浦井健治さんが、「日韓文化交流企画 『ペール・ギュント』」にタイトルロールとして出演します。2018年平昌冬季オリンピックの開・閉会式の総合演出も担当する韓国の気鋭の演出家ヤン・ジョンウンさんが演出し、日韓の俳優達が集結して上演されます(東京公演は2017年12月6日から、兵庫公演は12月30日から)。浦井さんに、今感じている作品への思いなどを伺いました。(上)(下)に分けてお届け致します。
――作品の資料と台本を読んで、今の印象はいかがですか?
演劇界でシェイクスピアなどと並ぶ、有名なノルウェーの劇作家イプセンの戯曲が原作です。150年前に書かれた昔の作品ではありますが、とてもスピーディーで場面転換もどんどん巻き起こっていきます。僕が演じるペールが「自分探し」をしていて、それゆえに色々なことを体験し、その色々なことから逃げたりするんです。中庸な所から脱却したい、自分こそは特別なんだという思いを抱えていて、ある意味ではそこで自分を正当化する。そういう意味での「旅」であり、その旅の中で、色々な所、色々な人、色々な出来事に出会っていきます。
年齢や人生経験を重ねていくペールが、ダメダメな男として描かれているんですが、それが愛おしいと思えるような感触があって、人間らしさがすごく感じられるんです。観ている人は「こういう感覚はあるよな」とか、もしくはだんなさんや彼氏と重ね合わせて「そういう所あるよね」というような共感をも、ペールには抱くんじゃないかとも思います。ヤンさんが『ペール・ギュント』という作品をとても大切にされていて、今回「日本で浦井君と何か」という話になったときに、この作品のペール役を選んでくださいました。
――ヤンさんと一緒にやるうえで、この作品をというお話になったんですね。
いくつか候補が挙がった中で、『ペール・ギュント』に辿りついてくださったのは、僕にとってすごく運命的だと思っています。これまでの取材などで、いかにヤンさんが大切にしている作品なのかということを感じましたから。例えば、オーセというペールの母親とヤンさんのお母様を重ね合わせていたり、亡くなられたお父様のことを話してくださったり、様々なご経験をされているヤンさんが、ペールに何を思っているのかを強く感じたんです。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、浦井さんが学生時代から考えていたことを演出のヤンさんに見抜かれているなと思ったということなど、インタビュー前半の全文と写真を掲載しています。20日掲載予定のインタビュー「下」では、役を生きることで役者の中に残っていくものなどについて伺ったインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■ヤンさんは、日本のミュージカル界でいうと小池修一郎さんのような方
■僕は学生時代、中庸であるとか中途半端という所に抗ってもがいていた
■演劇を信じて裏切らなければ、全てを越えていけると思うんです
■「探し求めていた自分の王国はソールヴェイの中にあったんだ」
<『ペール・ギュント』>
【東京公演】2017年12月6日(水)~12月24日(日)世田谷パブリックシアター
【兵庫公演】2017年12月30日(土)~12月31日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
<関連リンク>
世田谷パブリックシアター『ペール・ギュント』のページ
https://setagaya-pt.jp/performances/201712peergynt.html
兵庫県立芸術文化センター『ペール・ギュント』のページ
http://www1.gcenter-hyogo.jp/contents_parts/ConcertDetail.aspx?kid=4292412353&sid=0000000001
浦井健治オフィシャルファンクラブ”Kopi-Luwak”
https://www.fanclub.co.jp/k_urai/?id=8
浦井健治&STAFF Twitter
https://twitter.com/kenji_staff
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■ヤンさんは、日本のミュージカル界でいうと小池修一郎さんのような方
だから、ヤンさんの人生の中でペールは大事な一部であって、自分をさらけ出すものとして、『ペール・ギュント』という戯曲を大切にされているのが分かりました。僕もしっかりとその思いに応えていけるようなペールでありたいし、何よりもこの若いカンパニーならではのものにしたいです。このメンバーで、日韓合作で、世田谷パブリックシアターさんの20周年の記念公演のひとつとしてやれることは、この上なく幸せだと思っています。
――『ペール・ギュント』をこれまでに観たことはありましたか? 一昨年、白井晃さんが演出されていましたが。
残念ながら観られなかったんです。(加藤)和樹のインタビューで、「難しい」「分からない」と、とてもオープンに話している記事を読みましたが、確かに難しいと捉えれば難しい。でも詩的であったり、分かりやすさが含まれている部分もありますし、演じ手としてどういう風に取り組んでいくのか楽しみですね。
ちなみにこの作品のオーディションを兼ねたワークショップに、僕は参加出来なかったんですが、趣里ちゃんや莉奈が興奮気味に「楽しかった!」と知らせてくれたのも印象的で、ヤンさんは人の心をオープンマインドにする達人なんだろうなと思います。
――浦井さんもヤンさんにお会いになって感じたんですか?
そうですね。お会いする前は、蜷川(幸雄)さんみたいな方を想像していたんですよ(笑)。お会いしてみたら、「今ね、韓国でこれが流行っているんだよ。ラブラブ」と、親指と人差し指をクロスして作るハートを教えてくださったり、すごくフランクな方(笑)。でも大学で演劇を教えていたり、演出で色々なことにトライされていたり、平昌オリンピックにも関わっていらっしゃったり、たくさんの人からの信頼を一身に受けている方です。日本ではヤンさんを知らない人がいるかもしれませんが、日本のミュージカル界でいうと小池修一郎さんのような方と言っても過言ではないと思います。
――分かりやすいですね!
そう思って観て頂けたら、このプロジェクトがどれだけすごいことなのか、この記事を読んでくださる読者の方に伝わるんじゃないかと思います。
■僕は学生時代、中庸であるとか中途半端という所に抗ってもがいていた
――ヤンさんにお会いして、他に印象に残っていることはありますか?
「浦井君に『ペール・ギュント』が合うと思った」と言われたんですが、「え? ペールはこんなダメダメな男で、女好きなのに、僕の何を見て?」って(笑)。
――(笑)。
でも、的を射ているとも思ったんです。僕は学生時代、中庸であるとか中途半端という所に抗ってもがいていた時期がありました。色々なものに興味を持ちすぎて、広く浅いタイプだったこともあり、それを友達に結構はっきり言われたこともありました。今の自分も演劇を通しての「自分探し」をしていますが、ペールの台詞の中に「自分自身が自分を見つめる事は出来ない」「自分に満足をしていればある意味では自分をより近くに感じられる」という台詞もあるんです。そういう人のほうが自分のことを分かっているんですよね。僕は演劇を通して「人は1人では生きていけない」ということを学びましたが、ペールがそのことを独白の中で説いているんです。いつも自分の中で自問自答している人間なので、ヤンさんにいきなりそういう核を見抜かれてしまったなと思いました。
――ヤンさんは何か浦井さんの作品をご覧になっていたんですか?
『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』の映像を観てくださって、おじさんの年齢まで演じていたのは印象的だったとおっしゃっていました。さらに『トロイラスとクレシダ』を観劇してくださって、『ペール・ギュント』をやりたいと思ってくださったそうです。『デスノート THE MUSICAL』の公演中にもお会いしましたが、「会うごとに別の人なんじゃないかと思うくらい印象が違う。インスピレーションをすごく与えてくれる役者だ」とおっしゃってくださいました。
――なるほど。逆にヤンさんから受け取ることや、影響を受けたことはありますか?
ヤンさんはオシャレですし、笑顔がすごく印象的だったり、分からない時には「分からない」と、もう一度尋ねる素直さをもっていらっしゃいますね。僕は韓国語はよく分かりませんが、言葉選びが素敵で、本をよく読まれているんだろうなと感じる語彙力が素晴らしくて。お話をしていると、言葉やイメージをどんどん頭の中に浮かび上がらせているんだろうと感じるので、すごくクレバーな方という印象が強いです。
だからこそ、分かりやすい言葉を選んで、人が笑顔になれるような立ち振る舞いをして、気をとても遣われる方です。奥様と一緒に少しファスティングをするという時期にお会いしたこともありますが、興味を持てばやるし、自分が良いと思ったらやる。根底が真っ白で、自分の信念が強い方という印象を受けました。
■演劇を信じて裏切らなければ、全てを越えていけると思うんです
――今回はヤンさんだけでなく、共演者の方にも韓国の方々がいますが、国を超えて、文化的にも違う方とご一緒する新しい出会いとして、驚くことはありますか?
『デスノート THE MUSICAL』で台湾公演に行った時も、お客様が心から楽しんでくださったり、現地のスタッフさんとのコミュニケーションも含め、我々を本当に受け入れてくださっていると感じました。蜷川組でロンドンのバービカン・センターに立った時もシェイクスピアを通して、「日本の蜷川組が」と現地のロンドンっ子がすごく歓喜してくれたという経験をさせて頂きました。文化的には演劇やエンターテインメントは、国の垣根を軽く超えていけますし、コミュニケーションツールとしては、もしかすると言葉よりも強いものをメッセージとして、受け渡し合いが出来るんじゃないかというのが、体感としてありました。
ヤンさんはワークショップを通じて、「日本の役者は臆病で、自分を表現することを恥ずかしがるイメージがあったが、そんなことは全くなかった。韓国の役者と何ら変わりはない」とおっしゃっていました。これまでも、パク・トンハさん、フランク・ワイルドホーンさん、シルベスター・リーヴァイさんなど、色々な国の人と稽古場でディスカッションをしてコミュニケーションを取ると何も変わらないと。ミュージカルが好きな方、ストレートプレイしか観ない方、どんなお客様がいらっしゃったとしても、演劇の板の上というのはフラットであるというか、そこに神様がいるなら演劇を信じて裏切らなければ、自分が一生懸命やって、どんなカテゴライズをされていても、全てを超えていけると思うんです。そういう意味で日韓合作というのは、これからも頻繁に起こってくるかもしれませんね。
――日本の作品を韓国で上演するなどの逆も出来ますよね。
そうですよね。
■「探し求めていた自分の王国はソールヴェイの中にあったんだ」
――ペールが自分探しをする役ということで、学生時代に「自分が中庸でありたくない」と捉えていたのを、演劇を通して自分探しをしている実感があるということでしたが、学生時代から15年近く経ちますよね。
そうですね。
――ペールが歩んできた道のりに共感する部分があるのではないかと思いますが、今の自分を振り返って、ペールの半生の中で興味を持つ部分はどこですか?
ペールは「ずっと探し求めていた自分の王国はソールヴェイの中にあったんだ」ときっと思うんじゃないかと思うんです。「皇帝になりたい」、母親にも「皇帝になったら楽をさせてやるぞ!」と言い続け、1幕ラストに母親を看取る時も、「自分は皇帝になった。ほら見てみろ」と母親に伝えて、夢を見させるんです。
でも、最愛のソールヴェイの膝の上で死んでいく瞬間には、最後までもがくんですが、中庸こそが、中庸を受け入れることこそが自分の王国だったとわかる。母や恋人が自分にとって一番大きなものだったとわかり、人生の普遍的な家族愛、夫婦愛、人間愛……に辿りつくという旅だった、普通であることが一番大事なんだということを、今、僕が『ペール・ギュント』を通じて感じていることです。
一生懸命もがいたとしても、必ずそこへ立ち戻ってくるという普遍があるならば、以前、中嶋朋子さんがおっしゃっていた「普通の生活をしている役者じゃないと、普通の生活をしているお客様に何も伝わらない」という所にたどり着きました。ということは、普通に板の上に立つこと、普通に生活すること、普通の人間であることが目標なんだなと思うと、全てのことが合致する、「ああ、そうか」と。年末の大晦日まで『ペール・ギュント』をやる意味はそれか、と。自分の中で、この作品をやることの意味がちゃんと噛みしめられました。そして、今、この時期に『ペール・ギュント』と向き合えることを幸せに思えています。
※浦井健治さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは11月2日(木)です。(このプレゼントの応募は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
「トロイラスとクレシダ」を観劇されたヤンさんが、大事に思っている作品「ペール・ギュント」を浦井さんで作りたいと思われた話は印象的です。私もこの作品を観て「浦井さんは語り部のような役者だ」と思ったから。
古典も新しい作品も過去から現代へ、現代から未来へ語り継ぐように演じているなぁ・・と感じました。
ペールを浦井さんがどんなふうに演じるのか、どんな世界が繰り広げられるのか、とても楽しみです。
国籍を越えて、浦井くんをはじめキャスト達が1つの舞台を作り上げて行く。
浦井くんがペールを通じて、ペール、そして浦井くん自身とどう向き合って浦井ペールが出来上がってくるか、公演がとても楽しみにしています。
素敵な記事内容、ありがとうございました。後編楽しみにしています。
浦井さんのインタビューを拝見すると、いつもその公演ごとにご自分自身の内面を見つめられ、演じる際や生きることの課題を明確にされていて、こちらも観劇すると学ぶことが多いです。
今回のペール・ギュントもどんなものが受け取れるのか楽しみにしています。
濃い記事をありがとうございました。
浦井さんの言葉を通して新たな演目の人物像の理解が深まりました。
ペールギュント楽しみです。
韓国キャストとの合同でやる「ペールギュント」という作品で今までとは 違った何かを感じることができそうです。普通であることが一番大事を感じながら観てみたいと思います。
ペールギュント、楽しみにしております!
今年一年の観劇締めくくりが、浦井君のペールギュント♡
幸せやなぁ☆彡
これからも頑張ってください!!
編集部の皆様、素敵なお写真と、ペールギュントがますます楽しみになるような素敵な記事をありがとうございました☆彡
ペールギュントという作品、韓国の方々とのカンパニー、かたくて難しいイメージがありましたが、楽しそうに生き生きと語ってくださる浦井さんの真摯な探求心が感じられて、後半にはどんなことを聞かせていただけるか楽しみです。素敵な写真もありがとうございます。
浦井さんの言葉には、共感すること、思いもよらなかったことが両方あって、演劇がただの癒しではなくて、自分に人生にとって参考になるものがたくさん含まれていることを実感します。
早く浦井さんのペールに会いたい!
後半の記事も楽しみです。
浦井君の素敵な記事掲載ありがとうございます。浦井君の毎回の深い観察力や作品や共演の方々スタッフさん達への熱い厚い思いに沢山刺激と新しい色々な見方など教えてもらえて幸せです。今回も素敵な記事掲載ありがとうございます。
今の浦井健治さんの心の奥にある思いや考え、自分への問い、ペール・ギュントに対峙している気持ちがうまく引き出された良い記事だと思いました。普通であることを大切にされている浦井健治さん‥役者も一人の人間であること、特別ではないと、ゆえに作品を身近に感じられ自分もベール・ギュントの旅ができるかもと期待感をもちました。
『ペール・ギュント』への浦井さんの思いヤンさんのひととなりが伝わってきます。観劇する上でのヒントも散りばめられていて興味深い記事でした!写真の表情も魅惑的!!
後半の記事に期待が高まっています。はやく目にしたい!明日が楽しみです。