「デマやフェイクが口を挟む余地のない事実を」、阿部岳記者インタビュー(下)

墜落したオスプレイのコックピットを捜索する米兵。海上保安庁のゴムボートが遠巻きに見守る=2016年12月14日、名護市安部、撮影・阿部岳

沖縄タイムスの記者阿部岳さんの本、『ルポ 沖縄 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実』の紹介とインタビューの後半をお送りします。筆者が辺野古で初めて抗議船に乗ったときにご一緒した阿部記者は、地元の人たちに信頼されるベテラン記者でした。一般の記事もコラムもこなす阿部さんだからこそ描けた高江の165日。インタビュー後半では、フェイクニュースやデマが拡散される今、新聞や書籍が果たす役割は何なのかなどについて阿部記者にうかがいました。アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、オスプレイについて阿部さんにうかがったインタビュー後半の全文などを掲載しています。

未明のオスプレイ墜落現場で、報道陣を締め出そうとする米兵。「下がれ!」と怒鳴る者もいた=2016年12月14日、名護市安部、撮影・阿部岳

未明のオスプレイ墜落現場で、報道陣を締め出そうとする米兵。「下がれ!」と怒鳴る者もいた=2016年12月14日、名護市安部、撮影・阿部岳

――この本は朝日新聞出版から出されたわけですが、沖縄以外の、それこそ本土の人たちの手に届くことを想定されていると思うんです。こういう人に届けばいいなあと思って書かれたというようなことはありますか?

そうですね、やっぱり私と同じ本土の人間、本土の人たちに少しでも多く読んで欲しいと思っていますね。その一念なんですけれども、まったく興味のない方に手に取ってもらうのは厳しいかもしれません。でも、うっすら気になっている方、少しでもひっかかったら手に取ってもらえたらいいなあと思っています。

――ニュースは、ネットやせいぜいテレビで見ているという人が多くなっていますよね。沖縄のことも、「いやあ、ネットで見てるよ、知ってるよ」なんて言われることもあって、がっかりすることもあるんですけど、丹念に現場で取材して、本の形で出されたというのには、そういう状況をこえたいというような思いもあったのかなあと。

ネットでもちゃんと事実に基づいて発信するメディアはたくさんあると思いますから、ネットのニュースがダメというわけではないんですけれどね。デマとかフェイクニュースに対抗するというか、ひとつひとつ事実とか細部とかにこだわって書くというのは意識して心がけました。現場に行かないで、「ネットの動画を見たから真実はそれで知っている」というのは危険だと思うし、だから僕たちみたいな仕事があって、見たものを整理して伝えているわけですね。ネットの動画だって編集されて、都合のいい部分がとりだされているのに、そこにはありのままが映っていて、僕らが書くものは偏向しているから信じられないっていうのは、すごく倒錯してる感じがします。プロとしての責任を持って、この本でも事実を伝えているつもりです。デマとかフェイクだとかが口を挟む余地がないような事実を、丹念に積み上げていくというのが大事かなあと思います。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、オスプレイについて阿部さんにうかがった内容などインタビュー後半の全文と解説(約2,400字)と、2017年6月16日にスイス・ジュネーブの国連欧州本部で国連の特別報告者デービッド・ケイ氏と握手する山城博治氏の写真など、阿部さんが各地で撮影した写真3枚を掲載しています。

<有料会員限定部分の小見出し>

■オスプレイは北朝鮮とは何の関係もない輸送機。自民党まで反対しても、押し付けられた

■本土のどんな思想信条の人でも、あんな欠陥機が自分の上を飛ぶのはいやでしょう?

■沖縄が気の毒とか大変と言ってるうちに、自分も気の毒とか大変に絶対なってしまう

■沖縄のことを、本土の人にひとりでも多く知ってもらいたいと願っています

<『ルポ 沖縄 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実』>
定価1400円 208ページ 発売/朝日新聞出版 ISBN 978-4-02-251481-3

【目次】
第1章 暴力と抵抗
・戒厳令(500人派遣の衝撃/高まる緊張/連夜の低空飛行、など)
・現場封鎖(問答無用/別天地)
第2章 弾圧と人権
・逮捕続出(思想犯/「悪魔扱い」/重なる微罪/共謀罪先取り、など)
・暴力の嵐(食い込むロープ/県民同士の争い)
・記者拘束(すり替え/暴走の追認/写真家の問い)
第3章 断絶と罵倒
・土人発言(差別の系譜/死語の復権/驚きがない驚き、など)
・デマ拡散(嘲笑の暴力/特大スポンサー、など)
・沖縄シフト(茶番の配信/ネトウヨ化する権力/無関心の土壌、など)
第4章 無法と葛藤
・揺れる法治(自衛隊ヘリ投入/切り裂かれた秘境/資料流出、など)
・推進側の葛藤(作業員と社長)
第5章 破綻と隷従
・オスプレイ無残(報道陣の闘い/墜落と不時着、など)
・「完成」式典(焼け太る米軍/政治ショー/農家の覚悟、など)

【著者】阿部 岳(あべ たかし)
1974年東京都生まれ。沖縄タイムス記者。上智大学卒業後、97年沖縄タイムス社入社。政経部、社会部基地担当、フリーキャップなどを経て北部報道部長。著書に『観光再生――「テロ」からの出発』(沖縄タイムス社)

<関連リンク>
朝日新聞出版のページ
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=19289
沖縄タイムスプラスの記事
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/133017

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墜落したオスプレイのコックピットを捜索する米兵。海上保安庁のゴムボートが遠巻きに見守る=2016年12月14日、名護市安部、撮影・阿部岳

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※『ルポ 沖縄 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実』を、アイデアニュースの有料会員1名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは10月16日(月)です。(このプレゼントの応募は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。

※ここから有料会員限定部分です。

■オスプレイは北朝鮮とは何の関係もない輸送機。自民党まで反対しても、押し付けられた

――ネットで誰でも発信できる時代なので、見極めが大事だし、ネットのニュースだけでなく、新聞や出版物も含めて色々な媒体からも情報を得ていって欲しいと、ネットニュースに書きながら思っているんです。この『ルポ 沖縄 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実』を、アイデアニュースの読者にどうアピールしたらいいかと、阿部さんにもお聞きしたかったんですが、いかがでしょうか。

そうですね、ご質問いただいて一晩考えたんですけど、あんまり素敵な言葉じゃないかもしれませんが、「明日は我が身」っていうのがやっぱり一番かなあと。高江のヘリパッドも、辺野古の基地も、オスプレイが使う基地の話なんですよね。オスプレイって、実は中国とか北朝鮮の危機とは何の関係もないんです。例えば、仮に「尖閣が中国に奪われた!」とかいうときに、オスプレイが出て行って奪還するなんてことはまったく出来ない。ただの丸腰の輸送機ですから。北朝鮮のことも同じです。ミサイルとオスプレイは関係ない。だとすれば、オスプレイが沖縄に配備されている必然性は全くないんです。沖縄は尖閣に近いからオスプレイ置いておくって、まったく意味がないわけです。それなのに、どれだけ反対しても、沖縄に押し付けられたんですよね。沖縄では自民党まで反対しても、押し付けられた。

――そうなんですよね。何度も民意は示されたのに。

今はオスプレイって、だんだん全国飛ぶようになってきましたね。この間も岩国で故障して白煙をあげて、直ったって沖縄に飛ぼうとしたら大分で降りて、そこで一生懸命直してる。

米軍が去った墜落現場。アダンの木に実のような形の規制テープが残されていた。沖縄に絡みついた基地の暗喩に思えた=2016年12月22日、名護市安部、撮影・阿部岳

米軍が去った墜落現場。アダンの木に実のような形の規制テープが残されていた。沖縄に絡みついた基地の暗喩に思えた=2016年12月22日、名護市安部、撮影・阿部岳

■本土のどんな思想信条の人でも、あんな欠陥機が自分の上を飛ぶのはいやでしょう?

――もろいというか、事故の多い欠陥機ですよね。

オーストラリアで墜落した後に北海道にも行って。今や、全国各地を飛び回るようになって。このオスプレイが象徴的だと思うんですけど、必要ないもの、沖縄に最初に押し付けられたものが、だんだん全国に広がっていく。沖縄では自民党が反対しても押し付けられたと言いましたが、誰の声もきいてもらえないんですよね。本土のどんな思想信条の人でも、あんな欠陥機が自分の上を飛ぶのはいやでしょう? 落ちてきて死ぬのは、安保のためなら本望なんていう人はひとりもいないと思うんです。いやだと思ってもきき入れてもらえない状況の象徴がオスプレイかなと。

ケネディ駐日米大使(左)らから北部訓練場の返還地域を示す地図パネルを受け取る菅義偉官房長官=2016年12月22日、名護市の万国津梁館、撮影・阿部岳

ケネディ駐日米大使(左)らから北部訓練場の返還地域を示す地図パネルを受け取る菅義偉官房長官=2016年12月22日、名護市の万国津梁館、撮影・阿部岳

■沖縄が気の毒とか大変と言ってるうちに、自分も気の毒とか大変に絶対なってしまう

――北朝鮮のミサイルよりもずっと危険ですよね。宇宙空間に行ってるミサイルを怖がってる場合じゃない。オスプレイは落ちたことあるわけですから。

そうですね、言えてますね。Jアラートは沖縄で鳴りまくってないといけないんですよ、本当は。沖縄が気の毒とか大変と言ってるうちに、自分も気の毒とか大変な境遇に絶対なってしまう。沖縄が気の毒なうちに、関心をもってほしいし、沖縄が大変なうちに、何とかしてほしいですね。沖縄だけではどうにもならないことですから、本土の人の関心が必要です。早いうちに気づいて、早いうちに一緒に芽を摘み取って欲しいと思ってるところです。

国連の特別報告者デービッド・ケイ氏(右)と握手する山城博治氏=2017年6月16日、スイス・ジュネーブの国連欧州本部、撮影・阿部岳

国連の特別報告者デービッド・ケイ氏(右)と握手する山城博治氏=2017年6月16日、スイス・ジュネーブの国連欧州本部、撮影・阿部岳

■沖縄のことを、本土の人にひとりでも多く知ってもらいたいと願っています

――本当に素晴らしい本で、たくさんの人の心に届け!と願っています。何か最後にありましたら、ひとこと。

取材するのは慣れていますが、自分がお話するのは不慣れなもので…でもこんな機会をいただいて嬉しいです。僕が届かない人のところに、言葉が届くんじゃないかと思って。かたい話を柔らかい言葉で伝えて下さるではないかと期待しています。沖縄のことを、本土の人にひとりでも多く知ってもらいたいと願っています。

『ルポ 沖縄 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実』

『ルポ 沖縄 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実』

阿部記者へのインタビューは、ここまでです。

本のタイトルにもなっている「高江165日」について、少し解説します。2016年7月11日、参議院選挙投票日の翌日早朝、米軍北部訓練場に、ヘリパッド建設工事の資材を運んだトラックが入ります。野党系無所属の新人伊波洋一氏が自民党現職沖縄担当大臣・島尻安伊子氏に圧勝、基地反対の市民が歓喜に沸いた翌日のことでした。「オスプレイも利用するヘリパッドは高江に要らない」とはっきり示された沖縄の民意を無視し、選挙の翌日に不意をつく政府のやり方は姑息でした。人々は訓練場のゲート前に集結。この7月11日から、北部訓練場のうち約4千ヘクタールの返還式典がおこなわれた2016年12月22日までが「高江165日」なのです。

では、そもそもなぜ高江にヘリパッドが作られることになったのでしょうか? しかもこんなに急いで素人の目にも明らかな突貫工事を強行する理由は? それを理解するには1996年に日米両政府によって設置された「沖縄に関する特別行動委員会(SACO)」と「SACO合意」を知る必要があります。沖縄の米軍基地負担を減らし、基地の整理縮小を検討した委員会は1996年12月2日に合意に達し、高江と隣り合わせにある米軍北部訓練場のおよそ半分の返還など在沖縄米軍基地11施設の返還が盛り込まれました。しかし、普天間飛行場を辺野古に移すことへの反対の声は大きく、今も座り込みや海上での抗議など、多くの市民による反対運動が続いています。そして、高江に関しては、「返還」される北部訓練場の多くは現在米軍が使用していないエリア。しかもそこを返すかわりに、高江集落を取り囲むような場所へ新しいヘリバッドを作ることを条件としたため、これまで何度も「反対」の民意を示してきた住民や関係者の反発は大きく、今回の165日が始まりました。SACO合意から20年の2016年12月22日、退任間近の駐日米大使キャロライン・ケネディと菅官房長官が出席する返還式典に間に合わせるためのヘリパッド建設突貫工事だったのです。

※『ルポ 沖縄 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実』を、有料会員1名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは10月16日(月)です。(このプレゼントの応募は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。

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