目の当たりにした「管理栄養士による在宅訪問」の成果、オリーブオイルで体調改善

管理栄養士さんと言語聴覚士さんと家族による情報交換=撮影・松中みどり

私の義父母もそうでしたが、年齢を重ねて体の機能が衰えたり、病気にかかったりしても、「最後まで住み慣れた家ですごしたい」、「入院ではなく、自宅にお医者さんや看護師さんが来てほしい」と願う方たちはたくさんおられます。自宅介護を進めるうえで大切なのは、専門家によるケアが必要なときに受けられる「在宅診療の体制づくり」でしょう。先日、癌や糖尿病などの複合的な疾患をもつ男性Eさんの自宅療養の日々を支えるご家族、言語聴覚士さん、管理栄養士さんが集まって情報を共有する機会があり、その様子を見学させていただきました。その報告です。

管理栄養士さんと言語聴覚士さんと家族による情報交換=撮影・松中みどり

管理栄養士さんと言語聴覚士さんと家族による情報交換=撮影・松中みどり

■言語聴覚士さん、まして栄養士さんに自宅に来てもらうことは、想像もせず

病院や施設ではなく自宅で療養している方の生活の質を向上させ、自宅介護をスムーズにするために、リハビリティーション専門職のメディカルスタッフに訪問してもらうことが可能です。たとえば、脊椎損傷で要介護5、となり、1級の身体障害者手帳をもっていた義父の場合は、理学療法士(PT)さんが毎週一回、訪問してくれました。ベッド上でのマッサージと手足を曲げ伸ばしする運動、ベッド上で座ることなどが中心でした。それ以外に、訪問入浴や訪問歯科も利用しましたが、義父の嚥下障害が進んでからも、言語聴覚士さんに訪問していただくことはありませんでした。まして、栄養士さんに自宅に来てもらうことなど、想像もしていませんでした。

今回見学をしたEさんの場合、喉頭癌によって声帯を摘出されていますが、身体的な機能障害はほとんどありません。ですから、必要なリハビリはPTさんではなく、言語聴覚士(ST)さんがおこなう発語と嚥下の訓練です。訪問サービスでは珍しいSTによる週1回のリハビリがおよそ1年前から始まりました。詳しくはこちらの記事をご覧ください→疲れていなかった頃の自分に戻れるクッション「p!nto」  ある家族の物語

言語聴覚士さんによるリハビリの様子=撮影・松中みどり

言語聴覚士さんによるリハビリの様子=撮影・松中みどり

もっと珍しいのが、管理栄養士さんによる自宅訪問です。見学に伺ったこの日は、月に2回の管理栄養士さんの訪問日ということで、急きょ駆け付けた次第です。

ご家族が管理栄養士さんの指導のもと用意した介護食=撮影・松中みどり

ご家族が管理栄養士さんの指導のもと用意した介護食=撮影・松中みどり

■驚いたのは、食べやすい形状であると同時に、抜群に美味しかったこと

入院している間は、病院の栄養士さんが医師と連携して、食事の内容や食べ物の形状がその患者さんにあっているかどうかに目を配ります。しかし、退院して自宅に戻ると、患者さんやご家族ではなかなか医師の指導通りの食事がとれず、病気がぶり返したり、他の症状が出たりするということをよく耳にします。とはいえ、その人その人の嗜好があり、生活のリズムやパターンがあって、なかなか教科書通りの食事を用意することは難しい。食べたいものを我慢することは辛いことです。

でも、この日一番驚いたのは、家族が用意された食事が、嚥下障害の人が食べやすいちょうどよい形状であることと同時に、抜群に美味しかったことでした。

お粥にはオリーブオイルとバシルが入り、イタリア料理のようです=撮影・松中みどり

お粥にはオリーブオイルとバシルが入り、イタリア料理のようです=撮影・松中みどり

■「薬を使っての排泄が習慣化して、しかも水様便」から「自然に良い便が出る状態」に

自宅療養をされているEさんは、2度の喉頭癌による機能障害で、ミキサーを利用したペースト状の食事が中心です。普段から健康的な食事をとることに気を使っているEさんとご家族ですが、Eさんの糖尿病や腎臓病のこともあり、血液検査の結果を管理栄養士さんと検討した結果、

◆嚥下食の水分を減らすことで体内のカルシウム、ナトリウム、カリウムなどのバランスを整える。水分を減らすと尿酸が上がるが、たんぱく質はとる

◆上質のオイルを使うことで薬に頼らない自然排便を目指す

という改善点があったそうです。栄養士さんのアドバイスを取り入れた結果、Eさんの血液検査の結果が改善されました。そして、薬を使っての排泄が習慣化して、しかも水様便だったのが、オイルのおかげで自然に良い便が出るようになったとのこと。

■少しオイルを足すことで腸に刺激が入り排便。トイレの時間が短くなり、匂いも減少

管理栄養士の村田味菜子さんは、「食事を改善することで、早い人で1ヵ月、遅くても3ヵ月で結果が出ます。血糖値などは1週間くらいで変わることもあります」と話されます。

村田さん『Eさんの場合、もともととても健康的な食事をとっておられたので、少しオイルを足すことで腸に刺激が入り、薬に頼らず排便できたのだと思われます。水様便だと、必要な栄養も出てしまっている可能性があるので、良い便になってよかったです。ご本人も楽ですしね』

Eさんのご家族『トイレに座っている時間が短くなり、便の匂いも減ってきました。食事を変えると血液検査の結果が良くなるのが嬉しくて、検査が楽しみなくらいです』

管理栄養士の村田さん(左)と言語聴覚士の福原さん【右)=撮影・松中みどり

管理栄養士の村田さん(左)と言語聴覚士の福原さん(右)=撮影・松中みどり

ここからはアイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分です。Eさん宅の介護食の作り方や、使っておられる材料や機材などを紹介します。

■玄米粉を使ったお粥にオリーブオイルとバジルが入って、爽やかで本当に美味しい

■ミキサーはプロ仕様のアメリカ製、トロミ剤は食材や料理に合わせて何種類かを使い分け

■オリーブオイルが常にベストではない。栄養士さんが訪問することで、無理のないアドバイスを

■「脳卒中や脳梗塞にならないように、どういうところに気を付けたら?」など、熱心に質問

医師に細かい食事のことまで相談できない。栄養士の自宅訪問が、患者と家族の両方を支える

■玄米粉を使ったお粥にオリーブオイルとバジルが入って、爽やかで本当に美味しい

今回、私も味見させていただいたお粥は玄米粉を使ったもので、そこにオリーブオイルが入っています。お連れ合い曰く「ただオイルを入れるとお粥にはあまり合わないから、イタリアンにしたらどうかと思った」そうで、自家栽培のバジルが入って、爽やかで本当に美味しいご飯に仕上がっていました。他のおかずも野菜や肉の風味が残っていて、抜群の出来でした。特に、鶏肉とピーマンとしし唐を合わせたものなど、レストランでムースとして出してもおかしくない程、絶品でした。

レストラン級の美味な介護食=撮影・松中みどり

レストラン級の美味な介護食=撮影・松中みどり

■ミキサーはプロ仕様のアメリカ製、トロミ剤は食材や料理に合わせて何種類かを使い分け

この美味しい食事を支えているのは、様々な製品です。まずはミキサーですが、毎日3食必ず使うものなので、プロ仕様の製品を買い求めたということでした。それがこちらのVitamix(バイタミックス)です。耐久性にすぐれ、種や皮も粉砕するパワフルなブレンダ―はアメリカ製で、値段は張ります。でも、それだけの価値があるというお話でした。

米国製のブレンダ―Vitamix=撮影・松中みどり

米国製のブレンダ―Vitamix=撮影・松中みどり

嚥下障害の人の食事にかかせないのがトロミ剤です。Eさんのお宅では、食材や料理に合わせて何種類かを使い分けているそうです。その知識に、そして食感も含めて少しでも美味しく食べてもらいたいというご家族の熱意に心を打たれました。

トロミ剤=撮影・松中みどり

トロミ剤=撮影・松中みどり

トロミ剤=撮影・松中みどり

トロミ剤=撮影・松中みどり

■オリーブオイルが常にベストではない。栄養士さんが訪問することで、無理のないアドバイスを

管理栄養士の村田さんによると、人によって体の状態が違い、病歴や使っている薬も違うので、オリーブオイルを使って排便の改善をする方法が常にベストというわけではないということでした。その人の状況を把握した栄養士さんが家庭を訪問することで家族の情報も得て、実行しやすい無理のないアドバイスをする。食は生活に密着しているので、介入が難しい部分でもあり、改善の可能性があるやりがいのある部分でもあります。

いろいろな専門家が協力して質の高いケアを提供することを、「多職種連携」と呼びます。WHO(世界保健機関)は早くからこうした連携を呼びかけてきましたが、超高齢化社会に入った日本では、今まさに必要な考え方ではないでしょうか。

患者さん本人と家族とのコミュニケーション。そして、医師や看護師、PTやSTなどのリハビリ専門のスタッフ、ケアマネージャー、ソーシャルワーカーなど様々な立場と職種の人たちのコミュニケーション。これから円滑になってこそ、質の高い自宅療法、自宅介護が支えられるのでしょう。

食道発声でお孫さんに絵本を読んであげたいという夢のため、練習中のEさん=撮影・松中みど

食道発声でお孫さんに絵本を読んであげたいという夢のため、練習中のEさん=撮影・松中みどり

■「脳卒中や脳梗塞にならないように、どういうところに気を付けたら?」など、熱心に質問

そしてこの日、Eさんのところで目の当たりにしたのは、「食が基本」であるということでした。管理栄養士さんが医師と連携し、家族の相談に乗ることはいろいろな意味で基本なのだと実感しました。栄養士さんが来るというので、新しい介護食を作って待っていたご家族。また、Eさんの食事のこと以外にも、ききたいことがいっぱいあるご様子でした。この日も、「脳卒中や脳梗塞にならないようにしたいのだけれど、どういうところに気を付けたらいいかしら」など、熱心に質問されていました。

ペースト状の嚥下食を、整形=撮影・松中みどり

ペースト状の嚥下食を、整形=撮影・松中みどり

医師に細かい食事のことまで相談できない。栄養士の自宅訪問が、患者と家族の両方を支える

嚥下障害がある場合や、糖尿病のような食事内容に気を付ける必要がある場合には、毎日の食事が介護を担う人の肩にかかってきます。義父の時もそうでしたが、訪問診療の短時間で、お医者さんに細かい食事のことまで相談できないというのが実情です。栄養士さんが、患者さんと、介護を担う家族の両方の心身を支えてくれるなら、こんなにありがたいことはありません。管理栄養士の村田さんが所属する「医療法人社団日翔会」のホームページには、このように書かれていました。

医療法人日翔会は、在宅療養支援診療所として個人の心もケアする訪問診療を目指しています。

何人かの医師や看護師、理学療法士、薬剤師などが皆で協力し、患者さんのケアを行う医療――それがグループプラクティスです。
自宅・施設など病院外で療養するためには、介護や緊急時の対応など生活に生じる様々な問題を解決しなければなりません。24時間365日の対応や気軽な相談を受けるのは、医師1人では限度があります。
だから私たちは、医療連携機関・医師を多数揃え、様々な分野i対応できるグループプラクティス(グループ診療)を行っています。
そして、この安心のグループ連携があるからこそ、患者さんのプライマリケア医(かかりつけ医)として身近に触れ合い、体と心のケアをすることが可能になると考えています。(医療法人社団日翔会

「わたなべクリニック」と「生野愛和病院」が支える病院医療と訪問診療は、いろいろな知識と情報をもった専門家たちが協力し合って、地域の人たちに安心な医療を届けているのです。

<関連サイト>
わたなべクリニック
わたなべ在宅塾(地域医療、医療と介護の連携を学ぶための講座)

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