不動産賃貸業界の内面を赤裸々につづる(汗)この企画、ごく一部の方々の熱い支持を受け、さらに連載を継続してゆきます。今回は、大家さんの裏側……家賃、敷金、礼金、共益費、広告料、手数料は、どう動いているのかについて、紹介します。アイデアニュース有料会員向け部分では、「たった3日で空き室を埋めた『えげつない作戦』」について説明します。
賃貸マンションを運営しているということで、「賃貸マンションの家賃、敷金、礼金、広告料って、実際のところ、どういう使われ方をしてるの?」と知人から聞かれることが良くあります。
あくまでも私のこれまでの不動産賃貸経営での経験にもとづく知識ですが、「家賃」は、賃貸物件の入居者が月々、大家さんに支払うお金のことです。この家賃をまとめて、大家さんは物件購入時に借金などがあれば返済し、借金返済が必要ない場合は、次の物件購入のための貯金にあてたり、将来の大規模修繕のために貯金したりするわけです。
「敷金」というものは、最近は、ほとんどとっていません。以前は敷金もしくは保証金という名目で家賃の数カ月分を大家が預かり、退去の時に部屋の補修費などにあてたりしていたのですが、「敷金や保証金を返さないのはおかしい」という裁判が相次ぎ、大家側が負けることが多くなったので、最近は敷金や保証金を取らない(預からない)大家さんが増えているのです。
「礼金」というのは入居者が入居時に大家さんに1回だけ支払うものです。入居する際の「お礼」というのもおかしな話ですが、現実問題としては、これは大家さんから仲介不動産業者に支払われる「広告費」にあてられることが多いです。私は、礼金として入居時に入居者から家賃の2カ月分をいただいており、仲介不動産業者には家賃の2カ月分を広告費としてお渡ししているので、「いってこい」になります。「礼金ゼロ」をウリにする物件も最近は良くありますが、その場合は、仲介業者に支払う「広告費」を大家さんが自分で負担していることになります。
入居者を大家さんに紹介する不動産仲介業者は、入居者から「仲介手数料」を受けとりますが、だいたい1カ月分の手数料を受け取ることが多いと思います。これは、入居者が不動産業者に直接支払って、仲介業者の収入となるもので、大家さんの方には回ってきません。
退去時には、いずれにしても壁紙を張り替えるなどのリフォームをする必要がありますが、私は、それは家賃収入の中から支出しています。
ちなみに、入居者は、月々「共益費」というものを大家さんに支払いますが、これはや物件によって使用方法がまちまちです。通路の電気代や掃除代金にあてるほか、将来の大規模修繕(外壁の塗り替えなど)に備えた積立金にも使われたりします。私が所有している大阪・豊中市内のマンションは、インターネットを無料で使えるようにしていますが、このインターネット代は「共益費」から支出しています。
大家さんと入居が直接会ったり話をしたりすることは、ほとんどなく、入居者がハンコをついた契約書が不動産仲介業者から大家に送付されてきて、大家さんはハンコをついて仲介業者に契約書を返送すれば契約完了です。入居者からは初月の日割り家賃が不動産業者に現金で支払われるので、その金額が仲介業者から大家さんの口座に振り込まれ、翌月からは家賃が振り込まれることになります。退去の時には、室内の様子を確認するために大家さんが立ち会うことが多いですが、退去の時になって初めて入居者にお会いするというパターンも多いです。
ということで、お金の動きの説明でした。
大家業は「不労所得」と良く言われますが、入居者が入って「満室」状態が続いていて、空きが出ても次の入居者がすぐに見つかれば、何もしなくても良いので「不労」と言えるかもしれませんが、実際には、いろいろ手間のかかることもあります。入居者が見つからないまま、空きが続けば、固定資産税などの分は赤字になりますし、借金をして物件を購入している場合は、返済資金のもとになる家賃が入ってこないので、返済分はまるまる大家さんが負担しなければいけないことになります。ということで、大家さんにとっては「空き室」が一番の悩みとなります。
<アイデアニュース関連記事>
連載「実録・大家さん」記事一覧
連載「実録・コインランドリー屋さん」記事一覧
※ここからアイデアニュース有料会員限定部分です。空き室対策に悩んだ末に、インターネットを使って空き室を埋める方法を思いついて実行したところ、わずが3日で入居者が決まるということがありました。私はこれを「たった3日で空き室を埋めた『えげつない作戦』」と名づけて、小冊子にして販売したことがありますが、その内容を有料会員向け部分で詳しく紹介します。
「たった3日で空き室を埋めた『えげつない作戦』」の紹介です。
前回までの復習をしておきますと、当時サラリーマンだった私は、いざという時にそなえた副収入を得るために、貯金を使って320万円で中古のワンルームマンションを購入しました。この部屋からは月額48,000円の収入があり、支出は管理費などが月に12,000円で、差し引きの月の利益は36,000円。でもって固定資産税は年間35,000円。年間で言うと、収入が576,000円で支出が144,000円と35,000円ですから、利益は年あたり397,000円となります。(空き室やリフォームがなかった場合)
これに気を良くした私は、2室目を購入しました。神戸市中央区の地下鉄駅から徒歩1分で、築24年の鉄筋コンクリート10階建てマンションの2階。面積は40.42㎡あり、1LDKですがリビングルームは15.5畳と広々していて、これ以外に約5畳の納戸がついています。もともとは3DKだったものをリフォームして1LDKにした部屋でした。売り出し価格は530万円。築24年と少々古いですが、駅から1分でこの広さで、この価格。私は、見つけるなりすぐ連絡をとって現地を確認。マンション1階にコンビニがあり、周辺の環境も良いことを確認してから、すぐに売り出し価格と同じ530万円で買い付けを入れました。
良い物件というのは、売り出した途端に売れてしまうものです。この物件は、私を含めて3人の買主が競合しましたが、私がタイミング的に数日早く、価格もわずかですが高かったとのことで、私が購入する方向になりました。(妻からは「言い値で買うの?」と言われましたが、私はこの値段なら言い値でも買いだと思いました)
で、問題は、そこからです。このマンション、最初にネットで見つけた時は「家賃88,000円、管理費・共益費11,800円」と書かれていたのですが、じつはこの部屋にはオーナーの女性自身が住んでいたのでした。つまり、広告に書かれていた「家賃88,000円」というのは売却にあたった不動産業者がつけた「想定家賃」で、オーナーが部屋を売却して引っ越すと、空き室になってしまうのでした。
「空き室か~~」と思いながらも、周辺のマンションの家賃相場などを調べてみると、40.42㎡の1LDKで家賃88,000円というのは、あながちおかしな数字とも思えませんでした。「空き室からスタートするのも大家さんの勉強になるよなぁ」と自分で自分に言い訳しつつ、この部屋を購入しました。さあ、そこからが大変です。
まずは業者に連絡をとって部屋の壁紙を張り替えるなどのリフォームを実施。それと並行して駅前の不動産業者をつぎつぎと訪ねて、この部屋の賃貸仲介を依頼しました。サラリーマンなので、休みの日を使って、1軒1軒回りながら、契約書にサインをしたり部屋のカギを預けたり、けっこう手間がかかりました。
しかし、待てど暮らせど不動産業者からいい話は届かず。購入したのが7月で、引っ越しシーズンから外れていたこともあり、なかなか入居者は現れないだろうなとは思っていましたが、8月に入っても変化なし。入居者どころか、部屋を見にくる人さえほとんどいない状態が続きました。
貯金を使って購入した部屋なので、融資を受けて購入した場合のように空き室になっても返済資金が滞るといことはなく、精神的にはそれほどしんどくないのですが、それでも部屋を1室持っているわけですから、空き室でも管理費・共益費の計11,800円は毎月支払う必要がありますし、固定資産税も年間51,500円かかります。さすがにいつまでも空き室でいいということにはならず、引っ越しシーズンの9月が目の前に迫ってきて、さすがの私も焦りだしました。
そして、サラリーマン大家さんの体験記など、不動産関係の本を読みあさって、入居者を獲得するための対策を立てました。
- <実行したのは次の6つ>
- 1:物件を紹介するブログを作る
- 2:部屋の壁などにPOPを貼り付け、部屋の良さをアピールする
- 3:部屋に寸法を測るメジャーとメモ用紙を置いて、使ってもらう
4:オーナーからの手紙を、玄関に封筒に入れて積み上げておく
5:芳香剤を室内に置く
6:スリッパを3組置く
しかし、入居者は現れません。これは仲介を依頼している不動産業者の方に問題があるのではないかとも思いましたが、業者に相談すると「ちょっと家賃がお高いですかねぇ」と家賃の値下げを要請されてしまいます。しかし、家賃を下げてしまうと将来の売却時の価格下落に直結してしまうので、家賃は下げたくない。では別の不動産業者に仲介を依頼すれば良さそうなものですが、忙しいサラリーマンの身では、そんなに不動産業者をたくさん回っている時間はありません。
なんとかならんか、と思いながらウンウンうなって、思いついたこと。それが「えげつない作戦」と自ら名付けた次の5つでした。
- <えげつない作戦>
- (1)インターネットで神戸市中央区内の不動産業者のメールアドレスを集める
- (2)メールのBCC機能をつかって、仲介依頼メールを業者に一斉送信する
- (3)メールには自作した部屋の間取り図などを添付し、資料としていただく
- (4)入居者が決まった場合、広告費として家賃2ケ月分支払うとメールに書く
- (5)入居者を決まった場合、担当者にわずかながら謝礼するとメールに書く
最近は迷惑メールを警戒してメールアドレスをホームページに掲載していない不動産業者もいますが、当時はほとんどの業者がホームページにメールアドレスを掲載していました。「個人に謝礼する」なとど書くのは、結構「えげつない」ですよね。これは「袖の下」のようにも見えますが、業者の公式アドレスに送ったメールに堂々と書いているので、「袖の下」ではなく、「袖の上」だと私は考えていました。謝礼をいくら出すか書いていないところがセコイ感じですが、実際には2万円ほど渡すつもりにしていました。そして、ある日の夜、神戸市中央区内の約20の不動産業者に、用意したメールを一斉送信しました。
一斉メールの効果は絶大でした。メールを出した翌日から「ご連絡ありがとうございます。頑張ります」と業者から電話がじゃんじゃん入り、翌日には実際に部屋を見るという人が何人も出て、なんとメール送信から3日後に、入居者が決まってしまったのです。そして、その業者には2ヶ月分の広告料を支払い、担当者には2万円を謝礼としてお渡ししました。
この経験は、私にちょっとした自信を与えてくれました。この「えげつない作戦」を使えば、いざという時に空き室を埋めることができるだろうという自信です。そして、しばらくはルンルン気分が続きました。しかし、やはりそううまくばかりは行かないのが世の中です。
入居者が決まってから約1年後、入居者からの家賃振り込みが遅れ出したのです。そして、しばらくして家賃支払いが止まってしまいました。でも、入居者は「なんとか支払う」と言っていて、「引っ越す」とは言いだしません。そのころ、世間では、家賃が払えなくなった人をひどい手段で追い出す「追い出し屋」が社会問題になっていました。さあ、どうしたものか。
もともと入居契約を結ぶ時は、連帯保証人を立てるか、賃貸保証会社による保証をつけるのが通常です。賃貸保証会社は入居者が料金を支払って保証してもらう仕組みですが、家賃が滞納された時は、入居者に変わって家賃を大家に支払う必要があります。
私が2つめに購入した部屋の入居者の場合は。保証会社ではなく、連帯保証人を立てていました。しかし仲介した不動産業者に連絡して対応をお願いすると「申し訳ございません。連帯保証人も事業が傾いているということで支払いを待ってくれと言っています。こちらで交渉して、家賃を払ってもらいます」とのこと。しかし私は「追い出し屋」のようなことになるのが心配で、「今、追い出し屋のことが社会問題になっているので、あまり無理はしないでいいですよ」と伝えました。
「少額訴訟」を起こして部屋を明け渡すように求め、それでも支払わなければ強制執行できることも知識としてはありました。しかし、簡単な訴訟とはいえ自分で実行するのは大変だし、できることなら、そうした強制力を使わずに、立ち退いてくれれば良いと思いました。
そこで仲介した不動産業者を通して、入居者に「これまで滞納した2ヶ月分の家賃は支払わなくていいので、退去してもらえませんでしょうか。立ち退いていただけない場合は、滞納家賃分も含めて請求する訴訟を起こさざるをえないことになります」と伝えてもらうことにしました。業者は「えっ? 滞納分払わなくていいんですか?」と言っていましたが、私は「家賃が数カ月分入ってこなくても、スムーズに立ち退いてもらった方がいいと思います。滞納分を払わなくていいということなら、自主的に立ち退いてくれるのではないでしょうか」と話しました。
業者は「では滞納家賃はいいけれど、今月分の日割り家賃はキッチリ払ってもらいますね」というので、「いえいえ今月分の日割り家賃もいいですよ。そのかわり、できるだけ早く転居してくだされば、とお伝えください」とお願いしました。
そして入居者が、立ち退いてくださいました。がらんどうになった部屋に入り、なんだかちょっと寂しい気持ちになりました。その後、この部屋に入居された方は、2人続けて「寿引っ越し」で結婚して退去されるめでたいパターンが続きました。滞納して自主退去された方が、その後どうされたのかはわかりませんが、なんとかうまく立ち直ってくれていればいいなと、今も思っています。
ちょっと湿っぽい話になってしまいましたが、有料ページまで読んでくださり、ありがとうございました。では、また次回の掲載をお楽しみに。
<アイデアニュース関連記事>
連載「実録・大家さん」記事一覧
連載「実録・コインランドリー屋さん」記事一覧
うちは、数十部屋賃貸物件があります。家賃不払いの件で、弁護士さんに頼んだ時は費用はかかりましたが、一切値引きせずに、しかも遅れなく家賃+未払い分の分割払い分を、今も払ってもらっています。一方、不動産屋さんに頼んだ時は、弁護士さんより弱気で、家賃1割引きぐらいで決着して、未払い分(これも1割引)を一括で払ってもらい、今も割引の家賃を払ってもらっています。弁護士代は経費で落ちるので、家賃下がらないですんで、弁護士さんに感謝してます。