岸田戯曲賞受賞のKERA戯曲を鈴木裕美が演出、『フローズン・ビーチ』プレビュー開幕

『フローズン・ビーチ』プレビュー公演より=撮影:桜井隆幸

ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)さんが第43回岸田戯曲賞を受賞した戯曲を、鈴木裕美さんによる演出で新たに創った舞台『フローズン・ビーチ』のプレビュー公演が、2019年7月12日、神奈川県・橋本の「杜のホールはしもと」で開幕しました。プレビュー公演の後、新潟、福島、東京、大阪、静岡、愛知、高知、高松を巡演します。この公演は、KERAさんの名作戯曲を、才気溢れる演出家が新たに創り上げるシリーズ「KERA CROSS」の第一弾です。プレビュー公演初日のオフィシャルレポートが届きましたので、ご紹介します。

『フローズン・ビーチ』プレビュー公演より=撮影:桜井隆幸

『フローズン・ビーチ』プレビュー公演より=撮影:桜井隆幸

演劇界を牽引する、劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の過去の名作戯曲を、才気溢れる演出家たちが、新たに創り上げるシリーズ「KERA CROSS」。その第一弾として、第43回岸田戯曲賞を受賞した『フローズン・ビーチ』が、鈴木裕美の演出により上演される。全国公演に先駆け、7月12日、神奈川県・橋本の「杜のホールはしもと」で、プレビュー公演の初日の幕が開いた。

出演は、第24回読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞し確かな演技力で高い評価を得る鈴木杏、初舞台となるブルゾンちえみ、宝塚歌劇団出身の実力派・花乃まりあ、ミュージカルで活躍し歌唱力に加え演技力に定評があるシルビア・グラブ、の4名。瑞々しくも力強い、まったく新たな『フローズン・ビーチ』が誕生した。

『フローズン・ビーチ』に出演している鈴木杏さん(左上)、ブルゾンちえみさん(右上)、花乃まりあさん(左下)、シルビア・グラブさん(右下)=写真提供・キューブ

『フローズン・ビーチ』に出演している鈴木杏さん(左上)、ブルゾンちえみさん(右上)、花乃まりあさん(左下)、シルビア・グラブさん(右下)=写真提供・キューブ

物語の舞台は1987年、カリブ海と大西洋の間にある、小さな島にある別荘の一室。千津(鈴木杏)は友人・市子(ブルゾンちえみ)を伴って、幼馴染の愛(花乃まりあ)の別荘に遊びに来た。見習い看護師の千津だが、高校時代には、市子に「殺したい友人がいる」と口走ったことがあり、市子はその気持ちを真に受け、それを“助けたい”とすら思っていた。市子は、高校時代からエキセントリックな言動で”武勇伝”を持ち、病院に入院歴もある。

『フローズン・ビーチ』プレビュー公演より=撮影:桜井隆幸

『フローズン・ビーチ』プレビュー公演より=撮影:桜井隆幸

愛は、一見ドライでさばさばしているようにも見えるが、双子の姉・萌(花乃 二役)、とは仲が良くない。二人の性格も全く異なり、愛は母が死んでからほどなく再婚した父とその後妻の咲恵(シルビア・グラブ)に反発心を持っていた。しかし萌はファザコンと言えるほど父を愛していた。そして皆が集まったこの日は、奇しくも愛と萌の母の命日….。

『フローズン・ビーチ』プレビュー公演より=撮影:桜井隆幸

『フローズン・ビーチ』プレビュー公演より=撮影:桜井隆幸

ほどなくして、愛の父・梅蔵とともに後妻の咲恵が旅先から予定より早く帰ってきた。愛と萌の3つ上の“継母”であり、ある事故により目が見えなくなった咲恵は、底抜けに明るいが、義理の娘たちとは確執もあるようで、どうもぎくしゃくとしている。

幼馴染の千津と愛、そして、千津の高校時代からの友人・市子。その過去には、友情と呼ぶには複雑すぎる、絡み合った感情があるようだ。そこに萌と咲恵が加わり、5人の女たちの、16年に渡る、ただならぬドラマが始まる、、、。

『フローズン・ビーチ』プレビュー公演より=撮影:桜井隆幸

『フローズン・ビーチ』プレビュー公演より=撮影:桜井隆幸

鈴木杏演ずる千津は、一筋縄ではいかない葛藤をリアルに体現し、千津の心の動きや行動が16年に渡るドラマをけん引しミステリアスに観客を誘っていく。千津という多面的なキャラクターをしなやかに演じ切る鈴木杏から目が離せない。

本作品が初舞台となるブルゾンちえみ演ずる市子は、その突飛な言動で、まっすぐさの中に狂気が滲みハラハラさせる。冗談も真に受け、暴挙に走っている様は、その実、真情を見透かしている感もありドキッとさせられる。そんな危なっかしい市子を、ブルゾンは見事に演じている。

『フローズン・ビーチ』プレビュー公演より=撮影:桜井隆幸

『フローズン・ビーチ』プレビュー公演より=撮影:桜井隆幸

花乃まりあ演ずる愛は、別荘に集った全ての登場人物たちをつなぐ存在でもあり、その言動が物語に一石を投じる。花乃は、愛と萌という愛憎を抱えた双子の、異なるキャラクターをそれぞれ巧みに演じ、二つの役の間を颯爽と行き来する姿に惹きつけられる。

シルビア・グラブの演ずる咲恵は、底抜けな明るさを持ち、初対面である娘の友人たちともパワフルに打ち解けてゆく。かと思えば、素っ頓狂に見えて、実は、盲目であるが故に事を敏感に感じ取る鋭さも見せる。シルビアの持つ華やかさも加わり、さらに魅力的な人物像を創り出している。

『フローズン・ビーチ』プレビュー公演より=撮影:桜井隆幸

『フローズン・ビーチ』プレビュー公演より=撮影:桜井隆幸

鈴木裕美の人間関係を綿密に編み上げる演出は、16年に渡る女たちの関係とミステリーを展開させながら、登場人物の心の機微を浮かび上がらせ、息をもつかせぬミステリー・コメディを新たな形で創り上げている。

物語では1987年、1995年、2003年、と3つの時代が描かれ、それぞれの出来事、流行っていたカルチャー等のエピソードが随所に登場し、時代の空気を思い起こさせる。ただしこの物語で描かれる2003年は、“フィクション”である。ナイロン100℃がこの作品を初演、再演した1998年、2002年当時、まだ2003年は“未来”であった。当然ながら今や過去となったその“時代”を、2019年の観客はどう感じるのか。時を超え、違う楽しみ方ができる、懐の深さを持った作品であることは間違いない。

■鈴木杏メッセージ

プレビュー初日に向けて、出演者を代表し、鈴木杏がメッセージを寄せた。

「戯曲自体もスリリングですが、少人数で台詞量も多い芝居なので、舞台上にいる私たちもスリリングな日々を送っています。でも、やればやる程KERAさんの戯曲の、面白さ、難しさ、楽しさ、を体感しながら日々過ごせているので幸せです。この面白さを観客の皆様にもお伝え出来たらと思い、私たちも稽古を重ねてきました。これから色々な場所で公演をさせて頂きますが、皆様にお楽しみ頂けるように、更に精進して各地に伺いたいと思います。是非、劇場に足を運んで頂けたらと思っています。宜しくお願いします。」

公演は、橋本プレビュー公演の後、新潟、福島、を経て、7月31日に、日比谷・シアタークリエにて公演、その後、大阪、静岡、愛知、高知、高松を巡演する。

<KERA CROSS 第一弾『フローズン・ビーチ』>
【神奈川・橋本プレビュー公演】2019年7月12日(金)〜7月14日(日) 杜のホールはしもと・ホール
【新潟公演】2019年7月25 日(木) 長岡市立劇場 大ホール
【福島公演】2019年7月28 日(日) いわき芸術文化交流館アリオス 大ホール
【東京公演】2019年7月31日(水) ~8月11日(日) シアタークリエ
【大阪公演】2019年8月16日(金)~8月18日(日) サンケイホールブリーゼ
【静岡公演】2019年8月21日(水) 静岡市清水文化会館マリナート
【愛知公演】2019年8月23日(金) 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
【高知公演】2019年8月28日(水) 須崎市立市民文化会館 大ホール
【香川公演】2019年8月31日(土) レクザムホール(香川県県民ホール) 小ホール
公式サイト
https://www.keracross.com

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