口から食べる楽しみを守りたい・愛情あふれるケーキが嚥下食レシピ大賞受賞!

「第7回ソフティアを使った嚥下食レシピ大賞」<エピソード部門>大賞受賞Happy ミニロール Cake Tower!!

アイデアニュースで紹介した介護関連の記事の中に、 目の当たりにした「管理栄養士による在宅訪問」の成果、オリーブオイルで体調改善 という、「食支援」を在宅介護の中心にすえて取り組む家族の物語がありました。2度の喉頭癌による嚥下障害で、普通の食事がとれないEさんのために、ご家族は、飲み込みやすい形状を工夫することはもちろん、目でも楽しめる工夫をして食事を作っておられます。今回、Eさんの娘さんのSさんが作った「Happy ミニロール Cake Tower!!」が、2016年12月9日に発表された「第7回 トロミ剤ソフティアを使った嚥下食レシピ大賞」エピソード部門のレシピ大賞を受賞したというニュースが入ってきましたので、ご紹介します。この下の写真に写っている素敵なデザートが、エピソード部門の大賞を受けた「Happy ミニロール Cake Tower!!」です。口の中に入れると口の温度でスーッと溶けますが、トロミ剤でコーティングしているので、形状がばらけず飲み込みやすいケーキは、誤嚥しにくいものに仕上がっています。

「第7回ソフティアを使った嚥下食レシピ大賞」<エピソード部門>大賞受賞Happy ミニロール Cake Tower!!

「第7回ソフティアを使った嚥下食レシピ大賞」<エピソード部門>大賞受賞Happy ミニロール Cake Tower!!

読者の皆さんにとって「嚥下障害」という言葉は、耳慣れないものかもしれません。私たちは、食べ物を認識し、口に入れ、噛んで、飲みこむという一連の動作を当たり前に毎日行っています。この動作のうち、「飲み込む」という動作が「嚥下(えんげ)」です。加齢や病気によって、この動作が困難になってくるのは、例えばお正月に「餅を喉に詰まらせて緊急搬送」される人のニュースなどでもよく分かると思います。年を取ったら、あるいは病気になったら、安全のためにお餅や飲み込みにくい食材は避けるべき?でも、好きなものを食べたいという気持ちや、家族に好きなものを食べてもらいたいという気持ちは、誰もが持っています。

大賞を受賞したこのケーキは、

大切な家族のお誕生日には、一緒にお祝いしたい。

おじいちゃん、おばあちゃんも子や孫と一緒に食べて欲しい。

生きる喜びを味わってほしい。

障害があって食べることが困難な子どもさんやご両親にも食べる幸せと

モチベーションを届けたい。

そんな想いで作られました。原則として施設や病院の専門職の方が対象のコンテストで、患者の家族であるSさんが受賞したのは、成績優秀だったのはもちろん、こうした想いが評価されたからでしょう。かぼちゃ、抹茶、ココア、クランベリー、紫いもを使った可愛いケーキは、水玉やラインが模様に入って心浮き立つようなデザイン。スポンジケーキと牛乳、生クリーム、トロミ剤を一緒にしてペースト状のベースを作って、野菜のペーストで色付けし、冷蔵庫で冷やし固める本格的なデザートの手法を使ったケーキは、お祝いの席にふさわしい出来栄えです。安心して食べられる安全な食材に、トロミ剤を使うことで食べやすさを追求したデザートになっています。2017年2月の東京での授賞式には、一家で出席する予定とのこと。受賞した専門の方々に交じって、Sさんも家庭での嚥下食の取り組みについて発表されるそうです。

超高齢化社会を迎えている日本において、嚥下食のことを皆さんにもっと知ってもらいたいですし、トロミ剤を使って調理することが「当たり前の知識」として広がって欲しいです。トロミ剤は高齢の方だけでなく、小さなお子さんがのどを詰まらせるような事故も防ぐことができるアイテム。嚥下食は、工夫次第で多くの人が利用できる可能性をもっているのです。

Eさんの食事作りに使っているトロミ剤=撮影・松中みどり

Eさんの食事作りに使っているトロミ剤=撮影・松中みどり

「管理栄養士さんにトロミ剤を使ったおもち風の嚥下食の作り方を教わったので、父はお雑煮を食べました」とSさん。家族で過ごすお祝いの食卓で、同じメニューを食べられることは、まさに食のバリアフリーです。

嚥下食レシピ大賞については以下のページをご覧ください

Eさんのお粥にはオリーブオイルとバシルが入り、イタリア料理のようです=撮影・松中みどり

Eさんのお粥にはオリーブオイルとバシルが入り、イタリア料理のようです=撮影・松中みどり

7年半、筆者が自宅で介護してきた義父は、脊髄損傷のため、首から下の自由を失い嚥下困難がありました。介護の後半には嚥下障害が進み、刻み食からゼリー状の滑らかなものしか食べられなくなりました。終末期には誤嚥性肺炎を繰り返し、口からものを食べることが出来なくなって亡くなったのです。Eさんの在宅介護の様子を拝見し、特に娘のSさんの精力的な情報収集と、少しでも食べやすく美味しいものを用意しようとする姿勢に触れると、あの時私たち家族も、もっと出来ることがあったのではないかと思います。だからこそ、ひとりでも多くの患者さんとその家族に、在宅介護における食支援の新しい考え方、進化している取り組みについてお伝えしたいと考える次第です。

Eさんの嚥下状態を確認する言語聴覚士さん=写真提供Sさん

Eさんの嚥下状態を確認する言語聴覚士さん=写真提供Sさん

ここからはアイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分です。本人、家族、医師、看護師、理学療法士、言語聴覚士、作業療法士、歯科医師、管理栄養士、ケアマネージャーなどの力を結集した「多職種連携」によって、納得のいくオーダーメイド医療を実現していくことについてご紹介します。義父の在宅介護中にこのような考え方を知りたかったと思っています。

◆アイデアニュースに掲載した介護・医療関連の記事は、この下のリンクをクリックすると出てきます。
アイデアニュース:介護・医療記事一覧 https://ideanews.jp/backup/archives/category/society/care-medical

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分では、Eさんのように自宅で過ごす人のために、地域の医療施設、福祉施設、訪問介護ステーションなどが力を合わせ、栄養管理を一体となっておこなっている「地域一体型NST」について、紹介します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■言語聴覚士(ST)による訪問リハビリ、管理栄養士の訪問サービスでEさんの「食支援」がスタート

■医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、言語聴覚士、事務などが協力するNST

■クッション「p!nto」でEさんの姿勢が劇的に変化、「わたなべクリニック」が在宅NSTの中心に

■内視鏡を使った検査を自宅で行い、それを医療メンバーが観察し、今後のリハビリを検討

■検査出来る医療機関や、嚥下食対応の飲食店などが見つかる「摂食嚥下関連医療資源マップ」

■食支援の情報共有、口から食べるリハビリの集大成が、嚥下食レシピ大賞の受賞に

※ここから有料会員限定部分です。

■言語聴覚士(ST)による訪問リハビリ、管理栄養士の訪問サービスでEさんの「食支援」がスタート

Eさん一家はもともと、在宅介護に関して最先端と言える態勢を整えておられました。2度の喉頭癌によって声帯摘出をされたEさんは、身体的な機能障害はほとんどありませんが、嚥下と発語には専門の訓練が必要。そこで、訪問サービスとしてはまだ珍しい言語聴覚士(ST)によるリハビリを2015年9月から受けています。2016年には管理栄養士さんによる月2回の訪問サービスを導入、糖尿病や腎臓病、心臓肥大などの複合疾患をもつEさんの「食支援」がスタートしました。

摂食や嚥下に困難があるかどうかに限らず、「食べること」は「生きること」です。日々の食事から栄養を吸収し、エネルギーを得ることなくして、人は生きていくことは出来ません。そして、その人の生活の質を大きく左右するのが、食べたいものが食べられるかどうか。自分が美味しいと感じるもの、好きなものを口から摂取することで人は生きる喜びを感じ、精神的にも安定します。逆に、適切な食事が十分に採れない場合は、低栄養の状態になって、免疫力の低下や運動機能の低下を招き、介護度が上がってしまったり、他の病気を引き起こす恐れが出てくるのです。食はすべての基本という所以です。

Eさんの食事作りで使われているのはプロ仕様のミキサーVitamix(バイタミックス)=撮影・松中みどり

Eさんの食事作りで使われているのはプロ仕様のミキサーVitamix(バイタミックス)=撮影・松中みどり

■医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、言語聴覚士、事務などが協力するNST

病院や施設で治療や介護を受けている患者さんの場合は、最近NST(栄養サポートチーム)という考え方で総合的なケアが受けられるようになってきています。看護用語辞典によると、NSTは以下のように定義されていました。

NST(えぬえすてぃー、Nutrition Support Team,ニュートリション・サポート・チーム)とは、栄養サポートチームのことである。患者の栄養サポートや栄養改善のために、幅広い職種(医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、言語聴覚士、事務など)が協力し、より安全で有効な栄養療法を行う体制を指す。

しかし、Eさんのように自宅で過ごす人の場合は、地域の医療施設、福祉施設、訪問介護ステーションなどが力を合わせ、栄養管理を一体となっておこなう「地域一体型NST」が必要となります。現実問題としてまだ、この活動が広まっているとは言えず、Eさん一家も2015年の段階では試行錯誤の状態で、より良い自宅療養、自宅介護の方法を求めていたのでした。

■クッション「p!nto」でEさんの姿勢が劇的に変化、「わたなべクリニック」が在宅NSTの中心に

2015年末から2016年にかけて、Eさんに大きな変化をもたらしたものが二つあります。娘のSさんが情報を収集する中で知ったクッションp!ntoと、「在宅療養支援診療所」わたなべクリニックです。Eさんの姿勢が劇的に変化し、食道発声の訓練や嚥下のリハビリにも良い効果をもたらしたのがp!ntoで、そのことに関してはこちらの記事を参照して下さい→ 疲れていなかった頃の自分に戻れるクッション「p!nto」  ある家族の物語

わたなべクリニック院長の渡辺克哉さんは、医療法人社団日翔会理事長で、在宅医療に取り組んで10年、早い段階から「地域一体型NST」などの考え方を取り入れ、地域の中でチーム医療を実践されています。Eさんの在宅NSTの中心にわたなべクリニックがあることで、Eさんを中心にきれいなサークルが出来たわけです。

わたなべクリニックに関してはこちらのページを参照して下さい→ 医療法人社団日翔会わたなべクリニックホームページ

義父の在宅介護時代を振り返ってみますと、もちろんケアマネージャーさんや主治医の先生がいて下さるわけですが、訪問看護師さん、理学療法士さん、訪問歯科の先生、ヘルパーさんはそれぞれ違うところから派遣されていました。義父の体、精神、栄養などの状況を総合的に見ているのは結局のところ家族で、様々な不具合が起きるたびに不安がありました。薬の管理、嚥下食のことなどを相談するのは誰に、どのようにしたらいいのかという不安です。入院をしているときには、主治医の先生を中心に、看護師さんやリハビリスタッフの方が情報を共有して下さるので、安心でした。でも退院して在宅介護が始まると、そこまでの連携がなく、家族がそれぞれの担当者に連絡・確認をするわけで、負担と不安があったのです。

■内視鏡を使った検査を自宅で行い、それを医療メンバーが観察し、今後のリハビリを検討

現在のEさんは、わたなべクリニックの渡辺先生のもと、チーム医療を受けています。言語聴覚士や管理栄養士といった医師以外の医療従事者が連携し、Eさんの状況に則した適切な対応がとれるようになっているのです。娘さんやお連れ合いもまたそのチームの大切な一員で、役割を担っておられます。

自宅でVE検査(嚥下内視鏡検査)を受けるEさん;大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能治療学准教授・野原幹司先生=写真提供Sさん

自宅でVE検査(嚥下内視鏡検査)を受けるEさん;大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能治療学准教授・野原幹司先生=写真提供Sさん

嚥下障害にかかわる検査のひとつに、VE検査(嚥下内視鏡検査)というものがあります。経鼻内視鏡を使って、摂食・嚥下機能の検査をおこなうものです。鼻から内視鏡を挿入した状態で患者に検査食を飲みこんでもらい、嚥下の一連の流れを観察する検査です。

EさんのVE検査食=写真提供Sさん

EさんのVE検査食=写真提供Sさん

この検査を自宅でおこなうというだけでも、なかなか珍しいことですが、その様子をチーム医療にかかわるメンバーがみんなで観察して、今後のリハビリにどう活かしていくのかを話し合ったそうです。この時、Eさんの義歯を作り直すという提案があり、さっそく摂食・嚥下障害について知識のある歯科の先生の所で義歯を作ったところ、体調も嚥下状態も改善されたということでした。

■検査出来る医療機関や、嚥下食対応の飲食店などが見つかる「摂食嚥下関連医療資源マップ」

NST(栄養サポートチーム)には、摂食と嚥下について学んでいる歯科医師、歯科衛生士の参加が望ましく、今後Eさんのように自宅でVE検査やVF検査(嚥下造影検査)を受けて、チームで検討するケースが増えることが、患者さんの状態を大きく改善すると期待されています。こうした検査が出来る医療機関や、嚥下食に対応している飲食店などが見つかる「摂食嚥下関連医療資源マップ」がありますので、参考にして下さい。→ 摂食嚥下関連医療資源マップ

■食支援の情報共有、口から食べるリハビリの集大成が、嚥下食レシピ大賞の受賞に

食支援・栄養サポートの基本となる検査結果を関係者が共有し、口から食べるリハビリを進めることになりました。最近では入れ歯を新たにしたことで、ますます口周りのリハビリが進み、食事を楽しめるようになったEさん。その集大成が、今回のSさんの嚥下食レシピ大賞を受賞なのだと思います。

「医療の進歩によって、常識もどんどん変わっています。実は、私たちも日常的に誤飲をしているそうです。誤嚥をあまり怖がらずに、口から食べるリハビリした方がいいと提唱してくださる医療関係者の方も増えています。病気や障害があっても、早い段階で専門家に診ていただき、体を起こして、口から食べる訓練をするのが大切なんですね。食べることをあきらめないでもいいというふうに常識が変わってきたんです。」

こんなふうに語るSさん。現在、「嚥下手帳」を導入して、これまでのお父さんの摂食・嚥下の記録をまとめようとしています。入院時やなにか緊急事態が起きた時にも、お薬手帳のように、嚥下に関するこれまでの記録があれば助かります。「嚥下手帳」に関しては、こちらのページをご参照ください→ 「嚥下パスポート」(PDF)をダウンロードする

年をとっても、病気や障害があっても、食べることをあきらめてほしくない。食べることは生きることであり、口から食べてこそ、のどの筋肉の働きや、内臓の動きも期待できますし、何より好きなものを食べる喜びは、生きる力になっていくのです。「お父さんに、美味しくて体に良くて、心の栄養にもなる食事を取ってほしい」という家族の願いをしっかりと支える専門家チーム。わたなべクリニック院長の渡辺先生を中心に、歯科医、歯科衛生士、言語聴覚士、管理栄養士などが連携して、Eさんにあったオーダーメードのリハビリや医療が可能になっていきます。こうした情報共有、チーム医療の動きが、これからもっともっと広がっていくことを期待しています。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA