「第1回だいとう戯曲講座~地域のドラマを書いてみよう~ 発表公演」が3月11日(土)、12日(日)、旧深野北小学校(大阪府大東市)で開かれます。5名の参加者が書き上げた短編5作品が、いよいよ朗読劇として立ち上がります。連載「地域演劇を作る」第3回は、7カ月の歩みを経て生まれた5つの短編戯曲について紹介します。また、3月7日に行なわれた初稽古の様子の写真を、アイデアニュース無料部分末尾で紹介します。有料会員向け部分では、講師の高橋恵さんが全講座を終えて見えてきたことなどについて、本講座の最後に語られた内容をお届けします。
2016年8月にお試し講座がスタートし、10月から全10回の本講座を続けてきた「だいとう戯曲講座」。他の戯曲講座と違うところは、実在するまちを舞台に書き、そのまちで上演されること。そうして現実を意識しながら書く中で、大東のまちで、自分の心の中に、参加者がそれぞれのリアリティを見つめた7カ月間でもありました。5つの短編戯曲は、演出の高橋さんが各作品を10分程度の朗読劇に仕立て、関西の小劇場界で活躍する役者の方々が朗読します。大東にそれぞれのドラマを見出した受講生5人の上演作品を紹介します。
●『だまって しねるか!』いまだゆうさくさん
飯盛山にハイキングに行く老人と、その友人の孫。山歩きでの会話を通して、世代の異なる二人のかみあわないもどかしさや、ささやかな歩み寄りがにじむ。
いまださんコメント:自分の中にあるものを「まとめる」ことに興味があります。行き過ぎた題を付けましたが、自分なりに終わりを見つけて書いたつもりです。感想をいただけたら楽しいだろうと思いますが、(真意を)分かっていただけるかな。
●『はぐれるわけにはいかないの』上坂京子さん
昭和48年秋の夕暮れ時、JR野崎駅近くの橋で繰り広げられる家族のストーリー。10歳の娘の本音と母の口に出せない思い、互いの気持ちが橋の上で交錯する。
上坂さんコメント:駄菓子屋のお母さんに取材させてもらったことがきっかけで、自分の子ども時代を思い出してイメージが膨らみました。大阪の万国博覧会の頃の記憶を懐かしみながら、また新鮮な気持ちで時代を見つめました。私自身、母親でもあるので、母と子の両方の気持ちで書きました。
●『東のまち、西の空』桝郷春美
男友だちと一緒に商店街マップで見つけたお店を訪ね、まちと人との心の距離が近づく過程をセルフ・ドキュメンタリーの形式を用いて描いた作品。
桝郷コメント:この半年の間、野崎のまちを歩いて、人と出会い、その中で見つけた物語です。現実と虚構の間で悩みながら書きました。講座を終えた今でも、リアリティとは何だろうと考え続けています。
●『灯台』南陽子さん
野崎観音(慈眼寺)に訪れた3人の女性の友情を描いた作品。役者を目指して東京に暮らす人、出産を控えた人、野崎に住み続ける人、それぞれ違う道を歩む高校の同級生3人の微妙な心の揺れや摩擦、それぞれの心模様を描く。
南さんコメント:野崎観音には女性を守ってくれる仏様がいて、調べていくうちにそこはやさしい場所だと気付きました。大東で生きる登場人物と、東大阪で生きている私の中のイコールを探す作業を時間をかけて行うことができました。
●『喫茶 青い鳥』山納洋さん
喫茶店に、子猫を探しに来た女性が足を踏み入れたことで、繰り広げられる女性4人の会話。店主と保育園で働く常連客、近所に暮らすおばあちゃん、越してきたばかりの女性の目線を通して大東にあるリアルな物語を紡ぐ。
山納さんコメント:大東市深野で、人生における喫茶店の上位ベスト3に入るぐらい面白い喫茶店に出会いました。物語を書くにあたり、葛藤ではなく、迷い猫の謎で物語を展開することで、自分が今やりたいことの調和がとれるのではないかと考えました。実在する喫茶店の空気感を再現にリアリティを置いています。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、この講座の講師を務めた劇作家・演出家の高橋恵さん(劇団「虚空旅団(こくうりょだん)」主宰)の全講座を終えた所感や、演劇賞・戯曲賞受賞者を輩出している戯曲塾「伊丹想流私塾」で師範を務める高橋さんの、同塾と今回のだいとう戯曲講座での教えることの違いなどについて、本講座の最後に語られた内容をご本人の言葉でお届けします。
<有料会員限定部分の小見出し>
■いかに筆を折らせないか
■声に出して読む敷居を低く
■ハードルの高い所に向かわないと楽しくない
■地域のドラマシティ化は自分たちで石を退けて耕すところから
<第1回だいとう戯曲講座~地域のドラマを書いてみよう~ 発表公演>
【大東公演】2017年3月11日(土)17:00、12日(日)15:00開演
旧深野北小学校(大東市深野3丁目28-4) 入場料無料
作:いまだゆうさく、上坂京子、桝郷春美、南陽子、山納洋
出演:高橋映美子、船戸香里、村山裕希(dracom)、水柊(少年王者舘)
講師・演出:高橋恵(虚空旅団)
主催:大東市 制作:大東倶楽部、虚空旅団
お問合せ:大東倶楽部 TEL. 0570-001-962
Eメール:info☆daito-club.com (☆を@にしてください)
<大東市主催、虚空旅団製作公演『河内キリシタン列伝』>
―今から450年前、ここ河内の地には、わが国に伝わったばかりのキリスト教をめぐる様々なドラマがあった…―
【大東公演】2017年3月25日(土)18:30/3月26日(日)13:30、17:30開演
旧深野北小学校体育館 前売・当日共 1500円
作・演出:高橋恵(虚空旅団)
原作:『戦国河内キリシタンの世界』批評社/神田宏大、大石一久、小林義孝、摂河泉地域文化研究所=編
出演:飛鳥井かゞり(猫会議)、諏訪いつみ(満月動物園)、杉江美生、竹田モモコ、水柊(少年王者舘)、濱奈美(劇団ひまわり)
ポストトーク(3/25公演終了後):天野忠幸氏(天理大学准教授)
チケット予約フォーム:https://www.quartet-online.net/ticket/kawachikirisitan
- 地域演劇を作る(4)演劇は新たな景色を見せてくれる扉 2017年4月24日
- 地域演劇を作る(3)まちの5つの物語を上演、3月11日と12日に大東市で 2017年3月8日
- 地域演劇を作る(2)過程がドラマ 2017年2月3日
- 地域演劇を作る(1)見えてきた「地域演劇」の形、プロデューサー・山納洋さんインタビュー 2016年11月28日
<3月7日に行なわれた初稽古の様子>
※ここから有料会員限定部分です。
■いかに筆を折らせないか
私は「伊丹想流私塾」(兵庫県伊丹市)という戯曲塾で師範という立場をさせてもらっていますが、そこは「書かれた戯曲」を完成させる塾で、とても厳しいです。作品数が多いのもありますが、読み合わせもほとんどしません。いかにビシバシと投げ飛ばしていくかといった厳しさがあるのに対して、「だいとう戯曲講座」は「いかに筆を折らせないか」。まずは、皆でがんばって卒業してもらおうと思って取り組んできました。
(「高橋さんの教え方は否定しない印象があり、こんなことを言ったら恥ずかしいと萎縮していた気持ちがほぐれた」という桝郷のコメントを受けて)基本的に私は、自分が否定されると何もできなくなってしまい打たれ弱いので、人を否定することもできないのですが、じつは否定していないつもりだけなのかもしれません(笑)。
■声に出して読む敷居を低く
本講座では毎回、配役を決めて、台本の読み合わせをしてきました。そこでは自分ではない登場人物を演じなければならないのですが、読んでいくうちに演じることの敷居が低くなり、何とも思わなくなっていく。これが大事なんです。声に出して読むことの敷居が高いままだと何かを突破できずにその手前で止まってしまうところを、自分は演じていると思ったらすっとできる。それが身体に上手く作用が働いて、そこからまた何か違う感情が湧いたり、発想が出てきたりするのです。
■ハードルの高い所に向かわないと楽しくない
もう一つは、楽しくやりたいと心がけてきました。「楽しい」というのは、矛盾しているように聞こえるかもしれませんが楽なことではありません。「これは自分には無理なのではないか」、「本当にこんなことができるのか」というハードルの高い所に向かわないと楽しくないんです。そこを分かってもらえると、いろんなことを楽しんでいけるのではないかと思います。
■地域のドラマシティ化は自分たちで石を退けて耕すところから
(「地域に眠っているいろんなドラマを作品化していくことで、大東をハードではなくソフトでドラマシティにするサイクルが作っていけたら」という山納さんのコメントを受けて)来年度もこの旧深野北小学校で戯曲講座が開催されますので、他の演劇の事業と連動して、盛り上がる道を作っていけたらと思います。地域をドラマシティ化するというのは、何か天から良いものが降ってくるような受け身なものではなく、自分たちで石を退けて耕すところから始めないといけませんが、そうして少しずつ、達成感を積み重ねられたらと思います。