音楽座ミュージカル『SUNDAY(サンデイ)』(以下『SUNDAY』)が、2020年12月10日(木)に愛知の名古屋市公会堂で、12月19日(土)から東京の草月ホールで上演されます。この作品は、アガサ・クリスティーの『春にして君を離れ』を原作にした「音楽座ミュージカル」のオリジナル作品。『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』などのミュージカル作品で知られる「音楽座ミュージカル」は、一人の演出家による上意下達型ではなく、音楽座ミュージカルの代表・相川タローさん(以下代表)を中心にメンバー全員で徹底的に議論を重ねる「ワームホールプロジェクト」という独特の方式で創られています。『SUNDAY』で主人公・ジョーンを演じる高野菜々(こうの・なな)さんと、さまざまな場面に登場して狂言回し的な役割を果たすゲッコー役の広田勇二(ひろた・ゆうじ)さんにインタビューし、『SUNDAY』、「音楽座ミュージカル」、「ワームホールプロジェクト」について伺いました。
音楽座ミュージカルは「株式会社ヒューマンデザイン」によって運営されています。その独特な組織のあり方や人財育成感を生かして、ミュージカル俳優らが企業や学校で研修やワークショップを行うこともあります。作品に「完成」はなく、目指す姿に向かって常に変化していくという特徴があり、そして、2018年に初演された『SUNDAY』が、2020年の今回の再演で大きく変わったのは、なんと、ラストの演出。なぜそのアプローチになったのか、ネタバレに注意しながら、話していただきました。
ーー2年前の初演から、変わった点はありましたか?
高野:一番大きく変わったのは、ラストシーンの演出です。初演から2年経ち、特に今年は公演の延期や中止の連続でずっと『SUNDAY』と向き合ってきました。伝えたいことをどういう形で表現するのか、考え、試す時間がとれたのです。それが今のラストシーンにつながりました。
広田:今のラストの形になったのは、9月の本番直前でしたね。
高野:そうでした。初日の3、4日前に「これで行こう」って変更になったんです。初演の時も、ラストが決まったのは同じくらいのタイミングでした。
広田:あれも、本当に決まらなかったよね。
高野:初演の時も、みんなから出た案を全部試しました。音楽座ミュージカルでは、入ってきて1日目のメンバーも積極的に発言できる土壌があります。どんな人から出た意見でも、かならず作品を良くする糧になるからです。そうやって、出てきた色々な意見を生かしながら試行錯誤を重ねて、これならいけそうだってやっと決めたのが前回のラストだったんですよ。
ーー今回、そこまで考えて前回決めたラストシーンを変えた理由は何だったのでしょうか?
高野:決まったら終わりでなく、目指すものに向かって変化を重ねていくのが音楽座ミュージカルですからね。私自身は、9月の初演に向けて、前回と同じラストでお稽古をした時に「虚無感」を感じたりもしました(笑)。すごく薄っぺらい感覚になってしまったんですよ。
広田:そういう感覚をみんなでシェアして、イメージを掛け合わせながら創っていったんですよね。これは『SUNDAY』に限らず、音楽座ミュージカルの全ての作品に通ずる創り方ですね。中心には代表がいて、テーマや方向性については強い意志で舵をとっていく。でも、いわゆる上意下達型で「指示されたことをやる」というあり方ではないんです。演劇の世界では珍しいかもしれませんが、今、いろいろな組織で目指しているあり方と近いと、私たちは考えています。みんなで話をして、やっぱり今の自分たちに必要なことを表現するのにはこっちがふさわしいとどんどん変えていく。いつもそういうやり方をしているんです。だから、結末が変わるなんて日常茶飯事。演じる人間として、はじめは抵抗もありましたが、今はそれでないと舞台で生きることができないのではないかと考えています。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、今回『SUNDAY』ラストの演出を変えたことでお客さまの反応がどうなったかや、ゲッコーという存在が生まれた経緯、今の状況だからこそ盛り込まれた出演者らの感覚などについて話してくださったインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。12月8日(火)掲載予定のインタビュー「下」では、音楽座ミュージカルならではの制作メソッド「ワームホールプロジェクト」について、稽古場での具体的なエピソードも交えてお話しいただいたインタビュー後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■高野:ご覧になった皆さんが初演の時よりもジョーンに共感してくださっている感じがします
■広田:一生懸命生きているジョーンを大阪公演で見ていたら、最後に思わずうるっと
■広田:ジョーンの心の声のようなものを擬人化してみるというアイデアから生まれたゲッコー
■高野:変わるといっても突発的な思い付きではなく、チャレンジを繰り返している感覚
<音楽座ミュージカル『SUNDAY(サンデイ)』舞台映像オンライン配信>
【配信日時】2020年12月28日(月)19:00~2021年1月3日(日)22:00
【上演時間】約2時間30分
【視聴料金】4,400円(税込)
【配信場所】イープラス「Streaming+」
https://eplus.jp/sf/detail/0126900009-P0030094P021001
<音楽座ミュージカル『SUNDAY(サンデイ)』>
【ラボシアター】2020年10月31日(土)~11月1日(日) 東京・町田市内の音楽座ミュージカル「芹ヶ谷スタジオ」(この公演は終了しています)
【大阪公演】2020年11月12日(木) 東大阪市文化創造館大ホール(この公演は終了しています)
【広島公演】2020年11月16日(月) 上野学園ホール(広島県立文化芸術ホール)(この公演は中止になりました)
【愛知公演】2020年12月10日(木) 名古屋市公会堂
【東京公演】2020年12月19日(土)~12月20日(日) 草月ホール
※東京公演は完売
公式サイト
http://www.ongakuza-musical.com/works/sunday
<関連リンク>
音楽座ミュージカル
http://www.ongakuza-musical.com/
高野菜々 Twitter
https://twitter.com/kounonana
高野菜々 公式ブログ「ななのナナなの♪」
https://ameblo.jp/nana-kouno/
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https://twitter.com/yuji_hirota
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■高野:ご覧になった皆さんが初演の時よりもジョーンに共感してくださっている感じがします
ーー今回、ラストの演出を変えたことで、お客さまの反応はどうなりましたか?
広田:ラストだけが原因ではないかもしれませんが、ご覧になった皆さんがジョーンに共感される傾向が強くなった気がしています。一方で、あの結論はどういう意味だったの?という反応もあります。観る方それぞれがいろんな人生を生きてらっしゃるわけですから、いろんな感じ方をされるのが当たり前ですけれど、その幅が今回は広くなったように思います。
高野:私も、皆さんが初演の時よりもジョーンに共感してくださっている感じがします。自分がいいと思うことが、他の人にとっては違っている、なんてこと、生きていれば誰でも体験されることでしょう。どんな瞬間も、たいていの人が「自分はいいことをやっている」と思って生きているわけですし、そう思わないと生きていけなかったりもします。ジョーンもそんな人間のひとり。特別な人間じゃないということが…伝わっていたらいいですね(笑)。
■広田:一生懸命生きているジョーンを大阪公演で見ていたら、最後に思わずうるっと
ーージョーンとゲッコー、お二人とも初演から同じ役を演じられ続けていますが、役の解釈やスタンスにも変化はありましたか?
高野:演出が変わって、「頑張ってジョーンを演じる」という感覚がなくなりました。自分とは年齢も立場も違う役なので、前回は「よいしょ」とひとつスイッチを入れて演じていたところがありましたが、今は、演じなくてもすごく胸に刺さるものが私自身の中に生まれて、背伸びしない感覚で舞台に立てています。
広田:初演の時は、ゲッコーって、ジョーンの中にいる心の声のようなものかと考えて演じていました。でも、今はそういったことを「決めない」ことを自分のテーマにして舞台に立っています。ある意味「いい加減なスタンス」でいることを大切にしているんです。その日のジョーンから、感じ取ったものを受け止めるんです。台本や演出は決まっていても、それをなぞっていたのでは役は生きてきませんよね。だから、舞台の上で、その瞬間をどう感じ取って、どう受け止めて表現したくなるか。思いついたことがあったら、パッとやってみたりもします。最近、高野が本当にジョーンみたいになってきて。
高野:普段の私自身がジョーンみたいになってきた!って最近よく言われます(笑)。
広田:元々、そういう性格なんですけどね! 自分でこれがいい!と思ってそれを勝手にやる性格なんですよ!(笑)。それが彼女の良さでもある。一生懸命生きているというか。実はこの前の大阪公演でそんなジョーンを見ていたら、最後のシーンで思わずうるっときてしまったんですよね。ゲッコーを演じていて初めてでした。その時のジョーンを受け止めたらそうなったという感じです。
■広田:ジョーンの心の声のようなものを擬人化してみるというアイデアから生まれたゲッコー
ーーゲッコーは、もともと原作にはいない役ですよね?
高野:原作では、主人公のジョーンが過去を思い出すシーンに、「トカゲが生え出てくるような」という描写が登場するんですよね。ゲッコーは、この表現をヒントに生まれたキャラクターなんです。でも、原作の「トカゲ」とイコールではないですね。
広田:このキャラクターは、『SUNDAY』を創作している過程で生まれたもので、最初はいなかったんですよ。僕は初案では、ロドニーという、ジョーンの夫役をする予定だったんです。この原作、ミュージカルにするのが結構大変だったんですよね。ほぼジョーンの独白でできていますから。最初は、原作にあるセリフの部分を全部ひっぱり出してきて、文字に起こしてみんなで読んでみたんですよ。でも、それだけだと意味不明で。そんな議論の中で、ジョーンの心の声のようなものを擬人化してみてはどうか、というアイデアが出てきたんですよね。
ーーそれが、ゲッコーだったということですね。
広田:はい。それなら、ゲッコーに話の進行もやらせてみたらどうかとなり、今の形になりました。ゲッコーを登場させることで、ミュージカルとして話が膨らむ構造になり、ガラッとそれまでの案とは変わりましたね。
■高野:変わるといっても突発的な思い付きではなく、チャレンジを繰り返している感覚
高野:今の形になるまで、初演の頃からカウントすると、『SUNDAY』は100回くらい書き直しているんじゃないですかね。
広田:音楽座ミュージカルの作品は、とにかく時間が経つとどんどん変わっていきます。
高野:伝えたいテーマは決まっていても、そこに向けてどうアプローチしようとするかを常にみんな考えているんですよね。変わるといっても突発的な思い付きではなく、チャレンジを繰り返しているという感覚です。
広田:変えることが目的なのではなくて、結果的に変わるんですよね。僕ら演じている人間は、どうしても一個一個つかんでいきたいから、確定していきたくなるんですよ。でも、一生懸命考えて「こうしよう」と決めても、それだけでは拾いきれない感覚って結構あるんです。変化させることに臆病であってはいけないと思っています。
高野:今は、世の中がこれだけ変わって、明日がどうなるかわからない状態ですよね。あると思っていたものが、一瞬にしてなくなったりもしています。「ないからどうしよう」と考えるのではなく、ないなら行動を起こして自ら「ある」ということを作らなければならないと考えるようにもなりました。
広田:舞台も生き物。確定していなくて変化していくのが生きるということですよね。次の愛知公演までは、流石にあまり時間がありませんが、また作品のどこかが少し変わる可能性はあります。
高野:そう、明日にもまた稽古の中とかで変わるかもしれないですし(笑)。
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