オリジナルの楽曲を随所に織り込んだ音楽劇「箱の中~オムニバスで贈る3つの物語~」(脚本・演出、桜さがみ)が、2015年8月21日~22日、大阪府豊中市の豊中すてっぷホールで上演された。小学生と中学生と大人が、3つのチームに分かれてそれぞれ異なった密室劇を演じ、最後のオチにつながるというユニークな構成。筆者も客演として参加させていただいたこの公演についてレポートします。
「劇団 kocho」は、1984年に「劇団 乙女館」としてスタートした劇団が何度か改名しながら「劇団 kocho」となって続いているもの。1988年の第4回公演からは桜氏が作・演出の主軸となっている。2011年からは小中学生で構成される児童劇団「「きっず★kocho」の公演が始まり、現在は小学生の「きっず★kocho」、中学生の「ぱわーず★kocho」、一般の「劇団 kocho」の3チーム構成となっており、今回の作品は3チーム全体での「お~る★kocho」公演となった。
筆者が座長の桜さがみ氏と出会ったのは2000年、某スポーツ番組のお正月特番で共演したことがきっかけ。それから12年後、「きっず★kocho」公演の客演参加を機に、再会を果たした。
桜氏は「子供は表情が豊かなので、もしかしたら私たちがやっている演劇をさせてみたら面白いものができるのではないかと思い、子供たちの可能性を引き出したくて劇団を結成しました。演じる作品は年々ハードルが上がってきていますが、期待以上の芝居を見せてくれるので、今年は音楽劇に初挑戦しました」と話す。
音楽劇「箱の中」では、約30分間の密室劇をオムニバス形式で3作品上演。「密室に閉じ込められた」というシチュエーションで、小学生、中学生、大人がそれぞれテンポのいい会話劇で繰り広げていく。劇中にはオリジナル曲の独唱や合唱、ダンスが随所に盛り込まれ、電子ピアノの生演奏で進行する。「音楽劇」とは題されているものの、ミュージカルといってもいい雰囲気の舞台だった。
作曲を担当したのは、大阪音楽大学短期大学部ピアノ科出身の江﨑昭子氏。桜氏とは学生時代からの友人で、2012年から音楽担当として携わり、「いつか一緒に音楽劇を」という二人の思いが実現した。
江﨑氏は、「まず桜さんから作詞をもらって、曲をつけていきました。登場人物の人生を歌で表現するということだったので、ストーリーに合わせることはもちろん、自然な日本語のイントネーションに沿って歌えるように心がけながら音を重ねていきました」。
曲作りで大変だったことは?とたずねると、「キャラクター設定のはっきりしているものについては1曲20分ほどの短時間で仕上がりましたが、主役やイメージが難しいキャラクター、エンディングのタイトル曲については2日ほどかかりました。特に今回は、神様や妖怪ではなく“人間を演じる”ということでしたので、どうすればお客様の心に届く歌が仕上がるか、歌唱指導も含めて一苦労でした」。
2日にわたる4公演は大盛況の中、終えることができた。桜氏は、「今回は密室劇でありながらも会話劇、さらに音楽劇ということでしたので、ふたを開けてみるまでどうなるかわかりませんでしたが、これまでの作品の中で一番手ごたえを感じています。子供たち一人ひとりに“よくがんばった”と、ほめてあげたい。また久々に大人で演じる芝居もやってみて、芝居はやっぱり面白いなって感じたので、今後は劇団kochoとしての活動にも力をいれていきたい」と語った。
ちなみに筆者が芝居を始めたのは、シナリオ学校時代の恩師から「いい作品を描きたいなら、まず演じる側の気持ちを知ることだ」と言われたことがきっかけ。今回のような密室劇だと合間に台本チェックなんてこともできないため、台詞を覚えるのに苦労したが、テンポよく展開される会話劇は爽快感があり、またもや舞台の魅力にとりつかれてしまった。
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子供たちの芝居ではあえてダブルキャストしている理由を座長・桜先生に聞いてみたところ、こんな答えが返ってきました。どうやらそれが、子供たちのパワーの源にもなっているようです。(堀内優美)
「大人の役者は自己管理もできているし、何があろうが“舞台に穴を空けられない”というプロ根性で、這ってでも来てくれますが、子供の場合はなかなかそういうわけにもいきません。突然熱が出ることもあるし、冬の公演ではインフルエンザにかかって急に出られなくなる子もいました。そういった場合に備えて、ダブルキャストにしているんですが、稽古場では、“ダブルキャストだから、練習してこない子は代わりがいるんやから出なくてもいい!”と厳しく注意することがあります。それが子供たちの士気を高め、“絶対、私がこの役をやる”という責任感に変わり、本番で期待以上の芝居を見せてくれることにつながっているような気がします」
お客様から入場料をいただいて会場に足を運んでいただくからには、もはや大人も子供も、プロの役者としての意識を持つことだ、それが桜先生の考え方のようです。
稽古場では先生の怒鳴り声が聞こえることもたくさんありました。でも、その根底にある子供たちへの愛情の深さを子供たち自身が一番わかっていて、彼女たちは桜先生に応えたい一心で役作りに打ち込んでいました。
私がこの劇団の公演に出演しはじめて、はや4年目。1年生だった子は4年生に、小学生だった子は中学生に成長しています。
彼女たちと共演する中、プロ意識を持つといった感覚は大人だろうが子供だろうが関係ない、要は自分自身に負けないことが大事だと改めて実感しました。
機会があれば、また共演できれば。楽しみにしています。