高江の165日『沖縄 国家の暴力』出版、沖縄タイムス・阿部岳記者インタビュー(上)

工事再開の日の未明、機動隊のバスが赤色灯を回転させて迫ってきた=2016年7月22日、東村高江、撮影・阿部岳

2017年8月30日、沖縄タイムスの記者、阿部岳さんの本、『ルポ 沖縄 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実』が出版されました。早速入手、まさに巻を措く能わず(かんをおくあたわず)で一気に読みました。本土のメディア関係者がなかなか足を運べない沖縄・高江でおきた2016年夏から年末にかけての出来事を、現場に通い続けた新聞記者が、丹念に事実をつみあげて活写する秀逸なルポルタージュです。高江ヘリパッド問題を中心に、「機動隊500人派遣」「記者拘束」「土人発言」「オスプレイ墜落」などが現場から生々しく報告されています。本を上梓したばかりの阿部岳記者に電話でインタビューしてうかがったお話を、上下2回にわけて紹介します。アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、沖縄で起きたことと特定秘密保護法の関係について語ってくださった内容などを掲載しています。

沖縄防衛局がヘリパッド工事再開に向けて資材を運び込んだ米軍北部訓練場は、未明から機動隊員が警備を固めた=2016年7月16日、沖縄県東村高江、撮影・阿部岳

沖縄防衛局がヘリパッド工事再開に向けて資材を運び込んだ米軍北部訓練場は、未明から機動隊員が警備を固めた=2016年7月16日、沖縄県東村高江、撮影・阿部岳

――「高江165日間」は、これまで沖縄で長く取材されてきた阿部さんにとってどんな現場でしたか?

20年間、沖縄で記者をやっていて、主に基地問題の現場を歩く取材が多かったんです。辺野古も見たし、いろいろありましたが、こんなにひどい現場はなかったです。今まで見たことも聞いたこともない最悪の現場でした。2014年7月以降の辺野古でも、警視庁から機動隊が派遣されて、反対する市民の排除にあたるみたいなこともありましたが、まったく比較にならないくらいのひどさでした。数だけでも、辺野古に来た警視庁の機動隊は100人でしたが、高江に派遣された他の都道府県からの機動隊員は500人。5倍ですから。

――なかなか足を運べない場所で起きたというのもひとつのポイントかなと思うのですが。沖縄の方にとってもやはり遠いところという感じですか?

遠いですね。那覇から3時間くらいかかりますから。往復で6時間は、なかなか厳しい距離です。人目につかない山奥でやりたい放題だったという感じです。人目を気にしない時の、権力の姿、国家の姿が見えたと言いますか。取り繕うことをしないで、本当にやりたい放題するとこうなるのかと。むき出しの姿ですね。そして、またこの国の現在進行形の危機の縮図ということでしょうか。

――この本が出たことを沖縄の友人にきいて、すぐ取り寄せて読みました。素晴らしいルポだと思います。

松中さんの反応がすごく早かったんです。最速だったかもしれません。ありがとうございます。

――丁寧に事実を積み重ねた、すごく分かりやすい本でした。

まとめたいという欲求があって。本というかたちで伝えたいと思ったんです。ヘリパッド建設工事に向けて資材が搬入された7月11 日から返還式典の12月22日まで、数えたら165日だったんですね。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、沖縄で起きたことと特定秘密保護法の関係について語ってくださった内容などインタビュー前半の全文(約2,800字)と、阿部さんが東村高江などで撮影した写真(4枚)を掲載しています。10月1日(日)掲載予定のインタビュー「下」では、フェイクニュースやデマが横行する今のメディアの状況への対応などについてうかがったインタビューの後半の全文(約3,400字)と、名護市安部で2016年12月に墜落したオスプレイのコックピットを捜索する米兵の様子など、阿部さんが撮影した写真5枚を掲載します(うち3枚は有料会員限定部分に掲載)。

<有料会員限定部分の小見出し>

■「日米一体化」で、今後は全国の自衛隊基地に米軍が、オスプレイが、来られるようになる

■フィリピンで起きていることも似ています。最初は周縁で始まり、中心に向かって行く

■出身は東京。入社試験の年、基地問題を長いスパンでやりたいと沖縄タイムスを受けた

■自分は本土出身であるということは変わりません。沖縄のことを本土に伝え続けたい

<『ルポ 沖縄 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実』>
定価1400円 208ページ 発売/朝日新聞出版 ISBN 978-4-02-251481-3

【目次】
第1章 暴力と抵抗
・戒厳令(500人派遣の衝撃/高まる緊張/連夜の低空飛行、など)
・現場封鎖(問答無用/別天地)
第2章 弾圧と人権
・逮捕続出(思想犯/「悪魔扱い」/重なる微罪/共謀罪先取り、など)
・暴力の嵐(食い込むロープ/県民同士の争い)
・記者拘束(すり替え/暴走の追認/写真家の問い)
第3章 断絶と罵倒
・土人発言(差別の系譜/死語の復権/驚きがない驚き、など)
・デマ拡散(嘲笑の暴力/特大スポンサー、など)
・沖縄シフト(茶番の配信/ネトウヨ化する権力/無関心の土壌、など)
第4章 無法と葛藤
・揺れる法治(自衛隊ヘリ投入/切り裂かれた秘境/資料流出、など)
・推進側の葛藤(作業員と社長)
第5章 破綻と隷従
・オスプレイ無残(報道陣の闘い/墜落と不時着、など)
・「完成」式典(焼け太る米軍/政治ショー/農家の覚悟、など)

【著者】阿部 岳(あべ たかし)
1974年東京都生まれ。沖縄タイムス記者。上智大学卒業後、97年沖縄タイムス社入社。政経部、社会部基地担当、フリーキャップなどを経て北部報道部長。著書に『観光再生――「テロ」からの出発』(沖縄タイムス社)

<関連リンク>
朝日新聞出版のページ
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=19289
沖縄タイムスプラスの記事
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/133017

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工事再開の日の未明、機動隊のバスが赤色灯を回転させて迫ってきた=2016年7月22日、東村高江、撮影・阿部岳

工事再開の日の未明、機動隊のバスが赤色灯を回転させて迫ってきた=2016年7月22日、東村高江、撮影・阿部岳

※『ルポ 沖縄 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実』を、アイデアニュースの有料会員1名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは10月16日(月)です。(このプレゼントの応募は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。

※ここから有料会員限定部分です。

■「日米一体化」で、今後は全国の自衛隊基地に米軍が、オスプレイが、来られるようになる

――沖縄・高江で起きたことは、今後本土で起きるとお考えですか? 先に沖縄で「テスト」しておいて、他のところでもやるんじゃないかと思うのですが……。

はい。明日は我が身というか、沖縄で起きたことは明日の本土で起きることだと思います。報道に関することでも、例えば、記者のカメラを取り上げたり、物理的に報道の妨害をしたりですね。高江で実際に取材できなかった経験がありますが、沖縄でおきたことは、特定秘密保護法ができることによって、「秘密だから教えません」と、全国に制度化されて広がっていくわけですね。それから、安保法制で「日米一体化」と言われています。沖縄では米軍基地に自衛隊が通っていますけど、今後は全国の自衛隊基地に米軍が来られるようになるわけですね。実際本土にもオスプレイが飛んできてると思いますけど、沖縄の基地のことが全国化しているということかと。すでに始まっているんですね。高江のことも、他人事ではない。そういう意味で、今日の沖縄は明日の本土であると書きました。

工事再開に向け現場入り口を制圧した機動隊員。一帯は紺一色に染まった=2016年7月22日、東村高江、撮影・阿部岳

工事再開に向け現場入り口を制圧した機動隊員。一帯は紺一色に染まった=2016年7月22日、東村高江、撮影・阿部岳

■フィリピンで起きていることも似ています。最初は周縁で始まり、中心に向かって行く

――私はフィリピンがフィールドで、あの国によく出かけるのですが、マニラよりもネグロスやミンダナオのようなところで、よりひどい人権侵害が起きるなあと感じていました。今は、マニラでもかなりのことが起きてはいますが……

フィリピンで起きていることとも似ていますね。ドゥテルテ大統領のもとで、最初は周縁で始まったことも、だんだん中心に向かって行って、同じことをしていく。

政府は米軍基地建設のため自衛隊ヘリまで動員した。資機材をつり下げたまま、県道の上を飛んだ=2016年9月13日、東村高江、撮影・阿部岳

政府は米軍基地建設のため自衛隊ヘリまで動員した。資機材をつり下げたまま、県道の上を飛んだ=2016年9月13日、東村高江、撮影・阿部岳

■出身は東京。入社試験の年、基地問題を長いスパンでやりたいと沖縄タイムスを受けた

――エピローグのところで、ちょっとびっくりしたんですが、最初から沖縄タイムスでいらしたんですね。ご出身は東京で、本土の新聞から移られてきたと思いこんでいました。初めから沖縄で記者をしようと思っておられたんですか?

本でも書いたんですが、沖縄のことを何にも知らなくて。恥ずかしいですけれど、これほど基地があるということも知らなくて。22歳くらいまで、本土・東京で、あぐらをかいて暮らしていたんです。

――1995年の少女暴行事件の時くらいですね。

ええ、その時にすごく衝撃を受けたんですよね。96年が入社試験の年でした。新聞記者をやりたいとは漠然と思っていて。で、記者をやるなら沖縄で暮らして、ちゃんと生活しながら基地の問題を長いスパンでやりたいなと思って沖縄タイムスを受けたんです。

――それ以来ずっと沖縄で20年、根を下ろして、長く記者をされて。

はい、そのうち日本がやばくなって亡命する必要があれば、日本から出ることはあるかもしれませんけど、沖縄以外の日本のどこかで暮すということは、あまり考えていません。

警察法2条をプラカードにして警官に示す市民。「日本国憲法」の文字が強調されていた=2016年9月21日、国頭・東の村境、撮影・阿部岳

警察法2条をプラカードにして警官に示す市民。「日本国憲法」の文字が強調されていた=2016年9月21日、国頭・東の村境、撮影・阿部岳

■自分は本土出身であるということは変わりません。沖縄のことを本土に伝え続けたい

――そんな阿部さんが、自分は本土出身であるという立場、スタンスを今も守り、日々その責任を果たしていこうとされているところが、本の中でも印象的でした。

自分は本土出身であるということは変わりません。沖縄のことを本土に伝え続けたいです。

――私は、初めて沖縄に行った頃、「本土」という言葉を自分が使うことにひっかかりを感じていました。沖縄はまだまだ本土ではない、日本ではないという現実を追認するようで、申し訳ないような気がして。

私も、以前ひっかかりがあったことを思い出しました。新鮮な気持ちです。でも、まあ、今、「本土」という言葉をこちらが使って怒るウチナーンチュは少ないと思いますよ。他に言いやすい表現もないですよね。「県外」くらいしか。

ヘリパッド工事には大量の土砂がいる。ダンプが通ると、警備の機動隊員も市民も砂まみれになった=2016年11月28日、東村高江、撮影・阿部岳

ヘリパッド工事には大量の土砂がいる。ダンプが通ると、警備の機動隊員も市民も砂まみれになった=2016年11月28日、東村高江、撮影・阿部岳

阿部記者は『ルポ 沖縄 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実』のエピローグで、こう書いています。

何とか拾ってもらい、縁もゆかりもないまま始まった沖縄での記者生活。最初の頃は、本土出身である後ろめたさから先輩や取材相手に「本土から来てすみません」とばかり言っていた。しかし、どうにもかみ合わない。空まわりし続けた。……

そして、空回りのもっと根本の原因は、謝罪しながら実際は許しを求めていたことにあったのだと思う。「すみません」と言いながら、「いいよ」と言ってもらうことを無意識に望んでいた。はた迷惑な承認要求であり、自己満足であり、甘えであった。ではどうすればいいのだろう。沖縄の人々と一緒に笑い、怒り、泣きながら、少しずつ距離感を探ってきた。

インタビューの後半部分は、10月1日に掲載予定の「阿部岳さんインタビュー」(下)で紹介します。本のカバーのそでに、内容が凝縮された文章があるので引用します。

――人口140人ほどの「東村・高江」。自然豊かな小さな集落を取り囲むように、「米軍ヘリパッド」の建設が計画された。ヘリパッドが建設されれば、自宅周辺をオスプレイが飛び交うことになる。建設に抗議する市民に、政府は本土の機動隊約500人を派遣。排除のため、むき出しの暴力が市民に牙をむく。「静かな普通の暮らし」を求める沖縄の声を、強権発動してまでも抑え付ける政府。記者の目に映ったのは、この国の危機の縮図であり、あすの本土の姿だった――。

阿部記者は本の「はじめに」でこう書いています。

人権が踏みにじられた。

表現の自由、報道の自由、思想の自由、集会の自由、移動の自由。憲法が保障する権利を、本土からの応援部隊で大増強された機動隊が奪った。取材中の記者が監禁された。機動隊員の「土人」発言は沖縄差別を白日の下にさらした。

法治主義が揺さぶられた。

政府は「邪魔」な市民を次々に対処し、頭上に自衛隊ヘリを差し向けた。権力が暴走しないように縛る法の鎖を引きちぎり、ただ意のままに振る舞った。

私(この記事の筆者の松中)も2度高江を訪れましたが、そのたびに、これが日本という国の中で起きていることなのかと何度も大きなショックを受けました。私の乗る車を機動隊員数名が取り囲み、持ち上げて路肩に寄せたとき。機動隊員に「ゲリ」と呼ばれたとき。(ゲリは、ゲリラの略だったようです)。ようやく「辺野古」という地名が少しずつ知られていくようになっても、まだ「高江」のことは本土に届かない。阿部記者はこうも書いています。

高江の165日を誰も知らない。

この本はその現実に対するささやかな抵抗である。波間を漂う沖縄という小舟から、遠ざかっていく本土という巨船に向かってありったけのロープを投げているような気持で書いた。届かないかもしれないし、届いても切れてしまうかもしれない。それでも、投げずにはいられない。

私たち、本土にいる人間が、沖縄で取材を続けている阿部岳記者の投げたロープを受け取れるかどうか。まずはぜひこの本を手に取っていただきたいのです。よりたくさんの人に届くように、アイデアニュースで紹介させていただきました。後半もぜひお読みください。

※『ルポ 沖縄 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実』を、有料会員1名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは10月16日(月)です。(このプレゼントの応募は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。

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“高江の165日『沖縄 国家の暴力』出版、沖縄タイムス・阿部岳記者インタビュー(上)” への 1 件のフィードバック

  1. タカピ より:

    記事を読むうちにムラムラとした怒りがわいてきました。この感情を絶やすことなく、沖縄を思い、日本という国について真剣に考え、行動していきたいと思いました。本が当たりますように!

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