「口から出る自分の声と、ラミンさんの声が合わない」、『クラウディア』甲斐翔真(下)

甲斐翔真さん=撮影・岩村美佳

2022年7月4日(月)から7月24日(日)まで東京建物 Brillia HALLで、2022年7月29日(金)から7月31日(日)まで大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演される、岸谷五朗さん・寺脇康文さんが主宰する演劇ユニット「地球ゴージャス」のプロデュースによる音楽劇『クラウディア』で、細亜羅を演じる甲斐翔真さんのインタビュー、後編です。下では、これまでに演じた役を振り返って感じること、ラミン・カリムルーさんに憧れていること、自分の歌について感じること、『next to normal』で海宝直人さんとダブルキャストを演じること、エンターテインメントの力についてや、2022年の活動を通して皆さまに伝えたいことなどについて伺った内容を紹介します。

甲斐翔真さん=撮影・岩村美佳
甲斐翔真さん=撮影・岩村美佳

(※このインタビューは、『next to nomal』上演前に実施しました)

ーー今の「楽しさにしか気づいていない」という状態の先に、「本当の苦しさ」が待っているのかもしれないとおっしゃっていましたが、どのような思いかもう少し教えてください。

やはり役者の深みは、そういうことから出てくるものだと思うんです。ずっと同じところにいる人と、一度落ちて這い上がってきた人と比較すると、深みだけでなく、視点や考え方も違うと思います。少しマイナスの気持ちになる瞬間もありますが、それはきっと役者人生の中では大事なことだと思っていて。

楽しいのもいいのですが、これから10年、20年、30年続けていくとして、きっとそういう壁が来るだろうと。それが何なのかは、まだ分かりませんが、ロミオの「僕は怖い状態」といいますか。はじめはみんな、そうかもしれませんね。

ーーロミオの「僕は怖い状態」を体感しているということですね。

人生は、そううまくいかないはずだと思いますから。

ーー逆境がきても大丈夫そうですね。

分かってはいるんですが、大丈夫ではないと思います。だいたい人は落ちたら、何も考えられなくなりますから。今は、楽しいからそう言えますし、そんなに深く考えていないですよ。分かっていますが、そんなときが来たらどうしようと震えているわけではありません。

ーー作品の中では、演じる人物たちがその苦悩や事件を乗り越えていきますが、そういうものを演じるときに、どんなことを思われますか?

まだ自分にはマイナスの部分が足りないなと思います。

ーー落ちていく感じが、自分の実経験には足りないと。

「もう何もしたくない」、というくらいの挫折は味わったことがないですね。例えば、『RENT』のロジャー、『ロミオ&ジュリエット』のロミオの人を殺めてしまったこと、『October Sky-遠い空の向こうに-』のホーマーも間接的にハイコフスキーさんを死に追いやってしまう。そういうストーリーには、絶頂の時とどん底の時があるのですが、そのどん底の部分の経験が僕には足りないと思います。

でも、それはどうしようもできないことで、僕の人生は僕の人生でしかないので。だから、「くらっている風」に見せることしかできないんです。やっているときは、自分の最大限の力で深く掘り下げてやっているのですが、いろいろな役者さんを見ていると、まだ自分はそこまでできていないと感じることがあります。年齢だといってしまえば、つまらなくなってしまいますが、いろいろな経験を通して、自分の気持ちに敏感に反応していく。最近は、それが大事なことかなと思っています。

ーー作品を通して、その感情を知ることもできますか?

そういうこともあるかもしれませんが、やはり本気で人が死ぬ瞬間や、殺される瞬間はなかなか。

ーー確かに、生死に関わる作品によく出演されていらっしゃいますね。

そうなんですよ!

ーーあまり日常生活に近い作品はなかったですね。

『October Sky』が一番幸せではあるんですが。

ーーわりと波瀾万丈な役が多かったですね。

死生観はどうしても年齢に比例する部分があると思うので。逆にいうと、ロミオのような世間知らずのような人物は、今だからできるんです。

ーー今しかできない役でもありますよね。

ホーマーもそうですし、『デスノート THE MUSICAL』の夜神月もそうかもしれないですね。「若さゆえの」という役の作り方や結末のものは、今だからこそですね。

ーー今回演じる細亜羅については、どう考えていますか?

細亜羅はもう少し大人びたいと思います。去年と一昨年で、僕ではなくても、ほかの人のいろいろなことがあったりしました。そういう経験を役者として投影していきたいなと思います。

ホーマーは、その場その場の感情に反応していくので、ホーマーに対しての負の感情は、もっていきづらかったです。真っ白なカンバスのような、まだ成長する前の少年だったので、あまりつくり込まずにやりました。

一方で、細亜羅は、意思がある人だから、自分で先にバックグラウンドをつくっておかないといけません。描かれる前の部分をつくるのが楽しみです。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、ラミン・カリムルーさんに憧れていること、自分の歌について感じること、『next to normal』で海宝直人さんとダブルキャストを演じること、エンターテインメントの力についてや、2022年の活動を通して皆さまに伝えたいことなどインタビューの後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)

■憧れのラミンさん。いいものを最初に見すぎて、それ以下である自分が許せない

■どれだけ音が高くても、2年前よりは、きちんとメロディとして出せるようになった

■海宝さんは歌うモンスター。ゲイブ役のダブルキャストは絶対に比べられると思う

■「劇場に漂う特別な空気がすごい」という感覚。エンタメを好きな方は分かるかも

<音楽劇『クラウディア』Produced by 地球ゴージャス>
【東京公演】2022年 7月4日(月)~24日(日)東京建物 Brillia HALL
【大阪公演】2022年 7月29日(金)~31日(日)森ノ宮ピロティホール
公式サイト
https://www.claudia2022.com

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甲斐翔真さん=撮影・岩村美佳
甲斐翔真さん=撮影・岩村美佳

※ここから有料会員限定部分です。

■憧れのラミンさん。いいものを最初に見すぎて、それ以下である自分が許せない

ーー甲斐さんにとって、また新しい役ですね。幸いにして、『デスノート』から全作品拝見させていただく中で、甲斐さんの歌声の、持っている武器が素晴らしいと思っています。昨年のコンサートでもおっしゃっていましたが、甲斐さんがミュージカルに目覚めたきっかけが、ラミン・カリムルーさんや韓国ミュージカルだったりと、最初にご覧になったレベルが高い分、目指しているところが大きいのかなと思ったんです。

そうかもしれないです。いいものを最初に見すぎて、それ以下である自分が許せないんですよね。最近のコンサートでも、下手だなと思いながら歌っているんです。ラミンさんの声が耳の中に残っているので、口から出る声とラミンさんの声が合わないんです(笑)。

だから、がんばってラミンさんに寄せようとしています。どんどんうまくなりたいから、練習する。そのために耳を肥やしていくのは大事なのかなと思います。理想と現実のギャップが開いていくので嫌になることもありますが、それがきっと成長していくためには必要なことでしょうから。

自分の声を聞いて、うまいなと思っていたら絶対にだめですし、野球選手の大谷翔平さんだって、今の自分に満足していないだろうと思うんです。一流の人たちは、ずっと動き続けている。自分も歌に関しては好きだから、そうでありたいなと思っています。好きだから、こうなりたいと憧れている人に近づきたいから、めんどくさがりな僕の中にも向上心が生まれて、ちゃんとやるんです。

甲斐翔真さん=撮影・岩村美佳
甲斐翔真さん=撮影・岩村美佳

■どれだけ音が高くても、2年前よりは、きちんとメロディとして出せるようになった

ーー歌に関して、ミュージカルに出演するようになってから今までで、「ここはできるようになった」など自分の中での手応えはありますか?

音域は増えました。高い声は、ただ出るだけではなくて、きちんと聞かせられる声になってきたと思います。高い声を出すだけなら叫べば出ますが、どれだけ音が高くても、2年前よりは、きちんとメロディとして出せるようになりました。ラミンさんに比べたら、まだまだゴミみたいなものですが。

ーー歌う曲のジャンルも幅広いですよね。

それは目指しているところで、例えばグランドミュージカルだけなど、「こういう作品に出るミュージカル俳優」だと思われたくなくて。『マリー・アントワネット』もできるし、『RENT』もできるような人になりたいです。それができたら貴重な人材ではないかと、勝手に思っています(笑)。

ーー大事な戦略ですね(笑)!

そういう黒い心はなしとして(笑)、自分がいろいろなジャンルの歌を歌いたいから、そういうことができるようになれたらと思います。

甲斐翔真さん=撮影・岩村美佳
甲斐翔真さん=撮影・岩村美佳

■海宝さんは歌うモンスター。ゲイブ役のダブルキャストは絶対に比べられると思う

ーー今回の『クラウディア』でも、新しいジャンルが増えますね。

新しくJ-POPが増えますね。『next to normal』もめちゃくちゃロックですから、すごく楽しみです。

ーー『next to normal』のゲイブ役は、海宝直人さんとダブルキャストですね。

それもやばいんです。絶対に比べられるなと。

ーー何作品もダブルキャストをご経験されているので、大丈夫なのかなと思っていました。

もちろんそうなのですが、海宝さんは歌うモンスターじゃないですか。だから、どう太刀打ちしていけばいいのか。太刀打ちというと、戦うみたいで変ですね。戦うつもりはありませんが、ボコボコにされないかなと。きちんと加われるように、今もボイトレに励んでいます。

ーー今年のご出演作品には、共演者も達者な方が多いですから、きっとたくさん吸収されるのかなと思います。

今年はもう、大変です。

甲斐翔真さん=撮影・岩村美佳
甲斐翔真さん=撮影・岩村美佳

■「劇場に漂う特別な空気がすごい」という感覚。エンタメを好きな方は分かるかも

ーー最後に、2022年の活動を通して、読者の方へ伝えたいことをお願いします。

2022年は3作品に出演することになるので、1年中ファンの方にお会いすることになると思うので楽しみです。2022年に自分は何を残したいのかと考えているのですが、きっと僕らの立ち位置はすごく可能性がある世界だと思うんです。人の命を救えたり、蘇らせたり、弱っていた人が観たものや聴いたものによって、ものすごく力が湧いて、嘘のように元気になったり。うまく言語化できないのですが、ひとつ現実から離れた輝きといいますか、エンターテインメントというオーラを、存分に感じたい年なんです。

多分、エンタメを好きな方たちは分かってくださると思いますが、「何かわからないけれど、すごく元気になれた」「劇場に漂う特別な空気がすごい」と感じることがあるんです。その感じるものに対して、的確に表現できる単語はまだみつかっていません。でも、そういうものを皆さんと共有できることがすごく嬉しいですし、そういうものならば、きっとコロナにも勝てると思うんです。それがあるから、日頃がんばれたりします。

うまくまとめられませんが、とにかくファンの皆さまと二人三脚のみならず、何人何脚になるかは分かりませんが、僕ひとりだけではなく、皆さまと一緒に2022年を輝かしいものにできたらいいなと思います。

ーー劇場は作り手も観客も、集まっている人全員の命が集まっていて、エネルギーが溢れていますよね。

はい。ふわふわっと浮かんでいて、目に見えるものでもないですが、感じますね。

ーー『クラウディア』をはじめとして、2022年のご活躍も楽しみにしています。

甲斐翔真さん=撮影・岩村美佳
甲斐翔真さん=撮影・岩村美佳

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“「口から出る自分の声と、ラミンさんの声が合わない」、『クラウディア』甲斐翔真(下)” への 13 件のフィードバック

  1. まりか より:

    爽やかな甲斐さんならでは演じられる役を今拝見できることが幸せだと感じました。
    御写真は、少し影がある雰囲気で、これからどんな役柄を、どんな風に演じられるのかが、ますます楽しみです。

  2. るん より:

    素敵な記事、インタビュー
    ありがとうございました!
    お写真もカッコよくて
    ニヤニヤしちゃいました笑
    過去に出演されたミュージカルも素晴らしかったですが甲斐くん初の音楽劇地球ゴージャス「クラウディア」もかなり期待してます!アイデアニュースさんの記事を読ませて頂いて期待度が高まりました!
    これからも色々な事に挑戦して頑張って欲しいです。また甲斐くんのインタビューよろしくお願いします。

  3. りゅ より:

    翔真くんの出演されている作品すべて観劇していますが、グランドミュージカルだけではなく幅広くご活躍されていて応援している方もとっても楽しいです。また、人生の経験を積んでいき今後もどんな翔真くんの演技が観れるのかもたのしみにしています。前編後編共に濃いインタビューありがとうございました!またよろしくお願いします!

  4. ちゅん より:

    アイデアニュースさんの記事は、多角的で内面までさりげなく踏み込んでくれるので心地よくて好きです。甲斐翔真くんは、デビューから観てきて、真面目で、でも時に可愛く、独自の感性を持ち合わせていて目が離せません。音楽劇の事はよくわからなかったのですが、この記事のお陰で楽しみになりました。また、是非翔真くんを取材してください🙏

  5. めーぷるてぃ より:

    とても良いインタビュー記事でした。普段あまり語る事の少ない、翔真くんの内に秘めた思いを知る事ができ、改めてこれからも応援して行きたいと思いました!『next to nomal』のゲイブ役を、素晴らしい歌とお芝居でやり遂げた今の気持ちも知りたいです。

  6. ぽつや より:

    前編・後編拝読しました。ミュージカル俳優としてはキャリアの若い俳優さんですが、彼の仕事への姿勢や作品・キャラクターへの考え方が好きで、その点が沢山滲み出ていた記事で読み応えがありました。また機会がありましたら甲斐さんの記事を書いていただけたらと思います。

  7. ゆき より:

    前編、後編ともに読ませていただきました!
    自分への厳しさや、今の自分に決して満足しない貪欲さ。甲斐くんの普段あまり外には見せない内に秘めた熱い想いを知ることができて、とても嬉しかったです。こんな彼だから好きになったんだなぁと改めて実感することができました!素敵なインタビューと写真をありがとうございました!

  8. さとか より:

    前編、後編とも読ませていただきました。ファンである私たちの前では本当にいつも楽しそうにミュージカルと関わっている甲斐さんの、その裏にある葛藤や苦しさ、将来、それでも進んでいこうとする強さがこれでもかと伝わってきて、彼を応援していてよかったなという気持ちにさせられるインタビューでした。下手なんて思ったことは全然ないけれど、ここからさらに高みを見せてくれるのであれば本当に楽しみだと思わせていただきました。素敵なインタビュー記事と写真の数々を有難うございました。

  9. はれ より:

    とても濃いインタビューが読めて嬉しいです。岩村さんにはこれからも是非年一回ペースでインタビューしていただきたいです。

  10. たれたれ より:

    デスノートから観ていますがものすごい勢いで大役に抜擢され、挑戦を続けてらっしゃるし、観るたびに歌も舞台上の雰囲気も表情も豊かになっていってるのがメインキャストで出続けてるからこそよく分かります。幸運でもあるし、その幸運を掴み、次に繋げているのはご本人の努力の賜物でしょう。これからもますます楽しみなミュージカル俳優さんです。

  11. あさ より:

    前編、後編と読ませていただきました!翔真くんの向上心の源が、ある意味負の感情から生まれていることに驚きつつ、その気持ちを糧に成長を重ねていく芯の強さがとても魅力的だと感じました。ファンとしては「下手でもゴミでも全然ないよ!!」と声を大にして言いたいところですが(笑)、様々なものを吸収してさらに大きな存在になっていく翔真くんを応援したいなぁ、と思わされる素敵なインタビューでした。ありがとうございました!

  12. ゆか より:

    秘めてる思いなど知ることができてとても嬉しかったです。これからの活躍がより楽しみになりました!写真も全部かっこよくて素敵です!

  13. のん より:

    貴重なお話たっぷりありがとうございます。常々俯瞰で見る冷静さがあるなぁと思っていましたが今後の目標などアツイ部分も知ることが出来てこれからがますます楽しみになりました!お写真も素敵なものばかりで眼福です笑

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