これから「街の本屋さん」はどうなるのか、「BOOK TALK in 関西」ルポ

「2016 BOOK TALK in 関西」で語る豊田政志さん(左)と大井達夫さん=撮影:アイデアニュース・橋本正人

2016年10月1日、大阪市内で、本と本屋の未来について考えるイベント「2016 BOOK TALK in 関西」が開かれました。「語り手」として登場したのは、出版取次会社に勤めていた経験のある自費出版編集者の豊田政志さんと、出版社に勤めながら街の本屋の店主もされている大井達夫さんのお2人。お2人は、現在の出版業界をとりまく問題をさまざまな形で分析し、出版の世界を巡る新しい動きについても紹介されました。その内容の一部をレポートします。

■新刊の発行部数や書店への配本部数が決まる仕組みは?

このイベントは、出版と出版関連産業の労働組合が集まって作っている「出版労連」が開いてきた「関西出版技術講座」の代替企画として開かれたもの。語り手の豊田政志さんは、兵庫県伊丹市内で出版物の企画・編集・販売などを手掛けている「出版サービスWille(ヴィレ)」の代表です。

「2016 BOOK TALK in 関西」で語る豊田政志さん=撮影:アイデアニュース・橋本正人

「2016 BOOK TALK in 関西」で語る豊田政志さん=撮影:アイデアニュース・橋本正人

豊田さんは、出版物の卸売業種である「出版取次会社」に勤めていたこともあり、この日は、「取次の4大機能とは?」「出版取次の役割と出版不況について」「これからの『本と本屋』とその周辺は?」「まとめ」の4項目に分けて話をされました。

豊田さんによると、新刊の部数は出版社が決めて製本会社に発注し、納品の約1週間前に出版社が取次会社に納品部数を提示。ここで取次会社と出版社の間で部数をめぐる「せめぎあい」があり、その上で部数と書店への到着日が決定されます。その後、取次会社ではいつくかの配本パターンに合わせて各書店への配本部数を決め、発送部門にデータ送信。取次に納入された日の翌々日を基本に、書店に本が到着するとのことでした。

筆者が「へえ~~」と思ったのは、これから出る本(近刊)について、書店から事前に注文することはほとんどできないというか、やっても効果がないからやらないのが、この業界では常識になっているということでした。では、注文もしていない本が取次会社から届いて、売れなかったらどうするのか。そこは「再販制度」という名の委託返品制度があるので、売れなければ書店から取次会社に返品される仕組みになっているわけです。書店に送られる商品の約4割が返品されるとのことで、ここで膨大な人件費と時間的なコストがかかっていると、豊田さんは問題点を詳しく説明されました。ただ、短時間に、全国津々浦々の書店に、膨大な新刊書籍を確実に届けるためには、なかなかこの仕組みは変えられないのだということです。

■各地に誕生している「独立系セレクト書店」とは何か

しかし、今はインターネットの時代で、本もAmazonなどを通してネットで購入することが一般的になってきました。そんな時代に、書店はどのようにして生き残っていこうとしているのか。書店にも大規模店舗やチェーン店から、街の小さな本屋さん、古書店などいろいろな形態がありますが、ここでは、豊田さんが各地に誕生している「独立系セレクト書店」について紹介した部分を、動画でご覧ください。

「新刊」を扱う書店を開業するためには、委託販売についての保証金または担保などで数千万円の開業資金が必要になるため、個人が新刊書店を開くことは、ほとんど皆無になっているそうです。その一方で、街はずれの場所で家賃が安い物件を店舗化し、在庫リスクの少ない古書を扱い、ニッチな「小商い」として成り立つ形で、「独立系セレクト書店(古書店)」を開く例が増えているそうです。

■イベントやセミナーなどを開いて、本好きな人の交流空間に

こうした店舗は、イベントやセミナーなどを開いて「語り場・つなぎ場」としての価値を生み出し、インターネット上のブログやSNSを通して情報を拡散。「書店めぐり」をする本好き・本屋好きな人の、交流空間となっているそうです。この記事を書いている筆者の橋本は、この日の質疑応答の時間に、「そうした独立系セレクト書店で開かれるイベントの内容はどういうものなのですか?」と質問したところ、豊田さんは「本屋さんを開きたい人のための本屋さん講座などが人気で、あとは読書会とか本にまつわるイベントが多いということです」とのことでした。

もう1人の語り手の大井達夫さんは、教育関係の出版物を多く発行している出版社に勤めながら、埼玉県内で書店「忍書房」の店主をされています。大井さんは、「街の本屋さんとは何か」「再販制に対する誤解」「街の本屋さんの売り上げ」「取次の役割」「ブック戦争(書店ストライキ)」「書店戦争と出版流通の課題」「出版社の課題」について話されました。

「2016 BOOK TALK in 関西」で語る大井達夫さん=撮影:アイデアニュース・橋本正人

「2016 BOOK TALK in 関西」で語る大井達夫さん=撮影:アイデアニュース・橋本正人

大井さんの話で、橋本が「なるほど」と思ったのは、本の装丁と価格をめぐるお話などですが、こちらはアイデアニュース有料会員向け部分の中で動画で紹介させていただきます。

<アイデアニュース有料会員限定部分の小見出し>

■活気あふれる各地の文芸同人誌即売会(文学フリマ)

■出版が好調だった時期が過去2回あります。いつでしょう?

■キーワードは「交流空間」と「装丁」かと感じました

<2016 BOOK TALK in 関西>
【大阪】2016年10月1日(土)弁天町ORC200生涯学習センター(この催しは終了しています)

<関連サイト>
自費出版のWille(ヴィレ) ホームページ
http://xn—-6b8a950hkcnuxm.com/
忍書房を紹介したブログ「忍城おもてなし甲冑隊」の記事
http://oshijo-omotenashi.com/blog/2016/08/31/post-12922/
日本出版労働組合連合会 大阪地域協議会のページ
https://sites.google.com/site/osakachikyo/
出版労連 大阪地協 フェイスブック
https://www.facebook.com/shuppanosaka/

<この日のお話に出てきた関連サイト>
SUNNY BOY BOOKS
http://www.sunnyboybooks.jp/
双子のライオン堂
http://liondo.jp/
ニジノ絵本屋
http://nijinoehonya.com/
文学フリマ札幌事務局通信
http://bunfree-sapporo.hatenablog.com/
文学フリマ大阪事務局通信
http://osakabunfree.hatenablog.com/

<関連イベント>
トークイベント「本はこうしてつくられ、売られる」
【大阪】2016年12月4日(日)14:30~ KSPコリア学院
豊田政志さんとライターの鍵本聡(KSPコリア学院代表)さんが本について語る2時間(定員18名)。
https://www.facebook.com/events/331542127224481/

<アイデアニュース関連記事>
これからの出版業界はどうなるのか、「BOOK TALK in 関西」ルポ
本と本屋の未来を考える「BOOK TALK in 関西」、大阪で10月1日に開催
添嶋譲さんの連載「言葉の工房」記事一覧

※ここからアイデアニュース有料会員限定部分です。豊田さんが各地の文芸同人誌即売会を紹介した部分の動画と、大井さんが本の装丁と価格の関係などについて話された部分の動画などを掲載しています。

※ここから有料会員限定部分です。

■活気あふれる各地の文芸同人誌即売会(文学フリマ)

■出版が好調だった時期が過去2回あります。いつでしょう?

■キーワードは「交流空間」と「装丁」かと感じました

筆者の橋本は、アイデアニュースの編集長(代表取締役)として、インターネットでの有料コンテンツの配信に取り組んでいますが、スマートフォンなどを通してテキストや写真、そして動画や音楽が手のひらの中で読んだり見たり聞いたりできる時代に、「紙の本」がどうなるのかということに興味を持って、今回の「BOOK TALK in 関西」に参加しました。

そこで思ったのは、豊田さんの話にあった「本好き・本屋好きな人の交流空間」としての書店の存在意義と、大井さんがおっしゃった「一回出した本を再出版して売れるなら出版社も書店も儲かるけれど、それができているのは絵本だけ」というお話、さらに「かつて百科事典が売れた時代があった」「本が安すぎるのは装丁の安っぽさにも通じる」というお話などから、これからの「街の本屋さん」をめぐるキーワードは、「交流空間」と「装丁」なのかなと感じました。

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