デビュー20周年のピアニスト、木住野佳子インタビュー(下)

木住野佳子さん=撮影・橋本正人

2015年にデビュー20周年を迎えたジャズピアニストの木住野佳子(きしの・よしこ)さん。8月26日には20周年記念アルバム「Anthology -20th anniversary-」をリリースし、9月17日からは全国ツアー「-Anthology- 20th anniversary tour」がスタートしました。インタビュー(下)では、20年間で一番大変だったことやアルバムの内容やライブのみどころについてお届けします。

木住野佳子さん=撮影・橋本正人

木住野佳子さん=撮影・橋本正人

――前回のインタビューでは、20年間で一番思い出に残っているステキなエピソードをお伺いしましたが、逆に大変だったことといえば、どんなことでしょうか。

今考えてみると、デビュー前の1年間の方がやっぱり大変でしたね。さきほどお話ししましたように、自分で月1回ライブをやると決めて、車で移動して、帰り道や雨の日に公衆電話を探したりしていたこともありました。また、自分でお客様を呼ばないといけないわけですから、当時はパソコンもなかったので、(フライヤーを)ワープロで作って、それをコピーして200人くらいに手書きで送る作業をしていたんですが、母に宛名書きを手伝ってもらったり(笑)。最初は親戚とか含め、お客様が来てくれるんですけど、回数を重ねていくうちにどんどん来てくれなくなって、1年たつとお客様の数を見るのが、胃が痛くなっていました。

「もう自分でやるのも限界かな」と思った頃に、CDデビューの話があったわけです。デビューしてからは事務所や周りの方がそういうことをやってくださるじゃないですか。でもその前に自分でやってみて、そういうことがどれだけ大変かということがわかったので感謝もできたし、経験してよかったなって思います。コンサートなんてお弁当の手配まで自分でやっていましたから(笑)。

橋本正人(アイデアニュース編集長):デビューしてからは?

そうですねぇ……。特に大きな病気をしなかったことが一番良かったなって思います。体調管理にはすごく気をつけていますね。デビューしてからは、途中でやめるというようなことはないですね。

橋本:デビュー前は体調を崩されたこともあったんですか?

あまりの頭痛で倒れちゃって、ワンステージでお家に帰って、それから一カ月寝込んだことはありました。今思えば、あの時の私、くも膜下かなんかだったんじゃないかって思うくらい、ほんとひどかったんですよ。でもCD出してからは、病気にならないように緊張していますので、特に気をつけていますね。まあ、貧血気味になって休憩時間に休んだりすることは経験していますが……。でもやっぱりネ、演奏すると自分も元気が出るんですよ。

木住野佳子さん=撮影・橋本正人

木住野佳子さん=撮影・橋本正人

――曲作りで行き詰まったり、大変だったことはありますか?

私の場合、曲は作ろうと思ってピアノに向かって作るタイプで、違う土地や海外に行くと充電できて曲ができたりするんですが、なかなか日常生活の中では、生まれにくくて苦労します。例えば、映画音楽やCMの曲をお願いされる時は「具体的にこういうイメージで」とコンセプトがはっきりしていて絵コンテなどを見せてもらうので、案外イメージがわきやすいんですが、何もない、無から生み出す自分のアルバムっていうのはけっこう大変だったりするんですよね。自分のアルバムになると、自分の作品だからなんでもいいわけじゃないですか。そうなるとすごく苦労します。なんか曲が似てきちゃったりすることもあるし、煮詰まることはありますね。

あと、2005年にパナソニックのCMでたまたまショパンの「ノクターン」を私がひくことになったので、クラシックのミニアルバム「Nocturne-piano ballade-」を出したんですが、クラシックからしばらく離れていたので、練習がとても大変でした。やっぱりジャズとクラシックは全然違うし、アドリブをすることで楽をしていた部分もあったなって、反省しました。

――アドリブをすることの方が楽なんですか?

アドリブの方が大変っていうこともあるんですが、クラシックは譜面通りに弾かないといけなくて、間違っちゃいけないわけじゃないですか。すごいプレッシャーだし……どれだけ練習しなきゃいけないのかという原点に立ち返り、練習方法を見直してやり始めたという、10年経ってからの転機がここでありましたね。

橋本:クラシックは、楽譜通りに弾かなきゃいけないですよね。

やっぱり間違っちゃいけないし、そこから自分らしさも出したりできると思うんですけど、ピアニストによって少しテンポが変わったり、色が変わったり、ため方が変わったり、そういったことで表現するんだと思うんです。ジャズの場合はアドリブがまるっきりその人の自由でやりますので、全然違う表現方法かと。クラシックをやっている人は、ジャズをやっている人に「なんであんなことができるんだろう」と思っているとは思うんですが、ジャズプレイヤーにとってはクラシックにコンプレックスがある、そういう存在なんですよね。

あと大変だったことといえば、こないだの東日本大震災もそうでしたが、9・11のマンハッタン同時多発テロの時も、たまたま私、マンハッタンにいたんです。前日にテレビのロケで入って、翌朝10時頃ロケに出ようと思ったら、「なんかあったらしい」って聞いて、そのまま10日間帰って来れなくなっちゃったんです。そういった経験をしたことが、その後の音楽にも影響しましたね。

人の優しさにも触れましたし、その時に自分は一体何ができるかということを考えたら、音楽しかできないので、曲を作って次の年にレコーディングしました。もっと自分の音楽をちゃんと作っていって伝えたい、そんな思いはありますね。

木住野佳子さん=撮影・橋本正人

木住野佳子さん=撮影・橋本正人

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大阪での「木住野佳子 Anthology 20th Anniversary Tour」(2015年10月19日)の情報はこちら
→ http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=9633&shop=2

大阪以外のツアーやアルバムの情報は、「木住野佳子オフィシャルサイト」をごらんください
→ http://www.kishino.net/html/all.html

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<プレゼント>

木住野佳子さんのサイン色紙を、アイデアニュースの読者3名さまにプレゼントします。どなたでもご応募いただけます(10月9日金曜日締切)。下記フォームからご応募ください。当選者の発表は発送をもってかえさせていただきます。(このプレゼントの募集は終了しました)ご応募くださったみなさま、ありがとうございました。

木住野佳子さんサイン色紙=撮影・橋本正人

木住野佳子さんサイン色紙=撮影・橋本正人

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※このあと、ニューアルバムや全国ツアーについて語ってくださった部分は、アイデアニュース有料会員限定コンテンツとさせていただきます。

<アイデアニュース有料会員向けコンテンツ>(ニューアルバムやツアーについて、ファンへのひとこと)

――アルバム「Anthology -20th anniversary-」についてお伺いします。収録曲は、ファン投票によって選ばれた11曲ということですが、これはベスト11になるんですか?

ではないんです。90年代の5年間くらいの初期の作品からスタンダード、カバー曲とオリジナル曲の部門を作ってリクエストいただき、上位5曲ずつを選んで再録音して、あと一曲、新曲が入っています。新曲「プレーヤー」は「祈り」という意味になります。さらに、あともう1曲、実はCDには入りきらなかったので入っていないんですが、実は12曲目があるんですよ。ボーナストラックとして「雨音」という新曲が配信サイトからダウンロードできるようになっています。レコチョクとかiTunesでは買えるんですが、ボーナストラックっていうよりシングルですね。

木住野佳子さん=撮影・橋本正人

木住野佳子さん=撮影・橋本正人

――「雨音」といえば、木住野さんはファンの間でも有名な「雨女」ですよね?

雨女です~!(笑) (ライブツアーでも)また降っちゃいますかね?(笑) ほんとは新曲のタイトルに「雨女」って付けようかと思ったんですけど、あんまりかなぁと思って「雨音」にしたんです。ほんと、毎回雨がいろいろなところで降ってるので……ね(笑)。

木住野佳子さん=撮影・橋本正人

木住野佳子さん=撮影・橋本正人

――アルバムの曲は再録音されたとのことですが、久しぶりに演奏する曲もあったのでは?

それがけっこう、ライブでやってる曲が多かったんですよ。リクエストもよく「意外でしたか?」って聞かれるんですが、わりと思っていたような曲をリクエストしていただきました。もちろん久しぶりの曲もあるんですが。

(前回のインタビューでも)お話ししましたように、90年代ってニューヨークですばらしいメンバーと録音して音もいいので、それを再録音するってことは「昔のほうが良かったね」なんてことになるとイヤだなという心配もあったんですが、今のメンバーも素晴らしいので、ほんとにレコーディングがすごく楽しかったんですよ。アレンジもいろいろ考えて、とってもいいアルバムになったなと思っています。

――10月19日にはビルボードライブ大阪でライブが行われます。どんなライブになるか、見どころ、聴きどころを教えてください。

ライブではもちろん、このアルバムの中から演奏したいと思っています。レコーディングの時、演奏がすごく楽しかったんですが、CDでは最後のアドリブが盛り上がっているところで、フェードアウトになっちゃっているので、そこはもう、思う存分聴いていただきたいですね。大阪でのライブのメンバーは、加納樹麻さん(ds)と早川哲也さん(b)のトリオで、今までとまた違った感じで、すごくいい。きっと楽しんでいただけると思っています。

――最後にファンの皆様へひとことお願いします。

20年こうして続けて来られたということは、応援し支えてくださった方々のおかげなので、ほんとに感謝の気持ちでいっぱいです。私は音楽以外のことは他に何もできないので、これからも曲を作ってピアノ弾いていきたい。これから40周年も、50周年も、目指して頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。

――ありがとうございました。

木住野佳子さん=撮影・橋本正人

木住野佳子さん=撮影・橋本正人

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