは、兵庫医科大学の道免和久・リハビリテーション医学主任教授と共同開発した介護食を手がけています。専門家による医学的な後ろ盾と、一流シェフの技術が、安心して食べられるユニバーサルでおいしい料理につながっているのです。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、ランチコースで出された他のお料理の写真と、今回感動したパンのムースのコツなどを掲載しています。
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■シェフのサインが入ったメニュー表
■トウモロコシのスープ~幸せのスープ~
■驚きのメイン料理
■パンのムースのコツ
<関連リンク>
メゾン・ド・タカ芦屋ホームページ
http://maisondetaka.jp/
たかやマルシェ: 高山シェフプロデュース テイクアウト専門店
http://takayamarche.jp/?mode=f2
蔵マルシェ: 介護食品
https://kuramarche.com/
楽天市場 蔵マルシェ 高山シェフのスープ購入ページ
- 嚥下障害があっても食べられるフランス料理のフルコース 2019年7月5日
- ジェントルスティム導入 嚥下食レシピも進化中 2018年3月14日
- 口から食べる楽しみを守りたい・愛情あふれるケーキが嚥下食レシピ大賞受賞! 2017年1月9日
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■シェフのサインが入ったメニュー表
ランチのメニューには高山シェフの直筆のサインが入っていました。左側のユニバーサル嚥下食のメニューは、食事をする方の嚥下状態を見ながら、臨機応変に食材や調理法を変えていくのが高山シェフの素晴らしいところです。
右側のコースが、筆者も一緒にいただいた5800円のコースです。Eさんのメニューで用いられている食材の方が高価なものもあり、ムースにすることで通常の料理の時よりも手間がかかり、食材の量も多く必要なところを、5000円で提供するというのは、本当に破格です。肺がんでお父さまを亡くした高山シェフは、抗がん剤治療で体力を落としている人も、口から食べることで気力も体力も保つことが出来ると話されていました。
■トウモロコシのスープ~幸せのスープ~
高山シェフ:自分でも、これだけなめらかに出来るとは(笑)とてもなめらかに、なかなかおいしく出来ていると思います。皆さん、味見なさってください。
高山シェフは月に一度、高齢者施設でスープやデザートを作って、嚥下に障害のある人においしい料理を作っています。一流シェフのスープは、食べることに困難をおぼえるようになった方々にも安心して食べられる「幸せのスープ」。6月30日には、トウモロコシの温かいスープにホタテ貝のメレンゲムースを添えたものが、Eさんのために提供されました。高山シェフのユニバーサル嚥下食への取り組みは、サンテレビでも特集されていて、2019年3月5日には「日本一シェフの”幸せのスープ”」として放送されました。
■驚きのメイン料理
この日、Eさんに提供されたのは「和牛の赤ワイン煮込み」。ジャガイモのピューレが添えられたこの料理を、一口味見させていただきました。もう、このまま通常コースの一品として出してもらいたいほど。驚くほどおいしい絶品でした。柔らかく、口の中でとろける和牛は、高山シェフの嚥下食が、「ユニバーサル」といわれる所以です。誰が食べても満足できるバリアフリーのお料理でした。
■パンのムースのコツ
フルコースのランチをいただいて、どの料理も本当に素晴らしいと思いましたが、その中で、家庭でもぜひやってみたいと思ったのが「パンのムース」です。料理の途中で焼きたての白パンや全粒粉のパンが出されますが、一流レストランのパンとバターは本当に美味しいのです。しかし、Eさんにはパンを召し上がることは難しく、トロミ剤を使わずにパンをなめらかなムースにするのは、また難しい。普段はご飯を食べていて、パンはあまり食べていないというEさんです。高山シェフのパンのムースがこちらです。
トロミ剤を使わずにこのなめらかさを出すのはどうしたらいいのか、シェフに質問しました。
高山シェフ:パンの嚥下ムースは、一般な作り方と同じだと思いますが、最後の仕上げを細かいタミで裏ごしし、少量の牛乳とバターを加えて風味付けするところがコツだと思います。水ではなく、バターが入っているので、皆さんが召し上がっているパンと同じ風味を味わえるのです。
高山シェフは、Eさんの嚥下の様子をずっと丁寧に観察され、コースの最後まで心配りをされました。その優しく暖かい眼差しは、食事をする私たちまでもつつんで、本当に幸せなテーブルだったのです。
これからも高山シェフのユニバーサル嚥下食が、多くの人に生きる力を与えることを願っています。