「心をえぐる演出に、そこまで行くかと」、『INTO THE WOODS』 福士誠治(上)

福士誠治さん

ミュージカル『INTO THE WOODS』が、2022年1月11日(火)から1月31日(月)まで日生劇場で、2022年2月6日(日)から2月13日(日)まで梅田芸術劇場メインホールで上演されます。本作は、1986年に発表され、翌年ブロードウェイで初演されました。作詞・作曲は、『ウエスト・サイド物語』『太平洋序曲』『スウィーニー・トッド』など、名だたる名作ミュージカルを手掛けてきたスティーヴン・ソンドハイムさん、脚本はソンドハイムの長年の盟友でもあるジェームズ・ラパインさんです。数々の受賞歴がある本作は、これまでに世界各国で上演され続け、日本でも4度上演されています。2014年には、ディズニーにより実写映画化(日本公開2015年)され、アカデミー賞やゴールデングローブ賞に複数ノミネートされました。本公演では、クラシック音楽やオペラにも造詣が深い演出家、熊林弘高氏が、初めてミュージカル作品を手掛けます。

童話に新しい解釈を与え、大人向けファンタジーとして創り上げたミュージカルで、登場するのは、魔女に呪いをかけられたパン屋の夫婦と、赤ずきん、シンデレラ、ジャックと豆の木のジャック、ラプンツェルなど、おとぎ話の主人公たち。それぞれの物語が交錯し、「森」の中で新しいストーリーが展開されます。主人公たちの「I Wish(願い)」をのせた言葉がめまぐるしく繰り出され、家族の絆や社会の矛盾といった様々なテーマを織り込みながら、人が本質的、普遍的に持つ「人間の業」を描きます。人間の本能や欲望、深層心理を容赦なく暴き出し、美しく、ときに残酷な『INTO THE WOODS』の世界には、多彩なキャストが出演されます。アイデアニュースでは、ジャック役を演じる福士誠治さんにインタビューしました。インタビューは、上、下に分けてお届けします。「上」では、稽古の様子、作品に出演したいと思ったポイント、熊林さんならではの演出、福士さんご自身が演じられるジャック役について、他のキャラクターについての印象、作品に繰り返し登場するモチーフについて考えていることなどを伺いました。「下」では、本作の個性豊かなキャストのこと、『LUXE』のこと、福士さんが物事を選択する指針、ご自身のブログのこと、ソンドハイムさんの曲のこと、作品を通して伝えたいこと、2022年の始まりに際して読者の皆様に伝えたいことなどについて話してくださった内容を紹介します。

福士誠治さん
福士誠治さん

(※このインタビューは、12月中旬に行いました)

ーーいま、稽古はどのようなご様子ですか?

通し稽古はまだですが、頭から回して、2回目くらいです。基本的には細かくやりながら進んでいて、「ここからここまで繋げてみようか」という形なので、まだ自分の中の感覚では、ぶつ切れのような感じですね。

ーー今回の『INTO THE WOODS』について、どんな感想を抱いていらっしゃいますか?

熊林弘高さんという演出家らしいといえば、らしいですし、掘れば掘るほど難しい作品だなと思っています。「ミュージカル」というジャンルももちろんですが、話の流れや本質を考えていくと、童話の登場人物が多いわりには、人間くさいところがたくさんあります。観ている方が気づくか気づかないかはともかく、演じる側には、気持ちの変化や「ここを重点に置いている」というところは細かくあるので、おもしろいなと思っています。チラシの「赤ずきん」「シンデレラ」などのところだけを見ていると、とてもメルヘンで楽しい舞台になりそうな感じはありますが、いい意味で裏切られるのではないかと。

ーー映画はご覧になっていましたか?

はい、観ました。

ーー映画をご覧になった印象と、いま取り組まれている印象とは違いますか?

もともと舞台脚本として作られた話なので、映画の方は少しカットされている部分もありますが、今回は舞台バージョンなので、もう少し肉付けできる部分はあるのかなと思います。映画には、巨人が出てくるなどの具体的な表現がいろいろとありますが、舞台にはそれがありません。でも、生身の人間が演じる強さは、やはり舞台の方が出るのではないでしょうか。

ーーこの作品に出演したい、やってみようと思われたポイントはどこにありましたか?

熊林さんとプロデューサーさんからお声がけいただき、オーディションに参加しました。以前も熊林さん演出の作品に出演させていただいたのですが、とても魅力的な演出家ですし、熊林さんが手がける作品は、自分の中でもなかなか出会えないジャンルのような気がしています。熊林さんの初ミュージカル演出作品ということで、初ものをいただく気持ちですね。

ーー新年からおめでたい感じになりますね。

おめでたい感じもありますし、僕のことを必要としていただけるのなら、全力で作品に挑みたいと。映画も観てキャラクターとの絡みなど難しいところもありますが、楽しそうな作品じゃないですか。その時点ではどの役をやるかも決まっていなかったので、ワクワクドキドキしていました。

ーー熊林さんらしい部分は、どのようなところに感じられますか?

熊林さんの作品には、「人の気持ちを動かす」というよりは、「えぐっていくような」ところがすごくある。舞台には、ストーリーや俳優の演技などを通して、観ている人の心を動かして、飽きさせず楽しんでもらうなどの魅力があります。熊林さんの作品は、僕の中ではもうひとつ深いところにあって、心をえぐる感じ。「そこまで行くか」というところが、たびたびある気がしています。熊林さんご本人がどう思っているかは定かではありませんが、演出の中で、海外の作品の動きなど、日本っぽくない自由さがたくさんあるんです。ものづくりに携わるクリエイターとして、そこに触れられる瞬間は、とても楽しい時間だと思っています。「熊林えぐり」ですね(笑)。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、熊林さんならではの演出、福士さんご自身が演じられるジャック役について、他のキャラクターについての印象、作品に繰り返し登場するモチーフについて考えていることなど、インタビュー前半の全文と写真を掲載しています。1月12日掲載予定のインタビュー「下」では、本作の個性豊かなキャストのこと、『LUXE』のこと、福士さんが物事を選択する指針、ご自身のブログのこと、ソンドハイムさんの曲のこと、作品を通して伝えたいこと、2022年の始まりに際して読者の皆様に伝えたいことなど、インタビューの後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)

■ミュージカル的に「ありえない状態」で歌うシーンは、「意地でも歌ってやろう」と

■ジャックは、原作の『ジャックと豆の木』よりも欲深いキャラクター

■キャラクターたちは、ある意味みんなサイコパス。こんな人たちと関わりたくない(笑)

■何かを満たすために、何かの犠牲に。自然にやっていることが童話の世界観で描かれる

<ミュージカル『INTO THE WOODS』>
【東京公演】2022年1月11日(火)~1月31日(月) 日生劇場
【大阪公演】2022年2月6日(日)~ 2月13日(日) 梅田芸術劇場メインホール
公式サイト
https://www.umegei.com/itwoods2022/

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『INTO THE WOODS』メインビジュアル
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■ミュージカル的に「ありえない状態」で歌うシーンは、「意地でも歌ってやろう」と

ーー『INTO THE WOODS』に描かれているテーマを考えても、ぴったりですよね。

熊林さんご自身が「この作品だ」と思われたのではないでしょうか。「ミュージカルといわれたらこういう動きかな」と想像する動きではない。僕は、ありえない状態で歌うので、おもしろいです。どんな状態なのか楽しみにしていてください。その状態で歌えるかどうかは、こちらに任されているので、「意地でも歌ってやろう」という気持ちでやっています(笑)。熊林さんはオペラもご覧になっている方で、「海外のオペラを観ると肩車をして歌うんだよ。歌っている方は下なんだよ」と、今回もそういう表現方法のひとつとして演出されています。お客さんが驚いてしまう演出が多いのかなと思います。

■ジャックは、原作の『ジャックと豆の木』よりも欲深いキャラクター

ーー『ジャックと豆の木』の物語についてはいかがですか?

もちろん物語は知っていましたが、『INTO THE WOODS』の脚本を読むと、今回の役は、すべてにおいて原作のイメージよりも欲深い。そこがフィーチャーされているから、おもしろいのかなと思います。原作のジャックの「欲」というものを、もう少し具現化したものと、変化させたものとがあります。ジャックは少年ですが、経験を積んでいわゆる大人になっていくというのも、この『INTO THE WOODS』の中でおもしろいところかな。

「森に入る」ということが、我々にとってどういうことなのか。森に入って帰ってくると、どういうことになるのか。再び森に行かなければならなかったりもします。森というものがどういう存在なのかは、キャラクターによって違いますが、ジャックはミルキーホワイトという、自分の大好きな牛を市場に売らなくてはならなくて、森に入らなくてはいけない。再び森に入るときには、牛を取り戻すために、空にある巨人のアジトに行って、お金を盗んでくる。

この作品の中には、自分の中にある欲求を満たすために、誰かの何かを盗まなければいけなかったり、実際に取ったりするという連鎖があります。自分にとっては幸せなことだけれど、取られた方は、それが宝物みたいなものだったりする。それを経て、ジャックが大人になるのか、改めて初心に返るのか。基本的にどのキャラクターもどこか欠落している人たちが多いなと思います。

■キャラクターたちは、ある意味みんなサイコパス。こんな人たちと関わりたくない(笑)

ーー稽古をされている中で、気になっているキャストや役はありますか?

みんな気になります。王子のふたりも信じられないくらい振り切って演じています。

ーーおふたりとも、「まさに王子」というキャスティングですが、いままでとは異なる印象の「王子」が観られるということでしょうか。

そうですね。本当に絵に描いたような、世間知らずな王子でもあります。あとは、おもしろいのは魔女かな。魔女という存在が、やはり少し異端なところがあるので、僕らが思う欲求とはまた色の違う欲求があると思っていて、その辺りもおもしろいです。僕がご一緒するシーンが多いのは、母親役のあめくみちこさん。あめくさんと、セッション出来ることも楽しいですし、嬉しいです。でも、物語のキャラクターがみんな怖いですよ。知らないから怖いというか。

ーー「知らない」というのはどういうことでしょう?

「気持ちを我慢する」という感情がない、みたいな。自分の欲求にまっすぐで、ある意味、みんなサイコパスだと思う。殺人的サイコパスというよりは、自己欲求を満たすために、みんなが行動するので、すごく怖い。僕だったら登場するキャラクターのような人たちとは、関わりたくないです(笑)。

■何かを満たすために、何かの犠牲に。自然にやっていることが童話の世界観で描かれる

ーーこのキャラクターたちが実生活にいたら、怖いですね(笑)。

パン屋の夫妻も、「子どもができない」という呪いをかけられるところから始まりますが、子どもを産めるようになるために、呪いを解く。そのために、いろいろなものを手に入れる。白い牛や、赤ずきんの「ずきん」を手に入れるのですが、全部個人の大切なものを奪いに来る。そこがおもしろく深いなと思っています。

ジャックも兄弟のように一緒にいた牛を取られる。いま必要なものを取られて、そのための呪いを解くというと、「何かを手に入れるためには、何かの犠牲を払わなければならない」と考えますし、もともとは誰のせいだったのだろうと考える。自己の欲求を満たす部分では、みんな一緒なのかなぁ。と思います。人間もそうじゃないですか。何かを満たすために、何かをというのは、僕らも知らず知らずのうちにやっていることなので、それをこういう世界で描くことに意味があるのかなと思っています。

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“「心をえぐる演出に、そこまで行くかと」、『INTO THE WOODS』 福士誠治(上)” への 1 件のフィードバック

  1. 前夜 より:

    IN TO THE WOODSの奥深さが、福士さんのインタビューから感じられました
    観劇を楽しみに待ちたいと思います

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