2人のキャストで10人あまりの登場人物を演じるミュージカル『ダブル・トラブル』が2021年5月30日(日)まで、よみうり大手町ホールで上演中です。ミュージカル映画の曲を書くという大ブレイクのチャンスを手に入れたマーティン兄弟。兄ジミーが作曲、弟のジミーが作詞を手がけ、「二人ならなんでもできる」と、いざ夢のハリウッドへ。舞台は、映画制作会社MMG(MGMのもじり)のリハーサルスタジオ。社長のガーナーが曲を気に入れば大成功だが、気に入らなかったら即クビ!制限時間はわずか数時間…入れ替わりスタジオに登場するキテレツな人物たち…彼らの運命やいかに?日本初上陸の抱腹絶倒ミュージカルコメディ。先にインタビューを掲載した原田優一さんと太田基裕さんによる「ブロードウェイチーム」の公演は5月22日(土)に終了しましたが、公演の様子をルポで紹介します。
大半のミュージカル作品は、数日後に思い出しても「このシーンのこの台詞が印象に残った」「このシーンで泣いた」という感覚からストーリーを思い出すことが多いものです。あのシーンの意味はこうだったのだろうかとあれこれ考えたり、あの歌が好きだと思い返してみたり。ところが、『ダブル・トラブル』は、思い出し方が違うのです。作品の中の具体的な何かを思い出すよりも先に身体に戻ってくるのは、「面白かった」という感覚です。そして気付いたら…笑ってしまう。そこでようやく、この笑いをもたらしてくれているのは、あの作品の中のどのシーンであろうかと考え始めるわけです。
軽快で品のある、テンポの良い笑い。まさに生粋のコメディです。「笑いの缶詰」を作るとしたら、この作品をギュッと詰め込むと良いでしょう。誤解を恐れずに言うのであれば、まるで「寄席」にいるような感覚でした。「万人向け」という表現をするのは、いかに素敵な作品でもなかなか難しいものですが、この『ダブル・トラブル』は、そう呼べそうな気がしました。人間の「笑い」という感情を、約2時間半にわたりダイレクトに刺激し続けてくれる『ダブル・トラブル』。「こんなシーンがあってね」と、この作品のことを友人や家族に説明してみたところ、大笑いされました。面白いのは私ではなくて作品なのですが、なんだか嬉しくなるものです。
そういえば、この作品を観劇していた時の私はとても「受動的」でした。舞台でジミーとボビーが歌う。秘書ミリーが登場する。アシスタントのシーモアに、音響エンジニアのビックス、社長のガーナー、美女レベッカ…。彼らが登場し、舞台で何かが起こると、私はただそれに反応する。
反射的にその反応は笑いという形になるのでした。受動的に、ただ身を委ねて終始楽しめたのは、原田優一さんと太田基裕さんのお芝居の素晴らしさゆえでしょう。緻密に作り上げていらっしゃるからこその舞台が引き出してくれる、客席の反応。複数役の、変幻自在ぶりも見事でした。
開幕前のインタビューの際に、原田さんが「どの役も、同じ人間が演じるので、そこをどう演じ分けるかが課題」とおっしゃっていたのをふと思い出しました。「原田さんの顔でレベッカ」「太田さんの顔でミリー」と、もちろん、同一人物であることは、とてもよくわかります。しかし、全く別人に見えるのです。「同じ人間」だからこそ、原田さんと太田さんの演じ分けの素晴らしさを拝見することができたように思います。そして、「同じ人間」だからこその面白さも。
そして今、この文章を書くために『ダブル・トラブル』に対して「能動的」に向き合って感じているのは、自分が感じた「面白さ」を伝える難しさです。百聞は一見に如かずと、文章を締めるのは簡単なのですが、伝えられるかどうか…以下、トライしてみます。
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<有料会員限定部分の小見出し>
■映像の早送りとは異なる、速度調整可能なパラパラ漫画のような記憶
■強烈な原田さんのレベッカ。赤色を見ると原田さんのレベッカを連想しそう
■太田さんのシーモアによるモノマネがカギに、幾重にも「演じる」要素
■本来の姿を隠して「別の姿を演じて」いるキャラクターも登場…まさにミラクル
<ミュージカル『ダブル・トラブル』>
【プレビュー・埼玉公演】5月2日(日)~5月3日(月・祝) 志木市民会館パルシティ
【大阪公演】2021年5月7日(金)~5月9日(日) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
(5月7日~5月9日の全4公演中止)
【東京公演】2021年5月6日(木)~5月16日(日) 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
(5月6日~5月11日の6公演中止)
【東京公演】2021年5月12日(水)~5月30日(日) よみうり大手町ホール
※ブロードウェイチームの公演は5月22日に終了しました。
公式サイト:
https://www.musical-wtrouble.jp/
<キャスト>
ハリウッドチーム:福田悠太(ふぉ〜ゆ〜)、辰巳雄大(ふぉ〜ゆ〜)
ブロードウェイチーム:原田優一、太田基裕
<関連リンク>
ミュージカル『ダブル・トラブル』公式Twitter
https://twitter.com/wtroublejp
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■映像の早送りとは異なる、速度調整可能なパラパラ漫画のような記憶
『ダブル・トラブル』のシーンを冒頭から順番に思い出していると、なんだか記憶の中で「パラパラ漫画」を観ているような感覚になりました。一定の速度で調整が可能な、映像の早送りとは異なる感じです。
パラパラ漫画は、手動で紙のページを繰って楽しむケースが多いでしょう。スピードは一定ではなく、パッと手が止まって、あるシーンがクローズアップされたりもします。
ジミーとボビーが動いて踊って歌って、ボビーが歯を磨いて、ガーナーが登場し…。ボビーとガーナーの声色のギャップに驚き、「どちらも本当に太田さん!?」と、自分の目を疑いました。
■強烈な原田さんのレベッカ。赤色を見ると原田さんのレベッカを連想しそう
そしてまた話は進み、キーとなる「レベッカ」登場。強烈な原田さんレベッカに、記憶のパラパラ漫画を繰る手が、ガーナーに続いて止まりました。しばらくは、赤色を見ると原田さんのレベッカを連想しそうです。
太田さんシーモアは、口調をついモノマネしたくなってしまい、原田さんクイックリーは、動くたびに記憶の中で勝手にカチャカチャと効果音をつけたくなってしまいます。「コールドヌードルが冷めないうちに」(クイックリー)。この台詞を思い出して笑った拍子に、記憶のパラパラ漫画から思わず手を離してしまいました。いったん閉じます。
■太田さんのシーモアによるモノマネがカギに、幾重にも「演じる」要素
この作品は「演じること」をテーマにしています。2人で10役以上を演じられるという設定もさることながら、物語の重要なシーンで、太田さん演じるシーモアによる「モノマネ」がカギになる点にも、このテーマが現れているように感じました。
主人公の一人「ボビー」を演じる太田さんが、シーモア役をされている。そしてそのシーモアが、必要に迫られて「ボビー」の役をするというシーンがあるのです。「裏の裏は表」のように、幾重にも「演じる」という要素が重ねられています。
■本来の姿を隠して「別の姿を演じて」いるキャラクターも登場…まさにミラクル
自分の本来の姿を隠して「別の姿を演じて」いるキャラクターも登場します。作品を通して、「演じる」という要素は、一人複数役やモノマネなどの要素によって伝えられています。特殊なことのように見えますが、演じることは、生きることの一部分なのかもしれません。また、芝居をテーマにした芝居という、夢の中の夢という構造からは、この作品が、芝居そのものへのオマージュになっているようにも感じます。
実際に観劇する前に、『ダブル・トラブル』の台本を読ませていただく機会がありました。台本を読むだけでもとても面白くて、何度も笑ってしまったのですが、舞台作品として視覚でこの作品を楽しむことは、また全く別の体験でした。原田さんと太田さんの芝居のテンポや口調、歌。ピアノの生演奏。
想像の中で動かしていたキャラクターたちが、目の前で生きているのです。左の扉から出てきたかと思えば、中央の扉から去り、横の窓から別人としてひょっこり顔を出してまた、中央の扉から別人として入ってくる…トラブルどころではなく、まさにミラクル。そう感じた観劇体験でした。
ダブルトラブルのダブルチームにお気に入りの俳優さんが出演されたので、ほとんど5月中、何回も劇場に通い、贅沢に楽しませていただきました。村岡さんの記事で、その上品で上質な笑いと素敵な歌とピアノ演奏を思い出して、強く再演の日を希望します。このような素敵な舞台に出会えて幸せです。出演者のやさしさをたくさん分けてもらい感謝しています。「そうそう、そうなのよね」と思ったことをきれいに文章にまとめてくださることにも感謝しています。