日本とミャンマーの合作映画『僕の帰る場所』に出演し、共同プロデューサーとしても携わっている來河侑希(きたがわ・ゆうき)さんのインタビュー、後半です。キャスティングについてや、映画祭に参加して感じたこと、今後の映画について、來河侑希さんが主催している「劇団アレン座(Allen suwaru)」についても伺いました。
――映画祭でも、子供たちが演技をしていないように自然だと称賛されていますが、キャスティングなどは、いかがでしたか。
お父さん役のアイセさんは、僕がミャンマーの難民キャンプで、殺陣のショーをやっていた時に、通訳をしてくれた人なんです。彼は中国とミャンマーの国境近くの少数民族で、日本語が話せる人と聞いていて、それで、通訳とコーディネートをお願いしました。さらに彼の家にも2日位泊めてもらって、彼の生活の話を聞いたりする中で、アイセさん自身も、「難民キャンプがこんなに近くにあっても、その人たちが、どういう風に生きてきたのか、どういう思いで自分の住んでいるところから避難してきたのかといういのを聞いたことが無かった」と話してくれて、感化されたものがあったようでした。僕は、会った時から、監督のイメージはこういう顔なんだろうなと思っていて、試しに藤元監督に写真を送ってみたら、「この人いい」と言う事になり、アイセさんに声をかけて、彼をミャンマーから日本へ招聘したっていう感じだったんです。
お母さんと男の子の兄弟は、すでにキャスティングがはじまっていて、男の子の兄弟がその当時、4組くらいいて、全員と会ったんですけど、なかなか難航して、僕自身も納得いかなくて…。撮影に間に合わないなと焦っていた時に、フィールドワークを通して知り合った人に紹介してもらったのが、ケインさんとカウン君とテッ君でした。
監督が秀逸だなって思ったのは、彼らを本当の家族にさせていく一カ月の時間でした。キャスティングが決定して、彼らの様子をみつめつづけて、本当は藤元監督はフィックス(固定)で撮影するのが好きなんですけど、それを全て捨てて、映画にとっての最良を選んでいく嗅覚がすごい。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、子どもたちと父親役のアイセさんの距離を少しずつ詰めるために藤元監督がどのようしていったかや、來河さんと「ユウキ」役の関係について、映画祭に参加して感じたこと、來河侑希さんが主催している「劇団アレン座(Allen suwaru)」の活動や映画と舞台の違いや共通点などについて話してくださったインタビュー後半の全文と写真を掲載しています。
<有料会員限定部分の小見出し>
■撮影前のワークショップで、藤元監督は、2日位経って浸透するような言葉をさりげなく…
■役名が本名の「ユウキ」になって、自分のフィールドワークをそのまま出していくのだなと
■フィクションですが、原子力の犠牲者とその犠牲で成り立っている人の友情を描く舞台を
■『僕の帰る場所』を観て、外国人家族に感情移入して感じた事を、家に持ち帰って欲しい
<日本・ミャンマー合作映画『僕の帰る場所』>
【東京】2018年10月6日(土)~11月2日(金) ポレポレ東中野
全国で順次公開:全国の劇場情報はこちら
https://passage-of-life.com/theater/
<関連サイト>
『僕の帰る場所』公式サイト
https://passage-of-life.com/
『僕の帰る場所』公式twitter
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『僕の帰る場所』予告編
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NPO 法人日本・ミャンマーメディア文化協会
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<関連リンク>
來河侑希 Twitter
https://twitter.com/kooai39
來河侑希 オフィシャルブログ「kitagawa diary」
https://ameblo.jp/kitagawa0309
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- 「藤元監督は、映画にとっての最良を選ぶ嗅覚がすごい」、來河侑希インタビュー(下) 2018年10月7日
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■撮影前のワークショップで、藤元監督は、2日位経って浸透するような言葉をさりげなく…
藤元監督は役者を演出する中で、特に強制とか指定はしませんでした。例えば、撮影前のワークショップで、2日位あとに気づくような言葉を、ご飯とか食べている中で、さりげなく言ってきてくれて、自分でも気づかないうちに浸透させるような、仕掛けをしてくる感じです。
直接こうしたくて、こうなんだよという伝え方は、してこない。撮り終えてから「あ~、は~は~、なるほど、なるほど」って思えるような言葉を、家族の4人や、僕ら芝居をやっている人間に投げかけていくことによって、台本と現実のさかい目を無くしていく。これで、本作の評判につながるドキュメンタリーに見えてくるようなタッチが出来たのだろうと思います。本当に演出が秀逸だったなって思います。
――ケインさんと兄弟は実際の親子ですけど、アイセさんは違いますよね。
家族ではない子供たちに、パパと言わせる。弟のテッ君は、特にそうなんですけど、アイセさんの事は知らないおじさんが来たとしか思ってなかったと思うんです。1カ月間で距離を少しずつ詰めるというプログラムを組んで、1日ずつどんな遊びを組み込んでいくか、しっかりワークショップのスケジュールがあって、この日にこれをやるって、ずっとやってたんですよ。別に台本の話はしない。遊ぶ、仲良くなるみたいな。さりげない日常の積み重ねの中で選択肢を間違えていたら、完全にお芝居みたいな感じになっていたと思います。
■役名が本名の「ユウキ」になって、自分のフィールドワークをそのまま出していくのだなと
――來河さんはユウキ役としてこの作品に出演していますが、俳優として感じた事を教えてください。
僕は「ユウキ役」なんですが、初めは、違う名前の役で、違う人の人生があり、モデルがある役だったんです。監督が、どういう風に見せていくかという事を悩んでいた状態だったんですが、ある日、ユウキ役という風になっていて、自分自身が長い時間重ねたフィールドワークをそのままだしていくことだけなんだと確信しました。ケインさんもケインさんだし、カウン君もカウン君だし、もう初めからその人だし。そんな風に自分がありのままを出すだけになり、演じるというものは排除していました。とにかく台本に描かれている役の人生を日常から過ごしていきました。
自分の役を知っていくというプロセスと、フィールドワークをするプロセスが重なりながら進んでいきました。映画を作るために知っていったことや、出会っていった人たちの言葉を聞いて重ねていく事が、役作りにもつながっている感じで、特に台本を覚えてたりとかも、あまりなかったんです。基本的に、この人はどんな人で、どんな場面で関わっていく人なのかということを、監督と話し合っただけなんですよね。監督と話しをしていく中で、「あ~、この距離感なんだよな」っていう手ごたえが出てきて、気づいていく作業でした。
――入国管理局を初め色々なところに足を運んでいたことが、役立ったんですね。
僕の役は、家族たちが在留資格の書類とかで困った時に、一緒に書類を記入して、入管の外に出すために関わっていく人だったんですね。映画祭で僕の芝居を観て言われたのは、「何にもできないんだよね。その人が、どんなに優秀でも、何にもできない人なんだよね」っていう感想をいただきました。たしかに在留資格を取れるかもしれないし、取れないかもしれない。なんの保証もない。
その中で彼らを出すための保証人になるっていうのは、何の保証もできないから、その家族たちに「今はなんとも言えないですね」みたいな曖昧なことを言い続けるしか無い。そのストレスが溜まり続けていた月日だったんです。ストレスをどこにも発散することができないっていう、だからそれがそのまま、映画に出ているような状態だったと思います。
――大変でしたね。
家族に入って行きたいんだろうけど、入って行けない、一定の距離感のある感じで、当時、現実にもそういう人はたくさんいて、リアルな状態が映画にも存在したんだろうなっていう事を、映画祭で言われて、そういう風に感じてくれる人もいるんだなと思ったんですね。ストレス溜まっているねって言われました。人相もすごく変わっていました。
■フィクションですが、原子力の犠牲者とその犠牲で成り立っている人の友情を描く舞台を
――來河さんの今の活動とか、これからのビジョンについても教えていただけないでしょうか。
藤元明緒監督と渡邉一孝プロデューサーと2作目を作る話をしています。またミャンマーで撮影したいと考えています。他にも海外合作で誘われているものもありますので、また新たな国を知ることができるのはとても嬉しいです。
それと、同時に僕は、劇団(劇団アレン座)の主催もやっていて、一個のテーマを作品にする時は、映画でも舞台でも同じように、フィールドワークをしなければ作れないと考えています。作品によりますが。
映画をやるのと、ドキュメンタリーをやるのと、舞台とは同じテーマでも、表現方法が全く違うと思っていて、舞台は、空間に爆発的なエネルギーが生まれるようなしかけだとか、脚本の書き方が違う。フィールドワークをしっかりして、下地をしっかりした上で、派生した感覚的なものを重ねていくというか、本物を知ったうえで、違うユニークな方法を使うとか、舞台で通用するリアリズムとか、アウトプットの仕方をどういう風に見つけていくかというのが、舞台は面白いとおもうんですよね。
劇団アレン座は3本の柱があって、一つは、今回お話しているような実際のことを舞台表現として落とし込んだ、どちらかというと静かな演劇。二つ目は、推理劇や、時代劇のような歴史などに関わるエンターテイメント。三つ目は舞台のセオリーにとらわれずに、実験的で何が起こるか解らない、形に囚われない、新たな演劇なのか?、ライブなのか?、実態を決めない新しい可能性を探る、実験室のような作品。この3本の柱があります。いずれにせよ、大切にしているのは劇場に来ているお客様たちとの呼吸やライブ感がで、色々なクリエイターや役者と化学反応を敏感におこしながら作品作りをつづけています。
来年2019年の7月は、福岡県の北九州芸術劇場というところと墨田パークスタジオ倉という所で、舞台をやる予定です。変わるかもしれませんが。
――自分たちで脚本を書いてやるんですか。
そうです。フィクションですが、原子力の犠牲者とその犠牲で成り立っている人の友情を描く舞台で、原子力による被害を受けたところからフィールドワークを重ね、脚本の参考にしていくという事を重ねていこうと思っております。もちろん参考文献やドキュメンタリー映画なども知識として入れながら慎重に描いていこうと考えています。あくまで社会派ではなく、物語の登場人物がどうそこに生きているのか?彼らが何を考え、どう生きていくのか?を描いていこうと思っていて、史実をそのまま述べるというのは避けたい所です。
演劇は来たお客様の反応を、芝居をしながらもダイレクトに受ける事が出来るのが醍醐味です。
普通に僕はお芝居が好きなので、普通に楽しみながらつづけていって、認知されていけるようなことになれたらとても幸せですね。つづけていきたいと思います。
■『僕の帰る場所』を観て、外国人家族に感情移入して感じた事を、家に持ち帰って欲しい
――では、最後に、この映画に興味を持っているかたに対して、もう一度メッセージを頂けないでしょうか。
ある普遍的なものが、この映画には描かれているんですけど、僕がニューヨークの映画祭に行った時に、メキシコからニューヨークに来た移民の方で、ニューヨークからメキシコに帰らなくてはいけなくなった男性の方が、涙ながらに「この映画は僕の映画だ」っておっしゃられていました。国それぞれ、移民への関心も受け入れ方も、イメージも違うし、移民を受け入れるという事を誇りに思う国があったり、国によって移民に対する考え方は違うんですけど、一つ普遍的な事があるとすれば、自分のアイデンティティが揺れる人たちが確実にどこの国にもいるという事なんですよね。日本の人も、なんだか最近、コンビニの店員さんは東南アジアの人が多いなとか、あるところに行くと、外国人しかいないなぁみたいな事を感じられたりすることが多いと思いますが、彼らがどういう生活しているのか、何故日本にいるのかという事を日本人の多くは関心を持たないし、知らない人が多いのではないかと思います。
この映画で当初からやりたかった変わらないことは、「映画館に来た方々が、スクリーンを通して、あるミャンマー人の家族の物語をみて、日本に住む外国人家族に感情移入するということ。彼らを観て泣くとか、彼らを観て笑うとか、彼らを観て近くに感じるとか、共通点を感じること」です。東京国際映画祭の授賞式では、“ある家族の物語を繊細に語ることで、世界中の様々な家族のメタファーとなっている。フィクションを用い、現実の困難さを素晴らしく芸術的に描き、大変優れた映画的な価値と演技を持つ作品だ”と評して頂き、大変光栄でした。
映画は、10月6日から、ポレポレ東中野で3週間上映される予定になっています。人気になれば、ロングランもありうるかも(笑)。そのほか、全国での公開が決まっています。実はビックニュースもありますが(笑)、一人でも多くのかたに、ある家族の物語を伝えるために今後も活動したいと思っています。そのほか、順次、全国の色々な映画館の館長さんに作品の説明、思いを伝えながら、自主配給という形で大切に本作を公開していきたいと思っておりますので、応援宜しくお願いします。
※來河侑希さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは11月6日(火)です。(このプレゼントの募集は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
僕の帰る場所。
ある家族の波乱万丈の日々を包み隠す事無くスクリーンに映し出していて、誰しもが人生において経験するであろう起伏を描いており、それらに自らを照らし合わせる、そして自然と感情移入をし心を揺さぶられる映画です。
來河さん演じる「ユウキ」が時には主人公家族にとっての味方にも見えたり敵にも見えたりと不思議な存在であり、その演技力にも魅了されました。
次回作の上映も心待ちにしております。その際にはまたアイデアニュースでのロングインタビューの記事をお願いします。
とても読みごたえのある記事でした。実際に映画を観に行って、この作品についてもっともっと知りたくなったので、記事を読んで更に色んな事を知る事が出来ました。
既に2回観ていますが、またもう一度見直してみたくなりました。
來河さんの沢山の想い、色んな方々の想いや希望が沢山詰まってるのだと思うと、ただただ愛を感じます。
あと、來河さんの今後についてや、劇団の事も聞けたり、お客さんを大切にして下さってるのも改めて知れて、嬉しかったですし、更に今後のご活躍も楽しみになりました。