「LGBT婚」から「パートナーズ婚」へ 岸本誠牧師が目指す未来

岸本さんが話をし、当事者であるLGBTの皆さんが補足説明をされました=撮影・松中みどり

2017年1月24日、大阪で「新年ブライダルセミナーvol.1 LGBTを知ることで、私たちの本当の未来が見える!~LGBT婚の現状と今後の展望~」が開かれました。平日の午後1時からという時間帯でしたが、LGBT当事者13名を含むおよそ60名が参加。性の多様性と時代の変化に合わせて、結婚式はどう変わっていくべきかという勉強会は、講師の岸本誠さんの情熱的なお話を受けて、プランナーや司会者、メイクなどウエディング業界に関わっている人が多い参加者たちも積極的に語り合い、具体的なアイデアが出てきました。セクシャルマイノリティの結婚式だけにとどまらず、パートナーと出会って、人生をともに生きていきたいと願う全ての人々に、その人らしい結婚式を提供しようという熱意にあふれたセミナーの報告をお読みください。有料部分では岸本さんへのインタビューを掲載しています。セミナーに関してはこちらの告知ページもご参照ください→新年ブライダルセミナーLGBTを知ることで、私たちの本当の未来が見える

ブライダルセミナー講師岸本誠さん2017年1月24日=撮影・松中みどり

ブライダルセミナー講師岸本誠さん2017年1月24日=撮影・松中みどり

筆者は、LGBT当事者の知り合いが公開サプライズ結婚式をあげた昨年8月、結婚式を執り行なった牧師さんとして岸本さんに初めてお目にかかりました。そのときの岸本さんのLGBTに関する深い知識と、「結婚したい人が異性でも同性でも関係なく、誰でも結婚式ができる。その人らしい結婚式を挙げてほしい。願えば夢は叶う」という言葉に深く感銘を受け、いつかお話を聞きたいと思っていたのです。2016年8月の結婚式に関しては、こちらのページをご覧ください→サマーブライダルフェスfor LGBTS

LGBTという言葉を目にする機会が多くなってきたとはいえ、正確な知識のないまま、自分にはあまり関係がないと考えている人が少なくないのではないでしょうか。アイデアニュースでたびたび取り上げている「障害のある人のこと」、「介護のこと」、「沖縄の基地のこと」などと同様に、LGBTにまつわる様々なことが、実は深く自分の暮らしや未来に関わっています。それが伝わることを願ってこの記事を書きました。

岸本さんが話をし、当事者であるLGBTの皆さんが補足説明をされました=撮影・松中みどり

岸本さんが話をし、当事者であるLGBTの皆さんが補足説明をされました=撮影・松中みどり

ではまず、アイデアニュース読者の皆さんにも、岸本さんのセミナーの式次第通り、基本的な知識を知っていただきましょう。

LGBTとは、性的少数者(セクシャルマイノリティ略してセクマイ)の一部分であるL(レズビアン・女性同性愛者)、G(ゲイ・男性同性愛者)、B(バイセクシャル・両性愛者)、T(トランスジェンダー・割り当てられた性とは違う性自認の状態にある人)の頭文字を使った略称です。トランスジェンダーには出生時の身体の性別によってMtF(エムティエフMale To Female)やFtM(エフティエムFemale To Male)という表現も用いられます。

この中に当てはまらない、例えばI(インターセックス・性分化疾患・両性具有など)やQ(クエッショニング・自分のセクシャリティが曖昧であったり不明であったりする人)など、実に様々で多様な性のあり方が存在することが、岸本さんから説明されました。したがって、LGBTイコール性的少数者ではありません。”LGBT”はセクシャルマイノリティの人々のことやそれに関する事柄を示すのに浸透してきた便利な言葉ですが、多様で豊かな性のあり方は人の数だけある。だからセクシャルマイノリティのシンボルは虹の色がグラデーションになっている多様性の象徴、レインボーフラッグなんですね。

というわけで、ここからも”LGBT”という言葉を使いますが、LやG やBやT以外のセクマイの方々を含んでいる総称とご承知おきください。大切なのは、そうした多様でひとりひとり違う性のありようを受け止め、寄り添う姿勢なのです。

岸本さんは、多くの資料を使って、LGBTに関わる新しい情報を伝えてくれました。ここでも幾つかご紹介します。「電通ダイバーシティ・ラボ」が2015年4月に全国69,989名(20~59歳)を対象に、おこなった調査の結果、LGBTに該当する人は7.6%、13人にひとり。2012年の調査では5.4%だったのですが、これはLGBT層が増えたのではなく、表明することが出来るようになってきたからだろうと説明されました。

もうひとつ興味深い指摘は、IOC国際オリンピック委員会が、2014年12月の総会で「オリンピック憲章」に性的指向による差別禁止を盛り込むと決議したので、2020年におこなわれる東京オリンピックにむけて、積極的にLGBTへの支援や法整備をすすめなければ、開催国として日本はアウトなんだということでした。LGBTの問題は人権の問題であるという認識をもって取り組んでいかなければ、東京は国際社会での評価を下げることになるでしょう。2012年のオリンピック開催地ロンドンは、選手村のトイレや宿泊施設も考慮し、当事者のアーティストが開会式・閉会式に参加してLGBT支援の姿勢を明確にしました。日本で初めて「同性パートナーシップ条例」を導入した渋谷区、世田谷区がある東京に、LGBTフレンドリーなオリンピック運営を期待したいと思います。

セミナーで、当事者として話をする井上ひとみさん2017年1月24日=撮影・松中みどり

セミナーで、当事者として話をする井上ひとみさん2017年1月24日=撮影・松中みどり

セミナーは、次に「LGBT婚」にテーマを進めていきました。実際に結婚式を挙げたLGBTの当事者4名(トランスジェンダーでFtMのおふたりとレズビアンのおふたり)が前に出て、岸本さんの質問に答える形で補足説明をしました。筆者にとって特に思い入れの深いおふたり、レズビアンで、2015年の「レインボーフェスタ!」で大勢の参加者を前に結婚式をあげられたひとみさんと淳子さんも、実際に経験したことを話されました。おふたりの結婚式とレインボーフェスタに関してはこちらの記事をぜひご参照ください→最も大切な、最も短い言葉とは?「レインボーフェスタ2015!」に参加して

2015年10月10日「レインボーフェスタ!2015」にて 平等結婚式を終えたひとみさんと淳子さん=撮影・松中みどり

2015年10月10日「レインボーフェスタ!2015」にて 平等結婚式を終えたひとみさんと淳子さん=撮影・松中みどり

1996年に設立以来、22,000組以上の結婚式を行ってきた「関西ブライダルミッション」有限会社。その役員でもあり、ご自身も3500組以上のカップルの結婚式を執りおこなってきた牧師である岸本誠さんは、結婚に関して次のような考えをお持ちの方です。

「良い結婚式は良い夫婦を作る、良い夫婦は良い家族を作る、良い家族は良い社会を作る」

「それぞれの個性を尊重し、多様性を認めあい、みんなが生き生きと幸せに暮らせる社会の元となるのが良い結婚式である」

同性同士の結婚が法的には認められていない日本です。それでも、人生をともに歩んでいくと決めたふたりが結婚式を挙げて、周りの人たちから祝福をされて新しい生活を始めたいと思うのは、ごく当たり前の願いでしょう。

「しかし、」と岸本さんは話されます。「LGBTの人たちが結婚式を挙げたいと思った時、会場がなかなか見つからないのが現状です」

実際に式場や披露宴会場を探した体験のある当事者の4名も、口々に「どこで結婚式ができるのか分からなかった」「ネットで調べても、関西ではほとんどそういう場所がなかった」「断られたらどうしよう思うと電話をするのも勇気がいる」「ホームページなどにLGBTのウエディングを受け入れているかどうか書いてあればいいのにと思った」と話されました。

ブライダルセミナーで意見を発表する参加者2017年1月24日=撮影・松中みどり

ブライダルセミナーで意見を発表する参加者2017年1月24日=撮影・松中みどり

参加者同士が話をする機会も設けられたセミナーで、次のような言葉が印象に残りました。LGBT当事者から結婚式や披露宴に関して問い合わせがあった場合の接客、対応に関して話し合ったときのことです。レズビアンの女性がこう言いました。

「会場に電話をかけて、同性同士の結婚式ですけど、大丈夫ですか?と聞いて、”確認しますので少々お待ち下さい”と言われたらそれが一番傷つくかも。だって、異性同士だったらどんな場合でもまずは”おめでとうございます”じゃないですか。結婚式っておめでたいもののはずなのに、私たちの結婚は、戸惑われたり、検討されたりするものなのかって・・・」

ハッとしました。岸本さんが繰り返しおっしゃる、「LGBTの皆さんも、私たちも、みんな同じ人間であり、法の下に平等であるはず。誰でも結婚できる、誰でも結婚式が出来る、誰でも家族になれる、誰でも幸せになれるというあたりまえのことが、実際にはそうなっていない」という言葉が、彼女の発言を聞いたことで心に届いた気がしました。頭で理解していたことが、ようやく胸にストンと落ちて行ったということかもしれません。

おめでたいはずの結婚式、誰もが当たり前に出来るはずの結婚式が、戸惑われたり、特別な取り扱いを受けたりするのが現状。セミナーのタイトルにあるように、LGBTを知ることで、私たちの社会の現在抱えている問題と、目指すべき未来が見えてきました。

当日、参加者が話し合って出てきたアイデアを幾つか紹介します。

LGBT婚や同性婚を歓迎する式場であることをホームページに明記してあるといい。

LGBTの結婚式に関わるスタッフは、フルタイムであるかパート・アルバイトであるかにかかわらずプロとして、きちんと研修を受けるべきで、できれば研修を受けたということが分かるような認定マークをホームページ等に出してほしい。

一番大切なのは式を挙げるふたりと、式場スタッフのコミュニケーションで、あまり腫れ物に触るような態度は困る。必要なことはきちんと聞いて欲しい。あたりまえの人間関係を築いてほしい。

「新郎」「新婦」と呼ぶかどうかなど、いろいろなことがそのカップルによって違うので、ふたりの希望どおりになるようにきちんと話をきいて対応する。式場に用意されている書類やアイテムはすべて異性同士の結婚を前提に作られているので、どう修正するのかなど、丁寧な対応が必要。

トイレ、更衣室、風呂、休憩室なども考慮が必要。

スタッフ、特に牧師や司会者などはふたりが結婚にいたるまでの経緯を頭に入れて式に臨んでほしい。

何事も決めつけず、おふたりから情報を得て確かめることが大事。

セミナー後半で提案されたのは、「LGBT婚」の先をみつめた「パートナーズ婚」でした。

岸本牧師が提案する新しい結婚の形「パートナーズ婚」=撮影・松中みどり

岸本牧師が提案する新しい結婚の形「パートナーズ婚」=撮影・松中みどり

岸本さんは、「パートナーズ婚」とは、婚姻届けを出すか出さないかではなく、異性同士か同性同士でもなく、結婚式を挙げるか挙げないかでもなく、お互いがお互いを生涯のパートナーとして認め、同じ人生をともにいつまでも歩んでいきたいと願うふたりが「ひとつ」になること、と定義されました。

パートナーズ婚の対象となるのは、LGBTを含む性的少数者だけでなく、障害のある方、難病の患者さん、高齢者、再婚、再々婚、事実婚の方など、すべてのカップルです。岸本さんによると、日本の年間婚姻数は約62万組(124万人)で、最近はそのうちの半数(62万人)が結婚式場で結婚式を挙げるのだそうです。日本の未婚人口(15歳以上)は約3000万人いますが、結婚式場で挙式するカップルが毎年62万人ということから考えると、未婚者の中では、式場で結婚式を挙げるカップルの方がマイノリティで、結婚をしない人もしくは結婚しても式場を使わない人、つまり「パートナーズ婚」の対象者がマジョリティになるのだと説明されました。

ウエディング業界に関わって長い経験のある岸本さんは、1年半前からLGBTの結婚式に深くかかわるようになり、実際になかなか式場が見つからなくて苦労をする人たちにも接してこられました。そんな中で、「LGBT婚」「同性婚」に代わる、いい言葉がないかとずっと考えてこられたそうです。ターゲットを絞って〇〇婚というカテゴライズをするよりも、みんながその中に入る言葉として思いついたのが「パートナーズ婚」。LGBT当事者の方たちからも賛同の声があがりました。ウエディング業界の人たちがこの言葉を使うことで、LGBTの人たちはすぐに自分たちもその中に入ると分かります。SNSでの発信、セミナーの充実、結婚専門雑誌への広報など、芸能人を使う、などなど「パートナーズ婚」を知ってもらうためのアイデアも、次々に出てきました。

一般の人たちにこの言葉が広がることで、もっと風通しのよい、差別のない社会になっていくことを心から願っています。

話し合ったアイデアを発表する参加者 2017年1月24日=撮影・松中みどり

話し合ったアイデアを発表する参加者 2017年1月24日=撮影・松中みどり

また、「パートナーズ婚」に加えて「ホーム婚」という提案もなされました。何らかの事情で、ホテルや結婚式場で式をするのが困難なパートナーのおふたりと相談して、望む場所に出張してパートナーズ婚を挙げることもできますというもの。費用を抑え、自分たちらしさにあふれた結婚式が実現できそうですね。もっと知りたい、興味がわいてきたという方は、「新年ブライダルセミナー&勉強会vol.2」に参加して下さい。

新年ブライダルセミナー&勉強会vol.2 感動の映画ジェンダー・マリアージュから読み解く結婚の本質とは?~同性婚の現状と「パートナーズ婚」の今後の可能性~は、以下の要領で開催されます。Facebookページはこちら→https://www.facebook.com/events/791364747670854/

  1. ★日時 2017年2月21日(火)
    <第一部>上映会&勉強会
    13:00~15:15 「ジェンダー・マリアージュ」上映会
    15:15~15:45 感想交流会
    16:00~17:30 「同性婚」についての勉強会
    17:30~17:45 まとめ
    <第二部>LGBT当事者との交流会
    18:00~20:00
  2. ★場所東天紅大阪天満橋OMM店(結婚式場クーレクール)
    ※谷町線または京阪天満橋駅直結OMMビル20階
  3. ★会費:<第一部> 3,000円(映画鑑賞代、資料代込み)
    <第二部> 6,000円(中華ブッフェ料理、フリードリンク制)
  4. ★持ち物
    筆記用具、名刺
  5. ★申込み方法
    以下の申込み専用フォームより、メールにてお申込ください。
    同時に、イベントページより「参加」もクリックお願いします。
    ⇒ https://ws.formzu.net/fgen/S63264966/

岸本さんは、次のセミナーについてこう説明されています。

  • 2月21日(火)開催のVol.2では、「同性婚」をテーマに学びます。「同性婚」については、賛成派、反対派、双方にいろんな考えや意見があります。それぞれの代表的な意見を取り上げつつ、日本における「同性婚」の今後の展望についても、参加者の皆様と一緒に考えていきたいと思います。その前提となる材料として「ジェンダー・マリアージュ~全米を揺るがした同性婚裁判」というドキュメンタリー映画を鑑賞します。結婚とは? 愛とは? 幸せとは? 家族とは?観るものすべての心に問いかけてくる、感動のドキュメンタリー映画です。その「ジェンダー・マリアージュ」の上映会のあと、同性同士の結婚について、宗教的な側面、法律的な観点から検討を加え、「結婚の本質的な意味」について、参加者の皆様、LGBT当事者の皆様と一緒に考えたいと思います。

「パートナーズ婚」については、現在サイト作成中のためのお問い合わせは下記までお願いいたします。

  1. office☆kekkon-kyoukai.org または、kbm-office☆bridalmission.net ☆を@に変えてメールをお送りください。
  2. もしくは岸本誠さんの携帯 09023868925 までお電話でお問い合わせください。

以下のページも参照ください

関西ブライダルミッションFacebookページ

一般社団法人結婚トータルサポート協会Facebookページ

◆アイデアニュースに掲載したLGBT関連の記事は、この下のリンクをクリックすると出てきます。アイデアニュース:LGBT関連記事一覧 

ここからはアイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分です。岸本誠さんへのインタビューを掲載しています。LGBTの方たちの結婚に関わるようになったそもそものきっかけや、「神様からのメッセージ」、ウエディング業界をどう変えていきたいと思っているのか。熱く語ってくださいました。

1月24日の「新年ブライダルセミナーvol.1 LGBTを知ることで、私たちの本当の未来が見える!」に参加する前に岸本誠さんにインタビューをしたものです。セミナーをすることになったきっかけや、「パートナーズ婚」という言葉を”発見”したお話など盛りだくさんです。

――このセミナーを主催されるきっかけは何だったのですか?

今回のセミナーは、20年来のお付き合いのある、岡本美帆子さんとの共催なんですね。ウエディングプランナーとして長い経験のある岡本さんですが、お客様から「LGBTの結婚式をしたいんだけど」という相談があったそうなんです。私がLGBTの結婚について取り組んでいるというのを彼女も知っていたので、私に相談がきて、いろいろ話をしました。式場さんは、LGBTの結婚式もやっていきたいと思っても、それを打ち出すのがこわいというところが多い。LGBT婚、同性婚をしていますというふうに表に出すと、一般のお客様からどう思われるかと不安がっているという式場が本当に多いんです。それだったら、ウエディング業界の人を集めて、LGBTのセミナーをしたらいいんじゃないかという話になったんです。私も、結婚式場をまわって話をしてきましたが、こちらから出向いて何ヵ所も回るのは大変なんですよ。岡本さんも、ウエディング業界に人脈があるので、来ていただける人に集まってもらって、勉強してもらおう。そして、各式場でLGBTの結婚式を導入してもらおうじゃないかと、そういう発想だったんです。

――なるほど。まずはウエディング業界関係者に勉強してもらおうと。

はい。でも、話をしているうちに、いろいろなアイデアがふくらんできて、セミナーでも発表するのですが、婚姻届けを出すか出さないかではなく、異性同士か同性同士かでもなく、お互いがお互いをパートナーとして、同じ人生を一緒に生きていきたいと願うおふたりのための、新しい形の結婚の概念が生まれてきました。この概念の中にはLGBTはもちろん入るし、難病の人、障害者、高齢者、再婚の人、事実婚の人、もう全員ここにはいっちゃうんです。パートナーズ婚、と名付けました。

――LGBTの方はよくパートナーという言葉を使われますね。

そうなんです。パートナーってやっぱり「対等」という意味が含まれると思うので、良いんですよ。パートナーとパートナーで複数形で、「パートナーズ婚」というわけです。この言葉がね、ネットで調べても、誰も使ってないんですよ!

――あ、そうなんですか?

そうなんですよ、不思議に。じゃあ、これを造語としてこれからどんどん使っていこう、広めていこうと思っているんです。LGBTの人たちは「パートナーズ婚」って言われたら、「あ、自分たちはここに入るな」って分かるじゃないですか。今まで、「平等結婚式」とか、「LGBT婚」とか、「同性婚」とかいろいろ言い方がありましたけど、やはりそういう言い方をすると、ある特定の人だけの結婚式になってしまうんですね。LGBT婚は、LGBTの人たちだけが対象みたいになってしまう・・・ウエディング業界も、どんどん対象が細分化されていってるんです。「ファミリー婚」とか「メモリアル婚」とかね。それは切りがないんですね。

――なるほど、LGBTもいろいろありますしね。

「LGBTX」とか、「LGBTI」とかですね。境目ってないんですね、どこまでも増えていってしまう。いずれ、LGBTという言葉を使わなくてもいいような時代にならないといけないと思っているんです。だから、ウエディング業界からね、ひとつの言葉ですべての人がそこに入る、そんな「パートナーズ婚」を提案したいですね。LGBTだけでなく、例えば再婚で、遺産の問題やお子さんのことがあって婚姻届けを出せない人もいらっしゃるし、病気の方だったらホテルに行って結婚式を挙げることは体力的にできないとか、いろいろありますよね。そんな人たちも全部「パートナーズ婚」っていう言葉の中に入ってもらって、問題を解決していけたらなって思ってるんです。

――そういうお考えになったきっかけというのは、ありますか?

私のFacebook友達で、難病の子がいてるんですね。その子が「難病婚しました」って去年書いていてね、ふたりとも病気があって、車椅子なんです。「結婚式しないの?」ってメールしたら、「結婚式する体力がふたりともないんです」って返事がかえってきたんですよ。結婚したけれど、ホテルに出かけていって結婚式をするってこと自体が、したくても出来ない人たちがね、いるっていうことがひとつの転機というかきっかけになりましたね。その人たちも含めた結婚式を考えていかなあかんなって。最近ずっとLGBTの結婚式っていうのが頭にあって、LGBTの人たちの結婚をなんとか広めて行こうと思っていたけど、それを含めて、障害を持っている方とか難病の方とか、本当はやっぱり結婚式をしたいのに出来ない人が相当数いるってことが分かったんです。ぜひ、もっとグローバルな定義の結婚を進めていかなあかんなと思ってるわけなんです。

――もともと岸本さんがLGBT婚に関わるきっかけになったのはブライダルショーでしたか?

レインボーブライダルショーというのをずっとやっておられる方がいてね。2015年が4回目で、それまではずっとファッションショーをやってこられたんです。例えば、MtFの人たちはウエディングドレスを着たい、とかね。FtMの人はタキシードに憧れるというのがあって、ぜひそういう人たちに着る機会を与えたいということで、ファッションショーがあったんです。2015年に初めて、結婚式をしたいねという話になって、誰が式を執り行なうって話になって私に声がかかったんですよ。

――ほんものの結婚式をするってことですね?

そう、そう。そのときにね、キリスト教の結婚式で、と言われたら多分すごい迷ってたと思うんです。当時はまだ私の中で、同性同士の結婚をするっていうことに整理が出来ていなかった時期だったんでね。ところが、「人前式」をしますって言われたので、それだったら宗教関係ないので引き受けたんです。それがもともとのきっかけで、そのときの新郎さんが、今度のセミナーに来られるんですけど、FtMの人だったんですね。戸籍も変えて、男性になってる人と、一般女性との結婚式だったわけです。新婦さんとはいろいろ打ち合わせする時間があったので、一緒に内容を組み立ててたんです。新郎さんとは合う時間がなかったので、当日初めてお会いするってことだったんですね。結婚式が2015年の6月27日だったんですけど、前日におふたりのプロフィールビデオを作っていて、疲れて休憩しようと思って、新郎さんの名前はお聞きしてたので、彼のFacebookを見てみたんです。彼は全部オープンで自分の記事を書いておられたので、さかのぼって読めたんです。そうすると、いわゆる女性の体から男性になるってことで、本当にどんなに悩んできたか、自殺しようと思ったことも何度もあったとか、胸オペの話とか全て赤裸々に書かれてあったんです。それを読んで、私は泣けてきて、「これが明日の新郎か」と思って感動してたんです。そしたらちょうど、あるニュースが流れてきたんですよ。

――何のニュースだったんですか?

それが、6月26日の全米で同性婚が認めれられたっていうニュース。あの最高裁のね、速報で流れてきたんです。それで、すごいタイミングだと思ってね。私はクリスチャンですから、明日まさにそういう結婚式をする前日にアメリカで同性婚が合憲になりましたよっていうニュースが流れてきた時に、「これは神様からのメッセージ」と思ったんですよ。今までLGBTの人たちの結婚式とかあんまり関係なくやってきたけれども、これからはLGBTの人たちの結婚式について考えていきなさいよというメッセージかなって思ったんですね。それで次の日、結婚式に臨んだんです。そこからです。私がLGBTに取り組みだしたのは。

――そうだったんですね。すごいタイミングですね。

その結婚式の後、新郎さんとふたりで食事をすることになってね。本当に生の声、悩みをきかせてもらったんですね。今までどういうふうに乗り越えてきたのかとか、ホルモンを打つのがどれほど辛いかとか、生命保険に入れない話とか、実際に友だちが結婚式場に電話したら同性同士やってことで断られた話とかね。ウエディング業界にいる人間として、それはダメだなと思ったので、じゃあ、「ウエディング業界を私が変えていきます」と言ったんですよ。そこから私の活動が始まったんです。ちょうど1年半前で、イベントの中の結婚式でしたけれども、今の私の活動の始まりですね。彼の結婚式がなかったら今も、LGBTと関係なく、結婚式をやってたかもしれない。その時にアメリカのニュースが流れてきたことも、私にとっては必然的な感じがしますね。

――今ではLGBTの結婚式といえば岸本さんって感じだと思うのですが、キリスト教式ではない結婚式をされているんでしょうか?

いいえ、そうじゃないんです。その1回目のときは人前式だったんですけれども。その後に、私も勉強したんですよ。実際にね、キリスト教は同性愛とか同性婚のことをどう考えているのか。聖書にどういうふうに書いてあるのか、とかね。調べ直したら、別に禁止もしてないし、「罪や」っていうのも解釈でね、罪と捉えられるところもあるけれど、逆に罪じゃないよと捉えられる個所もあると。私もそういう中で、整合性を付けて、理論武装をしてきたんですね。同性愛は罪でもないし、同性婚であろうが異性婚であろうが、「結婚をしたい」という人たちの思いはなんらキリスト教に反するものではないという結論に達したんです。

――それはすばらしい。嬉しいです。

それで、2015年9月にブライダルのセミナーをやったんです。テーマが「同性婚」でね。自分の中で同性婚はOKになったんで、じゃあブライダルの関係の人を集めて同性婚はOKですよっていうセミナーをしようと思い立って実施したんです。でね、私はキリスト教の立場でOKになったけども、他の宗教ではどうなんだってなって。神道の宮司さんが知り合いだったんで、その宮司さんに来てもらって、神道の立場からも「別に禁止じゃないですよ」っていう話をしたんですよ。

――それは画期的ですね。

そうなんですよ。その宮司さんはそれがきっかけで、今でもLGBTの神前式の結婚式に関わってもらっています。熱心な人たちは名古屋とか遠くからも参加してくれてね、当事者の方たちにも話をしてもらって、パネルディスカッションをしてね、いろいろ意見交換をして。結局、宗教的にも同性婚というのは全く問題ない。OKですよねっていう話になったんです。それが9月。初めてのLGBTの結婚式が6月ですからね。

――すごい早い展開ですね。

そう、それで私の中で確信がもてたんです。それからさらに行動に拍車がかかっていったんです。

――そういう中から「パートナーズ婚」という言葉が出てきたんですね」

そうですね。当事者の人と結婚式場まわりをしていたんですけど、式場さんも、LGBT婚をやりたいけど、どうもその言葉を出すのがコワいというところが多くてね。なんとか良い言葉、表現がないかなあとずーっと考えてたんです。「平等婚」っていうのもなんかもっちゃりするなあとかね。平等っていうより「人と人とは対等や」っていうのもすごくあって。平等を越える概念が必要なんじゃないかとずっと思ってたんです。私は数年前からブライダル業界向けにずっとセミナーをやってきたんですけど、それは「男女平等を表現する結婚式」をテーマにしてるんですね。キリスト教の結婚式の中にも家父長制度のなごりが残ってるんです。男性上位っていうかね。

――そうですね。お父さんから新郎さんへ女性が引き渡されるみたいな・・・・

そうそう、あそこなんかまさに家父長制度のなごりでしょう。だからそういうことも、本来キリスト教って、人は神の前で平等なんですよね。それなのに結婚式にそういう男性上位のなごりがあると。だから、結婚式の中で、男女は平等なんだということを伝えるような、そういう式をしようと提案してセミナーをやってきたんです。それで、LGBTとの関わりが出来て、男女というより、人と人とは対等ですよねっていうところに達したんです。それが「パートナーズ婚」につながっていったんですね。

――そうでしたか。すごいです。セミナーがますます楽しみになりました。ありがとうございます。

ありがとうございます。みんな同じなんだよって、あたりまえだけどまだまだなんですよね。ウエディング業界の人たちも一般の人たちもみんなが「パートナーズ婚」という言葉を使うことで、結婚式って誰でも出来るよねっていうことになっていくと思うんですよね。ターゲットをしぼって〇〇婚、△△婚、ってカテゴライズしていくのではなくて、もっと広い概念でみんなパートナーズ婚っていうふうになったら、自然と差別もなくなっていくやろうし。結婚式をあきらめていた人たちっていっぱいいると思うんで、そういう人たちに光をあてていきたいですね。難病の人たちが結婚式場に出かけて行けないんだったら、私たちが病院に行ったらいいやん、っていうのももうひとつ提案したいことでね。ホテルに行けない人たち、障害や病気や、いろいろ事情があってね。その人たちのところへ、私たちが出張して結婚式をする。老人ホームや、福祉施設や、病院や、いろんなところに私たちが出かけていって、簡単でもいいので「これから私たちはパートナーになります」っていう式をしてあげる。コストも下げられるし、簡素化できるし、いくらでもおふたりの意向をきいて組み立てていく。そういう結婚式をこれからやっていきたいと思ってるんです。

――本当にありがとうございました。パートナーズ婚という概念と言葉がたくさんの人に伝わるように願っています。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA